これからの予定
「小女神様!先ほどはありがとうございました!」
「ありがとうございます。小さな女神様!」
「領主様の奥様も来ていただいてありがとうございます」
私たちの元にやってきたのは逃げていた町の人たちだった。
「いいえ、私は領主の妻として当然のことをしているまでです。それで、小女神というのは?」
「はい、そちらの領主様の騎士様がディーバーンの攻撃から私たちを守ってくださったのです。その時の光景があまりにも神々しくて!」
「や、やめてください。恥ずかしいです」
「いいえ。あの空を飛びながらやってきてくださった姿はまさに『小女神様』ですよ」
「だとよ」
「ジャネットさんも乗らなくていいですから!」
「それに、神々しい精霊様もお連れでしたし、実はこの領の守護神様ですか?」
「そんなわけありません!普通の旅の冒険者です」
「普通は精霊様を呼ばないけどね」
「そういえば、あの精霊様はどちらの?」
「フェゼル王国のエヴァーシ村に住む精霊様なんです。普段は見えないみたいなんですけど…」
「そういや、精霊様って精霊視が必要なんだっけ?どうやって知り合ったんだい?」
「え、えーっと、なんでもお暇だったらしくて話し相手になって欲しいと」
この辺は適当だけど、まったくの間違いでもない。実際に会った時に死霊大戦の話をしてもらったしね。
「せ、精霊様が話し相手ですか…」
「向こうからですから!」
さすがにここで名づけもやりました!なんて口が裂けても言えない。
「あ、あの、それで先ほどの精霊様や小女神様の信仰されている神様などはいらっしゃいますか?」
「えっと、シルフィード様の像とかはないんですけど、アラシェル様の像なら」
「アラシェル様?」
「私の信仰している神様で、運命とかを司っているんです。多分…」
最後はちょっと小声で言う。実際、何を司っているのかはよくわからないのだ。
「それはどこかで手に入るのでしょうか?」
「ど、どこというか私が持ってるのならありますけど…」
「見せていただいても?」
「えっと、別にいいですけど…あっ!急いできたから、入ってる方のマジックバッグはないんでした。どうしましょう…」
「それなら、明日でも構いませんか?今日はお疲れでしょうし、もう一泊してください。イリス様宛に今日のことを記した手紙を書きますから」
「お願いできますか?」
「じゃあ、明日…」
「10時ごろに町の中央通りに行きましょう。そこで、お見せになればよろしいかと」
「そうですね。それでもいいですか?」
「もちろんです!明日を楽しみにしてます」
というわけで、この場は一度引いてもらって、改めて明日にアラシェル様の像を見てもらうことになった。
「はぁ~、それにしてもディーバーンのお肉って食べられないんですね。残念です」
「まあ、毒素のあるものですので中々難しいのですよ」
「毒素とか取り除けないものなんですか?」
「取り除くですか?そういった話を聞いたことはありませんが…」
そういえば、この世界の基準はおいしいものをおいしくだったっけ。よ~し、ここはひとつ試してみようかな?
「すみませ~ん。ちょっとそこの部分切り取ってもらっていいですか?」
「は、はぁ」
困惑する騎士さんをしり目に近くに落ちていたボロボロのうろこに肉を乗せる。
「あとはと…ライトステラライズ!」
私は肉に直接光を送り込む。これでうまく殺菌できればいいんだけどなぁ。ふらっと寄った本屋さんで見つけた魔法だからいけるかな?
「あの…アスカ様は何を?」
「さてね。いつも突拍子のないことをやるんでね。ま、今回は肉が食いたいだけだろうけど」
「誰か、物品鑑定持ってる人いませんか?」
「私が使えます」
「あっ、氷魔法を使ってたお姉さん!よろしくお願いします」
「お姉さん…頑張るわ!」
頑張っても鑑定結果は終わらないと思うけど、お姉さんに鑑定を頼んだ。
「こ、これは…すごいです!毒が消えてます。あっ、ちょっと待ってください。ちょっと、その肉半分に切ってみて」
「ん?ああ」
お姉さんが近くにいた騎士さんに肉を半分に切るように言う。そして、再び鑑定を行うみたいだ。
「あ~、なるほど。アスカ様」
「はい」
「光を当てて毒素を消した様ですが、表面から20cmほどの範囲になるみたいですね。そこまで奥には浸透しないようです」
「う~ん。それじゃあ、実用には難しいですかね」
「そんなことはありません!消費にもよりますが、要は効果範囲内で、安全も考えて10cmほどの厚みで大きく切り分ければいいのです。これは革命ですよ!ディーバーンはその巨躯にも拘らず、肉が取れないということで残念がられていましたから。もちろん、うろこなどでかなりの収入にはなりますが…」
「そうなんですね。よかったぁ~。マルディン様、これ持ち帰ってもいいですか?イリス様にもお土産になると思うんです」
「分かりました。ただ、一般には毒と思われているので、それも手紙に書きましょう」
「ありがとうございます。どんな味がするのか楽しみです」
「いいえ。このような手段があったのかと、私も驚いていますよ。それでは、アスカ様たちは先にお戻りいただけますか?」
「あれ?マルディン様はどうされるんですか?」
「私はまだこの場の指揮がありますから。さっ、馬車へどうぞ」
マルディン様にそう言われ、疲れていた私たちはそのまま馬車に乗り込んで邸への帰路に就いた。
「ふぅ、なんとか今回はなりましたが…ディアス副隊長!」
「はっ!」
「フィデルア砦の状況は?」
「もうすぐ報告が来るかと」
「副隊長!」
「噂をすれば。報告を」
「はっ!フィデルア砦ですが、完全に壊滅状態です。建物もボロボロで生存者は…」
「分かった。一応、足の速い者を5名ほど集めて捜索隊を送る」
「やはり砦の方はダメでしたか。アスカ様には先にお戻りいただいてよかったです。この流れにふさわしくない話題ですから」
「今回のディーバーンは成体としてもかなりのレベル。距離的にも夜明け前から攻撃されたものと思われますし、報告に来た者がいただけでも不幸中の幸いです」
「そうですね。あの情報がなければ町への侵入を許したかもしれません。できる限り遺体は回収して、合同の鎮魂祭を執り行いましょう」
「お願いいたします。それと再建はどういたしましょう?」
「砦の再建は必要でしょうが、規模や位置をどうするかなどはウィラーと話をしなければなりません。砦がどれほどの損傷かもわかりませんし、思い入れのある者もいるでしょう。しばらくは近くに臨時の施設を建設して、そちらで監視を続けましょう。ただし、人選は慎重に」
「承知しました。それとこの素材なのですが…」
ちらりとディアスが穴の開いたディーバーンに目を通す。
「すぐにこれは切り分けてマジックバッグに入れなさい。解体するものにもかん口令を。精霊様のことはともかく、このようなことができるということは伏せねばなりません」
「分かりました。すぐに対応いたします」
それからディーバーンの一体を急ぎ処理し、数分後…。
「マルディン様!魔物はどちらに…」
「クルーゼス、来てくれたのですね。ここですよ」
「なんと!ディーバーンが2体も!?」
「あっ、いえ、本当は3体なのですが、既に処理が終わったものがいまして」
「そうでしたか、見回りに出ていたとはいえ、不覚を」
「いいえ。ディーバーンの襲来にこうしてやってきただけで私たちも町のものも心強いものです。しかし、フィデルア砦が落ちてしまいました…」
「あの砦が…いえ、これだけの大きさのディーバーンたちならあり得ます。しかし、マルディン様がご無事で何よりです。ウィラー様が留守中とはいえ、前線に出られるとは…」
「当然の務めです。それと、明日は本当に簡易ですが、先に戦勝の演説を行います。このディーバーンたちを倒した英雄たちをたたえる必要もありますから」
「なんと!?これはディアス副隊長が倒したのでは?」
「いいえ、最後の一体はそうですが、他は違いますよ。その報告は後にするとして、一緒に戦ってくださった方がいるのです。ですが、すぐにその方たちはここを離れてしまうため、急ぎ開かなければいけないのです」
「あとで町の人間に報告ではいけませんか?」
「ダメです。英雄は毎回来てくださるわけではありません。我々、領主の騎士団が信頼されなければ、今後も重要な情報を得ることが難しくなっていくでしょう。彼女たちと一緒に行うことが重要なのです」
「彼女?協力者は女性ですか?」
「ええ。イリス様が遣わしてくださったのです」
「そうでしたか。では、ここもすぐに片づけませんと。おい!」
「はっ!」
「すぐにディアス様たちの手伝いをするんだ。それと、今日の見張りは我らの隊で行う!気を引き締めろ」
「了解いたしました」
「よろしくお願いね。私はもうしばらくここで指揮を執り、戻ります」
「はっ!」
その後、ディーバーンを回収し、臨時の人員再配置を命じた後、邸に戻った。
「お母さま!」
「あら、いい子にしていたかしら、マリーネ」
「はいっ!お戻りになられて…マリーネはマリーネは…」
「あらあら、そんなことでは立派な騎士になれませんよ」
「はっ!そうでした!わ、わたし泣きません」
私たちが邸に戻ってから、マルディン様が無事だということはわかっていたものの、帰ってくるまでは心配でもう涙腺ぼろぼろといった感じのマリーネ様だったけど、マルディン様の一言で涙をひっこめた。
「さあ、ここにいてもしょうがないし、中に入りましょう」
「はい!」
「マリーネ様うれしそうですね」
「まあ、騎士団の本隊がいないタイミングだったしねぇ。騎士にあこがれてる分、そういう危機意識は高いのかもね」
「騎士を目指すのは危険ですけど、まったくの無駄でもないんですね」
「そうだね。リュートはすぐに抜かれちまうかもね」
「流石にそれは…」
「そうですよ。マリーネ様はきっと片手剣と盾を身に着けてますから、獲物が違います」
「アスカはアスカで一体どんな姿を思い描いているのやら…。まあ、無事に戻ったからいいとするかね」
「そうですよ」
「アスカ様~!アスカ様も早く~」
「ほら呼ばれてるよ」
「そうですね。は~い!今行きます!!」
こうしてディーバーンたちとの戦いを終え、私たちは再びみんなで邸に戻ってくることができたのだった。




