いけ好かない男との再会
「お待たせしました~」
みんなで話していると時間が経つのは早いもので、料理が運ばれて来た。
「こちらまずはピアースバッファローのスライスローストですね横にあるソースを付けてお召し上がりください。続いてビッグマウスシャークのソテーです。こちらはもし、味が薄く感じた場合はテーブルにある調味料を足してくださいね」
「ありがとうございます」
「デザートスコーピオンのお客様はもう少しお待ちください。すぐに持ってきますので」
「ああ」
「それじゃあ、ジャネットさん。申し訳ないけど先に…」
「そうしときな。冷めたら美味しくないだろうしね」
「いただきま~す」
「いただきます」
私とリュートは料理が冷めないうちに食べ始める。ちなみに、メイン以外だとパンとスープにサラダまでついてくる。バランスのいい食事だ。
「じゃあ、まずはビッグマウスシャークから…ぱくっ」
「どうだいアスカ?」
「んん~、なんていうかあっさりしてますね。どちらかというと淡水の白身魚的な。明確にこれって感じの味はないかもしれません」
「美味しくないの?」
「ううん。味付けはいいし、おいしいよ。ただ、これがビッグマウスシャークです!って言うのは難しいかも。ちょっと、調味料足してみようかな?」
私は店員さんに勧められた通り、調味料を足して食べてみる。
「どうだい?」
「やっぱり、調味料の味が足された感じですね。でも、身はやわらかいので子どもとか好きそうかもしれません」
「ふ~ん。まあ、何にせよ美味いみたいでよかったよ」
「そうですね。それは間違いないです。リュートは?」
「こっちは美味しいよ。ジュムーアより肉質はちょっとしまった感じかな?赤身が多めで弾力があるんだけど、スライスされてるから食べやすいしね。もし、これがステーキだったらかむのに時間がかかったかも」
「なるほどねぇ。結構どれも考えられてるのかもね」
「お待たせしました」
「おっ!あたしのも到着かい」
「はい、デザートスコーピオンのから揚げです。お好みでこちらのフルーツをかけてくださいね」
「ありがとね」
「では、ごゆっくり」
店員さんが帰っていき、テーブルに料理がそろった。
「ジャネットさんはどうしてそれにしたんですか?」
「う~ん。前からちょっと食べて見たかったんだよね。サイズも結構いい感じだろ?」
そう、みんなはサソリだから小さいのがぽつぽつ並んでいると思うかもしれないが、このデザートスコーピオンのサイズは全長40cmほど。かなり巨大なから揚げなのだ。
「まずははさみを…」
バキッ
「おおっ!ワイルドだぁ」
はさみの部分を折ると躊躇なく口に含むジャネットさん。
「ん…美味しいねぇ。どう処理をしたのか知らないけど、からもそこまで固くないし、食感がいいよ。アスカも食べてみるかい?」
「い、いいんですか?」
私はちょっと遠慮がちに答える。だって、さすがにこれを食べるのには勇気がいるもん。
「じゃあ、ちょっとだけ」
パキッ
私ははさみが取れた腕の部分を少しだけ割ると口に含む。
「ん、から揚げだけあって味はちゃんとついてますね。あとは…」
バリッゴリッ
音はすごいけどこれはからが鳴っているだけで、実際はそうでもない。えびのからを少し硬くした感じだろうか?
「ん~、ん!?」
「アスカ、大丈夫?」
「ん、うん。意外…おいしかった」
「そうなの?」
「リュートもちょっと食べて見な、美味いよ」
「それなら僕もちょっとだけ」
リュートはしっぽにつながる体の節の部分を割って食べる。
「あ~、これ美味しいですね。見た目に慣れれば人気のメニューになるかもしれません」
「だろ?まあ、ダンジョン産の魔物って点を置いとけばだね。地形的に砂漠の中を探すのは面倒だしさ」
「それは問題ですね」
出てきた料理を前に舌鼓を打つだけではなく、その魔物の生息地はどこだろうか?という話で盛り上がった。この辺は冒険者だけが味わえる特権かもね。
「ん~、美味いねぇ。アスカ、しっぽ食べてみるかい?」
「いいんですか?でも、毒とかありそう…」
「こいつは持ってないはずだよ。魔物辞典にも書いてないかい?」
「そういえば載ってた気がしますね」
私はササッと魔物辞典を開ける。砂漠の魔物って毒持ってる魔物が多いんだよね。
「あっ、こっちのは持ってないやつですね。ちょっと見た目が違うやつは持ってるみたいです」
「そうだろ?さあ、食べて見な」
「は~い」
最初は見た目が気になったけど、一口食べてみたのと、ジャネットさんがおいしそうに食べているから気にならなくなった。
「では、一口…」
しっぽの2股に分かれたとがった部分の小さい方をパキッと割って口に入れる。
「ん、ん~!これおいしいです!私が最初に食べたところより、食感がいいしちょっと味も違いますね」
「となるとはさみに近い味かもねぇ。どれどれ」
ジャネットさんも私の感想を聞いて大きい方を口に入れる。
「おっ!こいつは酒も進みそうだ。今日は1杯って決めたのがもったいなかったね」
「そういえば、どうして今日は1杯だけなんですか?」
「そりゃあ、明日はダンジョンがどういうものか見に行くからね。滞在費もバカにならないし当然だろ?」
「そういえば、部屋も高いですね。頑張りましょう!」
「あくまで様子見だけどな」
「でも、リックさんがその時に訪ねてきたらどうするんですか?」
「待たせときゃいいんだよ、リュート。あいつに気を使うなんて必要ないからさ」
「ええ~、ずっと待ってるのにかわいそうですよ」
「待ってるかもわからないだろ?」
「でも、依頼を受けてるって…」
「報告は別のギルド支部でもできるんだし、居ないかもしれないだろ?」
「そうですかね」
結局まだ会えていないリックさんのことも話しながら、楽しい食事を終えた。
「お会計は銀貨3枚と大銅貨1枚になります」
「はいよ。まとめてな」
「あっ、ジャネットさん。いいんですか?」
「ああ。大体、これぐらいで分けるなんて手間だろ?今度食う時にでもおごってくれりゃあいいさ」
というわけでお高い食事の費用はジャネットさん持ちで、お腹を満たした私たちは宿に戻ったのだった…。
「いらっしゃいませ。あっ、お戻りですね」
「ああ、今帰ったよ」
「ジャネットさん宛てに来客がお見えですよ」
「あたしに?誰だい一体」
「ジャネット!久し振りだな、会いたかったぞ!」
「リ、リック!?」
ジャネットさんが帰ってきたのを見つけると、リックさんがガバッと抱き着く。
「お、おい、こんな受付の目の前で…」
「いやぁ~、2か月と5日ぶりだな。どうだ、元気にしていたか?」
「は、話を聞けっての!この男は…」
「そうですよ。ジャネットさんにいきなり抱き着くなんて何してるんですか!」
「おお、アスカもリュート君も久しぶりだな。少し成長したみたいだな」
「そうですか。僕は自分じゃあまりわからなくて…」
「そう謙遜することはないぞ。なあ、ジャネット?」
「それはいいからいい加減放してくれよ」
「いやぁ~、今日まで耐えに耐えたジャネット分を補充してるんだ。もう少し待ってくれ」
「放せ、無礼者。お前はいかなる資格を持ってその行為を行っておる…」
「ア、アスカ!?」
ボゥっと我は火の玉を作り出し、リックなるものの前に見せつける。
「わ、悪かった!だから、落ち着けアスカ。ここは宿だぞ?」
「分かればよい」
「アスカ、ありがとな」
「…いえ、どうってことないですよ!それより部屋に戻りましょう!」
「ああ、そうだね」
「ま、待ってくれ。部屋はどうなってるんだ?受付からは客のことは教えられないと言われてな」
「どうするリーダー?」
「さっきみたいな真似をしないというならいいですよ」
「あ、ああ、さっきは本当に久しぶりだったからな。今後はそう簡単にしないさ」
「どうだかね」
「じゃあ、ついてきてくださいね」
そのままみんなで部屋に入る。
「へぇ~、ここがそうか。セキュリティもしっかりしてるし、表に出ていた価格を考えても安いな」
「ちなみにリックさんは1泊でどれぐらいの宿に泊まっているんですか?」
「俺か?個室だが、1泊銀貨3枚だな。結構高いんだ」
「そうですか?ここは1泊一部屋銀貨9枚ですから、大きくは違いませんね」
「だが、本当に簡素なベッドだけだぞ?まあ、戸締りはしっかりしてあるところだが」
「ま、寝るのに安心できないとねぇ」
「おおっ!?流石はジャネット。分かってくれるか?」
「リックさん」
「ん?」
「報告以外は黙ってくれませんか?」
「アスカ、君は結構辛らつになったな」
「公衆の面前でいきなりあんなことをするからです!」
「いやぁ、本当に悪かった。自分でも驚いているよ。部屋に戻ってからって思ってたんだけどな」
「部屋でもダメです!もう…」
久し振りなのはわかるけど、もうちょっとロマンティックというか…。でも、考えてみたら久しぶりに会った時に抱き着くのってロマンティックかも?うう~ん。でも、もやっとするなぁ。
そんな意識を持ちながらも、私たちはこの間に起こったことを簡単に説明する。
「ふむ。親の知り合いに習い事をしにか。まあ、そういうことなら仕方ないだろう。俺も簡単に親に会わせられんしな。しかし、ディーバーンとは噂には聞いていたがそこまで厄介な相手とは…」
「全くだよ。空も飛ぶし、魔法も使う。面倒な相手だね、あれは」
「それにウィースか。あいつの生態が分かるのは大きいな。この国だけではなく、世界にはいくつもの国が従魔を使った部隊を持っている。研究が進めば表彰ものだぞ?」
「そんなたいしたことでは…」
「そういうな。強い魔物ほど大きい傾向にあるから、被害は大きいんだ。胸を張った方がいい」
「そういうリックはどうしてたんだい?今日もすぐに来るほど身軽だったみたいだけど?」
「なら、聞いてばかりも悪いし今度は俺の方から報告をしよう」
こうしてリックさんは私たちと別れた後から、今日までの事を話し始めたのだった。




