アラシェル様と帰領
マルディン様と私のあいさつも終わり、いよいよ今度は本題のアラシェル様の紹介だ。
「昨日はありがとうございました」
「あっ、昨日話しかけてくれたお姉さんですね。約束したアラシェル様の像を持ってきました」
私はバッグを開き、その中に入っているマジックバッグからアラシェル様の像を取り出す。
「わぁ~、なんて素敵な女神様。それに、服装もちょっと街の人が着るようなものですね。あっ、失礼なことを…」
「いいえ。神像って結構堅苦しいものが多いので、こうやって親しみを持てるように作ってるんです。だから、本当に街行きの変装をしていたらって感じで作ったんです」
「御自分で作られているのですか?」
「まあ一応。細工師もしているので」
「素晴らしいです。この女神様の像はどこで買えるのでしょう?」
「旅をしながらなので、あんまり売ってないんです。この領ではまだ商人ギルドにも行ってないので…」
「そんな…」
「よければいりますか?」
「よ、よろしいのですか?」
「はい。アラシェル様も大切にしてもらえれば喜ぶと思います」
「あ、ありがとうございます!絶対家宝にして子々孫々、末代まで伝えていきます!」
「いや、そこまでは…」
「いいえ、絶対伝えていきますから!」
堂々と宣言されてしまった。その後も、昨日いた人や話を聞いた人が集まってきて、手元にあったアラシェル様の像はなくなってしまった。中にはお金はいいといったのに、引き下がらない人もいて困った。特に助けた人の中にいた商人さんは大金貨を渡してくるものだから、興味本位でつかんでしまい結局返せなかった。
「アスカ様、大人気じゃないか」
「ジャネットさん!私じゃなくてアラシェル様がですよ」
「そうかねぇ。確かにアラシェル様の像が人気だけど、それもアスカが街の人を助けたからさ。この調子でいけば銅像でも立つんじゃないかい?」
「や、やめてくださいよ。そんなの恥ずかしいです!」
そんな風にからかわれながらも街の人たちと楽しい交流ができた。お昼は街一番と評判の店にマルディン様と入って堪能した。珍しく揚げ物やお酢を使った料理も出てきて、満足のいく味だったな。
「さて、それでは名残惜しいですが邸に戻りましょうか」
「そうですね」
実は今日がカーナヴォン領への出発日でもあるのだ。もう少しゆっくりしていけばよいとマルディン様には言われたけれど、元々は昨日のうちに帰るつもりだったし、騎士さんたちもお借りしているので早めに出発することにしたのだ。
「あっ、アスカ様、お母さま、おかえりなさいませ」
「ただいまマリーネ様」
「マリーネ、留守をよく守ってくれました」
「アスカ、あたしたちはすぐに着替えてくるよ」
「はい」
ジャネットさんとリュートは騎士の正装姿から冒険者の格好に着替えるため、邸に入っていく。
「本当にもう戻られるのですか?」
「はい。イリス様も邸で待ってるでしょうし」
「では、絵姿の件はなるべく早くカーナヴォン家に送るようにいたします」
「お願いしますね」
それから10分ほどでジャネットさんたちの着替えも終わり、再び乗ってきた馬車に乗り込んだ。
「アスカ様、この度は本当にありがとうございました」
「いいえ。当然のことをしただけです」
「アスカ様、私もアスカ様のような立派な騎士になります」
「いや、私は騎士じゃないから…」
「いいえ。あの時の尊いお顔はまさしく騎士でしたわ!」
「あ、うん…」
うう~ん、マリーネ様には何を言っても聞き入れてもらえなさそうだ。諦めてうんうんとうなずきながらふと思い出す。
「そうでした。騎士もいいですが、こういったものをお付けになるのもいいですよ」
私は少し青みがかかった石が配置されたペンダントをマリーネ様にかける。
「これは?」
「そうですね…一種のおまじないのようなものですね。もし、将来マリーネ様が騎士になられてどうしても相手に勝てない時は、これに手を当てて剣を振ってください。もしかしたら活路が開けるかもしれません」
そんな日が来ない方がいいけどね。今日のお姿を見ていると、ほんとに騎士になりそうだし。
「分かりました!どのような任務に際してもきっとつけて臨みます!」
「マリーネ!まったくあなたは…ですが、アスカ様ありがとうございます。この子の心配までしてくださって」
「フィル君もきっとマリーネ様が傷つくのは嫌でしょうから。それでは」
「はい。大変お世話になりました。これはイリス様への返信です。鎧など装備に関しては後日送らせていただきます」
「ああ、そうそう。その装備の送り先だけどアルトゥールにね」
「ダンジョン都市にですか?」
「ああ。そのころにはそっちにいる可能性が高いんでね」
「承知しました」
「ジャネットさん!やっぱりリックさんに会いに行くんですね!!」
「ち、違うっての!ただ、前はダンジョンにいけなかったからだよ」
「またまた~。ねっ、リュート」
「ぼ、僕は巻き込まないで欲しいかなぁ」
「さあ、そろそろ出発しませんと町につきませんよ」
「おっと、そんな時間かい。アスカ、忘れもんはないね?」
「大丈夫です。それじゃあ、マルディン様、マリーネ様お世話になりました」
「こちらこそ」
「さようなら」
こうして私たちは無事にイリス様からの依頼を終え、マルディン様からの手紙を携えて再びクレーヒルへと進み出したのだった。




