到着フェリバーン
そうして船での生活をしていると瞬く間にフェリバーンへと到着した。
「順調な航海でしたね。早くて4日、遅ければ7日の行程でしたから」
「そうだね。これでようやく、面倒ごとともおさらばだね」
「面倒って言ってもエクリースからは順調でしたよ?」
「順調?毎日、リックが絡んで来てたじゃないか」
「でも、ジャネットさんも楽しそうでしたよ?」
「ま、まあ、別に嫌じゃないけどさ、ああいうの慣れてないからねぇ」
「ずっと話してましたしね。ジャネットさんって結構、ぼーっとする時間も多いですし」
「そんなことないだろ?アスカと違って依頼も逃さず受けてるしさ」
「でも、ん~とか、あ~とか言ってほけ~っとしてる時もありますよ」
「そんなことないよ」
「ジャネット様は読書後や食事の後は結構、ご主人様の言う通りのんびりされてますよ」
「嘘だろっ!?」
「本当です」
「ティ、ティタが嘘をつく訳がないか…。知りたくもないこと知っちまったな」
「まぁまぁ、そういう時も人生には必要ですよ」
「アスカに言われるなんて…」
そんな会話をしていると、下船の準備が整いそうだと船員さんから連絡があった。
「これでしばらくは船旅ともお別れですね」
「だねぇ~」
「ジャネットさんの釣った魚もお預けですね」
「それは湖や川があればできないこともないけどね」
なんと!ここ数日間、ジャネットさんが甲板に行っていたのは釣りをするためだった。頑張って巫女服を作ったり細工をしていた私にご褒美をと思ってやってくれたんだ。釣った魚も様々。カワハギのような魚から立派な光ものまで釣ってきてくれたのだ。
「私は大喜びだったけどリュートはあんまりでしたよね」
「そりゃあ、自分の出る幕はなくて塩焼きに醤油だろ?リュートも腕の振るいようがないしさ。おまけにその醤油は苦手な調味料だし」
「それが一番おいしいんですもん!お刺身もちょっと食べられて満足しましたし」
ワサビもないし、しょうゆも刺身醤油じゃなかったけどね。次の機会にはどっちもあるといいなぁ。
「さて、そろそろ降りれるだろうし、行くとするか。今度は戻ってこないから絶対に忘れ物をしないようにね」
「は~い。アルナ、キシャルもちゃんとついて来てね」
ピィ
にゃ~
てしてしと足を叩くキシャル。
「ん?またご飯なの。しょうがないなぁ。もう降りるからこれだけね」
キシャルはどうも焼き魚が好きなようで、塩を抜いたやつがお気に入りだ。冷凍焼き魚が好きな猫…まあ、別にいいよね。
「ほら、食べたんだから行こ」
にゃ~
満足したと今度は肩に乗るキシャル。しょうがないなぁ。
「さあ、リュートのところに行こう」
コンコン
「は~い」
「リュート~、そろそろ下船するから行こうってジャネットさんが」
「わかった。すぐに出るよ」
リュートはどうやら準備を終えていたみたいですぐにまとめた荷物と一緒に出てきた。
「それじゃあ、手続きに行こうか」
ジャネットさんを先頭に私、リュートと続いて受付に向かう。
「お嬢様方!呼びましたのに…」
「いえ、上陸が待ちきれなくて」
「そうでしたか。馬車もありませんので、すぐに手続きを行いますね」
「お願いします」
「お~い!」
「あっ、リックさん。どうしたんですかそんなに走って?」
「水臭いじゃないか、あれだけ一緒にいたってのに別々に下船するなんて。音がしたから急いで来たんだぞ」
「ちっ、そのまま寝てりゃいいのに…」
「ひどいなぁ、ジャネット。一緒に釣りをした仲だろ」
「そういうのは釣りあげてから言って欲しいねぇ。分けてやったんだからもう十分だろ?」
「いやいや、その恩を返させてくれよ。町の案内なら任せてくれ!」
「まあ、そこまで自信たっぷりに言うなら案内させてやってもいいけどね」
「決まりだな。リュート君は後ろを頼むよ」
「あっ、はい」
「ふふっ、リュートってリックさんが来るとなんだか遠慮するよね」
「あの人、押しが強いから。ノヴァと歳が離れてたらって感じかもね」
「なるほど!それじゃあ、リュートは私と一緒だね」
下船の受付を済ませて、ふたりでちょっと後ろを歩いていく。
「ああ、そうだ。海賊討伐の報酬は船に乗っている間に手続きが済んでるから、商人ギルドに行けばもらえるぞ」
「ならそっちに先に行くか」
「場所はと…あっちの方みたいだな」
「ん?リックあんた案内するって言ってたよね。なんで看板なんて見てるんだい?」
「いやぁ、俺に商人ギルドは関係ないしな」
「言われてみればそうか」
「おいおいひどいな。俺が商売の一つでもしてるかもしれないだろ?」
「そんななりの商人がいたら見てみたいもんだ」
「ま、まあまあ、商人ギルドに行きましょうよ」
ピィ~
アルナにもなだめられて私たちは港から町の中心にある商人ギルドに向かう。
「いらっしゃいませ~、どのようなご用件でしょうか?」
「この海賊退治の報酬なんだが…」
「こちらですね。えっと…2つありますがご一緒で?」
「いや、俺だけこっちで残りはまとめてでいいか?」
「はい。パーティー口座に入れますから」
「それではリック様が金貨4枚。フロートの皆さんは金貨20枚ですね」
こういう臨時収入は一度パーティー口座に入れることにしている。それから、数日である程度使うのだ。元々は最初に分けていたのだが、あまりにもみんなパーティー口座を使わないので最近はそうするようにしている。
「あら?アスカ様宛にお荷物が届いておりますね」
「荷物ですか?」
「受取金に金貨2枚かかりますが、報酬から差し引きしますか?」
「ああ、それでいいよ」
「えっ!?でも…」
「まあ、どうせアスカ宛の荷物だし、旅の役に立つだろ。そんで、差出人は?」
「差出人はフェゼル王国のフィーナ様からです」
「フィーナちゃん?ひょっとして…」
私はお姉さんから小包を受け取ると早速中を見る。
「やっぱり!よかったぁ~。これで在庫がなくなってたシェルオークの葉が補充できたよ」
一緒に入っていた手紙にはフィーナちゃんの近況と私を心配した内容が書いてあった。
「フィーナちゃん字もうまくなって…というか私よりうまいかも」
出会った頃は野生児みたいな感じだったけど、今じゃもうお嬢様だね。
「ありがとうございました」
「いいえ」
「そうだ。この町で女性でも快適に過ごせる宿はないか?」
「宿ですか?それでしたら”潮風の香り”というところがいいかと。海産物が出て、今から受付すると夕食も出してくれますよ」
「そうか、ありがとう」
「そんじゃ、向かうとするか」
商人ギルドを出ると再び、案内板のところまで戻ってきた。
「ん?リックさん、どうしてまた案内板見てるんですか?」
「ああ、リュート君。俺はこの町は初めてだからな。宿の位置なんてわからないさ」
「リック、あんた案内は任せろって言ってたじゃないか!」
「まあ、知らない町は歩きなれてるからな。そういう時に効率よく目的地を探すのは上手いぞ」
ひょうひょうとそういうリックさんに2人とも渋い顔だ。特にジャネットさんはそれなら案内してもらうんじゃなかったって顔だ。
「それならあたしが案内するよ」
「ジャネットもここは初めてだろう?」
「ちょっとぐらいは予習してるんでね」
「ああ、それでたまに本を読んでいたのか。安くもないだろうに」
「うっ、うるさいねぇ!いいだろそんなこと」
「何時もジャネットさんが読んでた本ってガイド本だったんですか?」
「そんなことないよ。ほ、ほら、こういう戦術の本も読んでるし」
「ほう?それは中級の戦術書だな。ジャネットはそれが解るのか」
「馬鹿にすんじゃないよ。これぐらい楽勝さ!ちょっと難しい表現はあるけど…」
「ジャネットさんは指揮もあるからすごいんですよ!」
「それであんなに海賊討伐の時、指示が上手かったのか。いやぁ~本当にすごいな」
「褒めるほどじゃないよ。所詮はLV2だし」
「LV2というと部隊レベルだな。それでも2,30人規模で指揮できるのなら、冒険者として十分だろう」
「いや、指揮なんてめんどくさいよ。剣を持ってる方が楽でいい」
「そんなことはないぞ。綺麗な顔に傷でも着いたら大変だしな。なあ、リュート君」
「そうですね…」
「なっ!?変なこと言うなよ。行くぞアスカ!」
「は、はい!」
「ジャネット!」
「なんだい!!」
「そっちは逆だぞ」
「あっ…」
結局、私たちは話をしながらも案内板を読み込んでいたリックさんに案内されて宿に着いたのだった。
 




