クレーヒル
掲載順を間違えてしまったので差し替えました。二人の転生者をお読みの方はこちらをお願いします。
申し訳ございません。
「アスカ~、飯だぞ~」
「は~い!」
シャルパン草の乾燥工程もそこそこ終わり、くつろいでいたところにジャネットさんからご飯の連絡が入る。ジャネットさんは取った部屋というか、宿に広い部屋がなかったので、ついでに出していた製薬道具を壊さないようにと外で素振りをしていたのだ。
「お待たせしました!」
「いや、今日は早い方だよ。いつもならリュートが迎えに行ってるからね」
「そんなことありませんよ、ねぇリュート?」
「えっ、あっ!そろそろ料理が来るよ」
くっ、リュートには返事をはぐらかされてしまった。その後、食事を終えてシャルパン草の乾燥作業を進めて、何とかその日のうちに終えることができた。
「ん~!ちょっとまだ眠いけど、よく寝た~」
翌日、少し昨日の作業で寝る時間は遅くなったものの、普通に起きることができた。
ピィ
「アルナおはよう」
「おっ、アスカ起きたね。まだ、ゆっくりする時間はあるから急がなくていいよ」
「は~い…zzz……」
いいと言われればだらけるのが人間というもの。ありがたいお言葉をいただいた私は、すぐに2度寝に走った。
「はぅ~、またご飯が~」
「いや、あたしもゆっくりしろとは言ったけど、寝ろとは言ってないよ」
「はぁ~、宿の朝食食べたかったなぁ~」
2度寝のせいで朝食を取る時間が無くなってしまい、仕方なく私は馬車の中でガシガシと干し肉を食べていた。
「あ~あ、せっかくの野菜ご飯が…」
「文句言うなよ、それだって豪華だろ?」
「それはそうですけど、やっぱり現地のものがいいんですよ」
リュート謹製の干し肉もおいしいんだけどね。
「そういいながらかむのはやめないんだね」
「それはそうだよ。食べないと元気でないし。はぐはぐ」
乾燥が少なめのやつだからか柔らかくておいしいなぁ。そんな感じで馬車は進み、とうとう目的地であるクレーヒルに着いたのだった。
「商人の馬車はこっちだ。乗合馬車はあっちの方へ行け!」
流石に領都だけあって、人の列も多い。クレーヒルには南北に門があるが、そこに村があるだけではなく八方に村が置かれていて、それぞれが近い門を目指してやってきているのだ。
「馬車はあっちの飛び出てる門を通るんですね」
「そうよ。あれは外門って言ってねぇ、あの門をくぐったところで受付を済ませて、その中にある内門を通るの。内門って言ってるけど、そっちは元々の門なのよ。だから、他の門と同じ位置にあるの」
「へ~、そうなんですね。ありがとうございます!」
外門ができたのも馬車で徒党を組んだ野盗なんかが紛れ込まないように対策した結果なんだそうだ。そのため、外門が開く時は内門が、内門が開く時は外門は閉じているということだった。一緒の馬車に乗っている初老の女性は本当に物知りだ。私の疑問にすらすらと答えてもらえる。
「いえいえ。お嬢さんが嬉しそうに話を聞いてくれるからこっちもうれしいわ」
「こちらこそありがとうございます」
「もし何かあったら言ってね。と言っても私はあまり町には詳しくないんだけど…」
「そうなんですか?」
「ええ。息子がそろそろいい歳だからって呼んでくれたのよ。夫婦の邪魔になるんじゃないかと思ったけど、孫に会えるのはうれしくてこっちに来たの」
「じゃあ、この後は早速お孫さんに会いに?」
「そうなの。これがまたかわいくてねぇ…」
などと話をしていると徐々に外門が近くなっていく。
「今の内に身分証の用意をお願いします」
「あっ、はい」
御者兼車長さんに言われて私たちは臨時通行証を用意する。
「あら?それを買ったのね」
「はい。そのまま持って帰れるということで旅の記念にと思って」
「そう。まだ若いし、これからもいい旅になるといいわね」
「ありがとうございます」
コンコン
「では、お一人ずつ出てください」
「アスカ、あたしが最初に出るよ」
「わかりました」
「じゃあ、僕は最後で」
他のお客さんに続いて、私たちも順番に降りていく。降りた先では3人の兵士さんがいて、それぞれの身分証を確認している。
「ん?君たちは臨時通行証を持っているのか。そのまま通るか?」
「いいんですか?」
「ああ。他のものは一度馬車に戻れ!」
「はい」
どうやら、臨時通行証を持っているとそれだけで門を通れるようだ。内門を開けてもらい私たちはとうとうクレーヒルに入った。
「到~着!」
「はいはい。宿を取るよ」
よろこぶ私とは裏腹にジャネットさんもリュートも冷静だ。
「あ~あ、ふたりとも冷たいね~、キシャル」
にゃ~
馬車の中でも寝ていて寝飽きたのか珍しくキシャルは自分で歩いている。
「アスカ、宿はあっちだって!」
「分かった。ほら、キシャルも行こ」
ジャネットさんを先頭に私たちは宿を目指して歩き出す。
「そうだ!前に約束してたっけ。キシャル~、アイス出してあげる。ちょっと待っててね」
「アスカ?しょうがないねぇ。ちょっと待ってやるか」
私は道の端に移動してコールドボックスを取り出した。
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「ん?あれは…」
「お嬢…領主様、どうかしましたか?」
「いいわよ、呼び方なんて。いやぁ、ちょっと懐かしいデザインのものを見たなって思ってね。ちょっと行ってみようかな?」
「危ないですよ。そんな単独行動だなんて」
「ちょっとだけだって。それに、悪い気配はないし」
「はぁ。少し馬車を止めていますから気を付けてくださいよ。お前たち!」
「はっ!」
「お嬢様をお守りするように」
「了解しました」
護衛を2人近くに待機させて少女に声をかける。
「あのさ」
「はい?」
「その冷凍冷蔵庫、どうやって動くの?」
「えっ、それはもちろん魔石ですよ。電気なんてありませんし、あってもコンセントがないですから」
「…キャ~~~ッチ!!」
「えっ!?きゃっ!」
護衛にそれぞれ腕をつかませるともうひとり奥に控えていた護衛に冷蔵庫を持たせ馬車に入れさせる。
「アスカ!?」
「ちょっとこの子借りるわよ。文句とかはここにね!」
ピッっとカードを護衛の女に投げるとさっさと少女を馬車に入れて進みだす。
ピィ!
「あら、かわいい子ね」
ピィピィ
敵意はないと分かったのか軽くなでてやると気持ちよさそうに頭を動かす小鳥。
「あっ、あのっ!?」
「なぁに?」
「どうして私を?それにさっきの…」
「話は家に着いてからにしましょう。名前は?」
「アスカって言います」
「アスカね。私はイリス、よろしくね」
パッと私が手を出すと少女も手を伸ばし、握手してくれた。うう~ん、心配になる子ね。そう思っていると天井からぼとぼとと何かが落ちてきた。
「なっ、なに!?」
にゃ~!!
「キシャル!?追いかけてきたの?」
「げ、元気なネコね」
私を心配してきてくれたキシャルはそのあともずっと私の体をてしてしと叩く。
「そんなに心配してくれなくても大丈夫だよ」
にゃ!
「えっ!?アイスをよこせだって?ひょっとしてキシャル…」
「お嬢様の見つける人間は本当に変わった方ばかりですね。大本がそうだからでしょうか?」
「変なこと言わないでよね。アスカって言ったっけ。魔物の言うことがわかるの?」
「あっ、はい。一部だけですけどね。ただ、魔物が本能的にしゃべれる共通語みたいなのがあるみたいで、種族が違ってもある程度までは話せるみたいなんです」
「へぇ~、大発見じゃないの。よくそんなに若いのに気づいたわね」
「私は教えてもらっただけです。熱心な人がいるんですよ」
「そうなの?私も自由に行けたら会いたかったわね」
「時間を見つけていけばいいじゃないですか!」
「…そうね。飛行機でもあれば飛んでいくんだけどね」
「あっ、その人はフェゼル王国の人ですからかなりかかりますね」
「フェゼル王国か…片道で1か月が最低ね。それにしても…」
「???」
そうつぶやくとイリスさんは私の髪を手に取る。
「どうかしました?」
「いいえ、ちょっとね。テレサ、あとどのぐらいで着く?」
「あと、5分ほどでしょうか」
「そう。帰ったらすぐに私の執務室に通せるようにしておいて。この子には一刻も早く必要だわ」
「何かあるんですか?」
「ええ、とびっきりのがね」
「ですが、今日はシャルローゼ様とシェフィールド様との食事の約束が…」
「それなら一緒に取ればいいのよ。アスカはそんなに食べる方?」
「いいえ。おいしかったら大丈夫です」
「分かったわ。そっちの子たちは?」
「アルナはお野菜を。キシャルは焼いたお魚やお肉ですね。どっちかというと肉ですけど」
「焼いた肉でいいの?」
「はい」
「そういう訳だからテレサ。追加の手配もね。あと必要なことと言えば…まあ、着いてからでいいわね」
そして、馬車がゆっくりになるとそこには大きな建物があった。
「わぁ~~~!!大きいです!」
「そう?貴族として最低限のサイズだけどね。他の貴族を迎えられるぐらいの」
「そんなことを言って裏庭はロマンティックなんですよ」
「テレサ!いらないことは言わないでいいのよ」
「ちなみにどんな作りなんですか?」
「アスカも乗らなくていいの!」
「えぇ~、気になります」
「…ちょっと、180°ぐらいの半円形の花畑と噴水とガゼボがあるだけよ」
「そこで旦那様と2人でお茶を楽しまれるのですよ」
「ええ~!?すごく素敵じゃないですか!」
「ま、まあね。ちゃんと庭の手入れもされてるし」
「それも旦那様がご自分でやっていらっしゃるんですよ」
「へ~、貴族の人もそういうことするんですね」
「まあね」
「領主様、お邸に入りましょう」
「えっ!?領主様?」
「あら、知ってたんじゃないの?」
「い、いえ…」
「まあいいわ。ようこそアスカ!私の邸へ」
まだ、ポカンとしている私をよそに、自身の邸をバックに大きく手を広げたイリス様はにんまりと笑ったのだった。
 




