食事にて
「さあ、かけてちょうだい」
「はい」
マルディン様に着席をうながされ席に着く。そうして、すぐに料理が一品ずつ運ばれてきた。
「う~ん、どれもおいしいです!」
「そう?お口に合ってよかったわ。西側は特に魔物の被害も多くて、南東部ぐらいでしか野菜や家畜が育てられなくて。もう少し、広げたいのだけどね」
「奥様」
「ああごめんなさい、食事時に」
「いいえ、私も冒険者ですから苦労は分かるつもりです。まあ、定住はしないのでそれなりにしかわかりませんけど」
「あら、どこかの貴族の方ではなかったの?」
「あ、いや~。そんな大それた生まれでは…」
「まあ、そういう方もいらっしゃいますわね」
ほっ、わかってもらえたみたいだ。
「冒険者ということですし、それならば明日行われる騎士団の訓練を見学されますか?」
「いいんですか?」
「ええ、騎士たちもアスカさんのようなかわいい観客がいらしたら、きっと力も入ります」
「そんな…」
「そうされればいかがです?我々もどれだけ腕を上げたか気になりますし」
「フランツさん。そうですね!興味もありますし、ちょっとのぞいてみます」
「では明日、朝食を取ったら向かうことにしましょう。フィリップ、手配を頼みますよ」
「はっ!」
こうして明日は騎士さんたちの戦い方を見せてもらえることになった。まあ、ジャネットさんやリュートも退屈しないだろうし、それでいいよね。
「あっ!」
「どうかしました?」
「いえ、イリス様からお土産を頼まれてたんでした。どうしましょう…」
「ふふっ、それなら私の方で用意しておきます」
「じゃあ、沢山じゃなくていいんですけど、ちょっと甘いものを用意してくれませんか?」
「構いませんけど、どうしてですか?」
「シャルちゃんとフィル君にも渡したいんです」
「まあ!シャルローゼ様とシェフィールド様にですか。それは大変です。あちらは食も進んでおりますから、お二人を満足させるのは中々難しいのです」
「フィル君?」
「はい。お知り合いなんですか?」
「うん。たまに会う、仲良しなの」
そういうのはマルディン様の娘のマリーネちゃんだ。年に何度かはお互い行き来して会っているらしい。
「普段はどんな遊びをしてるんですか?」
「おままごと!私が騎士でフィル君が領主様!」
「…いいんですか?」
「言っても聞かないのよ。ウィラーの稽古している姿にあこがれてしまって…」
「ウィラー様は領主なのに稽古されるんですか?」
「危ないとは思うけど、この領地では普通なの。男爵領だからそこまで裕福でもないし、領主は魔物との戦いにでることもあるのよ」
「それは心配ですね…」
私は頭の中で一つ思い描きながら返事をする。
「まあ、どうせもう少し大きくなったらドレスに目を奪われると思うのだけどね」
「そんなことない!マリーネは立派な騎士になります!」
「はいはい」
う~ん、これはまずいかも。気づいたら引き返さなくなってそうだな。
「こちら本日のメインディッシュとなっております」
「あっ、もしかしてジュムーアですか?」
「ええ、その通りよ。そんなに多くはいないのだけど、領地の東で育てているの。そこから毎日、1頭ずつディシュペアのこの邸まで出荷しているのよ」
「えっ!?それだと多くないですか?」
「もちろん多いわ。だから、こうして邸に回す分を確保した後は領都の店に卸しているのよ。領主の直営店だけど、領民でも冒険者でも買えるからいつも残ることもなくて、いい売り上げになっているわ」
「お肉高いのですか?」
「そうよ。多くの領民の手が入っているからね。育てる人だけじゃなくて運ぶ人に、それを護衛する人もいるのよ」
「それは大変です。私が守ります」
う~ん、護衛という言葉に反応したのかな?なんだか護衛マニアになる未来が見えるような…。とりあえず、今は一口っと…。
「ん!おいしいです!!他の場所でも食べたことありますけど、このソースがいいですね。それに肉自体香ばしいですし」
「喜んでもらえてよかったわ。肉は用意できてもシェフは無理だもの」
「ふふっ、そうですね。あとでお礼を言っておいてください。これ、ほんとにおいしいです」
「ええ、伝えておくわね。それにしても…」
「?」
「私と話をしていた時は大人びていたと思ったけど、食べている時は年相応ね」
「恥ずかしいです」
「恥ずかしがらなくてもいいわよ。そういう方が殿方には受けるし」
「殿方って…」
「あら、まだ決まった相手はいないの?」
「いません!私は旅の途中ですし、仲間もいますし」
「そう?でも、パーティーなんだったらメンバー内で、なんてないのかしら?騎士の中ではよくあるわよ。騎士同士の子どもとかも含めればそれなりには多いわね」
「同じパーティー内だなんて…リュ、リュートしか」
リュートのことを頭に思い浮かべると恥ずかしくなる。た、確かにきりっとしてきたけど、リュートだし!
「そういうことはなかったの?」
「なっ、ないですよ。街の人と一緒になったパーティーメンバーはいますけど」
「そうなのね。その人は今どうしてるの?」
「その人と一緒に暮らしてます。それが一番ですから!」
きっと今頃はノヴァもエステルさんも幸せに暮らしているだろう。あっ!でも、ノヴァのことだから怒られてたりするかも?
「はぁ~、アスカさんがイリス様のお知り合いでなければ、うちの騎士でも紹介しましたのに…」
「ええっ!?なんでそうなるんですか?」
「アスカさんに紹介するにはイリス様のお眼鏡にかなう方でなければなりませんから。うちの領地の騎士では中々…もう引退したカルパンさんぐらいかしら?」
「カルパンですか、確かにあの男の若い時分でしたらなぁ」
知り合いなのかフィリップさんも目を細めつつうなずいている。
「どんな方なんですか?」
「巨漢ながらそれに頼らぬ男でしてな。あの、ディーバーンをひとりで相手にしたこともある程の気概を持った男です」
「ウィラーも彼にあこがれて剣を手に取ったと言っていたわ」
「ちなみに今はおいくつで?」
「確か今年で51だったかしら?」
別にちょっとした興味で聞いてみたけど、さすがに36歳差はないよね。いや、逆にそこまで離れていたら有りなのかな?
そんな夕食時も大詰め、最後はデザート。今日はプリンが出てきた。
「ええ~、またなの~」
「そんなこと言わないの。おいしいでしょ?」
「そうだけど~」
マリーネちゃんが不服そうにしている。確かに甘味は珍しいけど、味も濃いし飽きてくることもあるよね。
「そうだ!なら、こっちを食べてみる?」
私はガサゴソと…あれ?
「マジックバッグですか?」
「はい。持って来てもらっていいですか?」
「ただちに」
メイドさんにマジックバッグを持ってきてもらい、その中に入っているコールドボックスから器用にアイスを取り出す。
「これ食べてみる?」
「なぁにこれ?」
「アイスクリームってお菓子だよ。冷たくておいしいよ」
「食べる!」
「マリーネ…」
「だって、いい匂いだしおいしそうなんだもん!」
「まあ、本当ね!では私が先に…」
「ええ~、お母様が先なの?」
「いつも毒見を先にって言われてるでしょう?アスカさんは信頼できるけど、それを忘れてた罰ね」
「じゃあ、ひとくちだけだよ」
「はいはい。ん…ん!?」
「奥様どうなされました?」
「前にイリス様の邸で出していただいたものよりおいしいわ。すごい…」
「本当?じゃあ、マリーネも食べます」
マリーネちゃんはプリン用に用意されていたスプーンを構えると、ザクッとアイスに突き立ててお口へ。
「おいしい~、それにつめた~い」
「そうね。でも、こんなものをどこで?」
「あっ、その、氷好きな従魔のためでして。それに甘みを足したんです」
「従魔の…?ひょっとしてアスカさんは魔物使いですか?」
「はい!みんなかわいい子たちなんですよ」
「見た~い!」
「ごめんね。今回はお留守番してるの」
「残念です…」
「魔物使いはうちの領は極端に少ないものね」
「そうなんですか?」
「ええ、うちは魔物が強いでしょう?魔物の被害自体も多くて、あまり歓迎されないのよ」
「それはしょうがないですね。でも、うちの子たちは賢いですから絶対安全ですよ」
「奥様、そろそろ…」
「あら、もうそんな時間なのね。ごめんなさい、話の途中で」
「いいえ、思ったより私も話し込んじゃってすみません」
「いいのよ。アスカさんはお客様だもの。それじゃあ、また明日会いましょう」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「マリーネ様もおやすみなさい」
先にお風呂に案内され、入浴を済ませ着替えると部屋に通された。部屋は両開きの大きい部屋でそこには大きいベッドがある。
「それでは私たちは明日また来させていただきますのでごゆっくりお休みください」
「ありがとうございます」
部屋に入る前に案内してくれたメイドさんにあいさつをして、いよいよあとは寝るだけ。
「じゃあ、おやすみなさ~い!」
誰も見てないし、寝間着だからちょっとぐらい羽目を外してもいいよね?そんなわけで私はベッドに風魔法を使って軽く飛び乗った。
「ほら、あたしの言った通りだろ?」
「やっぱりまだ、ジャネットさんには勝てませんね」
「ほら、出すもんだしな」
「金貨1枚でしたね。はい」
「えっ…二人ともなんでいるの?」
「なんでって、貴族の客人に寝室の護衛は当然だろ?クレーヒルにいた時もいただろ?」
「そ、それはいましたけど…」
「大体、扉が閉まる前に振り返らないからこうなるんだぞ?部屋のチェックは入念にな」
「くぅ~、当たっているのが悔しい…。でも、よく護衛出来ましたね。こういうのって審査が厳しいと思ってました」
「いやぁ~、適当に色々並べてね。まあ、女性の護衛はあたし一人だけだったからね。こっちの女性騎士だと緊張しちまうっていえば納得してくれたよ。リュートは…まあ、勢いだね」
「と言う訳だから、アスカも遠慮なく寝てね」
「え、遠慮なくって…」
『あら、まだ決まった相手はいないの?』
「リュートのばかーー!」
私は悪態をつくと急いで布団に潜り込み、しばらくリュートのダメなところを言い連ねた。
「ええっ!?なんで僕だけ…」
でも、そのあとは機嫌も直し、この1週間あまりお話しできなかった分を取り戻したのだった。今日は急な訪問にも関わらず、マルディン様にも良くしてもらったし、終わってみればいい1日だった。
 




