緑のディーバーン
「さて、もうすぐ目的地だね。目標はと…ああ、あれはでかいな」
「前に出遭ったワイバーンよりも大きいかもしれません」
「僕の魔法、通じるかなぁ?」
「最初はフライだけにしといた方がいいかもね。それより下を見なよ」
「うわぁ~!ディーバーンだ!」
「こっちよ!」
下では空を飛ぶディーバーンに気づいた人たちが町を目指して避難を開始しているところだった。
「このままじゃ、あの人たちが襲われちゃう!間に入ります」
「了解。やれやれ、厄介そうだね。こりゃ」
「一般人が避難するまで持ちこたえるんだ!すぐに応援が来るからな」
「はい!」
「隊長。しかし、応援が来るまでまだ時間がかかります。我々だけでは…」
「ひるむな!応援が来るまでなんとしても多くの人を町に入れるんだ!」
「…了解です。隊長!ディーバーンがブレスを!」
「なんだと!あっちにはまだ避難している人が…」
「こっちに口を向けてるわ!」
「もうダメだ…」
赤い色のディーバーン一体の口が大きく開き、ブレスさながら魔法を放とうとしている。
「させない!ウィンドウォール!!」
ギャァアア
私はディーバーンのブレス攻撃に合わせて風の壁を面でぶつける。こうすることで壁を抜ける熱量を減らす考えからだ。どうやら、ディーバーンより私の方が魔力は高いようで、何とか攻撃を押しとどめることができた。ただし、風の壁にぶつかった火の塊はバラバラになって下の森に落下しているけど。
「リュート。少なくとも魔力が250はありそう!」
「わかった、僕はなるべく被弾を避けて魔法攻撃もやらないようにするよ」
「お願いね!」
「おおっ!?あれは誰だ?」
「きっと、領主様の騎士団よ!」
「さあ、皆さん!ここは私たちが引き受けますから、すぐに町に避難を!」
「ありがとうございます。まるで小さな女神さまのようだ…」
「そうね。銀の小女神様!ありがとうございます。さ、皆行きましょう」
「アスカ。まぁた、変な呼び方増やして」
「私じゃありませんよ」
「それより前を!あまり向こうは動揺してないみたいです」
「ちっ、しょせん最初は牽制扱いってか。行くよ!」
「はいっ!」
私たちはすぐにお互い距離を取り、複数人がブレスに巻き込まれないようにする。
「援軍が来るまではけん制ですね。私が中心に出ます!」
「はいよ!」
「気を付けて!」
「いけっ!ストーム」
私は消費も少なく扱いやすいストームをディーバーンたちに放つ。しかし…。
ギャァアア
「風のブレス!?消されちゃったか…魔力じゃこっちが上だけど、あんまり威力がないとダメだな。あと、風のブレスは視認しにくいのに、威力が高い。他の人が相手をするのは難しそうだ。とりあえず、再度けん制に…」
私は再びストームを放ち、緑色のディーバーンの注意を引き付ける。他のディーバーンはともかく、こいつだけは私が相手をしないと…。
「アスカ様!」
「フランツさん!?」
「我々も加勢します!なに、こちらの部隊には風魔法が使えるものもいますから、空中戦ぐらい容易いものですよ!」
「お願いします!この魔物強くて…」
「いつもは1体を騎士団で倒すんで、しょうがないですよ。いけっ!アースウォール」
ブリッツさんがアースウォールを赤いディーバーンに向かって放つ。おおっ、あれなら!
ギャァアア
「なっ!?ブレスの勢いで弾きやがった!畜生」
「なんて力業だい。こりゃ、長引くかもねぇ」
「我々もお助けします!アクアスプラッシュ!」
「やっぱり強い…」
フランツたちの後ろには5人の騎士が見える。3人は杖だけど、残り2人も剣の装飾から見て魔法剣だろう。魔法が得意な人が先に来てくれたんだ。
「皆は2体の赤いディーバーンを!私たちが緑色を相手にします!」
「わずか3人で緑一体をですか?」
「お願い!」
私は返事をし、緑のディーバーンに向き直る。
「どうするんだい?」
「もう一度、ストームをぶつけてみます。少し気になった点があったので」
「了解」
「わかったよ」
「くらえっ!ストーム」
ギャァアア
私の放ったストームにブレス攻撃を合わせて相殺してくるディーバーン。でも、今ので確信した。魔物の魔力型スキル攻撃は少し特殊だ。バリアやウォール系の魔法で防いだ時に対魔法時より効率が落ちるのだ。でも、私が使ったストームの威力が相手の放ったブレスの威力と同等なら完全に相殺される。
「これなら魔力が高い私が押し切れる!ジャネットさん、相手の口から出るブレスはやっぱり魔法です!ブレス要素はありません」
「事前の情報通りって訳かい」
「私があいつを倒しますから、少しの間時間稼ぎを。恐らく、あの黒い剣ならいけるはず!」
「なるほどねぇ。だけど、軽々しく見せたら相手を止められない。合図をするからその時に攻撃だ」
「わかった!」
「リュートも聞いたよねぇ?頑張るよ、うちのお姫様がやる気なんだから」
「はいっ!魔槍よ!」
リュートが魔槍に魔力を送り込んでいる。一撃は強力だけど、あれだと何度も使えないな。短期決戦でいかないと!
「すべてを蹂躙する風よ…」
「アスカが詠唱に入った。行くよ!」
「はいっ!」
左右に分かれて相手の注意を引く。アスカの言った通り、この敵には高威力の魔法しかない。あたしの剣でも効きはするだろうけど、そこまで距離を詰めるのは難しそうだ。
「全く本当に空を飛ぶ敵ときたら…あっちは、なんとか行けそうか」
相手の火のブレスは水魔法使いが防ぎ、合間に騎士が攻撃をしている。これから援軍が来ることを考えれば、徐々にだが優勢に持っていけるだろう。
「いっけぇーーー!」
「くらいなっ!」
リュートが魔槍に魔力を込め、伸ばして攻撃する。それを回避するディーバーン目がけてあたしが剣を振るう。しかし、相手はあたしの攻撃に合わせ、ブレスで反撃だ。
「これでいい。相手の体に乗りたいところだけど、アスカのフライじゃないと次に飛んだ時に速度が落ちちまう」
「敵を切り裂く大気の渦よ…」
「リュート、もう少し攻撃速度を上げるんだ!できるか?」
「な、何とかやってみます」
「アスカの前に魔力が集まってる。今以上に相手を焦らせないと気づかれるよ!」
「はいっ!」
「ほらよ!」
あたしも胸元のナイフを取り出して、敵に投げつける。ただし、首の近くではなく体の下を狙って。
「見た感じ、口から魔法を放つ以外は難しそうだ。口は杖の役割なのかもねぇ」
翼などからも魔法を発生させられるのかもしれないが、ここまですべて口から魔法を放っている。そこに理由があるのだとしたら、そういったプラスの役割があるからだろう。
「さぁて、アスカの準備もあと少しだろうから、頑張るとするか」
再び私は剣を構えてディーバーンに向かう。これまでより近づいて、注意を集めなければ…。
「くっ!下がるなよ。我らの後ろには町があるのだ。それにすぐにアスカ様の加勢に行かなくては!」
「はっ!」
「しかし、このブレスは…」
「また来ます!アクアウォール」
バン
火のブレスと水の壁が衝突し、大きな音を立てる。先ほどから何度も繰り返されている光景だ。しかし、ディーバーンは空中での動きも早く、うろこも堅いため効果的にダメージを与えられない。それに加え…。
「次は右!私がやる!!アイスウォール」
今度は氷の壁が相手のブレスを防ぐ。こうやって2体が違う方向からブレスを放つため、こちらはうかつに攻撃できないし、空を飛んでいる騎士たちもこちらのフォローを考えると積極的に行くことができなかった。
「もう少しでディアス殿が来てくれるはずだ。その時まで決して欠けることなく戦え!」
「「はいっ!」」
「と、言ったものの、本当にアスカ様たちがいてよかった」
「緑はブレスの視認も慣れが要りますからね。偶然かと思いますが、我々が到着するまでに判断されたのでしたら、すごいですよ」
「そもそも、装備に差があるとはいえ、3人で相手する方が驚きですよ俺は」
ギャァアア
「喋りはここまでだ。本体が来る前に少しでも有利な状況を作るぞ!」
「「了解!」」
「…我が前に立ちはだかるものを突き破れ!ジャネットさん、行けます!」
「了解!」
ジャネットさんが身を引いてこっちに向かってくる。私は発動を待つだけだ。
「さあ、気づいただろ?こっちを見な!」
ギャァアア
私の魔力に気づいたディーバーンがそれを防ぐため、私と一直線に並んだジャネットさんに向けてブレスを放ってくる。
「黒き刀身よ、魔を分かて!」
相手のブレスにジャネットさんが剣を振り下ろす。すると、ブレスは中央から真っ二つに斬り裂かれた。
ギャ?
まさか自分の放ったブレスが斬り裂かれるなど思ってもみなかった緑のディーバーンはとうとう隙を見せた。
「アスカ、今だ!」
「はいっ!いっけぇぇぇ~!ブラストトルネード!!」
ジャネットさんが私の魔法の射線から離れたのを確認し、魔法を放つ。
「避ける!?」
「させるか!」
何とか、効果範囲の外に出ようとするディーバーンにリュートが魔槍を投げ、それを阻む。
ギャァァァァァ
すさまじい風とその風が作り出す刃がディーバーンを襲う。そして、翼を完全にもがれたディーバーンは地上へと墜ちていった。
ドォォオン
「やった!?」
「いや、まだだ!」
ワイバーンとディーバーンの見た目の違いは下半身だ。ワイバーンは飛ぶのに最適な翼竜のような下半身だが、ディーバーンは下半身ががっしりしている。地上に墜ちながらも風の魔力の補助を使って、よろよろと立ち上がろうとしている。
「ちっ、しぶとい!」
「アスカ、MPの残りは?」
「さっきのでほとんど…。マジックポーションで回復させます」
「頼む!あいつはこっちで抑える」
そのころ、クレーヒルでは…。
「ん?」
「どうされましたティタ様?」
「ん、ご主人様に何かあったようです。MPが急激に減ったのを感知しました」
「ええっ!?アスカ様大丈夫かしら…」
私は今、ご主人様のお世話をしていたエディンとミシェル。それに私のお世話係のキルラと一緒に休んでいた。
「あっ、今MPが回復しました」
「じゃあ、大丈夫ですね」
「何を言っているのよ、ミシェル。MPがすぐに回復したということは、まだ異変が続いているのよ!」
「あっ、そうか!」
「ティタ様、アスカ様は大丈夫でしょうか?」
「キルラ、大丈夫よ。ご主人様は強いし、ジャネット様もいる。…リュートも」
「なぜ、ティタ様はリュート様の評価が低いのですか?」
「あれは、ご主人様を横取りする敵だから」
「まあ!ティタ様ったら…」
「それよりご飯。ご主人様のMPに余裕がないから魔石は多めに」
「承知しました。ふたりとも言い合っていないで調達してきてちょうだい」
「はっ!」
「わかりました」
「まったくあのふたりは…さ、ティタ様。あのふたりが魔石を持ってくるまでこちらをお召し上がりください」
「あ~む」
ばりぼり
「おいしいですか?」
「うん。ご主人様は心配だけど、今は遠くから見守るしかないわ」
無事に帰ってきた時にはちゃんと迎え入れましょう。一応リュートも。




