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プチ滞在

無事に2つ目の村での宿泊を終えた私たち。今何をしているかというと…。


「リュートそっちはどう?」


「反応なしだね。向こう側かも」


絶賛村の周囲の警戒中だった。時は遡り、昨日の夕方過ぎ。オークも引き渡し食事も終えのんびりしていると村長さんがやって来た。


「ゆっくりしているところ申し訳ない。オークを売ってもらいありがとうございました」


「いや、あのぐらいなら大したことないよ」


「そこでお願いなのですが明日、村の周囲を警戒していただけないでしょうか?」


「警戒?討伐じゃなくてかい」


「はい。この村では十分な魔物対策がない代わりにたまに来られる冒険者に周囲を警戒してもらっています。おかげでしばらくの間は魔物が村に寄り付かないようになるのです」


「まあ、腕のいい奴が警戒するとそうかもしれないけど、代金は?」


「銀貨3枚でどうでしょうか?」


「一泊分ですね」


「倒した魔物を買い取ってくれるならいいよ」


みんなで相談した結果、この内容で落ち着いた。こうして今は村の東と西で2回に分けて魔物を警戒しているのだ。今は西側を回っているので、出てくるとしたらオーガかオークだ。村から1時間ぐらいのところまでを集中的に動く。こうすれば、ここから村までの間を警戒して、しばらくは魔物が近寄りにくくなるって寸法だ。


「ジャネットさんそっちはどうですか?」


「ん~、あたしのわかる範囲にはいないね」


北西を警戒する間は全く反応がなかったんだけど、西方面に動き出してすぐに反応があった。


「数4、おそらくオークです」


「よしっ!リュート、囮頼む」


「分かりました」


魔物に気づかれる役目はリュートに任せて私たちは木の陰で待機する。ちなみに旅に出てから知ったんだけど、囮役は弱い人間ほどいいらしい。なお、ジャネットさんの姿を見るとゴブリンとかは逃げ出すこともあるから、最近はリュートが大体囮役になっている。


グヲォ


リュートに気づいたオークたちが早速、数を頼りに迫ってくる。


「3,2,1,ゼロッ!」


私は上空に待機させていたウィンドカッターを垂直に降ろす。狙った3体の内、2体の頭を貫く。先頭を切っていた2体が倒れたため、後ろの2体が何事かと動きを止める。


「そっち任せたよ」


「はいっ!」


残った2体の内、後ろにいたオークをジャネットさんが、もう1体はリュートが槍を投げてとどめを刺した。


「まあ、こんなところかね。んじゃリュート、1体だけ解体頼むよ」


「残りはやらないんですか?」


「村に引き渡すのに解体は苦手って言ってあるからね。マジックバッグに放り込んどきな」


「分かりました」


リュートと私のマジックバッグにオークをしまい込む。そして次のポイントに…。


「あっ…」


「どうしたアスカ?」


「多分オーガです。匂いに気づかれましたね」


どうやら解体中の匂いにつられてオーガが誘われてきたらしい。数は…。


「げげっ」


「どうしたのアスカ…ああ…」


リュートも感知できたらしい。オーガは森だと集団で行動することもある。普段はほとんど固まらないんだけどね。


「どうしたんだい2人とも?」


「多分8体はいます」


「そりゃまた。で、持ち帰るのかい?」


「ええっ、オーガですよ。何に使うんですか?」


「まあ、食べられなくはないね。硬くて味はないけど」


「食べたことあったんですね」


「オークの肉でも十分な収入になってた頃にね。あんだけ苦労して倒したオーガの牙と角だけ取るなんてもったいないって食べたけど、どうにも硬くてね」


「それより配置につかないんですか?」


「リュート、配置って言ってもね。相手の数からしたら正面切った方がましだよ」


オーガは物理に強く、ランク高めのパーティーでもケガをすることが多いので、数も考えてまとまって戦うことにした。


ガァァァ


こっちを見つけたオーガが一気に襲ってくる。みんなまとまってくるところを見ると弓使いはいないようだ。


「弓使いなしと思われます。一気に行きます」


「了解、正面頼んだよ」


「はい!嵐よ、敵を切り刻め!ストーム」


手のひらから前方に嵐を起こし、3体を巻き込む。それを避けた残りのオーガにジャネットさんたちが向かう。


「私はこっちかな」


左に避けた2体のオーガに対してやや距離を保って対峙する。こっちは魔法であっちは物理。どちらも一撃が致命傷になるのでじりじりと時間が過ぎていく。


ガァァ


耐えきれなくなったオーガがこっちに突進してくる。それを見たもう1体も一気に距離をつめる。


「甘いよ!アースグレイブ」


靴をコツッと鳴らすと、ブーツにかかっている地属性の魔法を発動させる。


ドス


先に動いてきた方のどてっぱらに土の槍が刺さる。さらに向かってくるオーガにも私の方から近付いて同じように倒す。


「ふぅ、そっちはどうですか?」


「こっちも片付いたけど…なんで単独行動なのさアスカ」


「へっ!?ああつい…」


薬草が欲しい時とかたまに一人で依頼を受けてる癖が出ちゃったな。


「ごめんなさい」


「ま、何事もなかったからいいけどね。それより回収するよ。ああ、面倒だけど牙と角だけは分けとくか。流石にそれぐらいはしとかないとね」


素材を取ってオーガをマジックバッグにしまい込む。う~ん、実は初めてじゃないかな?いっつもそのまま埋めてたし。とりあえず、オーガのせいでバッグの残りが怪しくなったので、一旦村に帰る。


「おおっ、どうされました?もう西側は回られたのですか?」


「いや、ちょっと中身が一杯になりそうでね。解体場に案内してくれ」


「分かりました。ついでに解体が得意なものも連れてまいります」


「頼むよ」


村長さんが解体場につくと隣に2人の女の人がいた。


「どうも。私たちが解体をさせてもらいます。昨日のオークも素晴らしい状態でした。村の男たちが倒すと皮が傷だらけで…」


「オークの皮を使うんですか?」


「はい。冒険者の人たちは捨ててしまいますが、オークの皮もバッグや袋に加工できるんですよ」


「へ~、そうなのかい。買取には上がらないけどね」


「まあ、手間がかかるので。それに冒険者さんは加工なんてしないでしょうから捨てられちゃうんです」


「まあ、あの巨体に皮もってなったら運ぶの大変だしね」


「実はこの村ではオーガやオークの皮を使ったバッグや、オーガの革鎧なんてものも作って売ってるんです。なので冒険者さんにお支払いするお金があるんですよ」


「そういや村長さんも支払いにためらいがなかったね」


「この東にコードレルという街がありましてな。そこに売りに行くのです」


「そんじゃ出していくかね。ただ、スペースがね…ま、とりあえず置いていくか」


4体ほどしか置けるスペースがなかったのでオーガ4体だけ置く。


「オーガですか…それもこんなに。いい腕の方たちですな」


「私たちも腕が鳴ります。村の主食ですからね」


「やっぱりオーガ食べてるんだね」


「はい!オークは油ばかりのところを除いて干し肉なんかにして売れるんですが、オーガはろくに肉が売れないので村で消化してるんです。オークの油に付けて煮てやるとそれなりに美味しいんですよ。日持ちもしますし」


「へ~、そんな消化方法があったんですね」


「あまり聞きませんからもしかしたらうちの村だけかもしれないですけどね」


そう話しながらこっちをちらちらと見るリュート。保存食マニアの血が騒ぐんだね。解体の間に村の人に作成の工程を見せてもらうことになった。こっちからは干し肉の美味しい漬け方と、臭みを消して香ばしさを上げる香草の調合を教えることになった。


「だから、この香草とこれを合わせるんです。普段は自然乾燥させるんですが、今日は魔法使っちゃいますね」


私は風と火の魔法で乾燥させた香草をゴリゴリと混ぜていく。


「後はこっちのを混ぜてさらに乾燥させると完成です。色んな肉にも使えますし、ちょっと匂いの強い魚にも合いますよ。じゃ、残りはお姉さんが」


「え、ええ。でも、ここまでやったらあなたがやらないの?」


「私、特異調合持ちなんで普通の材料だと失敗しちゃうんです」


「ああ!あなたもあのスキル持ちなのね。昔この村にもいたのよ。その人も女性だったけど調合は諦めて村でも珍しい女狩人をやってたわ」


「大変なんですよね。普通の調合材料だとまず成功しませんから」


「みたいね。その人も狩人をやめてからはよく愚痴ってたわ。弓使いで器用さも高いのにへたくその調合を見てるのが辛いって」


そんなこんなで無事にオーガ肉の利用方法を覚えたリュート。今度からはオーガも食材になりそうだ。ただ、大量の油がいるのがネックだけどね。とりあえず、今回のオーガに関しては食材の残りがあるので全部村に売ってしまった。


「牙と角は良いのかい?」


「ええ、我々の村では魔法矢が必要なものはおりませんので」


「分かったよ。んじゃ、今日もう一日だけ泊まっていくとするか」


「はいっ!」


その後、村の西側の残りを回って、その日の夕食はオーガの肉を試しに味見した。


「ん~、悪くはない。悪くはないけどこうパンチが…」


何て言うのかな?味付けを忘れたハンバーグというか、醤油と塩の無い煮込み料理のような味だ。臭みが全然なくて食べられる分、逆に味付けの無さが気になってしまう。


「アスカの言いたいことは分かるよ。ちょっと待っててね」


リュートが立ち上がり私の皿を取ると、厨房に持って行ってしまう。3分ほどして戻ってくるとほかほかになっていた。


「別に加熱したぐらいじゃ…はぐっ」


ん?これは…。


「美味しい!どうやったの?」


「醤油と塩コショウをね。流石に村の人もいるから全部にはできないよ。村の収支に影響しちゃうからね」


「しゅうし?」


村単位で食事に興味を持たせたら、経営が成り立たなくなってしまうだろう。僕もジャネットさんもアスカと冒険し出してから食費が上がりっぱなしだから。本人の生活能力が高いからわかってないだろうけどね。そんなリュートの評価も知らずに美味しい食事を食べた私だった。



3話も経つのに街の影も形もない…。

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