デート?
店に到着すると、そのまま席に案内される。
「こちらへどうぞ」
「ありがとうございます。リュートもほら」
「うん」
「個室だ。失礼しま~す」
部屋に入るときれいなテーブルとイスはもちろん、調度品もあってまるで貴族気分だ。
「なんだかすごい部屋だね」
「うん、私もそう思った。ここにいる間は貴族だね」
「ありがとうございます。それでは、料理をお持ちしますのでしばらくお待ちください」
「あれ?まだ注文してないですけど…」
「本日はイリス様より伺っておりますので」
「そうなんですね。それじゃあ、待ってます」
「では失礼いたします」
お店の人がいなくなって、再び二人きりだ。
「なんだかちょっと緊張するね。今までこういうところってジャネットさんと2人とか、みんなと一緒だったから」
「僕も緊張するよ。いつもは護衛のふりしてたし」
「そっかぁ。そういえば、リュートはそうだったかも。ムルムルたちと私が過ごしてた時もあっちの護衛の人と食べてたんだよね?」
「うん。それはそれで緊張したけどね。緊張っていうか、相手は本物の騎士だし、やっぱり普通とは違ってて」
「あっ、わかる!私もアナレータちゃんの家とか緊張したし」
「そっちは伯爵家でしょ。流石にレベル違うと思うよ」
「そうかなぁ~?大きく変わらないと思うけど」
「アスカってすごいね」
話をしていると時間が経つのは早いもので、料理が運ばれて来た。
「お待たせいたしました、前菜になります」
各種料理が出る度にメニューの名前と使ってある材料、それに産地まで話してもらえた。
「すごいですね。全部覚えてるんですか?」
「お客様に楽しんでいただきたいのは勿論、自分たちが提供するものですから」
「熱心なんですね。だから、お料理もおいしいんですね」
「そういっていただけると幸いです。続いてはメインの肉料理です。こちらは領内の畜産農家から仕入れたジュムーアのステーキになります」
ジュ~
運ばれてきたお肉はまだ赤く、好きな焼き加減で食べられるようだ。
「じゃあ、僕は早速…」
「えっ!?もう食べるの?」
「この状態は今じゃないと食べられないから」
「そう言われるとそうだね。私も一口だけ…」
リュートを真似て私もひと口だけ赤いままの肉を口に運ぶ。
「う…ん。まだ、私には早いかな」
「そう?結構おいしいよ」
「リュートって大人だね。私はまだ生焼けって思っちゃうなぁ。もうちょっと焼いて食べるよ」
私は普段から食べなれているミディアムぐらいまでお肉を焼く。
「うん!やっぱりこれだね。安心感もあるし、おいしい!このソースも付ける量で味わいが変わるし、色々楽しめていいな」
「ありがとうございます。楽しんでいただけて料理人も喜んでいることでしょう」
そのあともおいしい料理を食べていく。
「そういえば、午後からはどうするの?」
「午後かぁ~、魔石も見たし、アクセサリーも見たからやっぱり服かな?」
「それならいい店があるから最初はそこに行こうよ」
「いいけど、リュートはどうやって知ったの?」
「僕らはアスカが邸にいる間も街に繰り出してたからね。ある程度の店は分かるよ。今日行ったような店はあんまりだけど」
「そっか、なら案内はお任せします!」
「任されました。という訳だから料理を食べちゃおうか」
「そうだね」
「ごちそうさまでした」
食事を終えたので、次はリュートおすすめの店だ。
「どんなところかな~」
「あまり期待しないでよ」
「ええ~、紹介するんだからそれぐらい強気じゃないと!」
「アスカに似合う服の紹介で自信なんて無理だよ」
「そんなことないと思うけど…」
「お二方とも、そろそろ到着します」
「あ、はい」
「ありがとうございます」
店に着いたので早速入店だ。どんな服が並んでるかな~?
「いらっしゃいませ!」
「こんにちわ~、ちょっと見て行ってもいいですか?」
「はい、どうぞご自由に見て行って下さい」
「リュートも早く行こうよ」
「ちょっと待って、早いって」
「だって服屋さんでお買い物なんて久しぶりだし。結局、向こうじゃ店に行けなかったからね」
「ディーバーンの襲撃でそれどころじゃなかったもんね。あっ、この服だよ。アスカにどうかなって」
「へ~、これかぁ~。うん、いいかも!」
リュートが選んでくれていたのはやや薄めの紫が主体の服だった。ちょっと手に取って体に当ててみると、サイズ感もいいしすぐにでも着られそうだ。いない間も考えてくれてたんだなぁ。
「じゃあ、1着目はこれだね。次はと…」
「ええっ!?もう決めちゃったの?」
「うん。だってリュートが選んでくれてたものだし、私も合わせてみて気に入ったしね」
「そ、そう。よかったよ」
「さあさあ、次々行くよ!ちょうどバリエーションを増やしたかったんだ。荷物になるけど、傷んだりサイズが合わなくなったりしたのが増えてきたからね」
「いいタイミングだったね。それじゃ、他はと…」
それからも2人で選んでいった。まあ、さすがに3着目ぐらいからはすぐに買おう!とはならなくて吟味したけどね。持ち歩ける量には限界があるからしょうがない。
「う~ん、選んだ服は全部欲しいけど旅の途中だしなぁ…」
「お嬢様。もし、手放す洋服がありましたらこちらで引き取りましょうか?」
「いいんですか?」
「はい。価格帯としてはこの店で扱えないものも、リメイク用の生地や古着屋に引き取る形になります。もちろん、この店から離れるものに関してはきっちりと扱いますので」
「う~ん、それならお願いしてもいいですか?処分って言っても中々いいやり方が浮かばなくて」
「お任せください」
というわけで買う服を決めたあとは代わりに不要な服を店員さんに渡していく。
「おや?この服はこの辺りでは見かけないものですね」
「はい。私はフェゼル王国から来てますから。多分、流行が違うんでしょうね」
「そうでしたか。では、フェゼル王国で買われたものを分けていただけますか?」
「分かりました」
私は店員さんの言う通り、フェゼル王国で買ったものを分けていく。
「懐かしいなぁ。ベルネスやラスツィアの服屋さんで買ったやつもあるなぁ」
やっぱり、旅に出てもう半年経つから一部はほつれも出ているけど、大体はきれいなままだ。
「これらですね。では、今回の服の購入代金と相殺しまして…銀貨6枚と大銅貨4枚になります」
安い!というのも今日来てるのは結構高い服が並ぶ店だ。大体、こういう店の1着は銀貨2枚前後だから上着だけで4着、スカートも3着買ったので金貨2枚ぐらいはするはずなんだよね。
「いいんですか?私も9着出しましたけど、状態の悪いのもあったのに…」
「構いません。状態のいいものも多かったですし、一部のものはこの大陸ではあまり見ないものもありますので。今日は早速、デザイナーに見せに行きますわ」
てっきり、古着とか生地にするだけかと思いきや資料的価値で買い取ってくれたのもあったみたいだ。アルバの細工屋のおじさんも私の作品を見せたらたまに材料をくれたし、服は縫うのにも時間がかかるから大変なんだろうな。
「そういうことなら、この価格でお願いします。それと、服に合う小物とか靴とか売ってる店を知りませんか?」
「アクセサリーショップはここから少し離れているのですが、靴屋は2軒隣です」
「ありがとうございます。今から行ってみますね!」
私たちは会計を済ませると、紹介してもらった靴屋さんに向かう。ちなみにアクセサリーショップの方は午前に行った店だった。
「御者さん、私たちは2軒隣の靴屋に行ってきます」
「お乗りにならなくて大丈夫ですか?」
「はい!すぐそこですから」
「では、そちらの店先でお待ちしております」
「お願いします。さっ、リュート次は靴だよ」
「分かったから、引っ張らないで」
「早くしないと売り切れちゃうよ」
「分かったってば」
リュートの腕を掴んで、いざ、靴屋さんへ。
「いらっしゃいませ、どのような靴をお求めですか?」
「こんにちわ。色々みたいので、先に見て行ってもいいですか?」
「どうぞ」
「ほら、リュートも探してよ」
「分かったって」
私たちは手分けしてさっき買った服に合う靴を探していく。
「う~ん、これかな~。でも、黒い靴はもうあるしな…結構原色っぽいというかシックなの以外思い浮かばないな」
「本日はどのような靴をお求めですか?」
「買った服と合わせようと思って」
「少し見せていただいても?」
「どうぞ」
私はさっき買ったばかりの服を取り出して、店員さんに見せていく。
「確かにお客様のスタイルであれば、黒や白のシンプルなものが無難ですね。ですが、こちらのようなワインレッドや、藍の靴も合いますよ。お時間を頂けましたらきちんとしたものもお造り出来ますが…」
「1週間でなんて無理ですよね?」
「…少々お待ちください」
確認しますと店員さんが奥に下がって2分後に戻ってきた。
「今でしたら職人に空きがありますので可能です」
「ほんとですか!ぜひお願いします」
「アスカ~、これなんてどうかな?」
「あっ、リュート!聞いて、私用の靴を作ってもらえるんだって!」
「作って?オーダーメイドを頼むの?」
「うん。せっかくだし、足にピッタリのサイズがいいかなって」
「そうだね。じゃあ、こっちはいいかな?」
「えっ!?見せて見せて。これもかわいいね。よ~し、次はいつになるかわからないし、これも買おう」
次の行き先はダンジョン都市だからこういうものは少ないだろうしね。
「では、足回りを採寸させていただきますね」
「よろしくお願いします」
こうして私は靴屋さんでは2足を購入し、1足をオーダーメイドにした。オーダーした靴は普段冒険に使うのに違和感が出ないよう、網ブーツにしておいた。
「細かいデザインはこちらでやりますので、完成を楽しみにしておいて下さい」
「はい。それじゃあ、1週間後に」
「次のご来店をお待ちしております」
「今日はよく買うね」
「そうだね。久しぶりの買い物だし、やっぱり楽しいからかな?」
「よかったよ。2人だとつまらないって言われないかって思ってたから」
「そんなこと絶対ないよ。そうだ!記念に絵を描いてもらおう」
最後に今日の買い物記念にとして私たちは2人で絵を描いてもらった。あとで思い返すととても恥ずかしい。
「なんであんなこと言っちゃったんだろう…」
そんな反省をする出来事もあったけど、私は楽しい休日を過ごしたのだった。




