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転生後に世界周遊 ~転生者アスカの放浪記~【前作書籍発売中】  作者: 弓立歩
邂逅 カーナヴォン

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中継地の商売とアラシェル様

「もうすぐ村に着きます。朝も言いましたが明日は早いのでよろしくお願いします」


「わかりました」


その後も馬車は順調に進み、村に着いた。


「ようこそネビス村へ。歓迎します」


馬車が着くと村長さんがあいさつをしてくれた。まだ日も高いから私たちはそのまま村の商店へと案内された。


「わっ!?いろいろありますね」


「明日はまた、夕方までには着くと思いますけど、よかったらどうぞ。保存も効いておいしいですよ」


村の商店では旅の途中で食べられる保存食や、村で作ったであろう細工なんかが並んでいた。


「へぇ~、結構保存食は種類があるなぁ。リュート、これなんかどうかな?」


「これ?う~ん、3日ぐらいだね。もってもそのぐらいかな?」


「リュートが調味液につけたやつは何日だっけ?」


「5日。でも、あれは肉だからなぁ。流石に馬車旅で焼くのはだめでしょ」


「そっかぁ、他の案でもあればなぁ」


「柔らかい干し肉は作れるけどね。ただ、手間がかかるんだよ」


「そ、その話を詳しく!」


ずいっと身を乗り出す商店の人。


「えっと…簡単ですけど難しいですよ?」


「構いません!」


勢いに押され、リュートはたじたじだ。それでも何とか作り方とメモを渡す。


「いいですか?作り方は簡単ですけど、管理だけはしっかりしてくださいね。時間とか状態確認を怠るとすぐに悪くなりますから」


「ありがとうございます」


そんな話の合間にも私は細工物を見ていた。


「こっちのは味がある。こっちのは何の石だろ?ヒスイ?あっ、こっちのはローズクォーツだ!」


結構珍しいし、色味もきれいだ。磨いたらさらにきれいになりそう。


「あっ、お嬢さんはこっちの石がお気に入りですか?」


「はい。在庫ってありますか?」


「削っていなくていいならそこそこあります」


「見せてもらっても?」


「わかりました」


奥から小箱を持ってくると、そこそこの数のローズクォーツが入っていた。


「うわぁ!いっぱいありますね」


「数はあるんですけど、中々加工の手が回らないんです。できる人も少ないし、色々と大変で…」


この村は今の領主様になってから出戻りや新規の農家を迎えているのに加え、せっかく乗合馬車が止まってくれるのだからとこうやって商店を開いている。だけど、慣れない商売と並べる商品をどうするかと村人同士で相談するのにも時間がかかり、そういう時間が取れないらしい。


「じゃあ、これとこれとこれ。あっ!?これも」


私はその中から良さそうなものを選んで買った。でも、価格は銀貨6枚と破格だ。なんでも、ちょっと河原に行けばいくつか取れるぐらいらしい。毎回ではないみたいだけどね。


「よーっし!これで新しい細工ができる」


「ふ~ん、今度はどうするんだい?」


「ペンダントですかね?一番見栄えもいいと思いますし」


他にも大きいものは置物にもできそうだと思いながら、マジックバッグに入れる。


「ありがとうございました~」


笑顔の店員さんと別れ、今日の宿に向かう。


「いらっしゃいませ。切符をお持ちですか?」


「持ってますけど…」


「では、銅貨5枚の割引で夕食付大銅貨1枚と銅貨5枚です」


「割引があるんですね。ありがとうございます」


馬車旅はそれなりにお金もかかるけど、こうやって立ち寄る町の宿で切符を見せるとどこでも割引が効くらしい。う~ん、ほんとに考えられてるな。


「さあ、今日は早く寝なきゃ。その前に…」


せっかく買ったローズクォーツを一つだけ細工してみる。ペンダントネックレスの案は以前からいろいろ考えていたので、その中の一つを使った。


「ふぅ、これで今日はよく寝れそう。そうだ!せっかくだし、アラシェル様にも見てもらおうかな?」


そして私は祭壇を取り出すとローズクォーツをそこに置いて眠るのだった。





「アスカ…アスカ…起きなさい」


「う、う~ん」


呼ばれた気がして目を覚ます。そこには真っ白な空間が広がっていた。


「ここは?」


「アスカ、久しぶりですね」


「アラシェル様!お久しぶりです。さっき作った細工を見に来てくれたんですか?」


「細工?ああ、実に見事ですね。ですが、今日はそれとは別の用事があってきたのです」


「別の用事ですか?」


「はい。あなたが知りたがっていたミネルナという存在についてです」


「ミネルナ…ああっ!?前にいた村のことですね!うれしいです、ずっと調べていてくれたなんて」


「前に?えっと、今はどこにいるのですか?」


「今はネビスという村に滞在してるんです」


「ネ…ビス?」


しばらくアラシェル様は固まっていたが、思い当たることがあったのか相槌を打った。


「ああ、そこですか。まあ、滞在先は変わっていますが、非常に面白い情報ですよ」


「そうなんですね!教えてください」


「はい。では…」


コホンと軽く咳ばらいをしてからアラシェル様は話し始めた。


「まずミネルナという存在についてですが、彼女は湖畔の精霊です。割と古くから存在している精霊で、当時は中級の存在でした。ですが、今はぎりぎり精霊であることを保っているような環境に置かれています」


「えっ!?村ではかなり信仰されていたみたいですけど、そんな状態なんですか!?」


「はい。というのもあの村の人口はあまり多くなく、集まる信仰自体が少ないのです。それでも以前は、名前が示す通り、湖畔に村人が集まって儀式を行っていたため、高い信仰心を集めることができていたのです」


「湖畔?あの村にはそんな場所なかった気がしますけど…」


「実は森側に進んだところにあるのですよ。ところが、魔物の影響と長年の時間経過により、その場所を知る手立てが失われてしまったのです。ただ、村人たちはそれでも信仰を忘れず今でも村の中で祈っているため、いまだ精霊のままだということです」


「そうだったんですね。今度行くことがあったら村の人に教えなきゃ」


「力になれてよかったです」


「いつもありがとうございます!」


「いいえ。それで一つだけお願いがあるのですが…」


「なんですか?」


「私にも笛の音を聞かせてくれませんか?」


「あ~、えっと…」


最近ちょっと練習サボってたからな。う~ん、どうしようか?


「別にミスしても構いませんから!舞も祈りもよく見ることはありますが、まだまだ音色を聞くことは少ないのです」


「そういわれると…わかりました。頑張ります!」


私は魔笛を取り出すと、魔力を乗せて吹き始める。ん~~~?そういえばどうして魔笛が取り出せるんだろう?まあいっか!


~~~


少し吹く間隔は空いていたが、何とか大きなミスもなく1曲を演奏し終えた。


「ちゃんと吹けましたね。ですが、満足せずちゃんと練習するのですよ」


「は、はい。申し訳ありません」


「謝らなくても良いのです。アスカは忙しいのですから。ただ、やろうと決めたのであればやり切った方があなたには合っていると思うのです」


「…そうですね。これからも頑張るようにします」


「それではあまり長く時間も使えませんので私はこれで失礼します。これからも見守っていますよ」


「はい。また会いましょう、アラシェル様」


こうして久しぶりのアラシェル様との邂逅を私は終えたのだった。




「アスカ~、もうすぐ出発だぞ~」


「はっ!?ここは…」


「アスカどうしたの?今日はいつもに増して寝起きが悪いけど…」


「アラシェル様とお話ししてたの。もう出発する時間?」


「少し時間はあるけど、ご飯を食べる時間はないかな?」


「そんなぁ~」


「お、落ち着いて。馬車の中でも食べられるから」


「何があるの?」


「干し肉かな?流石に野菜は食べられないでしょ」


「ううっ、しょうがないかぁ~」


ちゃんとした朝ごはんは食べたかったけど、アラシェル様に会うこともできたしそれで良しとしよう。


はむはむ


「アスカ、おいしい?」


「うん。ちょっと硬いけど」


「そりゃあ干し肉だしね」


ピィ


にゃ~


「アルナとキシャルもどうぞ。アルナはこっちのブレンドね」


アルナには野菜と残っていた乾燥薬草を混ぜたものを、キシャルには私と同じ干し肉を水でもどして、味を薄めたものをあげている。


「ふたりともごめんね。私に合わせてくれて」


ピィ!


にゃ~


いいよと言ってくれるアルナと、全くだとあきれながら答えるキシャル。真逆の意見をありがとう。


(全く、それぐらい待ってなさいよ)


にゃ~!(あなたは目立たないようにしないと、って先に食べてたでしょうが!)


(しょうがないでしょう。人前で話せないんだから)


にゃ~(こんな時だけ…)


「あら?そこの置物に反応してるのね。何かあるのかしら?」


「あはは…なんでしょうね」


完全に置物と化したティタは涼しげだ。そして、そのまま進んで次の村へ。


「こんにちは、ディスティ村へようこそ」


この村でも同じように歓迎された。ただ、こっちの村では翌日にクレーヒルに着くということで、簡単な食材などしか置いてなかった。まあ、明日領都に着くのにわざわざ村では買わないよね。ちなみにクレーヒルの周辺にある一日で行ける場所は全て村なんだとか。領地の設計としてそういう感じにしてあるんだって。


「今日泊まったらクレーヒルだし、買うものがあるかなぁ?」


そう思いながらちらちら見ていると目に留まるものがあった。


「これってシャルパン草ですか?」


「ええそうよ。うちの村ではたまに煎じて飲んでるの。苦いけど効く気がするのよね」


「あっ、えっと…」


シャルパン草って薬草的な効果はないんだけどな。まあ、村の知識なんてこれぐらいだろうし、飲んだっていう事実が重要なこともある。


「これって結構採れますか?」


「ん~、そろそろ終わりの季節だけど、まだ取れるわね」


「じゃあ、ここにあるの全部ください!」


「全部!?大丈夫なの?」


「はい。私も村にいる時はちょっとだけ薬師のまねごとをしてまして。それで少し当てがあるんですよ」


「では袋ごと持って行ってください」


「ありがとうございます!」


お姉さんから袋ごとシャルパン草をもらう。よ~し、今日の夜のうちに乾燥させちゃおう!本を書いた人を捜すのに時間もかかるだろうし、クレーヒルでしばらく滞在する間にアイスを堪能するのも悪くないかもしれない。そう思いながら宿へと向かった。




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