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転生後に世界周遊 ~転生者アスカの放浪記~【前作書籍発売中】  作者: 弓立歩
ダンジョン都市アルトゥール

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ダンジョンの掟

「で、事情を聴きたいんだけど…」


「その前に逃げた方へ戻ってもいい?」


「理由を聞かせてもらおうか。君たちは逃げてきた身だ。そこへまた向かうというのは俺たちを当てにしているということだろう?」


「そこには二手に別れたメンバーがいるかもしれないの…」


「アスカ、分かるかい?」


「えっと、この先ですよね。逃げてきた方向から少し西に多分…」


「しょうがない。ただし、この分の護衛料は後でもらうよ。もちろん、今回の分も含めて」


「分かったわ、急いで連れていって」


 私たちは反応があった方へと急いで駆けていく。


「ガンドン、ごめんね。ちょっと気分が悪いかもしれないけど…」


 私は遅れないようにガンドンの体を宙に浮かせて現地に向かう。


 フ~


「気分悪くない?でも我慢してね」


 そして、私たちがそこに着くと…。



「こりゃあひどいね」


 グルルル


 そこには5体のローグウルフと一部が食いちぎられた死体が転がっていた。


「行くよ!」


「はいっ!ウィンドブレイズ!」


 私はすぐに死体からローグウルフを引きはがすため、魔法をばらまく。


「右は任せろ。リュート君は中央を!」


「分かりました」


「わ、我々は…」


「少し待ってな!アスカ、あたしは左だ。リュートの援護は任せるよ!」


「了解です!」


 バラバラになったローグウルフがまとまらないようにどんどん攻撃魔法を撃ち込んでいく。もちろん、メインはリュートの援護だけど、けん制も忘れない。


「はぁっ!」


「せやっ!」


 5体ほどであれば草原でも慣れた相手だ。いくら、スキルを持った個体がいるとしてもそれは変わらない。数分のちに戦闘は終了した。


「終わったね」


「はい。でも、これでは…」


 ローグウルフを倒した後に残されたのは、かつて人であったものだ。大柄な体格の人が一人、それにもう少し小さい人が一人だろうか?


「あれ?」


「どうしたアスカ?」


「なんかまだ反応が…」


「ローグウルフかい?」


「いえ、ここはダンジョンですから魔物の死体はすぐ消えていきます。でも、それ以外に何かいるみたいなんです」


「まさか!」


 その時、剣士の女性が大柄な人の死体に駆けていった。そして、体をどけるとそこには小柄な少年がいた。


「ティリン!」


「う、ううっ。ファルセットさん?」


「ええ、私よ。あなた大丈夫だったの?」


「そ、そういえば僕、スティーブンさんに殴られて気を失って…痛っ!」


「大丈夫なの?」


「は、はい、なんとか。それより、スティーブンさんは?」


「そ、それは…」


「黙っててもこの状況じゃ直ぐに分かるんだ。見てみな」


「こ、これは…まさか!?」


「あなたの上に二人とも折り重なるように倒れていたのよ」


「そ、そんな、どうして!僕は二人に見放されたって思って…だって!二人だって怪我をして、殴られたのもそのせいだって!」


「全員怪我をしているなら、助けが来た時に一番生き残る可能性が高いのは小柄なやつだ。そっちの二人は一秒でも時間を稼ぐことに賭けたんだろうね。死体を見る限り、ローグウルフ以外に付けられた傷もありそうだし」


「そういえば、オーガバトラーに追われていたんだったな。その件を聞こうか。流石にすぐ魔物も来ないだろうしな」


「アスカ。念のためバリアだけ頼む」


「分かりました」


 当初の予定通り、私たちは逃げてきた理由を聞くために、さっとシートを敷いた。見張りには従魔たちとリュートがついてくれている。



「で、なんでこんなことになったんだい。7人もいるパーティーで?」


「最初はここにいる7人で潜っていました。私…ファルセットがサブリーダーで、その大柄な方がスティーブン。リーダーでした。昨日は順調そのもので20Fのボスを倒した後、一泊して今日の朝に探索を再開したんです。ただ、途中のモンスターフロアで…」


「ああ、あそこかい。でも、Cランクのパーティーならどうってことないだろう?」


「もちろん、切り抜けられはしたんですけど、思いの他パーティーにけが人が多くなってポーションの在庫が少なくなったんです。そのまま降りていきましたけど」


「魔法が使える人は少ないんですか?」


「使えるといえるのはそこのデネブと魔剣士だったアクセルだけです。どちらも回復魔法は苦手で、魔力回復薬は最後の手段でした」


「まあ、そういう事情はあたしらも分かるけど、それが何でオーガバトラーにつながるんだい?」


「草原は見晴らしがいいですよね?それで私たちは常に端となる位置を決めて進んでいたんです。ここからここは西の端、ここからは東の端と。そうして、その範囲を慎重にケイン…斥候役の彼が索敵をしていました」


「でも、その先でブリンクベアーに出会ったんだ。あんたたちも冒険者なら知っていると思うが、奴は姿が見えねぇ。それで、位置を探りながら遠距離中心でなんとか相手をしてたんだ。これまでのフロアでもそうしてたし、これまでだってそうやって切り抜けてきた」


「じゃあ、今回は違ったんですか?」


「ええ。ブリンクベアー自体は問題なかったの。やつを何とか倒した後で、いきなり4方向からさっきのオーガたちが攻めてきたのよ。きっと私たちが戦っているところを見ていたんでしょうね」


「草原っていっても、まあまあ草も高いからねぇ」


「それにブリンクベアーは常に俺たちの前にいたんだ。俺がそうするように誘導したし、みんなもほとんど後方には意識を向けてなかった。途中からは傷をつけてそれが目印になっていたしな」


「それで体勢を立て直すために一時撤退をしたのか?」


「そうです。いえ、そうしたかったのですが、後方には魔剣士のアクセルと魔法使いのデネブ。それと、ポーターのティリンだけでした。退くにも突破口を開かないといけません。それで私とモーリスがデネブの援護を受けて、前の3体を相手している間に退く手はずだったんです」


「ところが、オーガたちは剣や魔法にひるむことなく突進してきたのよ。そして、そのままスティーブンが攻撃され…」


「最初の一撃は重戦士だったスティーブンが耐えられた。でも、戦況は悪く全員で逃げることはできなくなりました。包囲を抜ける間に私は右手を、アクセルは腹の近くを怪我していたんです」


「それで、全員が助かるのは難しいと思って二手に分かれたのよ。それからはもう笑うしかない状況だったわ。みんなで戦って勝てないのが全部こっちに来たんだもの」


「でも、これでスティーブンたちは助かるって思っていたの。まさか、ローグウルフに目を付けられるなんて…」


「草原で血の匂いをさせてちゃね。だけど、いくらオーガ―バトラーとはいえ、簡単にやられすぎじゃないかい?」


「簡単にって!あれは私たちじゃ無理よ!大体、3体もいたのよ?30Fのボスモンスターとしても出る相手なんだから」


「まあ、君たち剣士系のパーティーには難しいだろうが、それならどうしてこのフロアにいるんだ?30Fのボスとしても出るなら、倒せないだろう?」


「…本来はお金をもらう情報だけど、助けられたし言うわ。ここのボス部屋の前には小さい宝石があるの。宝石の色が青なら空を飛ぶ魔物。緑ならゴブリンやオーガなんかの2足歩行の魔物。そして最後に赤色の場合は4足歩行の魔物になってるのよ。デネブは風魔法を使えるから、空を飛ぶ魔物とも戦えるし、宝石が緑以外なら倒せるのよ」


「はぁ、最後は順番待ちかい。全くどこのダンジョンでも変わらないねぇ」


「だが、できるだけ深い階層。それもボス部屋の宝箱を取ると考えるなら理解はできるな」


「それが、あんな魔物がこんな通常フロアに出るなんて知らなかったのよ」


「君たちは何度ぐらい潜ったんだい?」


「私たちは3週間前に来たから、今日で6回目ね。まさか、こんなことになるなんて…」


 再びそういうとファルセットさんは口をつぐんだ。


「それでこれからどうするんだい?見たところ全員大小怪我はしてるし、戻れるのかい?」


「うっ、それはその…」


 そもそも、今のファルセットさんたちのパーティーはリーダーであるスティーブンさんを失って士気がガタ落ちだ。戦力だけでなく、本来手間取るはずのない魔物にさえやられてしまう可能性がある。


「なあ、あんたたち。俺たちを地上まで護衛してくれないか?もちろん、金は払う」


「ケイン!?」


「ファルセットも分かってるだろう?今の、この状態の俺たちじゃ、もうローグウルフにさえ勝てねぇよ」


「だけど…」


「どうだ?」


「あたしに言われてもねぇ。指揮権はないんでね」


「じゃあ、あんたか?」


「俺か?俺は一番の新参者でな。何せ、置いて行かれた身分なんだ」


「それじゃあ、一体誰に…」


「私です!」


 びしっと手を挙げて宣言する。


「あ、あなたが?」


「はい。私がフロートのリーダー、アスカです!」


 私はファルセットさんに手を差し出す。


「あ、ご丁寧にどうも。三叉のサブリーダーのファルセットよ」


「サンサ?」


「みつまたっていう意味で三叉なの」


「7人もいるのにですか?」


「ええ。初期メンバーが私とスティーブン。それにもう一人、引退したナッシュっていう剣士の3人だったから三叉なの。リーダーは一人だけ槍使いだったスティーブンが、『三叉なら突きに一番秀でている、槍使いの俺が成るべきだ!』って決まったのよ」


「そ、そうなんですか…」


 えらく適当な決め方だなぁ。でも、うちもそういうところは人のことを言えないけど。


「で、受けてくれるかい?」


「受けるのはいいんですけど、私たち30Fを目指しているんです。時間もありますし、このまま降りることになりますけど…」


「まあそうだね。それに、戻ったら5F。進んだら3Fとボスだ。進むべきだろうね」


「そ、そんな!?この先の敵は強いです!」


「でも、その強いオーガバトラーを倒しただろう?」


「そ、そうですけど…」


「君たちが戻りたい気持ちはわかる。だが、俺たちはそもそも護衛依頼を受ける必要がないことを理解してもらえるとありがたいな。一気に進めば5F戻るより時間はかからないだろう。長時間の護衛はこちらも消耗が激しい。大体、ケガはどうするんだ?」


「それならポーションが…」


「ご、ごめんなさい。ポーションはスティーブンさんたちに使ってしまって」


「えっ!?」


「ローグウルフは最初もう少しいたんです。それを2人が何とか倒してくれていて…」


「選ぶ必要はなくなったようだね」


 こうして、私たちは三叉の護衛依頼を受けることになったのだった。


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