3人の旅立ち
「お~い、アスカ起きろ」
「ふぁい…」
朝早くからジャネットさんに起こされる。外を確認するとまだ薄暗い。
「ええっ…今日ってそんなに早く出かけましたっけ?」
「まあね。すぐに飯食って出るよ」
「は~い」
荷物もまとめるように言われ、寝起きのままパパッと片付けて朝ごはんを食べる。
「う~、ちょっと冷えるなぁ」
「そうだね」
「あれ?リュートも朝早い理由を聞いてないの?」
「うん。朝早くに部屋に来たと思ったら用意しろって言われただけ。そういえば、リックさんはいなかったな?」
「昨日2人でダンジョンの打ち合わせしてたからもう何かやってるのかも」
「そっか、そうだよね」
にゃ~
ピッ
2人もご飯を食べながらなんだろうね~、と言っていた。
「さあ、飯も食べたし行くよ!」
「行くってどこにですか?」
「アスカの行きたいとこだよ。えっと…なんて言ったっけ?」
「カーナヴォン領ですか?」
「そうそう。そこに行くんだよ」
「えっと、リックさんは?」
「ん?ああ、別に行き先が一緒だっただけだし、リックもここのダンジョンでしばらく行動するんだってさ」
「そうなんですか…」
一抹の寂しさを覚えたものの、向こうだって旅の最中なんだ。そう思い宿を出た。
「ん?ジャネット」
「げっ!もう帰ってきたのかよ」
「ジャネットさん?」
リックさんをみて焦るジャネットさんを不思議に眺める。
「あ、いや~、あたしらな、別に目的地があるからそんじゃな」
「おっ、おいっ!ジャネット、昨日の打ち合わせじゃ、どっか適当なパーティーと組むって言ってただろ?こうやって捜してきたのに…」
「リックさ~ん、早くいきましょうよ~」
リックさんの後ろからした声の方を見ると、女性二人と大柄な男性一人がいた。どうやら、この3人と一緒に今からダンジョンに潜るみたいだ。
「リックは今からダンジョンだろ?それじゃあな~」
「おい!せめて再会の約束でも…」
「あん?そうだね~、1か月…は無理か。1か月半か2か月後には多分戻ってくるよ。ほら、行くよアスカ」
「えっ!?あっ、はい」
ジャネットさんに促されて私はあわてて返事を返す。そしてそのままその場を離れてしまった。宿の前を離れる時にはリックさんが大きな声で『絶対待ってるからな~』と返事をしていたのが印象的だった。
「あの…ほんとによかったんですか?」
「い~のい~の。大体、リックに事情を説明する訳にもいかないしねぇ」
何ともないと言いながらドンドン道を進んでいくジャネットさん。平気なのかな?
そして、しばらく進むと前に魔物がいるのがわかった。
「リッ…リュート!奥を」
「はっ、はいっ!」
「こっちは任せてください!」
相変わらず出てくる魔物といえばDランクまでの魔物だったので、問題なく討伐できた。そして、今日の休憩場所に着く。
「ちょっと、薪とか集めてくるよ」
ジャネットさんが薪拾いを申し出てくれたので、私はリュートと一緒にテントを張ったり、夕食の用意を始めた。
「ねぇ、リュート。ちょっと今日のジャネットさんおかしかったよね?」
「そうだね。口ではああいってたけど、やっぱりリックさんとのことが気になってるんだよ」
「そっかぁ。悪いことしたなぁ。別に一緒でもよかったのに」
「まあ、アスカのこともあると思うけど、自分のこともあると思うよ?」
「へ?」
「ほら、ジャネットさんってアルバの宿にいる時でも、別にいつもアスカと一緒って訳じゃなかったでしょ?」
「うん、そうだね。宿は一緒だけど、ジャネットさんは王都にも行くし、私も宿の仕事があったりしてたまたま昼とか夕方に一緒だったらご飯を食べるぐらいだったかなぁ?」
「町にいてもさ、この前みたいに情報収集とかで別行動も多いし、多分リックさんとの距離感がわからないと思うんだよね」
「距離感?」
「うん。この大陸についてから大体リックさんと一緒だったでしょ?そういうことって前にいたパーティーの時以来だったんじゃないかなぁ」
そうぽつりとリュートが漏らす。ジャネットさんの前のパーティーは駆け出しの頃からの付き合いだし、リュートの言う通り、部屋だって節約のために一緒だっただろうから、それ以来なのかもしれない。
「じゃあ、やっぱり一緒の方がいいんじゃないかなぁ」
「そうでもないんじゃない?一度、距離を置いた方が理解が深まることもあると思うよ」
「う~ん。私には無理かも」
「その辺は人それぞれだよ」
「なぁ~にが、人それぞれだって!」
「ジャネットさん!」
「なぁ、リュート。飯の用意が途中なんだけど、そんなに時間がかかるのかねぇ?」
「あっ、すみません。つい話し込んじゃって…」
「別にいいけど。その分、今日は豪華にしてくれよ」
「わかりました」
今日のスープはまだ作成途中。ジャネットさんに言われた通り、肉をふんだんに使ったものになった。少しの粉末スープの素に塩漬け肉を投入したポトフのような鍋料理になった。
「うん、うまい!こりゃあ、お代わりしないとな」
「ジャネットさん、明日の朝も兼ねてるんだからほどほどにしておいてくださいよ」
「なんだ。別に明日は明日で作りゃいいだろ?」
その言葉に諦めたのかリュートもお代わりをしていた。翌日…。
ピィ~
にゃ~
「なんだよお前ら」
朝ごはんを食べ終わると、再び歩き始めたジャネットさんの肩と頭に乗るキシャルとアルナ。2人も昨日からちょっとおかしいジャネットさんを心配しているのだろう。
「寂しいですか?」
「ううん、いい子たちだなって」
ひょっこり袋から顔を出したティタに尋ねられてそう答える。そのまま何事もなく進み、15時ぐらいには村が見えた。
「今日はこの村に泊めさせてもらいませんか?変に野宿するよりいいと思うんです」
「まあ、魔物も弱いけどそれもいいかもねぇ」
「じゃあ、門番の人に言ってきます」
リュートが門番の人に近づいて、村に入れるか交渉する。
「大丈夫だって。ちょっと宿はないけど冒険者とか商人用の小屋があるんだってさ」
「やったぁ!」
野営は野営で楽しいけど、やっぱり家がいいよね。というか、旅の最中って意図しなくても野営になるしね。
「ちょっと待ってなよ」
門番さんが案内係を連れてきてくれて、小屋まで案内された。
「ここになります」
「ちょっと小さいけど立派なつくりですね」
「ははは、商人を泊めることもありますからね。こういった村にやってきてくれるのはありがたいですから」
「そういえば、街道沿いでも道が整備されてないところは来てくれないって言ってました」
「そうなんですよ。ここは一応街道沿いではありますが、急ぐ商人などは見向きもしませんし」
「大変ですね」
「お父さん、お祈りの時間だよ~」
「おおっ!もうそんな時間か、では失礼します」
「お祈り?」
「ああ、この村はミネルナ村といいまして、ミネルナ様を祭っている村なんですよ。毎日夕暮れ時に祈りをささげる習慣がありまして。それでは」
簡単に村の説明をしてくれたおじさんは呼びに来た少女と一緒に帰って行った。
「ミネルナ様かぁ~、いったいどんな神様なんですかね」
「どうだろうね?村の名前ってことはここだけでの信仰でしょ。あんまりすごい存在じゃないのかも」
「リュートの言う通りだな。でも、ずっと信仰されているなら元は何か力のある存在だったのかもな」
「今度アラシェル様に会ったら聞いてみようかな?」
「そういえば、最近は会ってないの?」
「う~ん。アラシェル様もやっぱり神様になったばかりだからなぁ。無理すると力が減っちゃうみたいだし」
「神様も大変なんだね」
「そうみたい。あっ、ちょっとほこり積もってるね」
「まあ、急に来たし遅い時間だからな」
「それじゃあ、簡単に清掃しちゃいますね。ティタと一緒にやりますからちょっと出てもらえますか?」
「わかったよ」
2人には出てもらい、ティタが水魔法を使って私が風魔法で水滴に付いたほこりごと窓から放り出す。
「このぐらいかな?ティタどうかな?」
「う~ん。少し、下の方に残ってますね」
「そっか、じゃあもう一回お願いね」
ティタと私では視点が違うので、2人で見ればばっちりだ。
「掃除終わりました~」
「はいよ~」
「ご苦労さま、アスカ」
掃除も終わったので、みんなが入ってくる。すると…。
ピィ!
「えっ!?天井近くが汚れてる?そっか~、上の方はどっちも見えないもんね」
しょんぼりして再び出てもらい掃除をし直す。
にゃ~
「あっ、キシャル!せっかく上まできれいにしたのに…」
今度はきれいにしたタンスの上にキシャルが登ってしまった。出ていく時にまた掃除しないと。
「それより、この部屋だけど、ベッド2つだけだね」
「それじゃあ、僕が下で寝ますよ」
「いいの?」
「流石にこのメンツでベッドとは言えないよ。それにスペースはあるから寝袋とかを敷けば普通だよ」
「そうそう、リュートに遠慮なんてしてないで寝ればいいさ」
「それにしてもそこそこいい物件ですよねここ。ちゃんとキッチンもありますし」
「冒険者も泊まるって言ってたし、討伐依頼を頼む時用にしっかり作ってあるのかもね。商人だと1泊するぐらいだろうし」
「まあ、それよりどうする?まだ、結構時間あるけど」
「私はせっかくですし、細工してます」
「そうかい。ならあたしは遊んでようかな」
ジャネットさんはそういうと、タンスの上からベッドにダイブしていたキシャルをひょいっとつかんで膝にのせて遊び始めた。
「リュートはどうする?」
「う~ん。簡単な仕込みを始めとこうかな?あと、この前出てきたオークの肉の切り分けをしておくよ」
「そういえばあれ、そのままだったね」
「うん。だから、その処理をしてくるよ。小屋の裏手にいるから何かあったら言ってね」
「は~い」
そうしてリュートを見送った後は、夕食の時間まで細工に打ち込んだのだった。




