リックの報告
「まず、みんなに置いて行かれた後だが、俺も初めてのダンジョンだ。最初は適当な装備に着替えてDランクのパーティーに混ざっていったんだ」
「あれ?あの時連れていた二人組はどうしたんだい?」
「…覚えていたのか。流石に断り切れなかったから30Fまで潜った。一番収穫が多かったのはその時かもしれんな」
「へぇ~、なにを教えて貰ったんですか?」
「変な利き方をするな、アスカ。彼女たちはランクこそCランクだが、実力的にはDランクといって差し支えない強さだった」
「その割には羽振りのいい装備だったね」
「ああ。ルックスを生かして、強い冒険者について行くパターンだよ。ダンジョンは危険が大きいと思われがちだが、特定の階層を目指すならよほどのイレギュラーに会わない限り、それなりに攻略できる。ジャネットたちもダンジョン自体の経験はあるんだろう?」
「ああ、アンデッドダンジョンとランダムダンジョンはね」
「ランダムダンジョンは経験にならんな。まあ、そういうことだから彼女たちは強い冒険者について行っても受けてるって訳だ。当然、その中で相手から色んな情報も聞きながらな。それを今度は別の相手に話しながらまた利益を得るって形だ」
「う~ん。それなら別に潜る意味ってあるんですか?」
「さてな。まあ、絡まれた感じからすると、腕も顔もいい冒険者と付き合いたいって感じだったな。そんな相手が見つかったら早々に引退でも決め込むつもりだったんだろう」
「そんで、リックは何回ぐらい一緒に行ったんだい?」
「あの時だけだ!それも断り切れないからだぞ?一緒にはガルドのやつもいたし…」
「ガルド?」
「ああ。奥に大男がいたのを覚えていないか?彼だよ。重戦士ながらカンも働いて実力もある戦士だ。彼とは何度かダンジョンに潜っている。だが、30Fまでは2回ほどだな」
「ボスはどんな感じなんだい?」
「ボスは少々特殊だな。10Fだとゴブリン系やウルフ系の上位種。20Fは草原の魔物の上位種だ。ただ、30Fになると草原の枠を超えてくる場合がある」
「どういうことだい?」
「現実の草原だと山々を移動する魔物が横切ったりするだろう?」
「ああ、そういうこともあるね。まさか…」
「そう。ジャネットが今思った通り、そういう草原上空を通過するような魔物でさえ、ボスとして出現する。ワイバーンやそれこそディーバーンを見たやつもいるらしい。俺も2回行ったが一度目が、キングホーンウルフで次はオーガジェネラルだった」
「オーガ…ジェネラル」
「ああ。リュート君、奴は厄介だから対処法を覚えておいてくれ。必ず、正面で合わせないことだ。力が人をはるかに上回るからな。剣だろうと何だろうと投げられたら、反応できるか分からんぞ。特に面倒なのが足手まといを投げられた時だな。君はどう反応する?」
「えっと、急に言われても…」
リックさんの質問を受け、返答に窮するリュート。
「そうだな。普通はそんな覚悟は不要だ。だが、それ以降の階層についてはそういう覚悟も必要になるということだ。無視できないなら避ける。だが、避けた先にアスカが居たらどうする?」
「それは…」
「そういう、魔物が増えてくるのが30F以降だということだ。だから、俺はまだ行っていない」
「別にあんたなら足手まといになんてならないだろう?」
「もちろんだ。だがな、ジャネット。日雇いみたいな環境のパーティーにそこまで背中を預けられるか?俺は嫌だぜ、レアドロップひとつで争いながら死ぬなんてな。自分が諦めても相手が信じるかどうかは別物だからな」
「そりゃあそうだね。30Fまでは楽なのかい?」
「20F以降の難易度次第だな。小型の魔物が多いと面倒だ」
「どうしてですか?小型の方が相手をしやすいと思いますけど…」
「確かに小型の魔物は力も知れている。だが、その体格で他の魔物と渡り合っているんだ。特徴があるものが多くて対応に苦労する」
「なるほどね。そういや、ブリンクベアーは出るのかい?」
「まさに20Fから出るそうだ。そんなに厄介なのか?」
「周りの風景に溶け込むからねぇ。草原だと背の小さい木の枝の揺れなんかで分かるけど、ダンジョンだとどうだか」
「それは厄介だな。出会わないことを祈ろう」
「全くだよ。それで、今日は慌ててこっちに来てるみたいだけど、明日の予定はどうなんだい?」
「それだが、俺も少しばかり名が売れててな。変な誘いが多いから今は町の外の依頼を受けてるんだ」
「そいつはいいことで」
「良くはないぞ。ソロだから変なやつにも声をかけられるんだ。ジャネットも2月いればこうなる」
「残念。あたしはアスカがいるんで、ソロで活動なんてことはないんでね。な、アスカ」
「そうですね。一緒です」
リックさんとリュートが窓際、私とジャネットさんは入り口側のベッドに腰かけていたので、私はそのままジャネットさんに抱き着く。
「こ、こら、アスカ」
「いいじゃないですか。さっきはリックさんとしてましたし」
「全く、アスカのやつは…」
「まあ、そういう訳だ。具体的にはもう少し詰められるが、いまさら20Fまででてこずることもないだろう。明日潜りながら話すか」
「そうだねぇ。早起きして早速30Fまで行くとするか」
「一度、20Fで止まらないのか?」
「それでもいいけど、この宿も高いからねぇ。辛そうなら次から20Fに落とせばいいさ」
「それもそうだな。じゃあ、今日はもう少し話して寝るか」
「そうだね」
それからは、どの店がおいしいだの宿はどこがいいだのと街中の情報交換をして眠りについた。
「アスカ、朝だよ」
「ふぁ~い」
ジャネットさんに起こしてもらい、朝の着替えを済まそうとする。
「ちょ、ちょっと、アスカ!ここはミネルナ村じゃないって!」
「へ?」
一瞬顔を真っ赤にしたリュートが見えたかと思うと、すぐに向こうを向いてしまった。
「変なの…」
「変なのはあんただよ。もう、ミシェルたちはいないし、個室じゃないんだよ」
「えっ、あっ!?」
し、しまった!ここって4人部屋だった。ということは…。
「きゃあ!?」
急いで複数で泊まる時用の仕切りのカーテンで身を隠す。
「うううっ、見た?」
「ちょ、ちょっとだけ…」
「言っとくけど、リュートは悪くないよ。どっかの誰かさんが寝ぼけてるのが原因だからね」
「わ、分かってます。でも、できるだけ早く記憶から消してね!恥ずかしいから」
「う、うん」
「本当に消すかねぇ」
「それより着替えましょう!早くダンジョンに行かないと!」
「はいはい。分かったよ」
私は冒険者の格好に着替え、ブーツとグローブにマントにもなるローブを羽織って、鏡で軽く髪を整えたら食堂に向かう。朝食だけは無料サービスなのだ。
「お待たせ」
「おっ、思っていたより早かったな」
「ちょっとあってね」
「「あはは」」
私とリュートは乾いた笑いでごまかしながら朝食を取り始める。
「あっ、無料だけどそれなりにおいしい。これなら夕食も期待できるかも?」
「今日は帰って来れないだろうけどね」
「急いだらなんとかなりませんか?」
「頑張るかねぇ」
ピィ
「アルナも頑張ってくれるの?じゃあ、夕食は期待しててね!」
こうして、パンとスープのみではあったけど、それなりに満足した朝食を済ませて宿を後にする。
「いよいよ、ダンジョンですね。入場料って高いんですか?」
「いや、銀貨5枚だな」
「結構しますね…」
「とはいっても簡単に回収できる額だ」
「20Fまで行ければだろう?」
「そりゃあ、10Fで立ち止まるような奴の持ち帰れるものなんて知れてるからな。振り分けは必要だろう?」
「アスカ、スープがついてる」
「ん、取って」
まだ、ちょっと眠たい頭を整理しながら食事を済ませる。そして、一度部屋に戻って準備完了だ。
「それじゃあ、行くよ!アルナ、キシャル、ティタ!!」
ピィ!
にゃ~
「はっ!」
三者三様の返事を受けながら、私は下に降りてみんなと合流し、ダンジョンへと向かった。




