意外な援軍
緑のディーバーンとの戦いでMPを大量に使った私は、後方に下がってマジックポーションを飲む。これも、ブラストトルネードで翼をもぐことができたおかげだ。ダメージもかなり入ったようだし、なんとかなるかも。
「うわ!また炎のブレスだ!!」
「えっ!?危ない!ケノンブレス!!」
ふと声のした方向を見ると、一体の赤いディーバーンがブレスを空中に放つところだった。私はとっさに風魔法のケノンブレスで対応し、ブレスをかき消す。
「ほっ、なんとかブレスは消せた…」
「アスカ様、ありがとうございます!」
「いえ、大丈夫でしたか?」
「はいっ!もう遅れは取りません」
「はぁ~、今のでまたMPが…そういえば、行く時にイリス様から『おいしいマジックポーションよ』って変わったのもらったっけ。あれを試してみよう」
ケノンブレスは真空を放つことができる貫通力の高い特殊な魔法だ。そのため、他の魔法よりも消費が多い。今のマジックポーションの回復量では、戦線への復帰が遅れると思った私はもらったポーションを取り出し、一気に飲んだ。
「わっ!?ナニコレ?効果が段違いだよ!それにおいしいし。すっご~い、あとで分けてもらえないかな?」
MPが回復するまでしばらく私は周りを見渡して、状況を把握する。ジャネットさんたちは徐々にだけど、追いつめているみたい。ただ、まだ緑のディーバーンもブレスを吐く気配があるから、近寄りにくいみたいだな。
「あっちは…」
逆にフランツさんたち騎士団は、赤のディーバーン2体の炎のブレスに苦戦しているようだ。ただ、完全に押されているわけではなくて、本隊が来るまで耐えて一気に反撃に出るつもりなのだろう。
「でも、水魔法を使ってる人のMP持つかな…」
ディーバーンはどうやらMP型の魔物のようで、魔力はそこそこだけどMPが多くて消費を気にしないかのようにブレスとして魔法を放ってくる。
「魔力は250ぐらいだけど、下手したらMPは1500とかあるよね…。私も350ぐらいの魔力に1300オーバーのMPでかなり多い方だけど、それより多いなんて」
簡単にMP切れは狙えないので、なんとか対策を考えないと。
「でも、私の攻撃手段と言ったら…相手の属性と被ってるんだよね」
さっきも風属性のディーバーンに風の上級魔法を使ってとどめを刺せなかったし、もう一つの上級魔法はそれこそ火属性のヘルファイアだ。
「効かないだろうなぁ。効いて欲しいんだけどなぁ」
ブラストトルネードでもと思ったけど、そこそこ魔力もあるし、ワイバーンの時点でも物理防御が高い種族だからね。ただ、地面に降ろすことができるのはいいんだけど、2体同時に巻き込むことは無理そうだ。
『アスカ、アスカ聞こえますか?』
「えっ!?だ、誰っ?」
その時、頭の中に声が響いた。
『まだMPが足りません。もう少し回復させて私の名前を呼ぶのです…』
「えっ!?ええと…」
いきなりのことで頭が整理できないけど、本隊がいつ来るかもまだわからないし、決定的な対策も浮かばない今、私はこの声に従うことにした。
ぐびぐび
「ぷっは~、まずい。でも、もう一本」
すぐにバッグに入っていた残りのマジックポーションを飲み干す。これで、8割がた回復したかな?
「ど、どうですか?」
『いいわよ、こっちも準備を済ませるわ』
「アスカ、さっきから一体何言ってんだい!?」
「この状況を解決できそうなんです!」
「本当か?じゃあ、任せるよ。リュート、もうひと踏ん張りだとよ」
「わかりました。もう少し持たせます」
「ありがとう。それじゃあ、頼みます」
『アスカ、準備OKよ。さあ、私の名前を言いなさい!』
「この頭に浮かんだ詠唱をすればいいんですね?」
『そうよ。あっ、その前に大量の水たまりがいるの。呼ぶのとは直接関係ないんだけど、ちょっと事情があってね』
「わかりました。すみません!そこの水魔法使いのお姉さん」
「はっ、はい!」
「この状況を何とかできそうなんです。その空き地に穴をあけるので大量の水を出してもらえますか?」
「えっ!?そこですか?」
「エリシャ!言われた通りに。このまま本隊を待つのはもう危険だ」
「はい、エリック隊長」
了解も取れたので私はすぐに風魔法で穴を掘る。
「ここに!」
「すぐにお出しします。行きなさい!特大のアクアボール」
お姉さんが私の指定した空き地の穴に向かって大きな水の塊を放った。
『今よ!』
「はいっ!我呼ぶは高位なるもの。清浄なりし泉に住み、多くの力を扱うもの。我が求めを聞き、その身をここに現せ!精霊シルフィード!!えっ!?シルフィード様?」
「我は精霊シルフィード!盟友の求めに応じ、ここに降臨。さあ、悪魔の出来損ないたちよ、我が前に朽ち果てるがいいわ!」
「おおっ!?あの神々しい姿は…」
「精霊様だ。どうしてこんなところに!?」
「あの少女が呼んでくれたんだ。何者なのだ一体…」
「アスカ、解決策といったってなんでよりにもよって!」
「ジャネットさん、よそ見は…」
「してないっての。よっと」
ギャオオォ
みんなの声が私に届く。なんだかいわれのない非難もあった気がするけど。
「シルフィード様、今大変なんです!」
「わかってるわ。こいつらやけに強いと思ったら、何か闇の力に当てられてるわね。こういうのは私たちの領分でもあるから安心しなさい」
「お願いします」
ギャァァオ
グアァァ
「本来の在り方を外れたものどもよ、容赦しないわよ。数多の世界よ!我が声に呼応し、眼前に立ちはだかりし魔を消し去れ…ロスト!」
シルフィード様が魔法を唱えると、魔力の塊がいくつも一体の赤いディーバーンに向かっていく。
ギャァオ?
魔力の塊が当たったことに気づいたディーバーンだったが、何も感じなかったのか不思議そうにしている。
「う…そ…」
目の前の光景が信じられない。魔力の塊が当たった場所が消えている。あれだけ魔法耐性も物理耐性も持っているはずのディーバーンの体が消失したのだ。
ギャァァァァ
自分の体の一部が消失したことに気づいたディーバーンが悲鳴を上げる。しかし、消失した部分には心臓部もあり、すぐに息絶え地上に墜ちてきた。
ドォォォォン
「す、すごい…なんて魔法」
「どうアスカ。私を呼んでよかったでしょう?」
「はいっ!ありがとうございます、シルフィード様」
ギャォオオ
「うるさいわね。炎よ、一筋の光となりて敵を射抜け!フレアブラスター」
ヒュン
収束した炎の輝きがもう一体のディーバーンを射抜く。いくら同属性の攻撃といえど、精霊であるシルフィード様の一撃は防げないらしい。とはいえ急所は外れたらしく、まだ戦う気のようだ。
「そうだ!あの魔法、覚えておこう」
私はさっきシルフィード様が使った火の魔法を記憶にとどめると、状況を確認する。緑のディーバーンはジャネットさんたちが相手をしてくれているから大丈夫そうだ。でも、そろそろふたりの体力も消耗しているだろうな。そう思っているとー。
「皆、大丈夫か?」
「ディアス副隊長!」
「我らサーシュイン騎士団が来たからにはもう大丈夫だ。領主様不在の間、預かっている魔剣グラシスが我が手にある限り、我らに負けはない!」
「オオォォーー!」
「よかった。副隊長さんが来てくれて。ジャネットさん!」
「ああ、あっちにちょっと任せるとするか。リュート、時間稼ぎはいったん終わりだ。下がるよ」
「はいっ!」
「アスカ様!お待たせしました。ご無事で何よりです」
「私は大丈夫です。それより、ジャネットさんたちがずっと緑のディーバーンの相手をしていて疲れているので、交代をお願いします」
「了解しました。おいっ!相手はすでに地に伏している。だが、油断するな!1,2番隊前へ」
「「はっ!」」
5人1組の部隊が2つ、私たちが受け持っていたディーバーンへと襲い掛かる。動きを見る限り、相手の攻撃方法もわかっているようで、あれなら遠からず倒してくれるだろう。
「アスカ様もお下がりを!ここからは我らが相手をします」
「お願いします」
私もディアスさんにこの場を任せ下がる。さすがにもうへとへとだからね。未だ戦いは続いているものの、駆け付けた騎士たちは数も多く動きも機敏だ。なので、私は少しシルフィード様と話すことにした。
「アスカ、よく頑張ったわね」
「シルフィード様、ありがとうございました」
「いいえ、ああいう邪悪な奴には私たちも手を出していいことになってるの」
「邪悪?」
「本来、ディーバーンっていうのはあんなに群れたり、連携しない生き物なの。ほら、ドラゴンを想像してみて。すごく強いわよね?」
「そうですね」
「そんな大きくて強い生き物がわざわざ群れると思う?」
「思わないです」
「そういうこと。何らかの意思が働いてあいつらもここに来たのよ」
「えっ!?じゃあ、別に悪くないってことですか?」
「う~ん。それは難しい問題ね。あいつら自身が元々好戦的で人とは敵対しているから、個別に襲ってきた可能性の方が高いわ」
「じゃあ、今回こうやってまとめて倒せてよかったってことですか?」
「最終的にはね。邪悪な意思の介入がないと私たちみたいな高位存在は手を出せないから、犠牲も出たと思うし」
「そういえば、さっきの魔法ってすごかったですね。魔力の塊が当たったところが消えるなんて!」
「あら、魔力の塊を感じ取れたの?初見じゃ、まったく何が起こってるのかわからないのが普通なのに」
「きっと魔力操作のおかげですよ。色々なところで役に立ってます」
「本当に謙虚よねアスカは。あの魔法は難しいけど、もっと簡単なやつはアスカも使えるようになるわよ」
「そ、そんなことありませんよ」
「あ、あの、アスカ様。そちらの方は?」
私がシルフィード様と話をしていると後ろから声をかけられた。




