帰ってきたアルナ
「きょうのご飯はなにかな~?」
「アスカ、今日は肉か魚どっちがいい?」
「魚っ!」
「アスカ…」
「はいよ。それじゃあ、こっちだね」
あらかじめ調べていてくれたのか、すんなりと店は見つかった。
「いらっしゃいませ、4名様ですか?」
「はい。あと、この子も一緒に」
「かしこまりました。奥へどうぞ」
キシャルを連れているのでどうかなと思ったけれど、すんなりと通してもらった。
「ここは何がおすすめなんですか?」
「新鮮な魚はもちろん、干物とか時間をかけたメニューも豊富なんだってさ」
「あっ、それはうれしいです。いろんな食べ方をしてみたかったんですよ!」
私は迷うことなく、一夜干しの焼き魚と新鮮なお魚の切り身を注文した。
「リュートはどうするの?」
「僕はムニエルかな?結構大きいって書いてあるし」
「ほんとだ!」
確かにメニュー表には大きめの魚を使って提供します。そのため、毎回種類が変わることがあります。と、注意書きをされていた。
「ジャネットさんたちはもう決めました?」
「ああ、大丈夫だよ」
「おい、俺はまだ考えてるんだが…」
「なんだい、とろいねぇ。さっさと決めな!そうだ、これにしとけよ。これならあたしと被んないしさ」
「そうか。なら、それで行くか」
ジャネットさんたちの方も決まったみたいなので店員さんを呼んで注文を済ませる。
「あっ、従魔には焼き魚を1匹でお願いします」
「わかりました」
キシャルの分も頼んで料理が運ばれてくるのを待つ。
「それにしても、ここってにぎわってますね」
「まあ、肉が食いたいってやつにも置いてあるしな。メニューも豊富だし」
「そういえば珍しく、お昼でもいろんなメニューが頼めますね」
大体の店は決まったメニューから選ぶ形なのに。
「お待たせしました~」
「あっ、料理が運ばれてきた。最初は誰のだろう?」
「こちら、ムニエルになります」
「僕のだね。それじゃあお先に」
一番はリュートのムニエルだった。
「一匹丸ごとだけあって大きいね」
「うん。でも、これならお腹一杯になりそうだよ」
「おっ、次はあたしか」
「俺のも来たみたいだな」
「2人は何を頼んだんですか?」
「あたしは生魚と煮魚の定食だ」
「俺の方が焼き魚と本日の海産物だ」
「あっ、日替わりのやつなんてあったんですね」
「ああ。ジャネットが面白そうだから頼めとな」
「いいだろ?普段食えないような珍しいものが出るかもしれないんだから」
「そうだな。実際に見慣れない貝や小さい魚もある。結構、色味がきれいだな、食うか?」
「いいよ。こういう普通の色のやつのが好みでね」
「なら、こっちの貝をやろう」
「あっ、勝手に…」
「興味深そうに見てただろ?」
「~~~しょうがないからこれをやるよ!」
そういいながらジャネットさんは3切ほど生魚の切り身をポイッとリックさんのお皿に投げる。
「そういうなら、もう少し丁寧にだな…」
「うるさい!男が女々しいよ」
「じーっ」
「アスカどうしたの?」
「ううん。ジャネットさんってリックさんと仲がいいなって思って」
「まあ、旅をしててしばらく一緒にいる中じゃ大人同士だしね。ほら、バルドーさんと一緒にいるみたいにさ」
「それにしてはな~んか違うんだよね…」
「それについては僕からは言えないかな」
「え~!自分だけずるいよ、リュート」
「何の話だい?」
「あっ、その、ムニエルがおいしそうだなって」
「食いしん坊だねぇ、アスカは」
ジャネットさんに急に話しかけられ、とっさにごまかす。
「それじゃあ、はい。アスカの分ね。自分の分も早く食べないと冷めちゃうよ」
「ありがとう、リュート」
ううっ…口から出まかせなのにねだったみたいになってしまった。
「あっ、おいしい。香ばしいスパイスとあっさりした中にも甘みがあっておいしいね!」
「うん。魚は日替わりだってことだから、今日は当たりの日かもね」
にゃ~
「えっ!?こっちにもよこせ?キシャルには自分の分があるでしょ。それにそんなにバクバク食べたら太っちゃうよ」
にゃあ~
太るという言葉にビクッと反応して伸ばしかけていた足を引っ込めるキシャル。うんうん、美猫のプライドが許さないよね。
「あ~、おいしかった!」
「満足したようでよかったよ」
「ありがとうございます、ジャネットさん。下調べしてくれたんですよね?」
「まあね。でも、街にいる時ぐらいはあたしも美味いもん食いたいからね」
「ふむ。それなら、今日の夜は酒場に行ってみないか?きっとおいしいものもあるぞ。酒も美味いだろうしな!」
「なんでリックと…」
「おや、情報収集するんじゃなかったのか?」
「別に店まで一緒じゃなくてもいいだろ?」
「旅の冒険者が一人寂しく飲むより、同じパーティーのメンバー同士の方がいいぞ。絡まれてろくな情報が集まらないだけだ」
「…しょうがないか。今日だけだよ」
「それは今日次第だろう。情報は多い方がいいからな」
「僕も行きましょうか?」
「リュートはアスカのお守り。どうせ細工とかしてるだろうから、ちゃんと飯食わせるんだよ」
「あっ、そうですね」
「リュート君は護衛なんだからちゃんと自分の使命を果たさないとな。という訳で、こっちは心配しなくていい」
「わかりました。よろしくお願いします」
「そういや、アスカはこの後どうするんだ?」
「見るものも見ましたし、巫女服と細工ですね。ちょっと作りたいものもできましたし」
というわけで、いったん宿に戻り午後からは自由行動だ。私は巫女服の飾り部分を、リュートがそれに付き添う形でジャネットさんは早速、街での情報収集。リックさんは嫌がられながらもそれに付いて行ってしまった。
ピィ
「あっ、アルナ!ようやく帰ってきたんだね」
これから巫女服の飾りを作ろうと思っていたところにアルナが帰ってきた。
ピィピィ
「あれ?またお友達を連れてきたの?今までより大きいね」
アルナは2羽のお友達を連れてきた。こっちの世界基準じゃ小鳥だけど、そこそこのサイズの鳥だ。全長は30cmぐらいはある。
「ひょっとしてアンダーホワイト?」
チッチッチッ
2羽の鳥たちはお互いに鳴いて返事をする。
「わぁ~、かわいい~」
私が少し手を出すと、ちょっと大きい方がササッと前に出る。
「ごめん。驚かせちゃったかな?」
小鳥は警戒心も強いし、きっとこの2羽は番だろうから、とっさに守ろうとしたのかな?
チッチッチッ
その後は前に出たオスらしき鳥が手を何度かついばむとメスの方も前に出てきてくれた。
「アスカ、お客さん?」
「うん。アルナのお友達みたい」
ジャネットさんよろしく、今日はテーブルで本を読んでいたリュートが鳥たちに気づいてこっちを向く。とたんに2羽の鳥たちは窓辺まで下がってしまった。
「あっ、僕はこのまま本を読んでおくよ」
「ごめんね。多分アルナがリュートのことは紹介してないんだと思う」
今回は部屋も男女で別々だったしね。
「いいよ。気にしないでアスカは相手してあげて」
「あとで紹介するからね」
リュートにそう言い残して、私はみんなに再び向き合う。
「それでアルナはお友達と遊ぶために戻ってきたの?その前にご飯だよね」
いつものようにご飯を用意しようとすると珍しくアルナがピィと呼び止めてきた。
「ん?お願いがあるって?」
ピィピィ
なんでもアルナによると、この番のメスは絶賛卵を産む直前らしい。だけど、最近では海の近くで矢を放つならず者が出るらしく、安全に子どもを育てる環境が欲しいとのこと。
「う~ん。でも、ここは家じゃないからなぁ…」
アルバにいた時ならライギルさんたちにお願いして宿に小さい小屋でも作るんだけど、旅先だとなぁ。
ピィ…
せっかく連れてきたのにとしょんぼりするアルナ。むむむ、親代わりとしてここは何とかせねば!
「ちょっと待っててね!」
どたどたどた
私は階段を駆け下りて受付のお姉さんのところに行く。
「あら、どうかなさいました?」」
「おっ、お願いがあるんですけど!」
「はい、なんでしょうか?」
「アンダーホワイトをこの宿で飼うことってできますか?」
「アンダーホワイトを飼う?でも、海鳥ってあんまり人前に来ないですよ。特に繁殖期は岩場や険しい崖なんかに住んでますし…。まあ、店としてもそういう特徴があると売りにできるかもしれませんけど」
「じゃあ、大丈夫だったらいいんですか!?」
「いや、そこは店長に相談しないと…」
「それならお願いします!子どもを育てたいんですけど、最近変な人に狙われてて安心できる場所が欲しいみたいなんです」
「えっと、お嬢さんは鳥の言葉がわかるの?」
「あっ、私の従魔を介してですけど」
雰囲気では言ってることはわかるけど、ちょっとしたニュアンスの違いなんかは分からないのだ。
「そ、そう。ちょっと聞いてくるわね」
「ぜひお願いします!」
お姉さんはしばらく受付を離れて店長さんに聞きに行ってくれた。そのまま待っていると女の人に声を掛けられる。
「あのさ、ここって一晩いくら?」
「えっと…あっ、内側に料金表が載ってる!」
きっと、働き始めの人用だろう。私はその料金表を見ながら女の人に説明する。
「じゃあ、3泊でお願い。部屋は4人部屋ね」
「かしこまりました。カギは…えっと、これですね。わからないことはまたお姉さんに聞いてください」
「家族でやってるのかしら?ありがとう」
カギを受け取ると、女の人は宿の前で待っていた人と合流して部屋に向かった。
「あら、さっきの人は?」
「宿泊のお客さんです。カギはここのを渡してます。3泊の予定ですね」
「ごめんなさい。席を外している間に受付をしてくれたのね。それにしても、よくできたわね」
「昔、宿でお世話になりましたから。あっ、そうだ。アンダーホワイトの件はどうなりました?」
「その件だけど、店長の奥さんが一緒に見ていいかって」
「いいですよ。じゃあ、案内しますね」
これでアルナも大喜びだな。そう思って私は宿の人と一緒に部屋に戻った。
 




