アルトゥール探索
「アスカ!そっちは任せた」
「了解です!やぁっ!」
「リュート君、後方の守りを」
「はいっ!」
翌日、再びアルトゥールを目指していた私たちは街道沿いに魔物がいるのに気づき、討伐を行っていた。
「終わりましたね。これがコボルトですか?初めて見ました」
「ああ、そういやフェゼルの方だとあんまりいなかったね」
「そうだったのか、コボルトを目にしていない冒険者は珍しいな」
「でも、ちょっと動きの速いゴブリンですよね?」
「まあ、そうだな。ただ、気を付けることがあるとすれば、ゴブリンより鼻がいいのと、聴覚もいいから音で合図をとることぐらいだ」
「とはいっても、今のあたしたちじゃねぇ。アルバにいた時のリュートならいざ知らず」
「そうですね。あの頃の僕らだと集団戦闘になれてなかったですし、ウルフ系は天敵でしたね」
「あ~、魔石がないですね」
「こいつらもゴブリンやウルフと変わらないからな。魔力が低いから滅多に落とさないぞ」
「効果は何か知ってます?」
「なんだったかな?しょうもない効果だったが…ジャネットは覚えてるか?」
「あ~、どうだったっけ?」
二人で思い出そうとするが、ほんとに頭に入れるほどでもないらしく思い出せないようだ。
トントン
「ティタ?」
(コボルトの魔石は”歩行”です)
「えっ!?歩行?」
「ん?ああっ、そうだ!歩行だ。アスカ知ってるんじゃないか」
「いえ、ちょっと…」
「そういや、そんなんだったね。あれは本当に無駄能力だからね」
「そんなに意味がないんですか?姿勢よく歩けるとかありそうですけど…」
「ないない」
ジャネットさんが大きく手を左右に振りながら説明してくれる。
「あいつの歩行ってのはせいぜい、4足歩行の動物が2足で立つぐらいのもんさ。姿勢どころかよちよち歩きで数歩歩いたらまた4足に戻るぐらいのレベルだよ」
「ほんとに使い道ないんですね…」
「まあ、旅の一座の魔物使いがちょっとした見世物に使うぐらいだな。可愛い魔物や普段4足でしか歩かない魔物が、頑張って2足歩行してるって、つかみにはよくてな。それ以外に使っているところは見たことがないな」
「い、色味は?」
「どうだったかな?オレンジと黄色系の混合だったかな?ただ、筋なんかも入っていることが多くて、加工にも向いてないぞ?」
「はぁ」
私は魔石探しはあきらめてさっさとアルトゥールに向かおうと提案する。
「ま、こいつからとれるものといえば、低品質の毛皮ぐらいだ。こいつも中々臭いが取れなくてね。加工の手間が多くて結局ウルフより高くて悪いものになるんだよ」
「そんなの売れるんですか?」
「お金のないものが買うんだ。未加工のものをな。自分たちで不完全だが加工すれば安くはあるからな。ギルドでも数は引き取ってくれないぞ」
「う~ん。それじゃあ、解体もしなくていいですかね?」
「急いでないけど、金にならないんじゃね。そのまま進むか」
ジャネットさんの一言で、穴を掘ることで一致し再び歩みを進める私たち。その後も2回ほど魔物と出会ったが難なく倒せた。
「もう町が見えてきましたけど、ほんとに出てくる魔物が弱いですね」
「まあ、商人たちからすればそれでも脅威ではあるけどね」
「あっ、そうですよね。キシャル、町が見えてきたよ。衛兵さんに話しをするから起きててね」
にゃ~
めんどくさいなぁと言いながらも肩につかまりながら町の方を見るキシャル。なんだかんだ言いながらも新しい都市が気になるみたい。
「アルナは心配ない?」
ピィ〜
ちゃんと答えるアルナだけど、ちょっと眠たい時間だからどうだろう?まあ、どっちも小型の従魔だからすんなり通れるとは思うけどね。なんてったってダンジョン都市だし。
「お~い!いくよ~」
「は~い!」
そのまま歩いてみんなに追いつく。そして、1時間ほど歩くとダンジョン都市アルトゥールに着いた。
「冒険者はこっちだ!商人はそっちの方、おいっ!馬車は向こうだ、手続きが違う!」
「わぁ~、衛兵さん忙しそうですね」
「まあ、ダンジョン都市っていうぐらいだし、珍しいもんもあるだろうしね」
期待を胸に門をくぐる冒険者に、その冒険者が持ち帰ったものを何とか仕入れようとする商人たち。その熱気に当てられながら衛兵さんは目まぐるしく人の列を整理している。そんな中、私たちは冒険者と一般の列に並んで順番を待つ。
「中々の行列ですね~」
「これでもあの休憩場所を早くに出発したんだからマシな方だろ。今からだとあそこにいた連中や、駆け足で後ろから追いかけてきた連中が並ぶんだよ」
「それは嫌ですね。今で良かったです」
しばらく並ぶと、門が近づいていよいよ入門だと緊張する。
「次は…4人組か。そいつらは?」
「私の従魔です」
「ふむ。危険は?」
「ありません。ちゃんと言うことも聞いてくれます」
「分かった。これを必ず身に着けさせるように」
そういうと、衛兵さんはリボンを2つ持ってくる。色は青だ。
「青色は小型や弱い魔物に着けるもの。中型や普通の強さの魔物が緑、大型の魔物や扱いに困る魔物は赤色だな」
「そ、そうなんですね。あっ、それじゃあ、ティタにももらえませんか?」
「ティタ?」
「この子です」
私はティタをずずいっと衛兵さんの前に突き出す。
「えらく小さいゴーレムだな?」
「元々は大きかったんですけど、いろいろあって縮んじゃったんです」
「珍しい事象だな。まあ、こんな小さいゴーレムじゃ何もできないか…青のリボンを巻いておけ」
「ありがとうございます」
ほんとはみんなCランクの強さぐらいはあるんだけど、小さいしこっちの方が楽だからいっか。そして、いよいよ私たちは町へと入っていった。
「ここがダンジョン都市アルトゥールか~」
門をくぐったそばから大通りが中央だと思われる場所へと続いている。
「あそこを進んでいきゃいいかねぇ」
「いや、一度外周に出よう。こんな大通りじゃ何があるかも見れないぞ」
「そうですね。冒険者も一般の人も大勢います。作りになれてないと迷うかも」
「じゃあ、道を2つぐらい外れるか」
リックさんの意見で通りを外れて狭い道を行く私たち。とはいっても中々の規模の道だけど。馬車がすれ違うぐらいはできる規模だし。
「ん~、案内板を探せないほど人が多かったからどこに行けばいいんでしょうね~」
「周辺の店から探すとするか」
店の種類の入れ替わりから何となくどういった地区か頭に入れていく。
「おっ!見ろジャネット、あんまり店が見られなくなってきた。食料品の店が多かったし、ここが住宅街なら一般人のエリアだな。北東エリアが住宅街かわかるぞ」
「はいはい。はしゃいでないで宿を探すよ」
「リュートは何見てるの?」
「うん?いやあ、結構きれいだなって。最初に宿は高いって言ってたから、住宅街も税金が高くて大変なんじゃないかって思っていたからさ」
「そういえば、大きいアパートみたいな建物もないし、大体2階建てぐらいの一軒家だね。庭はないけど」
リュートの言う通り、住宅街は立派な一軒家が立ち並んでいる。庭といえるほどはないけど、別に車を置くわけでもないから十分だと思う。
「ここから南に行くとするか。おそらく途中で東西に大通りがあるはずだから、それで南側地区に何があるか確認しよう」
「分かったよ。みんなも行くよ」
にゃ
ジャネットさんの肩に乗ったキシャルが返事をする。もうすでに寝る準備をしていてあくびもしながらの返事だ。
「南側は貴族街みたいだね。さっさと西に行くか」
「そうだな。面倒ごとになる前に避けるか」
こうして、通り一つだけ入って西に進む私たち。しばらく進み再び大通りを横切ると大きな店が見えた。
「残念。こっちが商人の区画だね。ダンジョンはどうやらこの上らしい」
改めてこの辺りにも案内板があったので確認してみると、ダンジョンは町西部の中央にあるみたいだ。そこから北側が宿で南が商家が集まる区画。王都との位置関係から貴族は南の門から入ってきて、買い物は西へ、屋敷や専用の宿へは東と別れているようだ。
「はぁ~、遠回りになっちまったね。そんじゃ、宿に向かうよ」
「は~い」
気を取り直して大通りを少し過ぎてから北に向かう。そして、宿は高いと聞いていたことと、ちょっとのぞくかな?って話なのでできるだけダンジョンから遠い場所の宿に向かうことにした。立地でさらに宿代がかさみそうだったからね。
「ごめんくださ~い!」
「は~い。冒険者の方ですね。何泊されますか?」
「とりあえず、一泊で。部屋は4人部屋あるかい?」
「ありますけど、料金は大丈夫ですか?」
「ああ。いくらだい?」
「4名ですので銀貨6枚です。朝夕は食事付きですよ」
「じゃあ、それで」
カギをもらって通された部屋は、ベッドが4つあるもののサイズはリックさんにはぎりぎりで、テーブルもなかった。
「狭い…これで銀貨6枚なんだ」
「こりゃあ、Dランクには大変だ。まあ、それぐらいのランクじゃ、このぐらいの宿でも十分だろうけどね」
そんな話をしながら私たちは荷物を置いたのだった。
 




