プレゼント
「外側のカバーはできた。ギミックの方は昨日も確認したけど…クリア!!よ~し、早速本番に行かないと!まず材料のミスリルを取り出してと。これをブレスレットの形に作りこんで中央近くはくぼみを作って魔石を置くと」
翌日、デザインも決まりいよいよ本番に移る。
「まずは彫るデザインだけど、これは強さをアピールできるように東洋の龍をイメージしたやつだから、うろこも丁寧に彫っていってと」
これは以前にも作成した青龍の経験が生きている。ただ、今回は誕生日プレゼントという特別なものなので、新規に描き起こしたデザインだ。
「大体、あれはアルバで余った材料を使って作ったものを、臨時の市で売った時のだから粗も目立つんだよね」
もちろん、デザインの時点ではいつもいいものになるようにと頑張っている。安く作る時は細工にする時に形を崩したりすることで対応している。ただ、いかんせん2年も前のデザインなので今の私が描いたものとは劣ってしまっている。
「でも、そう考えると感慨深いよね。こんなに複雑な細工もできるようになったんだし!」
うんうんとうなずきながら改めて細工を進めていく。龍を2時間かけてなんとか彫り終えるとさすがに疲れたので少し休憩を取る。
「うう~、疲れた~」
「アスカ様、休憩にしませんか?」
「あっ、今行きます」
私はカーテンをめくって、みんなのいるテーブルに向かう。
「どうだい出来は?」
「うまくいってます。というか、材料的にうまくいかないと困るんですけどね」
ミスリルは高価な材料だ。高いだけでなく入手性が悪いからお金を払えば手に入る訳ではないのが一番困る。今回も失敗はできないなぁ。
「そもそも、これはプレゼントですから頑張りますよ!」
「へいへい。そいつはよかったね。で、今日はティタの出番がありそうかい?」
「はい。魔石を配置するだけならもうすぐできそうです。後はギミック部分の追加だけなので先にやっちゃおうかな?」
「ご主人様、無理しなくてもよいのですよ?」
「別に無理をしてるつもりはないんだけど、ティタに心配を掛けないようにするね。あっ、そういえばアルナとキシャルってどうしてるか分かる?」
「ああ、あの2人なら中庭でのんびりしてますよ。ご主人様がやりたいことがあると知って、邪魔にならないようにしているんです」
「そっか、久しぶりだから遊んであげられたらよかったんだけどね。これが終わったら、遊んであげよう」
「そうしてください。結構面倒で…コホン。結構うるさくて」
「ティタ様、言い直した意味がありませんよ」
「仕方がないでしょ。中庭に結界を作るのに苦労したの」
「結界?そういえば、ティタって結界の研究をするって…」
「ああ、今は試してる最中でして。原理が解明出来たら、ご主人様にも教えますね」
「ほんと!?よかった~。魔導書って高いからおいそれと買えないからね。あとでご褒美に魔石を買ってあげるね」
「本当ですか!あっ、いえ、大丈夫です。こちらで色々頂いておりますので」
「ほんと?でも、せっかくだし今度買ってあげる。好きな魔石を言ってね!」
「そ、そうですか、それならお言葉に甘えましょう」
「うんっ!でも、エディンさん。ティタが魔石をいっぱい貰ってるみたいなんですけど、大丈夫なんですか?」
「ああ、それでしたら問題ありません。キルラ様、ご説明頂けますか?」
「分かりました。アスカ様、今ティタ様に献上しているのは、当邸で使えないもしくは、使わなくなったものなのです。具体的には研究目的で買ったものの使わなかった魔石や魔道具化の過程で失敗したもの。後は魔道具として使っていたけれど、もう十分な効力を発揮できなくなったものです」
「つまり、用途がなくなってしまったものですか?」
「はい。ですので、こちらとしても行き先のないものを消化して頂いている認識です。特に研究用の魔石は研究内容に繋がりますから、処分に困っていたんです」
「あの魔石はおいしかった」
「まぁ!でしたら、今度またお届けいたします」
「今度?あれはもうひとつしか…ぐむむ」
「何か?」
「イエナンデモアリマセン」
「アスカ様、そろそろお昼の時間になりますがどうされますか?」
「う~ん、今日はこのまま作りますからここで食べます」
「では、すぐにお持ちします」
お昼は部屋に持って来てもらって食べる。今日のうちに完成させておきたいからね。
「さ~て、ご飯も食べたし続きをやろう」
「アスカ様、くれぐれも無理はなさらないでください」
「大丈夫です!」
カーテンを開いて私は奥に戻る。
「龍の飾りはできたからあとは魔石の配置だよね。魔石はギリギリまで削らず、口に配置してと…」
普通の細工なら多少の魔力の減少も許容して形を整えるところだけど、今回のは完全に攻撃から守るタイプだから、それだけは避けないとね。
「よしよし、口にきちんと合った。あとはこれをはめ込むために下にリングを入れてと…」
ブレスレットの龍の細工と魔石の配置は完了だ。残るは…。
「あとは街行き用の擬装だよね。上から輪が2重になるようにして、中央の魔石部分で重なるようにすれば、魔石自体も隠れるよね」
私はどんどん制作を進めていく。
「最後にブレスレットの裏側にレバー型の固定具を配置すれば…完成!一応動作確認しないとね!」
私はレバーのギミックを動かしてみる。レバーを動かすと中央部の重なり合った擬装のデザインが裏側にずれて、龍の細工と魔石が現れる仕様だ。
「おおっ!?我ながらかっこいいなぁ。これなら喜んでくれるよね…くれるかなぁ?」
そういえば、誕生日の話とかしてないよね。
「い、要らないなんて言われないよね。自分で使ってとか」
「アスカ、完成したのかい?」
「はい。ただ、受け渡しとかどうしましょう?全く話をしてないんですけど…」
「そんなもん普通に渡せばいいだろ?別にいつも一緒にいるじゃないか」
「でもほら、誕生日プレゼントって特別じゃないですか?」
「まあそうだけどさ。それなら明日、呼び出しといてやるよ」
「ジャネットさんが?」
「あたしからっていえば、向こうだって緊張しないさ。そこで押し付けちゃえば片付くだろ?」
「受け取ってくれますかね?」
「もし受け取らないなんて馬鹿なことをしたら、あたしがもらってやるよ。まあ、そんなことはないけどね」
「じゃあ、お願いします!」
「あっ、でも呼び出すのは夜にしなよ」
「どうしてですか?」
「昼間だとみんなに見られるよ。いくら誕生日だとは言え、目立つよ?」
「それは嫌ですね。こそっと渡したいので」
「まあ、タイミングは任せなよ。ちょうどいいことにあたしが護衛だしね」
「じゃあ、お願いしますね」
こうして私はジャネットさんに頼んで、リュートに誕生日プレゼントを渡せる算段を付けた。一方のリュートと言えば…。
「ジャネットさん」
「どうしたんだい?」
「アスカが細工に打ち込んでるみたいなんですけど、様子はどうですか?」
「様子っていってもねぇ。いつも通りだろ?いや、ちょっと違うけどね」
「でも、全くと言っていいほど姿を見ませんよ?」
「まあ、そりゃあね…」
ちょっと口を濁すジャネットさん。どうしたんだろう?歯切れが悪いけど。
「ま、別に同じ邸にいるんだし、そのうち会えるさ」
「それはそうですね。僕はまた料理でも考えておきます」
「リュート、それもいいけどちょっと騎士団に寄っていきなよ」
「騎士団ですか?」
「ああ、アスカだってこの前のディーバーンとの戦いは危なかっただろ?あたしだってリュートだってそうだ」
「確かにそうですね」
「今後も強い魔物に遭うって考えたら騎士団の技を見せてもらった方がいいだろ?」
「ジャネットさんは?」
「あたしはアスカの護衛があるからね。あんたは槍の基礎を学んでないんだし、いい機会だから騎士の槍術ってのを見せてもらいな」
「…そうですね。これからも何があるか分かりませんし、行ってきます!」
「そうそう、その調子だよ。もう頼んであるから行ってきなよ」
「はいっ!」
「行ったか。まったく世話の焼ける2人だよ」
「ジャネットさんは面倒見のいいお姉さんですね」
「よしてくれよ。まあ、こじれるよりはましだしね。他にいいやつがいれば紹介するんだけどねぇ」
「ふふっ」
「ん?何か変なことを言ったかい?」
「申し訳ございません。以前、ティタ様が同様のことをおっしゃっていましたので」
「そいつは光栄だね。はぁ~。しっかし、あたしも面倒ごとを抱えたねぇ。あの調子の2人を明日見るのかい」
こうして翌日、無事にブレスレットをもらったリュートは…。
「ふんふ~ん♪まさか、昨日はアスカから誕生日プレゼントをもらえるなんて。ちょっとだけ期待はしてたけど、誕生日の話なんて出なかったからなぁ」
「リュート、顔がにやけてるよ」
「ジャネットさん!昨日はありがとうございました!」
「…ちっ、その顔をやめな。また、稽古をつけられたくなかったらね」
「分かってますよ。でも、今日ぐらいはいいじゃないですか」
「やれやれ、ちょっとプレゼントをもらったぐらいで…」
「でも、これまでってノヴァとか孤児院の子たちと一緒にって感じだったんですよ?こうやって、個別にもらえるなんて嬉しいですよ」
「はいはい。そう思うんなら次のアスカの誕生日にはもっといいもんをあげるんだね。それが、どれだけの価値があるかぐらいわかるだろ?」
「そうですね。この鎧もアスカのお陰ですし、プレゼントもそうですけど訓練も頑張ります!」
「はぁ、あんたらは本当に極端だね。訓練もいいけどせっかくもらったんだから、お礼にどこか連れていきなよ」
「でも、護衛やイリス様の依頼が…」
「馬鹿っ!こういう時に連れ出さなくてどうするんだい。そのブレスレットが2面性を持ってるのをもっと意識しな!」
「はっ、はいっ!」
「分かったらさっさと行く」
「了解です!」
慌てて走り出すリュートを見送る。
「本当に世話の焼ける…」
「よろしかったのですか?あの調子だとアスカ様の部屋に乗り込みそうな勢いですが?」
「…なんとかなるだろ。そこまでは面倒見きれないね」
そう返事を返すと、あたしは再び読書に戻ったのだった。




