調査終了と帰還
「ジャ、ジャネット様、お待ちください」
ジャネットさんの後ろから騎士さんたち調査隊の面々が続いて来た。
「ファラ!さっきの光の柱はなんじゃ?」
「おじいちゃん、すごいのよ!ほら!!さっきの光もミネルナ様が出したんだから!」
「な、なんと!本当にミネルナ様が…」
「おおっ!?これが報告にあったミネルナ湖かな?」
「は、はい。偶然見つけたところ、ミネルナ様がお目覚めになったのです。これもファラちゃんのお陰ですよ」
「ファラの?」
「はい。ミネルナ様がファラちゃんを巫女と認めたんです。それに合わせて今まで数百年と続いた村の人たちの祈りがさっきの光を呼んだんです。端の方にはまだゴブリンの死体が転がっていますよね?」
「た、確かにこれはゴブリンの死体。しかし、なぜこんなところに?」
「今までミネルナ様が自らの身をかえりみず、ミネルナ湖に引き込んでいたんです。そうして何とかゴブリンが巣から出ないようにされていたんですよ」
「なんと!そんなことが、しかしどうしてゴブリンの巣を攻撃されなかったのだ?」
「神は我々とは別の次元の生き物。きっと、直接は手出しできなかったのであろう。そのギリギリのところが水に引き込むことだったのじゃ。何とお優しい方じゃ…」
「おじいちゃん!」
「ファラ、いやファラ様。私たちミネルナ村のものはあなた様を歓迎いたしますぞ」
「お、おじいちゃんやめてよ。そんな他人みたいに言われたらわたし、どうしたらいいの?」
「しかし、あなたは我らが望んでいた希望の巫女様なんじゃ…」
「なら、本人の希望をかなえてあげなよ。親御さんもいないんだろ?本当に一人になっちまうよ?」
「…そうですな。いいのかい、ファラ?」
「うん!わたしはおじいちゃんとおばあちゃんの孫だもん!」
「ううっ、2人ともよかったね」
「おねえちゃん。ありがとう、おねえちゃんがここを見つけてくれなかったらミネルナ様も目覚めなかったよ」
「そうなのか?アスカ様は本当にこの村の救世主様ですじゃ」
「そんなことありませんよ。ミネルナ様とミネルナ様を思う村の皆さんが起こしたことです。私たちはそのお手伝いをしたに過ぎません」
「いいえ。きっとこのことは永遠に村で語り継がれるでしょう」
「そんな大げさな…」
「いいえ、アスカ。よくぞ私と村を救ってくれました。私はあなたの信じる神、アラシェルの元に付きましょう」
「えっ!?」
「ミネルナ様がそう言われるなら、私もおねえちゃんの神様を信じます」
「えっと、いいんですか?同じ水の神様であるシェルレーネ様でなくて」
「ええ。なまじ同じ力の神の元に付くと混同されて力がうまく届かないこともありますから」
「そうそう。それにミネルナがアラシェル様の眷属になればアラシェル様も喜ぶわよ。この世界とのつながりも強くなるし」
「えっ!?そうなんですか。それならいいのかなぁ…」
「そういえば、村長もミネルナ様の声が聞こえているのか?」
「はい。なんとか声と光の玉が見えるだけですが…」
「長年信仰してきたのと、ファラが巫女になったからです。きっと村人たちも私の声を聴くことはできるはずですよ」
「おおっ!素晴らしいですじゃ。きっとここまでの道を切り開き、会いに来るように致します」
「無理はいけませんよ。それと村人だけで来ても中々声は届かないでしょうから、必ずファラと来るのです」
「はは~」
「しかし、ミネルナ様は湖の神様って聞いてたけど、光も使えたんだねぇ」
「そうなんです!すっごいんですよ!パアァァァァってどんどん湖が浄化されていったんです」
興奮気味に話すファラちゃんにちょっと戸惑いながらも微笑むミネルナ様。その横ではシルフィード様が説明をしないようにと話をしてくれている。この場では姿を見せたり消したりできる唯一の存在だからね。
「それじゃあ、目的のミネルナ湖も見つかったんだしもう帰るのよね?」
「あっ、いえ、我々は調査の途中でして」
「そうじゃった。すぐに調査の方を終えて村に帰らなければ…」
村長さんに急かされる形で調査隊の面々は再び湖を離れてゴブリンの巣に戻る。
「それにしても精霊様お二人とお会いすることができるなんて感激です」
「エディンさんは精霊様とお会いしたことはないんですか?」
「当然です。生涯、そのお姿の片りんでも見ることが出来たら幸運だとすら言われております」
「そうよ。アスカももっと敬いなさいよ。まあ、あなたは私の名付け親だし、別にいいけどね!」
「名付け…親?」
エディンさんが固まってしまった。シルフィード様がいらないこと言うから。
「もう帰るのですね」
「すみません、ミネルナ様。ファラたちは湖の捜索ではなく、この先のゴブリンの巣を調査しに来たんです」
「いいえ、私ならあなたといつでも会えますから気にしないでください。巫女がいるということはそういうことなのです」
「はい!きっと近いうちにまたやってきます」
「それなら、魔物がこの辺に近寄らないようにしないとね」
「そうですね。私は普段であれば魔物であっても簡単には手出しはできませんが、ファラを守るためであれば力を振るうことができます。ファラを危険な目に遭わせてしまいますが、今度は私が健在だということをこの森中に知らしめましょう!」
おおっ!信仰心を得てミネルナ様が凄くやる気だ。でも、あんまりやりすぎないといいなぁ。この前シルフィード様の魔法を見て思ったけど、精霊様の魔法の威力って私たちとは段違いなんだもん。
「お話し中のところすみません、少しいいですか?」
「エディンさん、どうしました?」
「いえ、先程からシルフィード様とミネルナ様の会話は聞こえませんでしたが、その…大変申し訳ないのですがアスカ様の言葉は聞こえておりまして…」
「えっと、それがどうか?」
「その…アラシェル様が生まれて2年だとか、精霊様を見る方法だとか。あとは一番大事なのですが、アスカ様がシルフィード様の名付け親なのですか?精霊様に名前を付けた例だと存じなくて…」
「あっ、え~っと。黙っていてくれたらうれしいです!」
「それは勿論です」
「そうそう。もし話でもしたら…そうだわ!いいことを思いついちゃった」
「シルフィード様?」
シルフィード様が陣のようなものを作り出すとエディンさんの足元で発動させる。
「ええっ!?なんですかこれは!」
「これこそ、眷属化の儀よ!あなたは今から私の眷属ね。ちゃんと私が見えるようになったでしょ。それと、下手なことを言ったりやったりすると当然、どこからでも分かるし倒せるから!」
めちゃくちゃいい笑顔でそう宣言するシルフィード様。でも、内容は怖いんだけど…。
「他には何もないのでしょうか?」
「色々あるわよ。まずは私が使える属性が使えるわね。巫女って感じじゃないから、ちょっと元の魔力にプラスされて使える程度だけど。その他だと私が見えるようになるし、どんなに離れていても話ができるわ。あとはそうね~、こんなこともできるのよ!」
「な、なにを…」
シルフィード様がエディンさんに近づくと、そのままエディンさんと重なる。
「どう、アスカ?こんなことも私ってできるのよ!」
「えっと、まさかシルフィード様ですか?」
「そうよ。巫女はつながりが深いからできるのは当然だけど、眷属なら同意なしにやれるんだから!」
「そ、そうですか…」
それはちょっと怖いなぁ。
「じゃなくて!エディンさん大丈夫なんですか?」
「もちろんよ!意識もちゃんとあるし、感覚も共有してるわ。ただ、自分の思い通りに体を動かせないだけよ」
「こ、怖いです。それって金縛りのやばいやつですよ!」
「そう?アスカがそういうならここまでにしておきましょう」
「はっ!?か、体の自由が…」
「大丈夫ですかエディンさん?」
「ええ。しかし、シルフィード様が宿っていた間、何か不思議な感覚が。体が動かせないのは勿論なのですが、いつもより軽やかに動いていたのです」
「それは当然よ。人間みたいに非効率的な動きなんてしないもの。魔力だってちゃんと使える量まで出しておいたから」
「えっ!?失礼します」
エディンさんがその辺の地面に向かって魔法を放つ。
ドンッ
「えっ!?」
「これぐらいあなたは元々持ってたって話よ」
「ど、どうしましょうアスカ様…」
「何か困るんですか?」
「こんな短期間でこのような実力の向上。どう説明したらいいのでしょうか?」
「え~と、頑張ってください?」
「そんな!」
「アスカ、終わったよ。帰ろうか。アルナたちも帰るよ」
ピィ
「分かりましたジャネット様」
「あっ、終わったみたいですね。ファラちゃんも早く!」
「は、はい!ミネルナ様、また来ますから」
「ええ。待っていますよ」
「ちょ…」
私はあっけにとられるエディンさんを残し、調査隊に合流した。私はさっき、シルフィード様とミネルナ様の説明頑張ったからこれでいいよね?
「ふぅ、ようやく村まで戻ってきましたな」
「うん!でも、よかった~。ミネルナ様を見ることまでできるなんて!」
「そうじゃな。アスカ様、本当にありがとうございます。村として精一杯のことをさせていただきます」
「そんな!それより、これからのこともありますし、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます」
「では、我々は今日泊まって明日朝に町に戻ります」
「お願いいたします」
「アスカ様たち一行にも討伐報酬が出るよう手配しますので、お待ちください。ただ、書類の手続きがありますので2週間ほどかかると思われますが」
「ありがとうございます」
警備隊の人とは一度分かれて部屋に戻る。
「ん~、今日は疲れた~」
にゃあ?
「キシャル、元気にしてた?ごめんね、今日は色々あったからおやすみするの」
にゃ~
キシャルにそう声をかけると気になったのか私の顔の前に来る。
「元気づけてくれるの?ありがとう」
そのままその日はキシャルと一緒に布団で寝たのだった。




