ダンジョンと宝箱
「22Fも基本は同じだな。前と同様に進むぞ」
「そうだね」
階段を降りても造りは同じだ。魔物も変化があるとすれば26Fからだろう。そう考えた私たちはどんどん探索を進める。
「はぁ!!」
「えいっ!」
「それにしても、数が多いですね」
「これまではちょっと強い種はほとんど単独だったからね。僕も気を付けないと…」
「そういうリュートはリーチが長い分、有利だよねぇ」
「まあ、そういう武器ですし」
ブンッとなぎなたを振りながらリュートが答える。さっきから、ガーキャットにローグウルフとほんとにしつこいぐらい出てくる。もうこの階層だけで10匹は倒したはずだ。
「ふ~、終わり!」
「本当に草原は敵が多いな。これで夜襲もあるのか?」
「だから言っただろ?嫌になるってさ。まあ、今戦ってるガーキャットは夜行性だけどね。代わりに出てくるのがブリンクベアーだよ?」
「ろくでもないな。他にはいないのか?」
「後はガンドンとかグレーンウルフですね。さすがにここにはサンダーバードは出ないと思いますし」
「サンダーバード?」
聞きなれない魔物の名前にリックさんが首をかしげる?
「ちょっと待ってくださいね。こういう子ですよ」
私は魔物図鑑に自ら描き込んだサンダーバードの絵を見せる。
「この丸いのが魔物なのか?大して強そうには見えないが…」
「こう見えてこの子たちってすごいんですよ!ほら、ここのステータスを見てください」
私はサンダーバードの項目に付け足した、ある個体のステータスを指さす。
「ほとんど、普通…ん?魔力とMPだけが異常に高いな」
「でしょう?ライトぐらいしか魔法は使えないんですが、隠し玉も持っている魔物なんですよ。まあ、そのことは知られていないみたいですし、地方の魔物はダンジョンには出ないのかもしれませんね」
「その地形特有のものは出ても、地方固有種は出ないということか。中々面白い考えだな」
ありゃ、リックさんにはサンダーバードたちのライトニングボルトについて説明していないから、ダンジョンに出る魔物の生態の方に興味が行っちゃったか。すごいのにな。
「あ~、またやっちまったか。ティタ、頼む」
「かしこまりました」
あれからジャネットさんは爪の扱いにも慣れてきて、今は血が飛び散らないような戦い方を模索している。さっきは気にしてない感じだったけど、やっぱり血まみれになるのは気になるみたいだ。
「ん?」
「アスカ、どうした?」
「いえ、あの岩変じゃないですか?」
「岩?ああ、21Fから低木地帯の草原になって、岩も普通にあるだろ?」
「そうなんですけど、なんていうかこう…そこにガンッて何かがぶつかるような感じの岩じゃないですか?」
「よくわからないねぇ」
「う~ん。気になる」
みんなにはわかってもらえなかったけど、これまで見て来た岩の中でも少し色が違うのだ。アニメとかだと、そこに人とか物がぶつかって形が変形するタイプの色って言えばいいのかな?
「ご主人様、それは皆様には分からない感覚かと」
「そっか~」
ティタは私が大量に魔力を注ぎ込んで生き残ったからか、私の前世の記憶を持っていたりする。詳しくどこまでって聞いたことはないけどね。そのティタが言うのだから、この感覚はみんなには分からないのだろう。
「んで、アスカが気になるのは分かったけど、どうするんだい?」
「とりあえず壊してみます。ウィンドブレイズ」
私は中に何かあった場合、それを壊さないように表面だけを壊す。
ガラガラ
そして、壊れた岩の中から現れたのは…。
「宝箱だ~~!!」
「良かったねぇ、アスカ」
「はいっ!これで草原地帯もやる気が出ます!」
「別に普通にやる気を出してくれりゃあいいんだけどね…」
「やっぱりダンジョンと言えばこれですから!」
「えらく興奮しているが、いつもこうなのか?」
「ダンジョンではこうですね。何かアスカには感じ取るところがあるみたいなんです。僕らには分かりませんけど」
「まあ、やる気が出ることは良いことか…」
「中身はなんでしょうね~」
「ちょい待ち。罠の確認だよ」
「ええ~っ!?でも、確認ってどうするんですか?」
「リュート」
「はい」
「えっ?リュートできるの?」
「できるというか覚えさせられたというか…」
「料理もあんだけ出来るんだ。罠ぐらいなぁ?」
「ジャネット、それは横暴だぞ?」
「でも、肝心のアスカはこの調子だから危ないし、あたしよりはリュートの方が見込みがあるだろ?」
「う~む。そう言われればそうだな」
「リックさんも納得しないでください!」
「いや、今のアスカに罠解除は難しいだろう。冷静でなくては。そういう意味ではリュート君は適任だ。宝箱の中身にもそこまで興味がなさそうだしな」
「ええっ!?そんなことありえませんよ!ねっ、リュート?」
「あっ、いや、宝箱の中身は気になるけど、別に開けたくはないから。アスカが開けるし」
「そ、そんな人っているんだ…」
ダンジョンに潜るのにそういう人って何を目的にしてるんだろう?
「そりゃあ、金稼ぎかレアアイテムの入手に決まってるだろ。別に、自分がやらなくても手に入るんだから」
「ジャネットさん、心の中を読まないでくださいよ」
「全部顔に出てるアスカが悪い。ああ、リュート頼むよ」
ここまでの宝箱はすでに開けられていたり、低層階だったからあえて無視してきた。このチャンスを生かしたいなぁ~。
「アスカ、あっち向いてな」
「ど、どうしてですか?」
「まだ慣れてないリュートに圧をかけるんじゃないよ」
「かけてませんよ」
「まあ、見られると集中できなくなるだろうから、とりあえず最初はね」
「むぅ、そう言われると私も細工を見られると緊張しちゃいますね。分かりました」
納得した私は警戒代わりに辺りを見回す。しかし、ある程度近くの魔物は倒したからか、反応はなさそうだった。
カチャカチャ カチャ
「あっ、この宝箱は大丈夫だったみたいです」
「罠は無しかい。良いやら悪いやら」
「それじゃあ、もう開けてもいいんですよね?」
「ああ、好きにしなよ」
「じゃあ、オープン!ガチャ」
私はセルフSEを付けて宝箱を開けてみる。その中には…。
「ん?ちょっとごつごつしているけど、球形だ。なんだろこれ?」
「いいもんだったかい?」
「ん~、よさげではあるんですけど、何でしょうか?」
「ただの玉じゃなさそうだけど、何だろうね」
宝箱の中身はちょっとごつごつした球形のビリジアン色の玉だった。
「一応、図鑑に置いてみますね」
私は鑑定のできる本の上に球体を置いてみる。しかし、当然のように反応はない。
「Cランク以上か。ま、それが分かっただけでもよしとするか」
「魔力的には風の力を感じるんですよね。ただ、それだけじゃないっていうか…」
「ウィンドウルフではないのか?」
「ウィンドウルフは確かに品質が上がると濃い色になりますけど、最終的には透き通るぐらいの濃さまでです。ここまで濃い緑にはなりませんね。ティタは分かる?」
「多分ですが…」
ティタも見たことはないらしいけど、見当はつくらしい。
「おっ、ティタは分かるのか?んで、何なんだい?」
「恐らくこれはソニックウルフの魔石かと。あの魔物は風も使いますが、同時に音波も使います。その要素がこうして色に表れているのかと」
「なるほど!ソニックウルフかぁ。そう言われればそうかも」
「ソニックウルフ?かなり珍しい種類のウルフ種だな」
「そうなんですか?レディト東にはそれなりにいるみたいですけど」
まあ、それなりと言っても他の魔物よりは少ないけどね。
「でも、そのソニックウルフの魔石なら、使えるのは音波ってことかな?」
「どうだろうね。ただの風魔石で、色に出てるだけかもしれないし」
「もどかしいねぇ。何の魔石かはわかるってのに、効果が分からないから鑑定しないといけないなんてね」
「そうですね。私たちも結局、ソニア以外のソニックウルフには出会ってませんしね」
「アスカの従魔か?」
「はい。今は別の人の従魔ですけどね。他にも草原に住んでる魔物なら、グレーンウルフもそうですね。サンダーバードはしたことはありませんけど、飼っていたことはあります」
「魔物を飼う?邸でか?」
「ち、違いますよ。住んでいた宿で、です」
「そんなに簡単に飼えるものなのか?」
「まあ、リンネ…グレーンウルフやソニックウルフは宿の入り口で不届きものがいないか、見張りをしてましたしね」
片方はほとんど寝るかごろごろしてるだけだったけど。まあ、ソニアの方が好戦的でバランスとしてはよかったけどね。
「それでティタも見当がついたのか。しかし、効果が分からないとな。売るにしても使うにしても困るな」
「そうですね。でも、音波効果だったら私が買い取りますね。一度扱ってみたかったんです」
音波だったら可能性の塊のような魔石だ。使い道を考えるだけで、数日は時間が経ちそうなぐらいだ。その後も調子に乗って岩を探してみたけど、さすがに2つ目はなかった。
「こらアスカ!その岩は普通の岩だろ?」
「でも、擬態してるかもしれませんよ?」
「んなわけあるか!」
「アスカは本当にダンジョン向きだな」
「そうですね。宝箱の分け前とかじゃなくてロマンに生きるところとか、本当に向いていると思います」
そんな会話をしながら私たちは再び階段を降りていった。




