食事会と子どもたち
今度は食堂に案内された私だったが、ここでも驚いた。
「うわぁ~、綺麗ですね」
「そう?さっきも言ったけどこのぐらいは普通よ」
「あっ、さっきのお姉さん!」
「こんにちわ、シャルちゃん?」
「うん!シャルはシャルローゼって言います」
「そうなんだ。私はアスカって言うの、短い時間だけどよろしくね」
「えっ!?お姉ちゃん、すぐに帰っちゃうの?」
「それは…」
ちらりとイリス様を見る。やっぱり長居は良くないよね。機密事項もそれなりにあると思うし。
「あら、私は別に構わないわよ。あなたの仲間はちょっと距離を置いてもらわないといけないけどね」
「そういえば、ジャネットさんたちは大丈夫かなぁ」
「大丈夫よ。私の名刺も置いてきたんだから、連絡ぐらいつくでしょ」
「なら安心ですね!」
ピィ
「あっ、アルナ。そういえば、お話してる間どこに行ってたの?」
「この子、アルナちゃんって言うの?私の部屋にキャット種の子と来てたの」
「キシャルまで。ごめんね、びっくりしたでしょ?」
「ううん。どっちもいい子だったよ」
「そっか。よかった」
「う~、まだねむいよぉ~」
「あっ、ようやく来たのね。フィル」
「うん…。あれ?この人は」
「フィル君初めまして。アスカって言います。お母さんの知り合いだよ」
「は、初めまして…」
「あら?フィルったらアスカが綺麗だから照れてるのね。全く誰に似たんだか」
「ち、ちがうよ、かあさま!」
「そう?まあ、そういうことにしておきましょうか」
「ごめん、遅くなって…」
「いいわよ。こっちも今揃ったところだし」
「あれ?今日は知らない子がいるね」
「アスカと言います。イリス様とはちょっとした知り合いで…」
「そうなんだ。僕はアレン、イリスの夫だよ。まあ、婿だけどね」
「へ~。じゃあ、どこか別の領地から来たんですか?」
「いや、そういうことではないんだけどね…」
「そんな話はいいじゃない。それより、料理が運ばれてくるでしょうから座りましょう」
「そうだね。そうしよう」
アレンさんも加わって、にぎやかな食卓になる。
「さあ皆様、前菜をお持ちしましたよ」
「ありがとう~」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
フィル君、シャルちゃん、私の順に返事をする。
「みんな、きちんとしててえらいわ」
「ちょっとイリス。流石にアスカさんを含めるのは悪いよ」
「そんなことないわよ。一緒よ、一緒」
ううっ、子どもたちとまとめられてしまった。
「そういえば、二人は何歳なの?」
「私は7歳です」
「ぼくは5さいだよ」
「そうなんだ。お姉ちゃんは15歳だよ」
「へぇ~、どこから来たんだい?」
「フェゼル王国です」
「おや、隣の領地かと思ったら遠いんだね。でも聞き覚えがあるな」
「今度、新しく取引開始のお願いをするところよ」
「取引ですか?」
「お母様はいろんなものを開発してるの。カブ糖もそうだし、スプリングねじもそうなんだよ」
「えっ!?そうなの?ここの領地の馬車って乗り心地良いけど、イリス様の発明なんだね」
「そうなの。領地の人たちもみんな喜んでるんだよ。ね~!」
「はいはい。わかったから、みんな食べなさい。そんなペースじゃいつまでたっても次が来ないわよ」
「「は~い!」」
貴族の食卓って窮屈なのかなと思ったけど、どこかのレストランに来たみたいな感じだなぁ。そう思いながら前菜を食べる。
「おいしい!」
「よかったわ。野菜中心のものなんだけど、出汁をちょっと入れてるの」
「おいしいです。早く次のメニューが食べたくなりますね」
「お姉ちゃん、食いしん坊だね」
「えっ!?そうかな?でも、おいしいもの食べると元気が出るよ」
「まあそれはわかるわ。疲れた時とかもほっと一息つけるケーキとか欲しいものね」
「そうですよ!やっぱり、甘いものは正義ですよ」
「面白い子だね。それに従魔まで連れて」
にゃ?
急に視線を向けられてキシャルが顔を上げる。
「かわいい~。あっ!?」
シャルちゃんが手を伸ばそうとすると、すかさずキシャルはくるりと向きを変えてご飯を食べだす。
「だめよ。食事中に手を出しちゃ。落ち着いて食べられないでしょ」
「は~い。ごめんねキシャルちゃん」
にゃ~
「キシャルもわかってくれればいいって。あと、キシャルって寒冷地の…寒いところの生まれだからあんまり触らないでね。熱いの苦手なんだ」
「そうなんだ、残念」
「ざんねん」
ピィ
「わっ!?」
「アルナはお食事の邪魔しちゃだめでしょ」
ピィ…
「この子は触ってもいいの?」
ピィ!
どうぞと体を寄せるアルナ。子どもたちがキシャルが触れないと聞いて、元気がなくなったので元気付けたかったんだろうな。
「いいよ。でも、あとでね」
「は~い!」
その後も食事が運ばれてきたが、どれもこれも本当においしかった。以前に伯爵家でお世話になったことがあったけど、あの時以来のことだな。野菜に関しては申し訳ないけど、あっちよりもおいしいと思う。
「ふぅ~、おいしかったです!」
「よかったわ。別の国からのお客様だから料理長も不安だったのよ」
「そうだったんですか。ほんとにおいしかったですよ。特にお野菜が」
「本当!?この野菜は近くの村から直送させてるのよ。ここは収穫物の集積地でもあるしね」
「それであんなに門も大きいんですね」
「ええ、ちょっと新設したり、修繕したりしたところもあるけど、領都だって見た目も必要だからね」
「こちらデザートになります」
「デザートまで!」
「杏仁豆腐っぽいやつよ。まだあんまりうまくいってないけど」
にゃ~!
「キシャルどうしたの?ああ、そういえばまだ出してなかったっけ」
「あら、どうかしたの?」
「いえ、イリス様に会う時にあげようとしてたんですよ。ちょっと待っててね。ちょっとここに出していいですか?」
「別にいいわよ」
私は腰に下げたままになっていたマジックバッグからコールドボックスを出すと、冷凍室からアイスを出す。
「はい、キシャル。アイスだよ」
「えっ!?アイス?」
「あっ、はい。本物とはちょっと味は違いますけど…」
「お母様、アイスって何?」
「とっても冷たくていい匂いで甘くておいしいのよ。ただ、すぐに溶けちゃうから滅多に食べられないの」
「うわぁ~、食べてみたい!」
「そ、そうね」
「はい、キシャル」
にゃ~
キシャルは嬉しそうにぺろぺろとアイスをなめる。
「ねぇ、それってまだある?」
「あっ、ありますけど、その…キシャル用なのでお腹壊すかもしれませんよ。結構作ってから時間経ってますし」
「材料があればまた作れるものなの?」
「まあ、このコールドボックスには冷凍庫もありますし。できますね」
「一度作ってもらえないかしら?その間の滞在費用は出すし、他にも必要なものがあれば言ってもらえばいいから!」
「ま、まあいいですけど。でも、必要ならレシピを置いて行きますけど…」
「それはだめよ!こんなの原材料は高いとはいえ、カブ糖や他の甘味が広まったらいくらでも儲かるわよ。設計料の登録方法は知ってるんでしょう?」
「まあ、商会は持ってますね」
「それなら絶対登録しなさい。私が手を回すから」
「わかりました」
そういいながら私は杏仁豆腐もどきに手を出す。
「う~ん、冷たくはないけどプルっとしてておいしいですね」
「まあね。今の季節は気温が低めだからまだいいけど、夏だともっと温かいわよ」
「そっかぁ、やっぱり大変なんですね」
「それならそのコールドボックス?それも売ってもらえればいいんじゃないかな?」
「えっ!?これですか?」
「そういえば、それも登録されてるの?」
「登録はされてますけど…」
「製造方法は簡単?」
「お嬢様、質問ばかりでは失礼ですよ。それにお食事が終わったのならお子様方が…」
「あっ、ごめんなさい。そうね。つい癖で聞いちゃったわ」
ということでいったんこの話は切り上げ。子どもたちの部屋に入ってふれあいタイムだ。しかも、なぜか私も連れられて。
「お姉ちゃんこっちだよ~」
「わぁ~!おっきい部屋だね」
「うん。それにいろいろあるんだよ」
部屋にはぬいぐるみや人形もあった。遊ぶためだけのものや、観賞用もあり、その辺りは貴族だなって思う。
「もう少ししたらお風呂だからそれまでよ」
「ええ~」
「明日もいるから今日はそのぐらいでね」
「は~い。それじゃあ、アルナちゃんこっち来てね」
ピィ
アルナはその声に合わせてぴょんぴょんと軽く羽ばたきながらシャルちゃんに向かっていく。
「アスカの従魔ってとても賢いわね」
「へへっ、お母さんも賢いんですよ。アルナはその子の子どもなんです」
「なるほどね~。でも、こっちの猫も変わってるわね」
「キシャルですか?まあ、珍しい種類ではありますね。でも、寒冷地の種族だからかあんまり私には来てくれないんですよね。体温高いみたいで…」
「ああ、それは悲しいわね…」
アルナに興味が移ったシャルちゃんとは違い、フィル君はキシャルに夢中だ。子どもに触られたくないキシャルは、ひょいひょいと避けるのだが、それが面白いらしく諦めずにずっと追いかけている。庭などであればそのままどこかに行くんだろうけど、ものがあって移動できる場所が少ない室内ではあまり動けず、あきらめない原因にもなっているようだ。
にゃ~
とうとう、追いかけっこに飽きたのかキシャルはフィル君の頭に乗る。子猫なのでひらりと乗ったキシャルにフィル君は気づいていないようだ。
「フィル、頭の上よ」
「うえ?わっ!すご~い」
大人なら馬鹿にされたと思っただろうけど、いつの間にか頭の上に乗っているキシャルをすごいと思ったみたいで、満足したのかフィル君はそのまま床に座った。もちろんキシャルもそのままだ。
「バランスいいわね」
「そうですね。でも、ああ見えてキシャルって強いんですよ」
「そうなの?」
「そういえば食べる時は下で食べられていましたが、変な音がしていましたね。あれも何か?」
「あ~、キシャルってば。多分、ブレスか氷の魔法で肉を冷やしたんだと思います。冷凍肉が好きなんですよ」
「冷凍肉?食べるのは焼いた肉って言ってなかった?」
「正確には焼いた後、冷凍した肉が好物なんですよ。魚も一緒です。薄目に味付けしたのが好物なんであんまり人前じゃ食べさせてあげれないんですけど」
「贅沢ね。まあ猫缶のいいやつを欲しがると思えば普通かな?」
「ネコカン?」
「あっ、こっちの話よ」
「お嬢様、お坊ちゃま。お風呂の用意が整いました」
「「ええ~!」」
「ふたりとも聞いたでしょ。遊ぶのは明日にして、お風呂に入ってきなさい」
「「は~い」」
不満げながらも素直に言うことを聞く子どもたち。かわいいなぁ~。




