クレーヒルの一日
リュートに誕生日プレゼントを無事に渡した翌日、私は再び細工をしていた。午後からはアルナたちと遊ぶから、この時間で作らないとね。
「もうすぐまた帳簿の勉強が再開するだろうし、作れる時に作らないとね」
ここを出発すればダンジョンに挑むし、滞在予定がまた立たなくなるし頑張らないと。
「アスカいる?」
「リュート、どうしたの?そんなに急いで…」
「あっ、ごめん。ちょっと確認したいことがあるんだけど」
「今ならいいよ。ちょっと考え事してただけだし」
「あのさ、急なんだけど今日か明日、買い物に行かない?結局アスカってクレーヒルで買い物してないでしょ?」
「そうだね。なんだかんだ言ってほとんどで歩いてないかも。いいよ、それなら今から行こう!」
「本当?じゃあ、僕も用意してくるね」
「うん!それじゃあ、20分後に部屋の前で」
「分かったよ」
リュートと待ち合わせをして、用意を始める。
「アスカ様、デートですね」
「デ、デートだなんて…ちょっとお出かけするだけですよ」
「そうですか?では、少し失礼します。エディン、用意は任せましたよ」
「分かりました」
「ティタ様も行きましょうか」
「そうね。まあ、従魔からの誕生日プレゼントということにしておきましょう。ご主人様、アルナたちには遊ぶのは明日と言っておきますから」
「ん?」
よくわからないけれど、エディンさんを残してみんな出ていった。
「さあ、こちらも負けてはいけませんよ。時間がありませんから急ぎませんと」
「そんなに頑張らなくてもいいですよ」
「いいえ、久し振りのお出かけですし、殿方と出歩くのに中途半端はいけません!あっ、ですが、過剰に触れさせてはいけませんよ」
「そ、そんなことしません!手をつなぐぐらいです」
「まあ、それぐらいならよろしいでしょうか。では、御髪を…」
それから、20分ほどかけてエディンさんが私の髪を梳かしてきれいにまとめてくれた。
「あ、あの、時間が…」
「女性の身だしなみには時間がかかるものです。少しぐらい待つのも殿方の甲斐性です」
「いいのかなぁ」
「それより、きれいにしていきませんと」
「そこまでしなくても…」
「あら、今日はリュート様が身に付けたブレスレットのお披露目もあるのですよ。アスカ様も制作者としてふさわしい格好をするべきです」
「うう~ん、そう言われるとそうですね。分かりました!かわいく仕上げてくださいね」
「もちろんでございます」
あとは軽く化粧と、服を着替えて終わり。
「それじゃあ、行ってきます!」
「楽しんできてくださいませ」
私はエディンさんに見送られ部屋を出る。
「あっ、アスカ用意は終わった?」
「リュート、ごめんね。待たせちゃったよね?」
「ううん。僕の方も急にだったから待ってないよ。それじゃあ、行こうか」
「うん!」
2人で邸の入り口まで行くと、外にはすでに馬車が用意されていた。
「さあ、アスカ様。こちらにお乗りください。リュート殿も」
「ありがとうございます」
2人でお礼を言って馬車に乗り込む。
「なんだか、お姫様になった気分だよ」
「そう?僕は落ち着かないかな?こんないい馬車に乗る機会なんてないし」
「そういえば、乗る時も緊張してたよね?」
「ま、まあ、それは…」
「どうしたの?顔がちょっと赤いけど…熱?」
「ち、違うよ。それより、街に行ってどうするかは決めてるの?」
「う~ん、そうだなぁ。一応、商人ギルドには行こうかな?前は取ってきてもらったけど、手紙も出したいし」
「なら、最初はそっちかな。伝えるよ」
リュートが御者さんに行き先を告げてくれる。馬車の中は向かい合わせでリュートが御者側なのだ。
「承知しました。では、そちらへ向かいます」
馬車は邸から街の中に入り、商人ギルドを目指していく。それから10分ほどで目的地に着いた。
「お待たせいたしました。少々お持ちください」
ガチャリ
御者さんが馬車の扉を開けてくれた。
「ありがとうございます。じゃあ、行ってきますね!」
「ごゆっくり、馬車はこちらに止めておきますので」
「はいっ!」
「それじゃあ、行こうか」
リュートに手を引かれて私たちは商人ギルドを訪れる。クレーヒルのギルドはどんなところだろう?
「いらっしゃいませ!本日はどのようなご用件で…」
「すみません、手紙を届けて欲しいんですけど」
「おっ、お手紙ですね。少々お待ちください」
「あれ?行っちゃった…手紙を渡すだけなのにどうしたのかな?」
「さあ?でも、どうせ色々見るでしょ?詳しい人が来ると思うよ」
「それならいっか!」
ちょっと待つと、さっきの人よりきりっとした人がやってきた。
「お待たせいたしました。お手紙を出されると伺いましたが?」
「はい。こちらをお願いします」
「届け先は…!承知しました。必ず届けますので!」
「お願いしますね」
「他には何かございませんか?」
「じゃあ、商品を見せてもらっていいですか?色々見たくて」
「承知しました。2Fに用意してありますのでご案内いたします」
連れられて向かった先には他のギルドと同じように様々な種類のものが陳列してあった。
「入り口近くのものはどこにでもあるようなものですから、奥に向かいましょう。ご希望のものはありますか?」
「う~ん、希望ですか?アクセサリーとか魔石ですね」
「アクセサリーに魔石ですね。奥にもありますからご案内いたします」
「よろしくお願いします。リュートもほら」
「うん」
2人で奥のブースに案内された。
「あっ、これは見たことがない魔石ですね。何の魔石ですか?」
「これはオッドマックスという大型のディア種です。珍しいオッドアイの魔物でディーバーンに似ていて、目の色が左右で違いそれぞれの色の属性を持つんです」
「じゃあ、目を見ないことには相手の属性が分からないんですか?」
「そうですね。魔力もそれなりに高く、体格もいいのであまり入荷もないんですよ。魔物としてのランクもBランクになりますから。今あるのがオッドマックスの水と風属性ですね」
「ち、ちなみに専用魔石ですか?」
「いえ、汎用になります。ただ、お値段の方が…」
「うっ」
話を聞く限り、強い魔物みたいだし汎用の水魔石…一体いくらするのかな?
「ちなみにおいくらですか?」
「水の方は金貨40枚、風の方は18枚と大変お安くなっております」
「お、お安く…」
いや、確かに水の汎用魔石は金貨10枚から買えるから、珍しくてBランクの魔物の魔石だと妥当なのかな?
「アスカ、買うの?」
「うう~ん、どうしようかな?確かに一度、水の汎用魔石が欲しかったんだよね」
「いかがですか?次の入荷は未定ですよ」
「…買います。風のも一緒に」
「ありがとうございます。次はこちらです。カーラハルという魔物の毛を使った絨毯です」
「絨毯ですか。旅をしているのでさすがにそれはいらないですね」
「なら、同じくカーラハルで作ったこちらの座布団はいかがでしょうか?やわらかくて風通しもいいですよ」
「へ~、ちょっと触ってもいいですか?」
「どうぞ」
私は手触りを確かめてみる。
「確かにすべすべでやわらかいですね。ちなみにおいくらですか?」
「こちらは中型の魔物ですから金貨3枚ですね」
「う~ん、それぐらいなら…」
「アスカ、今日は結構買うんだね」
「このところあんまり買えてなかったしね。あとはほんとに見たことのないものだったし」
「確かにそれはあるね。僕も何か見ようかな?」
こうしてリュートと2人でギルドの商品を見せてもらった。私は他にも魔石を補充してリュートも何か買ったみたいだ。馬車に戻る時にちょっと聞いてみた。
「何買ったの?」
「ちょっとね。気になったものがあったから」
「ふ~ん。装備は更新したからなんだろ?」
「今度見せてあげる」
「分かった」
「ところで次はどこに行く?」
「次かぁ~、アクセサリーショップかな?」
「分かったよ。御者さん、アクセサリーショップへ」
「分かりました。では、イリス様も利用されているところに行きましょう」
馬車は再び進んでいき一軒の店の前で止まる。
「こちらです」
「ありがとうございます」
御者さんにお礼を言って店に入る。
「いらっしゃいませ!あら、その馬車は…」
「どうも。イリス様のお客様です」
「まあ!そうでしたか。どうぞ中へ」
「はい」
店の中に案内されると、所狭し!というわけもなくきれいに並べられていた。
「わっ!ディスプレイがきれいですね」
「ありがとうございます。これもイリス様からのアドバイスなんですよ。お陰で売り上げもいいんです」
「へ~、やっぱり多才だなぁ。あっ、これ可愛い。ねっ、リュート?」
「うん。アスカに似合うと思うよ」
「そ、そう」
「つけられますか?」
「いいんですか?じゃあ、お願いします」
「こちらはパープルローズを題材にしたものになります。花弁から花びらの中ほどまで緑色でふちに近づくと紫になる人気の花です」
「可愛いですよね。色味もあって色んな服に合わせられそうです!」
ちなみに今日はひざ丈ぐらいのパンツに白のカッターシャツ、それに薄茶色のロングコートだ。髪はまとめてもらっているけど、アクセサリーは着けてこなかったからちょうどいい。あっ、もちろん寒いからカッターシャツの中にインナーは着てるけどね。
「どうかな、似合ってる?」
「うん」
「そっか。じゃあ、とりあえずこれを買います」
「ありがとうございます。他のものも買われるかもしれませんから、一度お預かりしましょうか?」
「先に付けていても構いませんか?」
「もちろんです!では、他のものもお見せいたします」
こうしてアクセサリーショップで思いのほか時間を使った私たちはお昼を取ることにした。
「本日はお越しいただき、ありがとうございました」
「こちらこそ、色々見せてもらえてよかったです」
「お世話になりました」
「さあ、いい時間だしお昼にしようか」
「もうそんな時間なんだ。気づかなかった」
「アスカは何をするのも一生懸命だよね」
「そうかな?他のことができないだけだよ」
「いいんじゃない?あっ、御者さん。お昼にしようと思うんですけど…」
「それでしたら、事前にイリス様が店を予約されておりますので向かいますね」
「急なのに大丈夫なんですか?」
「お気になさらず」
というわけで、私たちは食事をしに向かった。




