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転生後に世界周遊 ~転生者アスカの放浪記~【前作書籍発売中】  作者: 弓立歩
ダンジョン都市アルトゥール

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新装備!

 フシャー!


 こちらを確認したガーキャットたちは一斉に動きだす。ローグウルフと同じく、群れの中で弱い存在を狙うガーキャットだが、唯一違うところは正面切って来るところだ。意外に思うかもしれないけど、これは本来であれば木の上から攻撃を仕掛けてくるためだ。樹上から攻撃するか正面か、この二択なのである。


「あんまり散らばっても困るから…ウィンド」


 私はウィンドをガーキャットたちの周囲に放つ。これは散らばらないようにするためなので全部、群れの外側に放つ。


「当たってない…そうか!」


 リックさんも私の意図に気づいたようで一気に駆ける。ガーキャットの弱点はその身軽さだ。中型の魔物でキャット種ということもあり、身軽な彼らは固い外皮を持たない。そのため、どうしても攻撃を避けようとする。これがオーガであれば当たりながらも近づいてくるので使えない戦法なのだが。


 キャン


 グゥゥゥ


「これで最後!」


 ジャネットさん、続いてリックさんがガーキャットを倒し、最後の1匹にリュートがとどめを刺す。


「みんなお疲れ~」


「アスカもね」


「おっ、ドロップだぞ」


 ガーキャットが倒れた後にはアイテムが一つ落ちていた。


 ガサッ


「ん?」


 その時、草原の奥の方でわずかに音がした。


 に”~~~~


「キシャル!?みんな、気を付けて!」


「この反応…ブリンクベアーかい」


「噂の魔物だな。判別方法は?」


「臭いと音です。あとは草原なら足跡です。見えないですが、存在は消せません」


「なるほどな…」


 にゃ~~


 キシャルはさすがに野生の魔物だからか、直ぐに居場所を突き止めて氷のブレスを吐く。


 サァァァァ


 ギャオ!


 足元から少しずつ凍らされる形でブリンクベアーが姿を現す。そして、足の氷を壊していくが、体に付いた一部の氷は取れていない。


「ナイス、キシャル!これで戦えるよ。とはいえ、こいつを剣で切りたくはない。アスカ頼むよ」


「はいっ!フレイムブラスト!!」


 元々、素材がほとんど使えないブリンクベアーだけど、ここはダンジョン。さらに遠慮することはない。地形に関しても、別に焼け焦げたところで次に来た時は別の地形になっているから気にしなくていいのも好都合だ。


 フィィィィバァン


 火せんがブリンクベアーに到達すると一気に爆発して炎が体を包み込む。


 グアァァァ


 たまらず体を動かして火を消そうとするけれど、自分の体に含まれる油がそれを邪魔する。


「終わったね」


「あ、そうみたいだね。キシャル、他にはいるかい?」


 にゃ~


 キシャルがもういないよと体を休める。こういう危機管理能力が高いのは野性の強みだ。


「しかし、本当に目には見えないのだな。実際に見たのは初めてだったから、びっくりしたぞ」


「だろ?あたしたちも最初はびっくりしたもんさ。戦う機会も少ない魔物だしね」


「そうなのか?フェゼル王国にも生息しているのだろう?」


「あいつの生息地ってのが、大きめの町と田舎の村の間にある草原なんだよ。普通は寄り付かないし、遠回りになっても利益が出るんだよ」


「そうなのか?商人であれば最短距離を行くこともあると思うが…」


「ちなみに迂回路には王都と中央神殿があるんだけどねぇ」


「それは間違いなく通らんな」


「だろ?そんで、こっちのドロップはと…」


「あっ、私が見て見ますね」


 ドロップアイテムを図鑑の上に乗せる。


 ガークロー:Dランク。ガーキャットのクロー。切れ味は鋭いが魔法は込められない


「ふぅ~ん。結構使いやすそうだね」


「もしかして、ジャネット。使う気か?」


「ん?ああ。格闘術は鍛錬してるんだけど、使う機会がないからねぇ。試しにこいつでやってみようかと」


「そういえば、あんまりジャネットさんが格闘で戦ってるところって見ませんね。リュートやノヴァとの模擬戦とか、私に稽古をつけてくれる時ぐらいですよね」


「まあ、魔物相手に素手なんて意味がないし、野盗どもに触れたいとも思わないしねぇ」


 ジャネットさんはそういうと、剣を背中に納め図鑑の上のガークローをひょいっとつかんで、右手にはめた。


「どうだい、似合うかい?」


「あっ、意外と似合いますね。爪も25cmぐらいありますし」


「だろ?これぐらい長かったら、それなりに戦えそうだよね。なぁ、リック…」


「ちょっとまて、ジャネット。俺の顔に向けるんじゃない!」


「おや、あたしに攻撃されるような覚えがあるのかい?」


「な、ないが、笑顔で爪を人に向けるな」


「ま、それもそうか。使いやすそうだし、ちょっと試すよ。リュート、そういう訳だから援護は頼んだよ」


「分かりました」


 ジャネットさんはガークローを気に入った様子で、ぶんぶんと振っては具合を確かめている。


「ジャネットさん、なんだかジャマダハルを持ったサティーさんみたいですね」


「は?いやいや、違うだろ?なぁ、リュート」


「僕もアスカと一緒のこと考えてました」


 サティーさんというのは以前、ランダムダンジョンに一緒に潜った人でジャマダハルっていう刺突剣を使っている冒険者だ。このジャマダハルという武器には速さ上昇の効果と好戦的になる効果がついている。ちょうど今のジャネットさんみたいな表情になるんだよね。


「いや、流石にサティーと一緒って言うのはなぁ」


「なんだ?そんなに変わった冒険者なのか?」


「変わったやつじゃないけど、本当にジャマダハルだけの変わり方に見えないんだよ…」


 そうしみじみというジャネットさん。確かに割と戦闘になると好戦的になってたもんね。


「にしても、あたしは魔法が苦手だけど、魔法が込められないってのは残念だね」


「そういえばそういうことも書いてありましたね。せっかくのエンチャントもできないなんて」


「代わりにどれぐらいの切れ味があるかだな。それで、使い勝手も変わるだろう」


「そうだねぇ。せいぜい期待させてもらうよ」


 それから、フロアを探索する。流石に21Fからはドロップも気になるからね。


「あっ、この先にローグウルフと思われる反応です!」


「了解。腕が鳴るねぇ」


「ジャネットさん、やっぱりサティーさんに…もがっ」


「それ以上はダメ。聞こえるよ」


 ぽつりと思ったことを言おうとしたらリュートに止められた。そんなに気にすることかな?


 ワゥゥゥゥ


「今度も4体程度か。数もそれなりだから、Dランクじゃ難しそうだな」


「どうします?ジャネットさんは普段より近接になりますから、散らしますか?」


「いったんその方がいいだろう」


「了解です。嵐よ、ストーム!」


 私は単純な詠唱で手のひらから嵐を放つ。敵の中央を狙ったそれに当たることはなく、ローグウルフたちは左右に散らばった。


 ジャキン


 スッ


 散らばったローグウルフたちに対して、リックさんとリュートが向かっていく。ジャネットさんはガークローを構えながら、相手とじりじり距離を詰めている段階だ。私はというと…。


「ダンジョンは楽でいいよね…風の散弾よ、ウィンドブレイズ!」


 本来であれば、風の球体を放つ魔法に回転をかけ、貫通力を高めたものを正面に来たローグウルフに放った。


 ギャン


 予想より早く、鋭いその攻撃に私の前にいたローグウルフは体を貫かれる。


「ふぅ~。こういうのはダンジョンのありがたいところだよね。ほんとだったら皮が穴だらけで売り物にならなくなっちゃうから」


 ダンジョンの謎の作りで倒した魔物に関連するドロップはあるものの、倒した状態と関係ないものが出てくる。こうやって、穴だらけの魔物からきれいな皮が落ちることもあるのだ。遠慮しなくっていいのは助かる。


「ジャネットさんはどうかな~?」


 私は他のみんなが戦闘に入ったのを確認しながら、ジャネットさんの方を見る。


「はぁっ!」


 右手にガークローを付けたジャネットさんは容赦なく近づいて来たローグウルフに爪を振り下ろす。


「うわぁ、獣人の人みたいだ」


 獣人は西の大陸以外にはほとんどいないから私もちらっと見かけただけだけど、格闘術のスキルが高いからか、体の一部のような動きだ。


 ザシュ


「あっ、倒した」


 そして、2度相手と切り結ぶだけで戦闘は終わった。ただ…。


「ジャネットさん、それ…」


「あん?」


 爪で斬り裂いた角度が悪かったのか、顔の一部に血が飛び散っている。基本的に強敵との戦い以外では体に血を付けないジャネットさんにしては珍しい。


「というか、血が爪にもついて滴り落ちてるのがちょっと怖いかも…」


「いや、あんだけ近くで戦うんだから当たり前だろう?」


 てっきり、慣れない武器だからというのかと思ったけど、ジャネットさん的には武器の特性に合わせてしょうがないことは割り切っているようだ。でも、ちょっと怖いな。


「ティタ、お願い」


「かしこまりました。キュアアクア」


 しゅわ~


 ティタの水魔法でジャネットさんの体から、汚れの成分を落としていく。ちなみにサラッと使っているけど、補助魔法のキュアとアクアを織り交ぜた魔法なので、使用にはコツが要り誰でも使えるというわけではない。


「おっ、ありがとな。ティタ」


「いえ。ご主人様のためですから」


「さて、残念ながらドロップもないし、先を急ぐか。しかし、その爪。中々の切れ味のようだな」


「ああ。物理専門とはいえ、これだけ切れ味があるんなら十分だよ」


 そして、21Fでの探索を終えた私たちは次のフロアへと足を踏み入れたのだった。



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