港町の昼食
「いらっしゃいませ!潮風の香りです。お泊りですか?」
「ああ、部屋は…2人部屋を2部屋。何日泊まるんだ?」
「なんであんたが決めてんだよ。…2日か?明日情報収集をして明後日には…」
「ええっ!?明後日には町を離れちゃうんですか!もっと、ご飯とか市場とか見ないんですか?」
「あっ、いやぁ。じゃあ、情報収集に一日追加するか。あたしとリックで明日と明後日に集めてくるから、アスカはリュートとでも…」
「じーっ。ジャネットさんも一緒に行きましょう?情報収集はリックさんがやってくれますよ」
「おいおい、それはないぜ」
「すみません。アスカって目的以外のことはどうでもよくて…」
「は、はは。君も言うねぇ」
「しばらくは一緒に行動しそうですから、今の内にと思って」
「じゃあ、話もまとまったので4泊で!」
「わかりました。一部屋一泊銀貨2枚の朝夕食事付きとなります。男性の方はこちらのキーを、女性の方はこのキーをお使いください」
「あっ!それと、お風呂と従魔の食事ってありますか?」
「お風呂は2人までのサイズのものがありますが、別料金になります。従魔の食事は…大きかったりしますか?」
「えっと、この子とこの子です」
「小鳥とキャット種ですね。小鳥の方は野菜でよろしいですか?」
「はい」
「では、手配いたします。キャット種の方は何を?」
にゃ~~~
「日替わりで魚と肉ってできますか?」
「可能ですが、1日につき大銅貨2枚になります。人と同じ食材になりますので」
「大丈夫です」
「では、そちらの分も4泊分先にいただきますね」
「わかりました」
部屋ごとに会計を済ませて部屋に行く。
「おっ!アスカ、結構いい布団だぞ」
「ほんとですか!今日はよく寝られそうです。商人ギルドのお姉さんに感謝しないと」
部屋のつくりやベッドのつくりは良くても布団はいまいちってことも多いからありがたい。
「アルナのおうちはここに出しとくね。眠たくなったら入っていいからね」
ピィ
「ティタはここと」
「ありがとうございます、ご主人様」
「そういえば、今更なんだけどティタって運動しなくていいの?」
「私の体は魔力で動いていますから、その場で動くだけでもちゃんと運動になりますよ。そもそも筋肉がないので…」
「そっか。旅が始まってからお留守番が多くてふと気になったんだけど良かった」
「でも、やることなくて暇だろ?あたしの読み終わった本でも読むかい?」
「いいのですか?確かに夜などは暇ですが…」
「じゃあ、私の本も今度置いていくね」
「アスカの本って…」
「ちゃんとしたのもありますよ」
「アスカの持ってる本って細工とか魔導書ばかりだろ?」
「ほ、他にもちゃんと娯楽小説もありますよ」
「えらく極端だねぇ。まあ、ティタの興味がどうか分からないし、おいていくのもいいか」
「そうですよ」
そんな話をしながら荷物を整理して部屋に置いていく。
コンコン
「は~い」
「アスカ、今入っても大丈夫?」
「うん」
「あれ?片付けの途中だった?」
「ちょうど終わるとこ。話しながらだったから。どうしたの?」
「僕らの方は終わったから、街を見に行こうかと思って」
「そうなんだ。じゃあ、もうちょっとだけ待ってくれる?」
「わかったよ」
後ろにはジャネットさんに手を振るリックさんの姿も見えた。私は街行きの服に着替えて、改めてみんなと合流した。
「お待たせ」
「ごめん。急がせたみたいで」
「ううん。滞在日数も決まってるし、全然いいよ」
「ほう、前から思っていたがアスカは街にいる時は着替えるんだな」
「そりゃあ、街にいる時は冒険者じゃないですからね」
「なるほどな。これは大変なわけだ?」
「?」
リックさんが難しそうな顔をしている。なんだろ?
「さあ、今日はすぐに昼だし出かけるよ」
「あっ、そうですね。お昼はどうします?屋台でもいいですけど…」
「歩いて決めるか。とりあえずはさっき行った街の中心部に行くか」
「そうですね」
ジャネットさんの意見を参考にまずは街の中心部に行って、そこからお昼が食べられそうなところを探すことになった。道は来た道を戻るだけだからすんなりと着いた。
「さてと…ここから探すわけだけど、どうする?別れるかい?」
「ん~。でも、待ち合わせ出来そうなところがないですね」
「あそこはどうだ?海水を取り入れたオブジェのようだが…」
リックさんの指さした先には海水が流れ込み一定量になると排出する仕組みのオブジェがあった。
「確かにあそこなら待ち合わせ場所に良さそうですね」
「じゃあ決まりだな。リュート君、そっちは頼んだよ」
「あっ、はい」
「はぁ?なんであたしがあんたと」
「もう組み合わせは決まったし、この方が絶対面倒ごとが減ると思うけどな」
「それなら、あんたがアスカと…いや、それはないな」
「だろう?という訳であとはよろしくな!」
「は、はい」
それだけ言うとリックさんはスタスタとジャネットさんを連れて行ってしまった。
「…行っちゃった。どうしよう、リュート?」
「とりあえず、お昼が食べられそうな店を探すしかないんじゃない?」
「そうだね。一緒に見ていこうね」
私はリュートと一緒に周辺の店を見て回る。いつの間にか頭に乗っていたキシャルはジャネットさんに付いて行ったみたいで、今は肩にアルナがいるだけだ。
「こっちはレストラン。あっちにあるのは何だろう?」
「酒場みたいだね。まあ、街の中心にあるぐらいだから節度はあると思うけど」
リュート曰く、街の端に近い酒場ほど昼間から泥酔した人がいるんだとか。何で知ってるのと言ったら、孤児院にいた頃にそういう人から使いっ走りの仕事を受けてたんだって。アルバみたいに治安のいい都市でそれなんだから、他の都市だともっとすごそうだ。
「昼からお酒はだめだよ」
「わかってるって。でも、ジャネットさんとかリックさんは飲みそうだけどね」
「そういえば、ジャネットさんも依頼を受けない日は飲んでた気がする。毎日じゃないけど」
「当時からお金には困ってなかったからね。あっ、あそことかどうかな?」
「えっ、どこどこ?」
「あそこのお店」
「あそこ?あっ、魚のマーク!」
「うん。きっと、魚介系のお店だよ」
「いいね!じゃあ、私たちのお店はあそこってことで」
「えっ!?」
「それじゃあ、待ち合わせ場所に戻ろっか」
「あっ、そうだね。そうだよね」
ちょっと不思議な反応をしたリュートと一緒にオブジェ前で待つ。
「おっ!早いねぇ。てっきりこっちがしばらく待つと思ってたんだけど…」
「いいお店があったんですよ!ジャネットさんたちの方は?」
「あたしたちの見つけた店は屋台でね。アスカの方は?」
「私たちの見つけたお店は座れますよ」
「なら、そっちだな。案内してくれ」
「は~い」
にゃ~
「あれ?キシャルってばジャネットさんの方はもういいの?」
にゃ
いい返事を私の頭の上でするキシャル。まあいいけど。
「ここです」
「おや、魚料理だね。キシャルよかったね」
にゃ~~
「その前に入れるか聞かないとね」
にゃ~…
ピィ!
そんな…と気落ちするキシャルに、自分は問題ないだろうと自信をもって私の方にとまっているアルナ。
「いらっしゃいませ~」
「すみません。4人なんですけど、この子たちも入っていいですか?」
「えっと、小型のキャット種と小鳥ですね。暴れたりは…」
「大人しくしてます。ちゃんと自分のものしか食べませんし」
「ちょっと待っててくださいね。聞いてきますから。店長ー!」
受付のお姉さんが奥に引っ込んで聞いてくれた。しばらくして、笑顔で帰ってきた。
「いいって。でも、目立たないようにあっちの席で」
「わかりました。ありがとうございます」
「いいえ。お客様4名様で~す!」
お姉さんに案内されちょっと奥まった席に通される。
「さ~て、メニューはと…」
取り出したメニューには6品が書かれていた。
「えっと、1つ目が白魚盛り、2つ目は青魚盛り、3つ目は赤魚盛り…へぇ~、魚の種類ごとに分かれてるんだ~」
それだけ豊富な海の幸が獲れるということなのだろう。
「あたしはこの4つ目かねぇ」
「あら鍋ですね。僕はどうしようかな?最後のミックス?」
「リュート君はせっかくだし、5つ目の外盛りがいいんじゃないのか?珍しいものも出るかもしれないぞ」
「外盛り?」
メニューの注意欄を見てみると外盛りの下には魚以外の海の幸の盛り合わせと書いてあった。だけどこれは数が限られているようだ。多分、船は小さめの巻き網漁だろうから貝類とかはほぼ取れないんだろうな。
「う~ん」
「アスカどうした?」
「いえ、さっきから外盛りが気になって…。本当は青魚にしようかと思ってたんですけど…」
ちなみに白魚とかの別れ方は日本とは違って、魚の見た目らしい。黒っぽいのは真ん中の青魚に入れられて、鯛みたいなのが赤魚行きだ。だから、白魚系は小さい魚が多い。まあ、そうは言っても小さいと小骨が多いからこういう店で食べた方が手間がかからなくていいんだけどね。
「リュート、ほら出番だよ」
「はい。じゃあ、アスカ。僕が外盛りを注文するからアスカは青魚にすれば?」
「いいの?リュートって好き嫌い多いでしょ?」
「多くはないと思うけど…」
「だって醬油も苦手だし、野外メニューにはチャレンジするけど、それ以外は保守的だよね」
「だ、大丈夫!今回はちゃんと食べられるから!」
「ご注文はお決まりですか?」
「はい。僕はこの外盛りでお願いします!!」
勢いよくリュートが注文をして私たちもそれに続く。結局、リュートが外盛りで私は青魚盛り。ジャネットさんはあら鍋で、リックさんはミックスだった。ちなみにキシャルには白魚を3匹注文しておいた。アルナは…釣ることが趣味なだけだからお野菜を出してもらえることになった。




