訪問、商人ギルド in ラスツィア
お昼ご飯も済ませ、一路ラスツィアの商人ギルドへ。
「いらっしゃいませ。商人ギルドへようこそ!本日は登録ですか?」
「い、いえ、私じゃなくて…」
「彼女は付き添いです。登録している商会なのですが、納品をお願いします」
「では、登録商会をお願いします。品目のリストなどはありますか?」
「商品とともに手紙をつけるのでそれで大丈夫です」
「分かりました。確認しますね…商会名トリニティ。納品先はレディトのドーマン商会ですね。輸送費は相手商会持ちですので、こちらでは点数の確認をいたします」
てきぱきと業務をこなすギルドの人とリュート。
「ああ、そうでした。トリニティ宛に売り上げの報告が来ております。こちらはカードの方に今お入れしますか?」
「じゃあ、一緒にお願いします」
「かしこまりました。では手続きは以上になります。他にご用はございますか?」
「こちらでは魔石とかも買えると聞いたんですけど、どんなものがありますか?」
「ラスツィアの商人ギルドは大きいですから色々と扱いがありますよ。今、直ぐにお出しできるものだとユニコーンの涙と各種属性の魔石ですね」
「属性の魔石は専用のものですか?汎用のものですか?」
「どちらもありますね。火と水は汎用のものが高止まりしていまして、どちらも金貨12枚です。土と風は金貨4枚程度ですね」
「高いですね」
「どれも最近値上がりしてまして。特に風の魔石はこれでもお安い方ですよ。少し前からいくつか有用な魔道具が売り出されてまして、売れ行きが良いんですよ」
きっとギルドの人が言ってるのって、小手の形の盾を形成する魔道具のことだよね。似た商品が売り出されてるって話は聞いたことないけど、実は出回っているのかも。私はこっそりリュートと目線を合わせて、3つ程買ってもらうようにお願いした。
「じゃあ、風の魔石を汎用のもので3つ。専用のものは5つお願いします。それと銀も」
「銀ですか…。ああ、商会では細工物の制作もされているのでしたね。いくつでしょうか?」
「とりあえず5つお願いします」
「では会計ですね。こちらのカードでよろしいでしょうか?」
「お願いします」
もろもろの処理が終わりリュートがこっちに来る。
「ごめん待たせちゃったね」
「ううん。初めて見たし、勉強になった」
「でも、待ってても暇だろうから今度は僕一人で来るよ」
「いいの?」
「任せてよ」
それから商人ギルドを出て、横に併設された店舗に入る。ここは商人ギルドに納められた商品の直売所だ。商人ギルドに納められたものの内、買い手がつかなかったり納めてるけれど特定の商会と取引をしていない人のための店舗だ。手数料を払って、ここに並べることが出来る。他にも事情があって卸せない人や、質流れのものなんかも扱っているみたいだ。
「ほんとに色々あるね」
「そうだね。カテゴリー別に一応分けられてるけど、質はばらばらだね」
「確かに。あっ、これは良さそう」
シンプルだけど銀を曲げて作られたブレスレットだ。中央部にはさりげなく魔石も配されていて魔道具としての価値もありそうだ。
「そちらをお買い求めですか?」
「気にはなってるんですけど、いくらですか?」
「そちらは金貨1枚ですね。実はグリーンスライムの魔石が値上がっておりまして、値上げ前に作られたものなので魔法付与されていないのですが、付与できないわけではないので思っていた値段で卸せないんですよ」
「ああ~、それは大変ですね~」
昔はグリーンスライムの魔石は銀貨1枚程度でいくつか買えた。今は銀貨1枚で1つ程だけど。安い宝石代わりに取引されていたので、作った人も宝石扱いとして細工に使ったのだろう。それが、そこそこ有用な魔道具に使えるということで値上がった上に、自分では付与できないので商会にも卸せなくなってしまったのだろう。
「当てがあるので大丈夫です。他にも見るので押さえておいてもらっていいですか?」
「分かりました」
他にも色々見ているとポーションなんかもある。
「へ~、ポーションもあるんだ」
リュートも同じことを思ったのかそっちに目が行ったようだ。
「ポーションは委託生産されている方が余らせたものなどが主ですね。材料は多めに仕入れますので、品質的には良いものが多いですよ」
「へ~、新しいのだったら買い足しとこうか?確か出発前に買ったままだったよね?」
「そうだね。滅多に使わないけど、用意しておくのは良いかも」
一緒にポーションを補充しておいた。余った古いポーションは近々使わないとな。そんな感じで商品を見ていると武具を扱っているコーナーが見えた。
「こんなものまで売ってるんですか?」
「一応は。身を崩した冒険者から買い取ったものなどですね。武器屋に売れなくもないのですが、鍛冶屋との関係もありますし、何より売ったものが戻ってくることを嫌う店主もいますので、ここで売ってるんです」
「リュート、品質の良いものって分かる?」
「そこそこは。でも、槍と短剣ぐらいかな?剣はノヴァかジャネットさんがいないとあまり分からないや」
「短剣と剣ってそこまで違うの?」
「やっぱり持った時のバランスとかが違うからね。刃だけ見てもダメなんだよ。僕は剣は使ったことがないからさっぱりで…」
「この弓、ちょっと大きいけどいいなぁ」
「そんなこと言って、アスカは立派なやつがあるでしょ?」
「それはそうだけど、やっぱり大きい弓ってあこがれるよ」
立ち姿が良いんだよね。シュッとした格好で大きい弓を構えて射る!友達の射を見てるだけでもかっこよかったもんね。まあ、実戦であんな間を取ったりは出来ないんだけど…。それこそ、実践的なら丈よりやや小さめで、連射も出来る程度の張りのものが有効だ。貫通力も大事だけど、何より近づかれないように動くのも大切なのだ。
「リュートの方はどうなの?」
「ん~、ナイフぐらいだけど、使い捨てるぐらいのならともかく、ずっと使うって言うのはないかな。剣は多分だけど何本か良さそうなものがあるから、後でジャネットさんに教えてあげよう」
「後は魔道具だね。こっちは色々種類があるみたい」
「ええ、魔道具屋もありますが、売れないものから高値になることを期待して無理に買ったものまで、たくさんありますからね。主に魔道具屋が引き取りたくないものなどがあるんですよ」
「へ~、ちなみにこれは?」
「水の魔石を使ったものです。変換効率が50%以下なので、ろくに役立たないんですよ。汎用魔石ではなくて専用魔石ですから」
「込められてる魔法は何ですか?」
「アクアボールです」
「あ~」
せめて、それがアクアヒールだったらなぁ。回復魔法なら苦手な人がもしかしたら買ったかもしれないのに、倍のMPを使ってアクアボール使うぐらいなら、温存しておいた方がまだましかも。
「ちなみにお値段は」
「金貨2枚です。これでも魔石が高いのでこれ以下だとマイナスが…」
この魔道具は一生売れ残りそうな気がする。他にもへんてこな魔道具を紹介してもらってみたものの、買いたいという感じはなかった。なんだかんだ魔石と魔道具だということで値段が高いんだよね。
「後は…魔石単体ですがディリクシルの魔石です。魔物自体はそこそこ強いですがあまり使い道がないので金貨2枚ですね。おまけで小さいものもお付けいたします。役に立ちませんし」
「じゃあ、それください」
いくらか見たものの、結局は使えそうなものは無かったので追加で魔石だけを買って店を出る。
「思いの外、買っちゃったね」
「だね~、やっぱり大きい町だけあって、色々珍しいものも多いね」
「これは今度の南の市場に行くのが楽しみだよ」
「ほんとほんと!」
宿に帰ると早速、ジャネットさんに商人ギルドで見た剣の話をする。
「へぇ~、良さそうな剣ねぇ。ま、ものによっては使い捨て用に買ってもいいかな?」
「使い捨てって、剣って大事なんじゃないんですか?」
鍛冶屋さんにメンテナンスを頼んでるジャネットさんにしては意外な意見だ。
「ああ、アスカの思ってる感じじゃないよ。魔物によっては体に酸をため込んでたりする奴がいてね。そういう奴を切ると一気に剣がダメになるからそういう時用にね。もちろん、切れないと困るから全くの安物でも駄目だよ」
「僕もそういうの持ってた方がいいんでしょうか?」
「魔槍が自己修復機能を持ってない限りはね。持っててもすぐに強度が戻るわけでもないから予備は必要だよ」
「そうですね。今度相談してみます」
リュートの持ってる魔槍はどうやら意志のようなものがあるらしく、普段は魔力を吸うだけだけど、結構武器を買う時はうるさいらしい。自分以外のメインウェポンを認めないことはもちろん、自分を振るのに邪魔なサイズのナイフや鎧もやめろと言ってくるらしい。そんな魔槍だが、実際にバランスが取れた装備になるらしく、魔槍が初めての槍であるリュートでも中々の腕前になっている。
「で、どうせなら明日は武器とかの関連を見に行くかい?」
「そうですね。お願いしていいですか」
「了解。なら、目的も決まったし後はのんびりするか」
「じゃあ、僕は出てきますね」
「リュート、別に遠慮しなくてもゆっくりしなよ」
「アスカ、残念だけど道中獲ったオークとかブルーバードの肉とかの期限がね…。それに買った香辛料も使わないといけないでしょ?」
「そっか、厨房に許可貰いに行くんだね」
「そういうこと。まあ、この店も料理にはこだわってるみたいだし大丈夫だと思う」
自信ありげに言うとリュートは下に降りて行った。
「やけに自信ありげでしたね」
「まあ、交渉自体2度目になるんだし、自信がついたんじゃないかい?いいじゃないか。これで、街での交渉事はリュートに任せられるんだから」
「なんか悪いですよ。今でも、ギルドとか買い物に付き合わせちゃってますし。今日も女性専門の服屋さんに一緒に入ってもらったんですよ」
「なら、今度は代わりにアスカがリュートの服を見てやれよ。それなら、リュートだって悪い気はしないさ」
「私みたいに普段出歩かない人間と一緒で楽しいでしょうか?」
「大丈夫だって!大体、アスカは細工をしてるんだろ?そのセンスで選んでやりなよ。感謝の気持ちってやつだ」
「そっか…そうですね。ありがとうございます、ジャネットさん!」
「ああ。…全く、幼児かよ」
そんなジャネットさんのつぶやきまでは私は聞こえなかった。
ジャネットは村生まれなので、こんなBoy Meets Girlのようなことを結婚する歳になってやってるアスカたちには半ば呆れています。村は早婚で気になったらするか付き合うが常識なので。




