報告と砦の意義
「ま、待たせた」
「バルデルさん、息上がっていますよ」
「ぜ、全速力で来たからな。兵士たちはどうだった?何か言っていたか?」
「いえ、バルデルさんが後から来ますって言ったら待っててくれました」
「そうか。すぐそっちに向かうからな」
「アスカ、空の旅はどうだった?」
「すっごく楽しかったです。この子、高いところも好きみたいです」
「そう、よかったね」
「うん」
「あっ、隊長。帰られたんですね。そちらのお嬢さんは?ワグナーに乗っていたようですけど…」
「ああ、ちょっと面倒なことになってな。大隊長はいるか?」
「いますよ。書類仕事も片付いて修練でもやっていると思います」
「じゃあ、この後すぐにつなげるように連絡を取ってくれ」
「…わかりました!」
バルデルさんが真剣な表情をすると、兵士さんもきりっとして交代の兵士さんと替わり中に入って行った。
「君たちは会議室に案内するから付いてきてくれ」
「わかりました。ワグナーまたね!そうだ!アルナ、キシャルも一緒に遊んであげてて」
ピィ
にゃ~
私は従魔たちを置いてジャネットさんたちと砦に入って行った。
「ここを左に行ったら会議室だ」
会議室について少しするとドアがノックされ、指揮官風の人が入ってきた。
「バルデル、どうした?客まで連れていると聞いたが…」
「コールドウェン大隊長!お休みのところ申し訳ありません」
「いや、客人を連れてきたのは見学についてか?」
「いいえ。困ったことになりまして…まずは紹介を」
「あっ、アスカです。フロートというパーティーのリーダーをしています」
「同じくジャネットだ」
「リュートです」
「うむ。このアスパルテス砦責任者の大隊長をしているコールドウェンだ」
「それで大隊長。早速本題なのですが、今日はワグナーを連れて見回りに行きました」
「ああ。最近はワグナーの調子も悪いと聞いていたがどうだった?」
「それが、ポイント5にて急に暴れだし、低空飛行時に振り落とされてしまいました」
「何っ!?あのワグナーがか?先代の時も暴れたという話は聞かなかったが…」
「その件ですが、こちらをご覧ください」
「これは?何かの生物の死がいのようだが…」
「驚かないでください、これはウィースの死がいです」
「ウィース!?あの、寄生生物か!」
「大隊長さんも知っているんですね」
「ああ。この砦の責任者として大型の魔物にはそういうものが取り付く、そういう話は聞いていた。ろくに対処ができないとも聞かされていたがな」
「ええ。私もそう聞いていました。バルディック帝国の飛行部隊ではウィースに寄生された従魔は問答無用で命を断つのだそうです」
「ええっ!?ひどい…」
「ウィースの生態はほとんどが謎で、寄生した生物から移るのかどうかもわかっていない。部隊としては第二、第三の被害が出ないために必要な処置なんだ。ただ、それに対応する部隊のものも辛く、病んでしまうものもいる」
そりゃあ、訓練から実戦までいつも一緒にいる相棒だもんね。でも、確かにあのままワグナーも体を乗っ取られていたら倒すしかなかったしなぁ。
「それはそうと、その件とこの客人たちは何の関係が?」
「実はウィースに操られかけていたワグナーを救ってくれたのがこの方たちなんです」
「ほう?ワイバーン相手にとどめを刺さずにウィースだけとは…うちで働かないか?」
「残念だけど、うちのリーダーは食にうるさくてね。こんな砦じゃ満足できないよ」
「それは残念だ」
「ジャネットさん、悪いですよ。こんな砦なんて…でも、どうしてこんなところに砦があるんですか?」
「ん?ああ、君たちは旅人か。この先にあるレザリークの森から出てくる魔物の監視と討伐が主な任務なのだ。古くはアダマスからの防衛拠点だった頃もあるがな」
「アダマスって西にある連合国家アダマスのことですか?」
「ああ。昔は小国が乱立する地域で、我が国の時の国王が併合しようと戦争を仕掛けたところ、その小国が集まってできたのがアダマスなのだ。そして、連合国家相手に時間をかけてしまった。そんな、西に攻め込んだ我が国の隙を突き東のグレンデル王国が攻めてきて、2国を相手に戦った結果、西側はこの砦付近まで一時は押し込まれたと言う訳だ」
「だから、この砦はその人員に反して、大きいものになっている。便利な部分もあるが、整備は大変でな」
「へぇ~、歴史ある建物なんですね」
「うむ。話を戻すと、ワグナーはウィースに寄生されていたと?
「その通りです。しかも、ウィースの指示で動くようになりかけており、かなり危険な状態でした。そこをこのパーティーに助けてもらったんです」
「ふむ。それでどのようにウィースを?」
「えっと…」
「あ~、あたしらは冒険者だからね。そういうのは貰うもん貰わないと」
「そうだったな。もちろん報酬は出そう。なぁに、バルデルの実家が出してくれるさ」
「バルデルさんの実家ですか?」
「ああ。こう見えてこいつは男爵家の次男坊でな。一族の誰かを従魔と一緒にこの砦に派遣する使命があるんだ。ワグナーも先代の従魔で、それを引き継いでいるからな。助けたと聞けばすぐに支払ってくれるさ」
「まあ、それはそうですが…」
「じゃあ、決まりだね。アスカ、話してやりな」
「はい。それじゃあ言いますね。ウィースは魔物を操る時に魔力を発するんです」
「ほう?今までどうやってあんな大きい魔物たちを動かしていると思ったが、やはり魔力だったか」
「はい。相手の意識を奪って魔力を流し、動かすみたいです。幸い、ワグナーはまだそうなる前でしたけど。だから、ウィースが魔力を流した瞬間を狙えば、位置もわかりますし向こうもそっちに集中してますから楽に倒せますよ」
「そうか。バルデル、お前にこれは任せた」
「何を言ってるんですか、これは大隊長の仕事ですよ」
「どっちでもいいじゃないですか。パッとできますって!」
「…さて、あいつに任せるか」
「そうですね。普段からこの砦で魔法にかけては右に出るものがいないと言ってましたから。訓練プログラムは私が作りますよ」
「まあ、こういう子なんでね。あとはそっちに任せるよ」
「できたらな。それと大隊長、ちょっと困ったことが…」
「困ったこと?」
「ワグナーが暴れた先に、商人の商隊と冒険者たちがいたんです。被害は出ていませんが…」
「それは不味いな…何とか見回り中に緊急の任務が発生したためとしておくしかないな」
「きっと、ドロデア伯爵の手の者ですよ!ウィースなんて大型の魔物が少ないこの砦に出るはずがない!」
「落ち着け、バルデル。証拠がないだろう」
「ドロデア伯爵?」
「この地方の南西に位置する伯爵家だ。この砦はベルヌール子爵領に属しており、レザリークの森の管理も子爵家の管轄だ。人の出入りはもちろん、こうして魔物が森から溢れないように監視している。それだけなら伯爵もどうということもないのだが、このレザリークの森には希少な薬草も生えており、それを狙っているということだ」
「話は分かるけど、そんなに重要なのかい?」
「うむ。それに伯爵家も一部は森に面していて、魔物への対応をするが森の管理権は持たない。それを苦々しく思っているのだろう」
「それでそんなことまでするんですか?」
「これを理由に子爵家から管理権を奪いたいのだろうな。格下の家に管理されているのも我慢ならないのだろう」
「許せないですね!そんな理由でワグナーを。ぐぬぅ、私がドラゴンでも従えていたら邸を襲撃するんですけど」
「怖いことを言わないでくれ」
「全くだね。本当にやりかねないから困る」
「取り合えず、バルデル。お前は報告書を書くことが先決だな。俺もチェックするから頑張れよ。そうだ!君たちは時間はあるか?」
「まあ、あると言えばありますけど…どうしたんですか?」
「さっき言った通り、報告書はこいつに書かせるんだが、内容の確認もしたい。それに最後には君たちのサインも欲しいんだ。俺たちだけで書いて出した報告書ならいちゃもんをつけてきそうだからな」
「大事な報告書なのに文句を言うなんて…ジャネットさん、協力しましょう」
「はいよ。でも、ちゃんとした部屋はあるんだろうね。ほら、アスカはこんな身なりだし」
「もちろんだ。ここは重要拠点でもある。視察に備えてそういう部屋も用意してある。少し待っていてくれ」
そういうと大隊長さんは外に一度出て、見張りの人に告げて帰ってきた。
「とはいえ、予定はなかったからな。用意させている間、バルデルに砦を案内させよう」
「いいんですか?」
「ああ。ワグナーの件でここまで尽力してくれた友人への礼だ。案内を頼むぞ」
「はっ!」
おおっ!本物の敬礼だ。かっこいい~
「アスカ、バルデルさんを見てどうかした?」
「ううん。敬礼がかっこいいなって、やっぱり軍人さんだね」
「そっか。僕もやってみようかな?」
「リュートが?変だよ。大体誰にするの。私は…変だし、ジャネットさんかなぁ?」
「なんであたしなんだよ。縁起でもない。規律だの規則だの苦手なんだよ」
そうかなぁ?ジャネットさんって朝とかも強くて、今日はどうするって判断も早いし、向いてると思うけどなぁ。と、思ったがつい先日、私もリュートも気になっていることをリュートが聞いて怒られていたので黙ったおいた。私は学べる子なのだ。
「それでは案内しよう」
バルデルさんの後に続いて私たちは会議室を後にした。




