ファラちゃんと水魔法
「ん~、よく寝た~」
「アスカ様、おはようございます」
「ミシェルさん!おはようございます」
「昨日はそのまま寝られましたから先にお風呂にされますか?」
「そうですね…お願いします」
ミシェルさんがお風呂の準備をしている間にエディンさんが簡単に髪を整えてくれる。
「さて、簡単ですが髪も整いましたし行きましょうか」
「はい」
村長さんの家には個室のお風呂があるのでそちらへ向かう。とはいえ家の裏手に作られたスペースだけどね。
「では、洗わせていただきます」
「あの…自分でできますから」
「いいえ。私たちがいる間はお任せください」
「そういえば、お湯ってどうしたんですか?私、魔法使ってませんけど…」
「ああ、それなら私が」
「エディンさんが?でもどうやって…」
「あの…昨日の件でできるようになりました」
「エディンったらひどいんですよ、アスカ様。これまで火の魔法が使えることを黙っていたんです!」
「だ、黙っていた訳では…」
そういえば、エディンさんって昨日シルフィード様から力をもらったんだっけ?シルフィード様の属性って私と同じ火・風・光・空間だから、エディンさんも使えるようになったんだろうな。
「そ、そうだ!」
「アスカ様、どうされました?」
「エディンさん後でちょっとだけいいですか?」
「はぁ、構いませんが」
お風呂から上がると早速部屋にエディンさんを入れてミシェルさんには朝食の用意をしてもらう。
「アスカ様、それで用事とはいったい…」
「エディンさんは私の属性って知ってます?」
「えっと、火と風では?」
「ちょっとこっち来てもらえます」
「はい」
私はエディンさんにこそっと自分の属性を話す。
「他にも空間と光があるので注意してくださいね」
「えっ!?ほ、ほほ、本当ですか?」
「はい。でも、私って空間魔法はほとんど使えないので、エディンさんがどうかは分かりませんけど」
「何か知っている空間魔法ってありますか?」
「ほんとの初歩ですけど、ホールっていう魔法です。小さい穴を作って10秒ほどそこにものをしまえる魔法ですね」
「なるほど…ホール!」
エディンさんが魔法を唱えてそこにナイフを放り込む。
「入ってしまいました…」
「入っちゃいましたね。頑張ってくださいね、これから」
「ええっ!?どうにかなりませんか?」
「エディンさんはイリス様に仕えてますから相談すればいいですよ」
「だ、大丈夫なのですか?シルフィード様の怒りを買ったりは…」
「シルフィード様は優しい精霊様ですから。生きるために必要なことは認めてくださいますよ」
「分かりました。しかし、朝に火の魔法を使った時も思ったのですが、魔力が高くなっているようなのです」
「まあ、シルフィード様ってすごい魔力ですからね。精霊様のちょっとはちょっとじゃないんです」
「そういうことですか。肝に銘じておきます。それにしても、アスカ様は4属性持ちなのですね。国に居られた時も大変だったのでは?」
「いえ、その時はそこまで…。今は旅先なので力もありませんし、逆に大変かもしれません」
「アスカ様、朝食をお持ちしました」
「あっ、ミシェルさんが来たみたいですね。それじゃあ、今のことは秘密で」
「はっ!」
その後は普通に朝ご飯を食べて、リビング兼食堂へ。今から警備隊の見送りなのだ。
「アスカ様、今回の調査ではお世話になりました」
「こちらこそ、ありがとうございます。調査結果は町の方で役立ててくださいね」
「はっ!併せてこの村を守護するミネルナ神のことも報告しておきます。小さい村とはいえ地方神に守られる村であれば幾分、補助も出るでしょう」
「そうなんですね。よろしくお願いします」
「村長。世話になった」
「いいえ。こちらこそよろしくお願いいたします」
「うむ。では、失礼いたします」
隊長さんたちはそういうと一斉に私に頭を下げて家を出ていく。
「私に頭を下げなくてもよかったんだけどなぁ」
「まあまあ、アスカがいたお陰で自分たちの戦力を温存で来たんだから、それぐらいは受けときなよ」
「う~ん」
「それにしても、僕らが村の警護をしている時に色々あったんだね」
「うん。リュートは今日お休みなの?」
「そうだよ。今日は騎士さんたちが入り口を見てる。ゴブリンの巣があるなら僕も一緒に行きたかったよ」
「ええっ!リュートってそんなに戦い好きだっけ?」
「そうじゃなくて、一緒に行っていればアスカの力に成れたでしょ?」
「気にしなくていいよ。私たちが戦いに行けたのも村にリュートたちがいてくれたからだし」
ピィ
「ほら、アルナもそう言ってるよ」
「ありがとう、アルナ」
「そういえばアスカ様、今日は何かご予定がありますかな?」
「ありませんけど、なにか?」
「いえ、調査も無事に終わり、ミネルナ湖も見つかったのでまた村人たちに説明しようと思うのですが…」
「あっ、そういえばまだ言ってませんでしたね。それじゃあ、また集めてもらって説明はファラちゃんには難しいかな?」
「うう~ん、うまく説明できる自信ない」
そうだよね。まだまだ小さいんだし、ここはお姉さんが一肌脱ごう。
「それじゃあ、私が大まかなところは説明するから、巫女のくだりだけはファラちゃんお願いね。そこはやっぱりファラちゃん自身が説明した方がいいと思うから」
「分かった。ありがとう、おねえちゃん!」
「ううん」
「それともう一つお願いがありまして…」
「どうぞ。今特に用事はないですから」
「ファラに魔法を教えてやっては下さいませんか?魔力が高くなっても今までろくな教育を受けておらず、生活魔法ぐらいしか使えないのです」
「なるほど…分かりました。家の裏をちょっと借りますけどやってみますね」
「おおっ!ありがとうございます。お礼も致しますので」
「いいえ、巫女仲間ですしいいですよ。それじゃあ、村の人が集まるまでちょっとやってみようか」
「いいの?」
「もちろん!」
「そんじゃ、あたしはリュートと訓練と行くかね。」
「ええっ!?」
「何びっくりしてんだい。あたしたちはちゃんと魔物と戦ってるけど、あんたは見張りだけだろ?たまには体動かしな」
「…分かりました」
「頑張ってね、リュート」
「うん、頑張るよ。アスカも頑張ってね」
「うんっ!さあ、ファラちゃん行こう」
私はファラちゃんと一緒に家の裏手に回る。途中こっそりティタを連れて。
「さぁ、それじゃあ魔法の訓練だね。ファラちゃんは魔法自体は知ってるの?」
「えっと、今使えるのはアクアです」
「基本だけなんだね。それじゃあ、ティタ。まずは魔法を教えてあげて」
「分かりました」
ファラちゃんの魔力は200近く。それだけあれば中級魔法までは問題なく使えるだろう。
「あ、アクアボール!」
へろへろ
「もう一度使ってみて」
「アクアボール!」
ドゴォン
「…ファラちゃん、もう少し加減できない?」
「ご、ごめんなさい。も、もう一度行きます」
何度かファラちゃんに初級の攻撃魔法であるアクアボールを使ってもらうのだけど、威力の差が凄い。それに魔力200にしては少し威力も低い気がする。
「うう~ん、攻撃魔法が苦手なタイプなのかな?」
「そんなタイプがあるんですか?」
「うん。同じ属性使いでも回復魔法が得意だったり、攻撃魔法が得意だったりするよ。ただ、ファラちゃんの場合は何なんだろうね」
その後、アクアスプラッシュもアクアウォールも使えることは確認したけど、威力は安定しなかった。
「おねえちゃん、ごめんなさい。うまく魔法が使えなくて…」
「ううん。全然使ってこなかったんだし、しょうがないよ。時間はまだあるから練習していこうね?」
「はいっ!」
そろそろ村の人が集まるということでいったん訓練は終えて準備をする。
「はい、こちらの上着を着てください」
「えっ!?このマントみたいなの何ですか?」
「イリス様より預かったものです。短時間でもそこそこの威厳が出るとのことです」
「威厳とかいらないのにな…」
でも、準備の時間を短縮できたのは大きい。訓練しててこの前みたいに準備時間を取れなかったし。
「さあ、行きましょう」
みんな集まったみたいなので私たちもお互いをチェックして広場に向かう。
「皆の者、連日呼び立てて済まないな」
「いえ。ですが、村長。昨日の光の柱はなんなのですか?私以外にも見たものがいるのですが…」
「うむ。幾人かは見ているということも聞いておる。今日はそれの説明をしようと思う。だが、まずは村を脅かしておったゴブリンの巣の件からじゃ。そちらに関しては調査隊を組み、幸運にも残ったゴブリンはいないという結果になった。安心して暮らしてくれ」
「よかったわ。これで、村の近くならまた安心して薬草を取りに行けるわね」
「ええ。うちの主人も簡単な狩りなら再開できそうね」
詳しい説明は聞けていなかったけど、魔物が増えて狩りの方も滞りがちだったみたいだ。
「続いてアスカ様が行っていたミネルナ湖の調査だが…アスカ様、お願いいたします」
ええっ!?ここからバトンタッチなの?ううっ、しょうがない。
「みなさん、先程村長さんから紹介にあずかりましたアスカです。まず、このことを一番にお知らせしなければなりません。みなさんの中にも見た方がいらっしゃったみたいですが、あの光はミネルナ湖から放たれたものです」
「ミネルナ湖…」
「本当にあったのね!」
「私たちの祈りが通じたのね!」
村人たちはミネルナ湖が見つかったことに大はしゃぎだ。ちょっと、回りくどい言い方だったけど、よかった~。
「それではこれからミネルナ湖の発見時の状況について説明していきます」
私はそう話すと、辺りはシーンと静まり返った。ミネルナ様、ほんとに愛されてるなぁ。




