出発前のお買い物
「うっ、やっぱり今日の朝も野菜が少ない…」
「私たちは今日の出発になりますが、明日以降は町の方から連絡も行くと思いますし、正常になりますよ」
「はぁ、しょうがないですね」
私は一つため息をつきながらも朝食を食べて出発の準備をする。最初は長く思っていた準備の時間も鏡を見ながらだと、少しずつ髪型や化粧が整っていく様を見れて退屈しなくなった。なんとなく、細工に似てるんだよね。
「さあ、後少しですよ。終わったらいい時間ですね」
「そうなんですね。それじゃあ、みんなで行きましょう!」
「あっ、それなのですが、流石に全員で行くと物々しいので、騎士たちは荷物の見張りを兼ねて待機となっております。代わりに護衛はエディンが付きますので」
「ちょっと残念ですけど、仕方ないですね。中央通りでも目立っちゃいますし」
そんなわけで騎士さんたちの見送りを背に受け、私たちは中央通りへと繰り出した。
「あっ、いっぱい店がありますね」
「どこから回りますか?」
「う~ん、時間もないことですし、まずは魔道具店に行きます」
「かしこまりました」
先頭をミシェルさんとエディンさんが行き、後ろにはジャネットさんとリュートだ。馬車は通りの専門業者に預けてある。
「いらっしゃいませ…どのようなご用件でしょうか?」
「あの~、魔石を見たいんですけど。できれば魔道具も」
「しょ、少々お待ちを!ししょ~、お客様です~」
まだあどけなさが残る少女が奥へと飛んでいく。
「なんだい、せわしいねぇ。おや、お客様かい」
「はい。魔石と魔道具の両方を見に来たんですけど…」
「一概に言われてもねぇ。どんなものが欲しいんだい?」
「魔道具はちょっと変わったものを。魔石は風と火と水の魔石を見たいです。でも、水は専用魔石だけで構いません」
「その中だと安いのは風の魔石だけだねぇ。それも、今ちょっと高くなってるけど買うかい?」
「いくらぐらいですか?」
「まずはものを見せようじゃないか」
そういうとおばあさんは奥からいくつか魔石を持って来てくれた。
「こっちがサイクラスの魔石。こっちはファモーゼル、その隣がウィンドウルフだよ。ウィンドウルフの魔石なんて前は金貨2枚もあれば簡単に買えたのにねぇ。今じゃ金貨7枚っていうんだから分からないもんだねぇ…」
「あはは…」
やばい、思い当たる節がありすぎる。フェゼル王国で広まってから、バルディック帝国にデグラス王国、そしてここリディアス王国でもバリア魔道具は人気なのだ。
「ん?金貨7枚。ちょっと安くないかい?」
「まあねぇ。安くして魔道具に加工されたのを持ち込んで欲しいからそうしてるんだがね。近頃のやつらときたら、転売するかろくでもない出来にして持って帰ってくるんだよ」
「ししょ~、そんなこと言ってるとまた怒られますよ」
「それが何だい。売ってやったのにあんなもので返してくるなんて恩知らずどもの言うことなんて聞く必要はないね」
「まあまあ。でも、この魔石大きいですね。いいものが作れそうです」
「おや?あんたが作るのかい?」
「はい。こう見えて、いくつか実用的なものも作ったんですよ」
「ふむ。見せてくれたら売ってやるよ」
「じゃあ、出すのでちょっと待ってくださいね」
とは言ったものの、なにがいいかな?
「そうだ!これがあった。どうぞ」
私はアイビーのブローチを取り出す。これは大きめのアイビーの葉の裏側にウィンドウルフとグリーンスライム2つの魔石を配したものだ。形状が形状だけに魔石部分はクリップみたいな役目をしてポケットに納める形だ。ウィンドウルフの方にエリアヒールが、グリーンスライムの方にはウィンドが込められている。
「ほう?アイビーを模した魔道具かい。でも、こんなのどうやって留めるんだい?」
「えっと…リュートちょっとこっちに来てくれる?」
「いいよ」
私はリュートを呼び寄せて、その胸元のポケットにブローチをかける。
「なるほどねぇ。外からはただのアイビーのブローチに内側は魔道具って訳かい。それで魔法は?」
「こっちのウィンドウルフの方がエリアヒールで、逆側のグリーンスライムの方はウィンドです」
「なぜグリーンスライムの方はウィンドなんだい?」
「これを付ける人は後衛の方を想定しているからです。倒すよりも距離を取ることを優先してます。ウィンドだと消費も少ないので、気兼ねなく使えると思って」
「…お前さん、ここで修業しないかい?」
「ししょ~!?」
「ダメです。アスカ様は旅の途中なんですよ。町の魔道具屋に任せる訳にはいきません!」
「エ、エディンさん、落ち着いてください」
「つまらないねぇ~。せっかくの才能だと思ったのに。まあいい、そいつを売ってくれないかい?」
「別に構いませんけど…」
「なら、ここにあるサイクラスの魔石と金貨10枚でどうだい?」
「その前に一つ質問してもいいですか?」
「いいよ」
「サイクラスの魔石ってどんな魔石なんですか?」
「そんなことも知らないのかい?サイクラスの魔石は風の汎用高位魔石だよ。込められる魔法もファモーゼルの魔石より上になるね」
「ええっ!?それを金貨10枚で売ってもいいんですか?」
「ああ。確かにサイクラスの魔石は価値がある。だけどね、今この弟子にこういう発想があるっていうのを教えるのにその魔道具は最適なんだよ」
なるほど、おばあさんは高い魔石を安く譲ってくれる代わりに、弟子の少女に魔道具を作る上での発想を教えたいんだね。そういうことなら協力しよう。
「分かりました。でも、ほんとにその値段でいいんですか?」
「ああ、金より時として大事なもんがあるからねぇ。毎度」
とりあえず、おばあさんの言い値でサイクラスの魔石と金貨10枚をもらいリュートのポケットに付いていた魔道具を渡す。
「他には何か見るかい?まあ、これだけの魔道具を作るなら特に気になるものはないだろうけどねぇ」
「そんなことありませんよ。私もまだまだですし」
「変わったやつだったね。あれがいいかねぇ…」
そういうと、おばあさんは奥の棚から一つのブレスレットを取ってきた。店のものは全部把握しているみたいだ。
「これは?」
「火の専用魔石を使ったブレスレットだよ。使うとこんな風に火の玉が出るのさ」
おばあさんが実演すると、確かに小さな火の玉が出てきた。
ボンッ
「わっ!?爆発した」
「これがねぇ。変というか出来損ないみたいなもんでね。作って3秒後には爆発するのさ」
「それって危ないだけだろ?」
「そうともいうね」
「あっ、でもこれを宙に浮かせて置いてたらいいけん制になりますね。勝手に爆発するなら相手は最初、何が起こったか分からないと思いますし」
「なるほど…アスカ様の言うことにも一理ありますね」
「ほう?いい着眼点だねぇ。どうだい?金貨3枚だよ。火の玉は3つまで作れて、これでもファイアリザードの魔石なんだよ」
「それで金貨3枚なんですか?」
「今日まで全く売れなくてねぇ。かれこれ7年は在庫してるね」
「…買います。ちょっと面白そうですし」
「ありがとね」
他にも数点見せてもらったけど、興味を引くものはなかったので店を出ることにした。
「またのお越しを…」
「ありがとうございました!」
「こちらこそ貴重な魔石、ありがとうございました」
「これで、一件目は終わりだね。次はどうする?」
「結構時間使っちゃいましたね。あとは服屋さんで終わりにします」
「すみません。もう少し時間が取れればよかったのですが…」
「こっちの日程や目的地に合わせてもらっているのでしょうがないですよ。それじゃあ、お願いします」
「分かりました」
私たちは服屋を目指して歩き出す。といっても、4軒隣なのでほんの少しだけど。
「いらっしゃいませ!本日はどのような服を…」
「こんにちわ。よろしくお願いします」
「少々お待ちくださいませ。てんちょ~」
「店員さん、奥に行っちゃいましたね」
「まあ、そうなるだろうね」
「大変お待たせ致しました。本日はどのような服をお探しですか?」
「えっと、普段着でいいんですけど、これから暖かくなってくると思うのでワンピースを…」
「ワンピースでございますね。こちらになります」
ササッとベテランの店員さんが案内してくれる。
「あっ、この青いワンピース可愛いですね!」
「こちらはこの町の裁縫職人が作ったものになります」
「きれいな空色にかわいい刺繍が映えますね」
「気に入っていただけて何よりです」
「他にはないのですか?」
「同じ作者のものでしたらこちらが。ドレスになりますが…」
「ドレス…」
うう~ん、ドレスはここ数日で一気に在庫が増えたんだけどなぁ。そろそろ、小さいサイズのマジックバッグを手放してワンサイズ大きい衣装用のマジックバッグを用意しないといけないかも?
「アスカ、ドレス見ないのかい?」
「あっ、見ます」
考え事をしているとドレスがすでに用意されていたみたいだ。
「きれ~い!これ、きれいですね。ねっ、ジャネットさん!」
「ああ、はいはい。分かったから落ち着きなって」
「ねぇ!リュートもそう思うよね」
「う、うん」
「お気に召しましたか?こちらは半年かけて作った力作で、つい先日上がってきたばかりなんですよ。本当はディスプレイにと思っていたのですが、お嬢様でしたらお似合いですしどうでしょうか?」
「いいんですか?買います。さっきのワンピースも一緒に」
「ありがとうございます。では、小物の方もお付けしておきますね」
「ありがとうございます」
きれいに梱包してもらった服をマジックバッグにしまう。
「あっ、せっかくだしワンピースには着替えようかな?そこまで寒くないし」
冬といっても零下何℃!なんてことはなくて10℃ぐらいだ。ちょっと上着を着ればなんてことないしね。お店の人に場所を貸してもらってきていた服からワンピースに着替える。どうせ、町を出る時は馬車に乗るし問題ないよね?
「お似合いです。きっとこの服を作った職人たちも喜ぶでしょう」
「本当にありがとうございました」
「さて、それではいい時間になりましたのでお食事にいたしましょうか」
「もうそんな時間なんですね。それじゃあ、行きましょう」
いい魔石にお気に入りの洋服を買った私はみんなと一緒に今度はレストランへと入っていった。




