お邸2日目
子どもたちがお風呂に入ったので私たちは部屋を出て再び応接間へ。
「ごめんなさい。子どもたちがはしゃいで」
「いいです。私も楽しかったし。ね、アルナ、キシャル」
ピィ
にゃ~
「さっきから気になってたんだけど、本当に話が分かるのね。護衛に魔物使いを雇ったことはあるけど、そこまでじゃなかったわよ?」
「まあ、その人は魔物言語を学んでるわけではないと思いますし、逆にそれでコミュニケーション取ってる方がすごいと思います」
「魔物言語?聞いたことないなぁ」
「アレンも知らないの?」
「うん。この前、王都まで足を延ばしたけどそういうことは聞いたことなかったよ。どこか別の地方でやってるの?」
「どうでしょう?ちょっとまだ研究中の学問なので、本が出てるかまではわかりませんね」
「研究者はフェゼル王国の人だよね?こっちまで回ってくることはないか…。それなりに人気が出そうだけどね」
「そうよね。魔物使いの人も話ができたらって言ってる人は多いし、学べるならそれに越したことはないものね」
「それにしても、大きな発見だわ。アスカに会えてよかった」
「そうですか?でも、イリス様も発明をいろいろしてるみたいですし、すごいですよ!」
「まあ、私のは半分蓄積だしね」
「お嬢様、お風呂の準備が整いました」
「そう。アスカも入りましょ」
「えっ!?いいんですか?」
「もちろんよ。それじゃ、アレンも後で」
「うん、行ってらっしゃい」
アレンさんに見送られながら私たちもお風呂へと向かう。
「あ、あの、自分でできるので…」
「いいえ。私たちの仕事ですから」
お風呂ではメイドさんたちが至れり尽くせりだった。
「はわ~、いいお湯だ~」
大きい湯船にゆっくり浸かる。
「アスカもお風呂好きなの?」
「はい!ちゃんと旅の間でも入れるように簡易風呂を持ってるんですよ」
「簡易風呂?どんなやつ?」
「こう…フレームがあって、そこに皮をかぶせる形なんです。そこへティタに水を入れてもらって、火の魔法を入れるとすぐに入れるんですよ」
「いいわね。魔石とか使うのかと思った」
「魔石を使ってもできますよ。ただ、どうしてもそうすると水とか火の魔石がいるんですよね。もしくは魔力か」
「えっ!?火の魔力がなくてもできるの?」
「はい。オークメイジの魔石ってあるじゃないですか?あれの効果って知ってます?」
「知らないけど…テレサは知ってる?」
「えっと、多少温度が変わる程度だったかと」
「それで合ってるの?」
「大体は合ってますね。魔石の大きさに応じて、温度を上げたり下げたりできるんです。ただ、火の魔力なら上がって、水の魔力ならより下がるみたいですね」
「つまり、大きい魔石ならそれだけ効果が大きくて、お風呂を作れるってこと?」
「それだけじゃありませんよ。コールドボックスにも使ってるんです。魔力が通りやすい銀を使ってフレームを組めばより冷えやすくなって、氷を作るまでにもなるんですよ」
「へ、ぇ。そうなのね…テレサ!」
「わかっております」
「どうかしましたか?」
「それって設計登録には書いてあるの?」
「あ~、作り方ぐらいですね。魔石とフレームの組み方とかはありますよ」
「はぁ…アスカって保護者はいるの?」
「保護者というか商会に行く時はリュートって言う男の子が付いて行ってくれてますね」
「もう、そういう重要な情報はしゃべらないように隠しなさいよ。ブランドものってあるでしょ?あれだってどうやったら上質なものになるかなんて教えないわよ。でも、簡単な編み方とかは別に秘匿しないでしょ?」
「そうですね」
「だから、せっかく自分だけがいいものを作れるのに、それを簡単に話しちゃだめよ!」
「は、はい。気を付けます」
「全く、お嬢様ときたらそのまま話を色々聞けばいいのに…」
「それでは、今日はこのくらいにします?」
「ん~、そうね。そうしましょうか。でも、明日からもバンバン聞くからね?ちゃんと、答えられませんというのよ」
「は、はぁ」
「もう少し、素直になればよろしいのに」
そんな会話をして、私は部屋に通された。
「おっきい部屋ですね。これって来客用ですか?」
「そうよ。遠慮なく泊まって行ってよね。大体、こっちに来る貴族なんてあんまりいないから誰かに使ってもらわないとカビが生えちゃうわ」
「メイドが掃除しているから生えませんけどね」
「うるさい」
「ありがとうございます。それじゃあ、遠慮なく使わせてもらいます」
そういって室内にマジックバッグの荷物を置いていく。
「あら、これは?」
「アルナのおうちです。アルナおいで」
ピィ!
夜になり眠くなっていたアルナはすぐにやってきた。
「ほら、もう眠いでしょ。入ってね~」
「へぇ~、そういうのも作ってるのね。キシャルの分はないの?」
「あ~、キシャルは毎日決まったところで寝ないのでないですね。私のところで寝る時もあれば、ジャネットさんのところに潜り込む時もありますけど、その時になるまでわからないので作ってないんですよ」
「なるほどね~。爪を立てなかったら、私のところにも来てくれるかしら?」
にゃ~?
「気が向いたらって言ってます。でも、興味はあると思います。割と人に懐きますし、子どもの相手もしてくれるので」
「そういえばさっきもわざとぎりぎりの距離にいたわね」
「孤児院とか、子ども相手も今までやってきてるので、安心してください。それに何かあってもブレスで対応しますから」
「ブレスって聞いたけど、強いの?」
「う~ん。強いってことはないと思いますよ。でも、Cランクの冒険者ぐらいは相手できると思いますけど」
「えっ!?それって強くない」
「でも、Cランク冒険者って結構いますからね。そう考えると安心できませんよ」
「そう言われるとそうね。やっぱり、小さくても冒険者なのね」
「小型でもやはり魔物なのですね。注意しておきます」
「そうですね。子どもって遠慮がないところもありますし、見ていてくださるとありがたいです」
にゃ~
「あっ、もう寝るの?それじゃあ、すみません」
「いいえ。今日は急に連れてきて悪かったわね。じゃあ、また明日ね」
「おやすみなさい」
いろいろあって疲れたので、その日はすぐに寝ることができた。
「おはようございます」
「あ~。おはようございます、ジャネットさん。今日はもう出るんですか~」
「私はテレサです」
「テレサ?聞きなれないですね~」
「どうテレサ?」
「お嬢様。だめですね。朝は弱い方らしく、先ほどから全く…」
「しょうがないわね。学校遅れるわよ!」
「はっ!?もうそんな時間!」
ガバッと布団をめくって体を起こす。
「あれ?」
「お嬢様はすごいですね。一言で…」
「こういうと大体の日本人は起きるわよ。これで起きないやつは叩けばいいわ」
「ん~?イリスさん」
「そうよ。もう、朝ごはんの時間だから起きてらっしゃい」
「は~い」
朝ごはんはまた昨日のように一緒に食べるということで、私も着替えて食堂に向かう。
「アスカ様はそういった服もお持ちでしたか」
「えへへ、冒険者とはいえ女の子ですからね。町にいる時はこういう服を着てます」
「では、こちらへ」
そのままテレサさんに導かれて食堂に着いた。でも、お邸は広くて中々場所は覚えられそうにないな。
「おはようございます、アスカさん」
「おはよ~ございます」
「おはよう。シャルちゃん、フィル君」
シャルちゃんは姉で多分もうマナーとかも学び始めているからか立ち上がって礼を、フィル君はまだのようで席に着いたままフランクに挨拶しようとすると、ちらりとイリス様に目線を送られあわてて丁寧に話した。
「はぁ~、そろそろマナーの勉強もさせないとだめね。将来は領主になるんだから」
「えっ!?シャルちゃんじゃないんですか?」
「基本的に女領主って言うのはいないのよ。私も事情があってなっただけだからね」
「大変ですね」
「生活的には安定してるからいいと思うけどね」
将来が決まってるなんて窮屈かなと私は思ったけど、確かに魔物もいるこの世界じゃ、領主なんて一番いい就職先かもしれない。
「さあ、もうご飯が来るから待ってましょう」
「そうだね。アスカさんはしばらくいるんだろう?」
「え、えっと、まぁ」
流石に本の著者を捜すのに時間がかかる予定にしてたとは言えない。イリス様が著者ってわかって、その分の日程は縮まったわけだし。
「なら、ゆっくりしていってね。娘たちも中々気を使わない友人がいなくてね」
「アスカさん、しばらくいるの?」
「あ、うん」
「じゃあ、今日はアルナちゃんとキシャルちゃんと遊んでもいい?」
「いいけど、アルナは小鳥でお昼寝とかもするから気を付けてね。あと、キシャルも嫌がったら触らないでくれたらいいよ」
「分かりました。ちゃんと守ります!」
「まもる~」
子どもたちはいい返事だ。だけど、孤児院の子たちも返事は良かったし、ちらりとメイドさんに目配せする。すると、きちんとうなずいてくれた。ほっ、これで2人を預けてもよさそうだ。




