臨時護衛依頼
「で、依頼料は?とりあえずさっきので、金貨15枚ぐらいかねぇ?」
「た、高すぎないですか?」
「なに言ってんだい。なすり付けられるところだったんだよ?最低それぐらいさ。後は地上に戻るまでいくらかなんだけど…」
「そうだな。1F金貨10枚でどうか?安いとは思うが、払えるかもわからんしな」
「装備を売りゃあなんとかなるだろ?」
「それはそうだが、この街でか?まともな装備でないと売れないぞ。揃えて来てるやつが多いからな」
「リックさんが言うなら信憑性がありますね」
「しょうがないか。破格だよ!」
ジャネットさんたちが相談している間、私も考えてみたけど確かに1Fで金貨10枚は安いかも。普通の護衛なら魔物が出てくるかどうかわからないけど、ここはダンジョンだから絶対に出遭うしね。
「分かったわ。パーティーとしても蓄えがあるから支払いは問題ありません」
「後はボス部屋だね。そっちは金貨15枚。ただし、護衛は無しだ。何が出るか分からないし、怪我人もいる5人組を守れるかは分からないからね」
「分かったわ。私たちも自分の身ぐらいは守って見せる!」
「意気込むのはいいけど、こっちを巻き込まないでくれよ。あんたらの実力も戦い方も分からないんだから」
「そうだな。俺も引き付けるぐらいはできるが、下がっていた方がいいか?」
「引き付けるっていっても敵の場所は分からないんだろ?」
「ああ。カンで行くしかない」
「それなら下がっていてくれ。こっちは魔法の範囲も広い。巻き込まれて騒動になるのは御免だね」
「済まん」
「ずいぶん殊勝だね。まあ、金額も決まったし後は…治療はどうする気だい?」
「ポーションがないので何とかこのまま…」
「追加費用は払えるかい?」
「追加費用?」
「こっちには治癒魔法を使えるリーダーがいるからね。ただし、冒険者の情報については…」
「分かっています。お願いできますか?」
「アスカ、どうだい?余裕はありそうかい?」
「マジックポーションを飲めばなんとか。もう半分を切っているので、ボス前に少し休めると助かります」
「まあ、なんとかなるみたいだね」
「費用は?」
「アスカが決めるといいたいところだけど、あんた治癒院には行ったことないんだよね?」
「はい。それぐらいの時はもう自分で治せましたから。ポーションとかで間に合うこともありますし」
ポーションも無限に持つわけではない。期限が来る前に少しずつ消費していくので、使う時は結構小さい傷にも使ったりする。あとはアルバの新米冒険者に分けることもあった。治療院いらずの生活を今まで送ってきたのだ。
「見たところ、軽症のものが3人。重症が2人だな。金貨5枚と10枚ぐらいじゃないか?」
「ええっ!?軽症でも5枚だなんて高くありませんか?」
「ダンジョンでかけてもらうんだ。高いなんて言ったらそれこそ生きて出られないぞ?アスカはいくらでも吹っ掛けられる方だからな。向こうもそれは分かっているさ」
「うう~ん。いいんでしょうか?」
「悩んでても解決はしないし、魔物に襲われるだけだよ。なぁ?」
「そ、そうだな。俺たちのパーティーは損耗が激しいし、必ず後で払う」
「だとさ」
「分かりました」
私は重症の人から並んでもらって、傷口は塞がっていたのでウォームヒールをかけていく。重症だったのはファルセットさんとモーリスさんだった。やっぱり前衛だけあって無理をしたのだろう。
「すごいわ…私の右腕が元に戻ったようです」
「俺の脇もだ。ほら、見てみろ!」
「何見せているのよ!」
「何をしているのよ、貴方たちは。治してもらったんだからすぐに出発よ」
「そ、そうね」
「じゃあ、ボス部屋迄の陣形だな。アスカはどうする?」
「急ぎたいですし、私はガンドンと一緒に前衛に回ります」
「そうか。なら、俺とジャネットはその後ろだな。リュート君はアスカについて、ひるんだ魔物にとどめを刺していってくれ」
「分かりました」
「あ、あの、その子に前衛を任せて大丈夫なんですか?」
「ん?ああ、問題ない。短時間ということなら俺やジャネットが先行するよりいいだろう」
「本当なんですか?僕と一緒位に見えるのにすごいなぁ」
「ティリンさんはいくつですか?」
「今年で13歳です」
「私、もう15歳ですけど…」
「ご、ごめんなさい。僕早とちりしてしまって」
「というか、ティリン君なの?」
「えっ、はい。そうですけど…」
危なかった。かわいい子だなって思っていたけど、男の子だったんだ。ロビン君はもう少し少年っぽさがあったから、分からなかったな。というか2歳も違うのに身長同じとは。
「とりあえず、進みましょう!」
「そうだね」
「このフロアはここから奥に進んで左に行けば良さそうなので、みんなで行きましょう!階段を降りたらさっきの陣形で行きます」
「あいよ」
私たちは魔物に警戒しながらこのフロアを攻略していく。ほんとだったら宝箱探しとかもしたかったけど、緊急事態だし仕方がない。
「はっ!」
「やぁ!」
「このガーキャットを倒したら、もう見えるはずです」
「分かりました」
ガーキャットたちを倒し、私たちは27Fへ降り立つ。
「ここからはアスカ戦闘だ。ぬかるんじゃないよ?」
「分かってますって!行くよガンドン!!」
フ~
「ガンドン~アタ~ック!」
私は全体にウィンドバリアとさらにその前方に半円状のバリアを作り出す。
「リュート、遅れないでよ?」
「分かってる!」
「いっけ~!」
ガンドンが風に守られながら大地を駆けていく。
「少し左。そうそう、次は真っ直ぐでいいからね」
フシャー
「ガーキャット発見!だけど、今構ってる暇はないんだよね!」
こちらに攻撃しようとするガーキャットをバリアが弾き飛ばす。
「任せた!」
「了解」
私はリュートに魔物を任せて、自身はフロア探索に向かう。
「ん~、こっちは魔物がいるだけだね。この先は×。右奥は…ちょっと魔物が多いし後回しかな?」
私は探知魔法を使って、降りたばかりのフロアの状態を確認していく。
「ん~、こっちかな?」
魔物の数こそ少し多いものの、風の通りが少し違う地点を見つけた。恐らく階段があることで流れが違うのだろう。
「場所はここから西側か。ジャネットさんたちが追いついたら行こう!」
フ~
ガンドンとその場で待機する。ちなみに私の位置はリュートが知らせてくれるようになっている。リュートの探知魔法は私より精度が悪い分、気づきやすい。その探知に私が気付いたら風魔法を使って位置を知らせる手はずだ。
「あとはファルセットさんにキシャルを、デネブさんにはアルナを付けてるから安心かな?」
「あっ!反応あり」
リュートからの反応があったので私も風魔法を返す。これでみんなが合流してくるだろう。
「おっ、アスカ。どうだい?」
「西側に進んだら階段がありそうです。ただ、魔物がいます」
「まあ、ダンジョンだしねぇ。一気に制圧できるかい?」
「はい。数は5体ほど。ウルフ系が2体と、残りはやや大型のガーキャットだと思います」
「それぐらいなら一気に行けそうだね。リック!」
「ああ、アスカが突撃したら俺たちも…」
「なに言ってんだい。相手の数も分かっているんだからあたしらが先に行くよ」
「む、そうか。分かった」
ジャネットさんの提案で、両翼の先頭をジャネットさんトリックさんが、その後ろが私で一番後ろがリュートだ。三叉のみんなはその間にひしめく感じで、左側はキシャル。右側にはアルナが控えてくれている。
「それじゃあ、行くよ!」
「はい!」
私の示した位置に向かってみんなで駆けていく。
「さあ、行くよ!」
魔物を発見した私たちは一気に攻め立てる。
「あれは…ローグウルフじゃない!?」
「あ、あれは…ソードウルフ!」
「どういう魔物なんですか?」
「前足にある剣のようなものを使って戦う魔物です。多くの個体が切断のスキルを持っているため、鎧ごと切られるものもいるぐらいです」
「でも、攻撃は真正面からが多いからそれさえ気を付ければ大したことないわ!」
「分かりました!」
新たな魔物の情報を頭に入れて戦闘に臨む。幸い見た目的にも分厚い皮に守られているようでもないので、近づけさせなければ問題なさそうだ。
「ウィンドカッター!」
3つの刃が1体のソードウルフを襲う。先ほどの情報通り、刃を剣のように鋭い前足で軽く弾いていく。
「今なら!」
ヒュン
ギャン
私はソードウルフが風の刃に気を取られているところに矢を射る。狙い通り矢にまで注意が向かなかった1体を倒すことができた。
「すごいですね。先ほど情報を得たばかりなのにもう倒されるとは…」
「まあ、これぐらいなら。基本は初見の敵が多いですから」
ソードウルフを私が倒している間にジャネットさんたちはガーキャットを倒していた。そして、残りの1体については不用意に三叉の中に入ろうとしたところを、アルナに倒されていた。
「この小鳥もただ連れているだけだと思ったら、ちゃんと戦えるのね」
ピィ!
「こう見えて利口で魔法も使えるんですよ。可愛いだけじゃないんです!」
「そうね。あたしの魔法の出番もなかったわ」
「おっ、何かあるね」
「ドロップですか?見せてください」
「はいよ」
落としたのはソードウルフのようで細身の剣のようだ。
「ああ、シミターか。まあ、ソードウルフっていうぐらいだし、変ではないねぇ」
「だが、そこまで関係ないだろう?」
「考えるだけ無駄だよ。それよりランクは?」
「ちょっと待ってくださいね」
シミター:Dランク。20度程に曲がった曲刀。切れ味は良いが耐久がやや低い
「鑑定できちゃいましたね…」
「まあ、そこそこにはなるだろうよ」
私は少し残念な気持ちになりながらもドロップしたものをしまい込んだ。




