体当たりの探索
23Fに着いた私たちは、さっきのフロアの勢いそのままに進んでいく。
「え~っと、ウィンドバリアを体全体にかけて、前方にだけ膜を強くしてと。いいよ~」
フ~
私はガンドンに指示を出す。ウィンドバリアをかけたまま突進する、名付けて『ウィンドアタック』だ。その質量と風の衝撃で道行く魔物を吹き飛ばしていく。
「これも草原だからできることだよね。通常のダンジョンだと、壁とかがあるから中々できないから」
さっきのフロアは岩すらない草原エリアだったけど、そもそも草原は岩や低木ぐらいしか障害物がない。例え、そういう障害物があったとしても、このウィンドアタックならそれごと攻撃できる。
「なぁ、ジャネット?」
「なんだい?」
「アスカは戦闘が好きなのか?」
「いや。どっちかというと嫌いな方だね」
「だが、さっきから見ていると戦いを楽しんでいるようだが…」
「まあ、細工にしろなんにしろ、思いついたことを試すって言うのが好きなんだよ。今もガンドンに突撃させて敵を吹き飛ばせる戦法が上手くいって、面白いんだろ」
「なるほど、これは大変だな」
「僕、後ろでフォローに回ります」
「頼んだよ、リュート。あたしらはその辺で伸びてる魔物にとどめ刺しておくから」
「お願いします」
「はぁ~、この戦法って騎馬隊だともっと役立ちそうだなぁ。お姉ちゃんがいたら伝えられそうだったんだけど。でも、ウォフロホースじゃ怖がっちゃうかも?」
馬は賢くて人の言うことをよく聞くけど、体格や相手に当たることを考えれば、難しいかも。使えそうな戦法なんだけどな。
「おっと、結構みんなと離れちゃったかな?」
後ろを少し振り向くと、ジャネットさんたちとはかなり距離がある。
「アスカ、大丈夫?」
「リュート!私の方は大丈夫。でも、一度戻った方がいいかな?」
「ううん。僕が体勢を崩した魔物を倒していくからアスカはこのままで。残った魔物はジャネットさんたちが相手をするよ」
「分かった!」
ということなので、2人でどんどん進んでいく。このフロアはそこそこの大きさの岩があって、魔物がその裏に隠れていることもあるけど、ウィンドアタックのお陰でガンガン攻略出来ている。
ギャン
ギャッ
ローグウルフもガーキャットも吹き飛ばしながら、どんどん進む。吹き飛ばした魔物はリュートが風魔法で一気に近づいてとどめを刺す。もし、後ろに吹き飛んだ場合は無視だ。その時は後ろから付いてくるジャネットさんたちに任せている。
「ん~、なんか爽快感あるかも!」
「そう?」
「うん。馬車以外の乗り物も乗った経験はほとんどないしね」
「あっ、あそこに見えるの階段じゃない?このまま降りる?」
「どうしようか?宝箱的なものもない感じだし、私はいいと思うけど…」
「それじゃあ、一度ここで待とうか」
フロアを降りるかどうかの判断をするため、私とリュートは少しその場で待つ。
「あん?どうしたんだ2人とも。息切れかい?」
「いえ、その先に階段が見えたので、どうしようかと」
「ん、それなら降りるとするか。少しドロップもあったし、このまま探索していてもらちが明かないだろう。目印も少ないからな」
「そうですね」
草原地帯の一番の問題はこの目印の少なさだ。岩や低木自体が少ないから、一度捜索場所を広げようとすると、気づけば前に捜索した場所に戻ってきてしまう。でも、戦闘中に向きや場所を移動すると、どうしても同じ場所を探索しがちなのだ。
「エヴァーシ村に行く時は林に沿って移動したり、目印が合ったりしたけど、それもないから不便だよねぇ。階段があったら、もう降りちまうか」
「そうだな。その方が安全でいいだろう。しかし、毎回潜っていて思うが、宝箱が少ないダンジョンだな」
「そういえばそうですね。ランダムダンジョンだと隠し宝箱を含めれば、そこそこどのエリアにもありましたし」
「きちんとフロアを見渡したら僕らが思っているより広いのかもね」
「それは在り得るな。かといって、その広さを毎回探索するのは骨だが」
「ま、これぐらいのフロアでやることじゃないねぇ」
「それじゃあ、次の階に行きましょう!」
「ああ」
24Fに降りても、地形は相変わらずで私はどんどん進んでいく。しかし…。
「あれ?人が戦ってる」
「アスカどうしたの、急に止まって」
「この先は別のパーティーが戦ってるみたい。リュートも確認してみて」
「うん」
私はリュートにも探知魔法を使うように促す。
「本当だ。数は…5人ぐらいだね」
「邪魔になっちゃいけないし、避けようか」
「そうだね。5人もいれば十分だろうし」
「あん?どうしたんだい、いきなり突っ立って?」
「その先で戦闘中みたいです。リュートと相談したんですけど、避けようって」
「ま、ダンジョンに挑むぐらいだから大丈夫だろ。なら、ちょっと南にずれるか」
「はい」
私たちはすぐに南に進路を変えて、鉢合わせないようにする。ダンジョンでも地上でも獲物の横取りはいけないからだ。それに今の私はガンドンに騎乗してるしね。
「それにしても、珍しいですね。他のパーティーと出会うなんて」
「ああ。結構朝早くに出たし、ひょっとしたら昨日ダンジョンで泊まったやつらかもねぇ」
「半日もあればここまで来られると思うんですけど…」
「全体を歩き回ってるのか、Cランクばっかりのパーティーかもね。それなら、もう少し攻略に時間がかかるだろうさ」
「うちも半分はCランクですけどね」
「…実力ベースでね。大体、アスカはもうすぐBランク昇給のポイントがたまるだろ?」
「そうですね。でも、上げようか迷ってますけど」
「どうしてだ?ランクは高い方がいいだろう?」
「私は別に高ランクの冒険者を目指しているわけじゃありませんから。世界中を回れるぐらいでいいんですよ。Bランクじゃないと行けないような場所は行きたくないですし」
「それは残念だな。みんななりたがるって言うのに」
「でも、長く活動していれば誰でもなれるんじゃないんですか?」
「残念ながら、Bランクは地方じゃ試験を受けられないだろ?試験官自体も強いから、一気に合格率が下がるんだよ」
「じゃあ、ジャネットさんも苦労したんですか?」
「まさか!あたしは確実になれる自信が出来てから受けたからね」
「じゃあ、私もそうします!」
「いや、アスカは今受けても受かるだろう。俺もBランクだが、正直に言うと試験官が勝てるとは思えん」
「そうだねぇ。試験エリアの広さを考えると、余計にね」
「ギルド内じゃないんですか?」
「もっと実践的な場所さ。おっと、話はここまでだね」
「そうですね」
再び、魔物が現れたので意識をそちらに戻す。
「ん?大きいと思ったらガンドンだ!君、お話しできる?」
フ~
私は乗っているガンドンに、目の前に現れたガンドンに話をしてもらうように伝える。
フフ~
ブゥ~
2,3言葉を交わすと、ガンドンたちはさらに南に下がっていった。
「おおっ!通じたみたい。ありがとう」
フ~
ダンジョンだし、別に倒してもいいんだけど、やっぱりこの子の手前あまり倒したくないからね。南に行ったのはさっきパーティーが北で戦っていることを覚えていたからだろう。
「さて、戦闘も回避できたし、次に進むかねぇ」
「そうですね。行くよ!」
私は再びバリアを展開すると、まっすぐに進んでいく。
ドォン
ガン
「ア、アスカ、本当に容赦ないね」
「別に気を使わなくていいしね。おっと、空に何かいる…ファイアブレイズ!」
私は空中に向かって火の玉を大量に放つ。そのうちのいくつかが当たったようで、燃えながら何かが落ちてきた。
ピィ?
「アルナ、急に近づいたら危ないよ」
にゃ!
私がそういうとキシャルがならばとブレスを吐く。落ちて火に包まれていた魔物はたちまち凍ってしまった。
「キシャル、効果的だけど美しくないわよ」
にゃ~
別に綺麗も何もないというキシャルに何か美意識を刺激されたティタが話している。そういえば、ここに来るまでも大して戦う機会がなかったからみんな暇なのかな?
「アスカ、なにを仕留めたんだい?」
「さあ、何でしょう?」
「おっ、これは…」
「リックは見たことあるのかい?えらく、細っこいやつだけど」
「これはファルバードだな」
「えっ!?これがファルバードなんですか?」
「ああ。アスカは知っているのか?」
「知ってるというか、魔石なら持ってるんです。作ろうと思ってまだ出来てませんけど」
「そうか」
「とりあえず、倒しとくかね。まだ、凍ってるだけで生きてる判定みたいだし」
ジャネットさんが剣の先でつつくと、氷が割れてファルバードが崩れていく。
「あっ!?ひょっとして…」
私はマジックバッグから魔石を取り出す。
「間違いないです!これはファルバードの魔石ですね。しかも、小サイズです」
「そんなにこんな小さいのがいいのかい?」
「はい。ファルバードの魔石は加速効果なんですけど、大きさで加速する値が決まってしまうので、これとほぼ同じサイズだから組で使えます」
「へぇ、そいつはよかったね」
「でも、草原が生息地なんですね」
「いや、そういう訳ではないはずだ。森にも居たからな」
「じゃあ、どうして出たんですかね?」
「草原に出る可能性がある魔物は全部出るのかもねぇ。ほら、空を飛ぶ魔物なら通ることもあるだろ?」
「ジャネットさん、やめてくださいよ。それなら、ボス部屋にはワイバーンとかディーバーンが出るみたいじゃないですか!」
「アスカ、そういうことは言わない方がいいよ」
「どうして?」
「得てして、そういうのは言うと出るんだ。まあ、これぐらいの魔物の強さなら30Fにディーバーンは出ないだろう。あれはBランクでもかなり強い方だからな」
「あんたもいらないことは言わないでいいの」
ボカッ
「痛いぞ、ジャネット。バカになったらどうすんだ?」
「今と変わんないじゃないかい」
そんな感じで私たちは探索を続け、26Fまで進んだのだった。




