小鳥と小屋
「それで、アンダーホワイトはどこに?」
「部屋の中で待ってます」
この宿の女将さんとさっき受付にいたお姉さんが一緒だ。受付は別の人に代わってもらっていた。
「それじゃあ、入りますね。警戒心が強いので入ったら待っててもらえますか?」
「分かったわ」
「ええ」
ガチャ
「リュート入るよ~」
「帰ってきたんだね。どうだった?」
「今から見てもらうところ」
ピィ!
「アルナ、もうちょっと待ってね。今聞くからね」
アルナに急かせられながら女将さんに聞く。
「あんな感じで今は2羽が来てくれたんですけど、産卵場所が安全じゃなくてここで子育てをしたいんだって言ってるんです」
「安全じゃない?アンダーホワイトは崖とかに巣を作るはずだけど…」
「なんでも最近は矢が飛んでくることがあるらしくって…」
「ああ、冒険者が話しているのを聞いたことがあります。この子たちはあんまり強くないからお金に困ったらって」
「そうなの?この鳥はこの町のシンボルって感じなのにねぇ。まあ、南にはダンジョンもあるし、よそ者も多くなったからかしら」
「それで、この子たちはどこに住みたいの?」
「えーっと。アルナ、どうしたいか聞いてみて?」
ピィ!
やった!と言わんばかりにアルナが2羽に話しかけている。
ピィピィ
「できれば安心できるこの部屋を使いたいみたいです。でも、今は私がいるからいいですけど、いなくなった後のメンテナンスとかも必要で…」
「その…どんな住処が必要かわかるかしら?」
「えっとですね…アルナお願い」
ピィ
再びアルナを仲介して聞いてもらう。鳥さんの大きさから考えると、1m四方ぐらいの小屋が欲しいとのこと。
「大体、このぐらいの大きさですね。あとはご飯台とか水飲み容器とかですね」
「作るのは難しいんですか?」
「簡単ですよ。私でも作れるぐらいですから」
「ではその部分は大丈夫なんですね。女将さんどうですか?」
「町を象徴するような鳥だし、いいんだけど予算がねぇ。あの人がなんていうか」
ピィピィ
アルナがお金の話を今度はしている。向こうにわかったりするのだろうか?町暮らしのアルナとは違うと思うんだけど。
チッチッチッ
「ええっ!?それ大丈夫なの?」
何とか海鳥の言葉を聞き取ると私はびっくりしてしまった。
「どうかしたんですか?」
「アンダーホワイトが子どもに手を出さないなら、人と一緒に暮らしてもいいって言うんです」
「ここに住んでくれるってこと?」
「みたいですね」
チッチッチッ
「でも、他の家族にも使って欲しいから入れ替わり交代で?いいのかな…」
「どうしたんですか?」
「ここで子育てをしたいらしいんですけど、他の家族にも使って欲しいから入れ替わりで使いたいみたいなんです。この海鳥って繁殖期はいつなんですか?」
「暖かい時期が多いですけど、気候が安定しているから年中ですね。この季節は少し少ないですけど」
「それだとこの部屋にずっとアンダーホワイトの家族が入れ替わりで住んじゃいますね」
「逆に言えば、ずっといるってことよね。海鳥も毎日近くで見られる訳じゃないし、部屋代を上げて安全面はう~ん。しょうがないけど、一見さんはお断りして安心して部屋に入ってもらえる人ね。となると部屋代は…」
女将さんはそういいだすとしばらく思案していた。
「何とかなりそうね。その小屋についてはすぐに作れるものかしら?」
「木材さえあればすぐに作れますよ。設計図も描いて渡しておきましょうか?大工さんに頼んだらいつでもやってもらえると思いますよ」
「なら、安心ね。じゃあ、材料があるところに案内するわ」
そのまま私たちは女将さんに付いて行った。ちなみにアンダーホワイトたちはアルナと一緒に部屋でご飯中だ。そろそろ卵を産む時期だということでちゃんと食事も、薬草入りの豪華なものにしておいた。
「ここが宿の裏手の物置です。修繕用に保管しているんですけど、好きなだけ使っていいですよ」
「ほんとですか!ありがとうございます」
「ところで男手は何人ぐらい必要なの?」
「男手?」
女将さんとお姉さんと私の3人でみんな頭に?を浮かべる。
「ひとりで十分ですよ。煉瓦とか作るわけでもないですし」
ああいったものを作る場合は焼き加減を見たりと魔力操作ではどうしようもない部分があるけれど、小屋の作成ぐらい簡単だ。
「ど、どうやってこの木の加工を?力持ちって訳でもないでしょう?」
「魔法を使えばすぐですよ。あっ、でも、危ないから見ないでくださいね」
「わ、わかりました。では、できたら呼んでくださいね」
「はいっ!」
2人が出て行ったところで私はほっと一息つく。
「はぁ~、よかった~。何とかごまかせたよ。あんまり魔法で何でもできるってわかったらだめだもんね」
出来上がったものを見ればわかってしまうのだが、とりあえず作業場を見られないことに安堵したアスカだった。
「それじゃあ~、まずはどんなデザインにするかだよね?えっと、鳥小屋の入り口はちょっと大きめで上に寝室を下はリビング、小屋の上にはつかまるためのとまり木をっと。基本的にはアルナの小屋を参考にするけど、番だし子どもも暮らせるスペースが必要だよね」
当初のサイズは1m四方だったけど、これは1.5倍から2倍ぐらいは必要かも?
「まあ、まずは作ってみてだよね。一番大事なのはあの子たちが喜ぶことだし」
せっかく作っても狭かったり、子どもたちが過ごしにくかったら意味ないからね。そんなことを考えてデザインする。
「よしっ!あとは実際に作ってみて試すしかないよね。それじゃあ…ウィンドカッター」
デザインが決まったらあとは簡単だ。サクッと切り分けて組み立てるだけだ。だけど、くぎを限りなく使わないようにするので精度だけは保たないとね。
「切り分けた後はコンコンッと叩いてはめ込んでと…うっ、重い」
はめ込んだ状態を確認しようと思ったけど、生身じゃつらいなぁ。しょうがないから魔法で持ち上げてぐるりと周りを確認する。
「うん。これなら大丈夫だね。ちょっと奥に小部屋も作ったし、雛になったらそこに入ってくれるかな?だめなら大工さんの方で直してもらうようにすればいいし」
とりあえず完成したので受付のお姉さんに知らせに行く。
「ごめんなさ~い」
「あら、なにか困ったことがあったの?」
「できました!」
「えっ!?」
「できたので見てもらえますか?」
「え、ええ…」
戸惑うお姉さんと一緒に私は宿の裏手に向かう。
「こんな感じなんですけど、まだ中は荒いので簡単な面取りとか残っちゃってます。あと、予想よりちょっと大きくなっちゃいました」
「大きくなったって…まだあれから1時間よ?」
「でも、切って組み立てるだけですし。デザイン自体は元々作ったことがあるのを流用しただけですから」
確かに子ども用の部屋は付け加えたけど、それだって元の部屋を小さくしただけのものだしね。
「…わ、わかった。よ~く分かったから、元々デザインも持っていたことにしておいてね」
「はぁ」
謎の言葉をもらってとりあえず、明日に女将さんには見せることになった。とりあえず今日のところはそのまま泊って行ってもらう形だ。じゃあ、私はその間に内側の面取りと、外の塗装を済ませておこう。
「あんまり匂いの強いのは良くないだろうから、宝石の粉を使ってと…」
油と混ぜ、あとは水で溶いて簡単に塗っていく。
「このぐらいかな?あとは乾燥させれば大丈夫だね」
このまま部屋に持って帰りたいところだけど、明日また見せないといけないのでとりあえず雨に濡れないところに置いて戻る。
「ただいま~」
「アスカどうだった?」
「小屋は作ったんだけど、明日見せることになっちゃった」
「そうなんだ。それじゃあ、今日はどうするの?」
チッチッチッ
「あっ、大丈夫。泊まるのは今日からでいいよ。でもごめんね。小屋は明日からだからテーブルの上ででも寝てね。あと、もう一人部屋に入ってくるからびっくりしないで」
ピィ
アルナが通訳をしながら今後のことを話す。しばらくすると問題ないと思い、私は当初の予定通り巫女服の飾り作りに戻る。
「アスカ、帰ったよ~」
「あっ、ジャネットさん帰ってきた!」
飾りに関してはひとつひとつは時間がかからないので程よい集中だった。そのため、すぐに帰ってきたことが分かった。
「ちょっとだけ待ってくださいね。今、立て込んでて…」
「立て込んでる?いったい何を?」
私はすぐにアンダーホワイトたちに説明して窓のへりに立ってもらう。多分緊張しちゃうからね。
「いいですよ~」
「もったいぶって何だい。リュートもいるじゃないか」
「窓の方を見てください」
「窓?」
「おや、あれはアンダーホワイトかな?」
「リックさんは知ってるんですか?」
「ああ、別の町で何度か見た」
「それで立て込んでたのかい?」
「はい。この子たちが順番にここに住みたいって。ほら、今日市場で矢を射る人がいるって話があったじゃないですか。それで、安全な場所が欲しいって」
「なるほどねぇ」
「いやぁ、俺はてっきり…」
「あん?」
「なんでもない。それで住処はどうするんだ?」
「実はもう小屋は作っているんです。でも、宿の女将さんに見せるのは明日だって受付のお姉さんが言ったんで、明日に持ち越しですね~」
そういいながら私はちょっと慣れてくれたアンダーホワイトの羽をなでる。私が細工をしている間にアルナといろいろ話したみたいで、警戒心もかなり薄れたみたいだ。
「あんたまた…まあ、話のわかる人で良かったよ。リュート、あんた本ばっかり読んで何してたんだい?」
「えっ!?いやぁ、鳥小屋ぐらいアルナので慣れてると思って…」
「肝心なところであんたは!」
「まぁまぁ、どうせ簡単なものだし1日で作ったんだろう?そんなに目くじらを立てなくてもいいじゃないか…」
「あんた、アスカのことをよく知らないから言うんだよ。細工師って言っても細かいものだけじゃないんだよ。明日見てみればわかるさ」
「ふむ。では楽しみにしておこう」
こうして宿に泊まる間、新しい仲間が増えたのだった。




