運命の地へ
「ん~、昨日も良く寝た~」
ピィ
「あっ、アルナおはよう。キシャルはまだ寝てるか」
「アスカおはよう」
「おはようリュート。ジャネットさんは?」
「向こうで素振り中。朝ごはんはもうできるから待っててね」
「分かった」
あれから数日。ちょっと魔物に出遭うぐらいで、私たちの旅は順調の一言だった。やや狭いながら街道沿いっていうのも大きいと思うけど、思ったよりこの国の治安はいいみたいだ。
「いただきま~す」
「どうぞ」
「今日もいい匂いしてるねぇ~。…お代わり」
「ジャネットさん、早いですよ」
「軽く運動済ましてるからね。その分その分」
笑顔でそういいながら2杯のお代わりをするジャネットさん。もうもらった野菜もないし、その辺の魔物の肉ばっかりでバランス悪いのになぁ。
「ん?どうした」
「いいえ、お野菜が少ないからそんなに食べると体に悪いと思って」
「いいんだよ、あたしは前衛なんだからそれなりに筋肉も維持しないとね」
「でもちょっと痩せましたよね。一時期から」
「まあね。別に力で勝負するタイプじゃないし、頑張っても魔力が低いから結局、ゴーレム系には対して何もできないしねぇ」
役割をはっきりさせただけだときっぱりというジャネットさん。う~ん、ここまで言い切れるなんてやっぱりすごいなぁ。
「そんじゃ、今日も進むか。明日には領内に入るんだろ?」
「そうですね。領内に入ったらひたすら大きな街道を進めば領都に着くそうですよ」
「わかりやすくていいね」
「領主が変わったのを機に流通路が整備されたみたい。領都からもまっすぐな道が主要な取引先の領地に向かって伸びてるんだって」
「へぇ~、やり手の領主じゃないか」
「しかも、女性領主だって言うんですよ!珍しいですよね」
「確かにねぇ。前のやつはよっぽどひどかったのかね?」
「どうなんでしょうか?今は平和みたいですし、期待しましょう!」
「期待って何かあるの?」
「リュート知らないの?カーナヴォン領は一大穀倉地なんだよ。上質の小麦から野菜までいろんな種類がそろってて、最近は珍しい食材も扱いだしてるの!」
「調味料にも珍しいのがあるってだけかと思ったけど、そんなに色々あるんだ」
「うん!楽しみだなぁ」
ピィ
にゃ~
アルナに続いてキシャルも珍しいものが食べられるかもと返事をする。やや薄味好きのキシャルも味付けは色々楽しむタイプだ。まだ流通が始まっていないものもあるかもと楽しみなのだろう。
「さあ、それなら進まないとねぇ」
「ですね。じゃあ、行きましょう」
そして進んでいくと、護衛付きの乗合馬車とすれ違った。
「なんか、さっきすれ違った乗合馬車、しっかりしてましたね」
「方向からしてカーナヴォン領の馬車みたいだね」
「ちょっと大型の馬車でしたし、反対側のカーナヴォン行きなら僕らも乗ってもいいかもしれませんね」
「いつもなら歩くけど、依頼も中々ないしたまにはいいかもねぇ」
結局、私たちはあれからいくつかの町を通ってきたけど、あんまりいい依頼がなかったので受けずじまいだ。討伐依頼もあるけど、地方限定だったりで道中にはなかったのだ。
「それじゃあ、今度見つけたら乗りましょうね。そうと決まればアルナの分の食事を確保しておかないと!」
近くにあった林の方に足を向け、生えている薬草を回収する。冒険者はわざわざこういうところに入ってまで取らないし、さっきみたいに乗合馬車が発展しているところの薬草は誰も取りに来ないので、こうして簡単に見つけることができる。
「およっ?珍しく、ルーン草も生えてる。ゲットだ~」
多くの薬に使われる貴重なルーン草もゲットして、1時間ほどでかなりの収穫をした私は満足顔で、休んでいたジャネットさんたちと合流する。
「気が済んだかい?」
「はい!いっぱい薬草生えてました」
「そいつは良かったね。リュート、そっちはどうだい?」
「問題ありません。奥からも来ないみたいなので、いつでも出れます」
「それじゃあ、このまま出発だね」
ピィ
私が薬草を摘んでいる間も、ちゃっかり周辺の草を食んでいたアルナが反応する。
「アルナ、食べすぎはだめだしもう行くよ。キシャルも起きて」
にゃ
キシャルはというと私が薬草を取っている間、これ幸いと草をベッドにだらけていた。
「起きなさい!行くわよ」
ちょっと時間かかるかなと思ったら、ティタが水鉄砲でキシャルを起こしてくれた。
ふにゃ!?
「早くしなさい。でないと、もう一発当てるわよ」
しょうがないなぁとひょいっとジャネットさんの肩に乗るキシャル。
「わっ!?お前濡れてんだから先に乾かしてもらえよ。アスカ、頼む」
「は~い」
温風ですぐにキシャルの体とジャネットさんの肩口を乾かして出発する。その日はそのまま進み、野営地に無事着いた。
「この辺も結構整備されてるね」
「近づくたびにこういうところ増えてますよね。治安がいいんですね~」
「安心できるよね。設備もあるし」
「そうだよね。今日はかまどもあるし」
火おこしに使う器具はさすがにないけど、ちょっと薪の残りがあったりもするし、もしかしたら定期的に補充してくれてるのかもしれない。
「今日はどうするの?」
「う~ん、アスカには申し訳ないけどオークステーキかな?」
「全然大丈夫だよ。野菜も切れちゃったし、スパイスの残りってまだあるんでしょ?」
「そっちは大丈夫。多めに作ってあるし、毎回そこまで使うものでもないしね」
「あたしは今日はどうしようかな?」
「えっ!?ジャネットさん食べないんですか?」
「んな訳ないだろ。いやさ、あそこに良さそうな葉があるからね」
ジャネットさんの指さした先には大きな木があり、冬だというのに緑色の葉がついていた。
「あれだと、スパイス系との匂いの相性がね。まあ、折角の機会だし今日は自分でやるか」
ジャネットさんはリュートから肉を受け取るとサッとナイフで枝を落として、ちぎった葉で肉をくるみ火の上に置く。私はその横に鉄板を置いて、リュートと自分の分の肉を並べた。
パチパチパチ
「もうちょっとかなぁ」
「そうだね。僕らのはあと少しだね」
「あたしはもう十分だな」
一足先にジャネットさんの方は肉を木の皿に移す。
「大丈夫ですか?結構な塊だったと思いますけど」
「このまま置いときゃ、余熱で芯まで通るからね。待ってる時間も楽しいもんさ」
「そういうことですか。じゃあ、私たちはお先にいただきますね」
にゃ~
「キシャルのはこっち。これ、味濃いよ?」
キシャル向けのはやや厚切りの肉を両面焼いたウェルダン仕様だ。スパイスの味が濃いから、軽い味付けにしたのを焼けるたびにあげている。
「アスカ、これナイフとフォーク」
「ありがと。いただきま~す」
おいしく焼けた肉をリュートと二人で食べる。その横ではアルナが周辺の草を、ティタは近くにあった良質の岩を食べている。この大陸には来たことがないらしく、こうやって気に入った岩がないか調べているのだ。
ガリガリッ
「そんなにこの地方のはいいの?」
「はい。多少の魔力も含んでいますし、土壌もいいです」
ティタってもしかしたら、荒れ地や砂漠の緑化に向いているのかもしれない。そんなことを思いながら食べ進めていると、ジャネットさんの肉にも火が通ったらしく、葉を開いていた。
にゃ!?
「なんだ、キシャルまだ食うのか?ちょっとだけだぞ。ソースはまだかけてないしな」
軽く塩を振っただけのステーキのような肉塊を切り分けて、キシャルの前に置くジャネットさん。キシャルは尻尾を振りながらサッと口に含む。
「どうだ、美味いか?」
にゃ~~~
満足そうにその場で伏せるキシャル。あれはそのまま寝る気だな。
「キシャル~、寝る前にテントに行ってきなさい」
にゃあ~
しょうがないなぁと思いつつも、ちらりとティタの方を見てからテントに歩いて行くキシャル。今日の水鉄砲が効いているんだな。
「やけに素直だね」
「今日、水をかけられたのが効いてるんですよ」
「ああ、それで。おっと、冷める前に食べちまわないとな」
ジャネットさんの肉はローストビーフというには火が通っていて、中まで白っぽい。まあ、魔物が出る旅の途中で当たったりすることを考えたら正解だけどね。植物の匂いとソースの香りが広がってとってもおいしそうだ。
「ん、食べるか?」
「ひ、一切れだけ」
そんなわけで一切れもらったけれど、とてもおいしかった。ジャネットさんの料理は難しい手順はないのにおいしいから不思議だ。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
今日は珍しく私が2番目の見張りだ。久しぶりだから頑張らないとな。2番目は3番目の人と変わった後がしんどい。うまく寝れない時があるからね。
「アスカ、交代だよ」
「ふぁ~い」
ゆさゆさとゆすられて起きる。そして、交代した後はちょっと伸びをしてから、数日ぶりに巫女服に着替える。
「この辺は安全だし大丈夫だよね。新しい巫女服ってやっぱり気合が入るなぁ」
スッスッと袖を振りながら回る。そして、準備運動が終わったところで舞を始める。
「明日はいよいよカーナヴォン領に入ります。よい出会いがありますように」
そんな気持ちを込めて私は1時間ほど舞ったのだった。
 




