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いざ北へ

翌日、ラスツィアを目指して出発する私たちのゲンガル滞在最終日の朝。


「アスカ、今日はどうするんだい。明日出発だから細工かい?」


「いえ、この期間中に結構作りましたから、今日はお休みです。といっても仕入れとかには行きますけどね」


「仕入れか…あたしも同行しようかな」


「ぜひ!」


という訳で魔道具屋まで来たのだけど…。


「ふむ、水の魔石中心かと思ったらそこそこ幅広いね」


「お客様は剣士のようですね。こちらはいかがですか?多少の魔力を込めて投擲後に速度を増すナイフです」


「どれ」


ジャネットさんがナイフを持つ。見た目はナイフというよりクナイに近いかな?


「へぇ~、思ったより重たいんだね」


「はい。ここに速度上昇の付与がかかっており、力を入れなくともそれなりの威力になりますよ。ただ、使い捨ての魔道具になりますが…」


「使い捨て?何でですか?」


見た感じ、そこそこしっかりした作りだと思ったんだけどな。


「魔石の方が使い捨てなんですよ。値段は銀貨6枚ですが、1度発動させると重たいナイフですからね。形もちょっと変わっているので、普段使いには向きませんし」


「なるほどねぇ。ん?この魔石は後付けかい?」


「ええ。型というかナイフを作っていい出来のやつに魔石を付けてるらしいですよ。うちも仕入れがこの町じゃないんで詳しくないんですけどね」


「よし!2本ぐらい買うか」


直ぐに購入を決めたジャネットさんがナイフを2本買ってくる。


「良いんですか?重たいし使い捨てなんですよね?」


「なぁに。使い終わったらアスカにまた違う魔石をはめてもらうさ」


ああ、そういうことか。後付けの魔石ならそういうことも可能なんだ。私も機会があったらそうしてみよう。


「そういや、ちっさい方は魔石を買っていったよな。いいもん出来たかい?」


「まあまあですかね?こういう形になったんですけど…」


私は最初に作ったちょっと中途半端なブレスレット型の魔道具を見せる。


「これ、どう使うんだ?」


「魔力が低い人は水の生活魔法がここから出ます。魔力がそれなりにある人はアクアボールまでなら出せますよ」


「ほう?まあ、魔道具だと出力が一定だから使い易くはありそうだな。どうだ?うちで売ってみないか?」


「う~ん、でも明日には町を出るんですよね」


「なら、買取はどうだ?うちもちょっと手の違うやつを置いとくと見栄えがいいからな」


「ん~、試作品なのであまり出したくないんですけど、余ってますし使い道もありませんしね。いいですよ」


「じゃあ、金貨4枚だな」


「良いんですか?あんまり使い道在りませんけど…」


「魔道具だし、水の魔力が必要といってもそこそこ使い道があるからな。そうそう、アドバイスするなら回復魔法を込めるのもいいぞ。ちょっと消費は高くなるだろうが、攻撃魔法と回復魔法だと回復魔法が得意なやつの方が少ないからな」


「やっぱり戦えないからですか?」


「それもあるが、回復が得意ってことは治癒師とか教会に入って生活ができるからな。わざわざ冒険者になるなんて必要がないのさ」


なるほど、知り合いの回復寄りの水使いの人は剣士の人と一緒に行動してたけど、そうじゃない人は別の道もあるんだね。おじさんに感謝の気持ちも込めて魔道具を売ると、折角なのでそのお金で水の魔石を買い足した。もちろん値段的に私の魔道具に使ったやつよりもいいものだ。これでまた、ティタにお仕事してもらおう。


「もう買うものは良いのかい?」


「はい!後は食料とかですね。次の村には何時着きます?」


「ん~、一日あれば着く予定だけど、向こうじゃ食材を買えるかは分からないよ。別に店とかもないだろうしね」


そういえば、ワインツ村も宿以外の施設はなかったし、宿もヘレンさんの意思でやってたみたいだったしなぁ。貴重な情報を手に入れ、日持ちしそうな食材も買い込んで私たちは宿に帰った。



「さて、忘れ物はないよね?」


「うん。僕はばっちりだよ」


ピィ


「ティタもかくにんした」


「なら安心だね。行くよ」


私たちは北にある門を出て北上する。


「ここからどうするんでしたっけ?」


「まずはまっすぐ北にだね。東は草原、西は砂漠。どっちに言っても夜は危険だからこの辺を歩いていくのがいいと思うよ」


「とはいえ、こっちも草は生え放題ですしいい道とは言えませんね」


「だけど、ところどころ木もあるしこれがましなんだよねぇ」


そう言いながらジャネットさんはたまに剣を振って草を刈っている。そんなことに剣を使っていいんですかと聞くと、処分しようとしている剣だからいいんだって。こうして進んでいく私たちだったけど、流石に未整備の道だ。今までより遅いペースで進んでいくことになった。


「ん~、疲れましたね~」


「よく言うよ。草を刈ってたのはあたしとリュートじゃないか」


「だって私、剣振れませんもん」


「まあ、使い慣れていないアスカが使ってケガとかしてもダメだしね」


「そういうリュートも普段は使ってなかっただろ?」


「でも、ノヴァと一緒に練習してたこともありますから」


「それでもうすぐ夕方ですけど、村はまだなんですか?」


「もうちょっと北の川を越えたらすぐだよ」


「はぁ~い」


ピィ


「もうちょっとだって、ありがとアルナ」


アルナの励ましもあり、再び歩き出す私たち。でもアルナがちょっとうらやましい。休憩中は思いっきり遊んで終わったら私の肩に乗ってるだけだもんね。


「川はこれですかね?」


「ついでにちょっと見ていくかい?」


「そうですね。薬草とかだけでも採っていきましょう」


村は川から10分ぐらい先とのことらしいので、先が見えた私たちはちょっとだけより道してリラ草などを採った。


「あっ、村が見えてきましたよ」


茜色の空が闇に変わっていく頃、ようやく村が見えた。村には柵が施されていた。ワインツ村みたいな簡易のものではなく丈夫な木で縦横に伸びており、外側に向かって斜めに鉄の穂先のようなものもついている。魔物対策としてしっかりしている様だ。


「ん?お前ら村に何のようだ?」


「ああ、ちょっと北に用事があってね。村には特にないけど、宿というか泊まれるところでもあるかい?」


「泊まれるか…。物置小屋が一つ空いてるが、村長に聞いてみないと分からんな」


「村長に話を通してもらえるかい?」


「それは構わんがもうすぐ見張りの交代でな。交代のやつが来ないとできない」


「分かったよ」


村の入り口で20分ほど待つと交代の人が来た。


「ん?知り合いか?」


「いや、一晩泊まりたいそうだ。小屋が使えるか村長に聞いてくる」


こうして村長さんの家に案内された私たちは無事に小屋を借りることが出来た。もっとも、借り賃の代わりに食料をちょっと渡したけどね。まあ、屋根もあるし見張りも立てなくていいからしょうがないよね。


「んじゃ、あたしは先に寝るとするか。リュート、見張りは頼んだよ」


「はい。食事は簡単な物を作って置いておきますね」


「へっ?見張りは村の人がいるんでしょ?」


「まあ、そりゃいるけどさ。村の見張りなんて当てにならないし、魔物が抜けてきたら面倒だろ?それに村だって絶対に安全とは限らないよ。あたし達が渡したブルーバードの肉を見た村長、嬉しそうだっただろ?」


「そうですね」


「ということはこの辺じゃ出ないか、ろくに狩れないって訳だ。見張りもDランク程度の実力だろうね。収入が苦しくなって旅人を襲わないとも限らないよ」


ジャネットさん曰く、こういう村を目的地にする旅人はいないので、足がつかないように襲うこともあるそうだ。生活が苦しくなっても、領主様も簡単に補助金をくれるわけもないし、そういう村もあるらしい。


「パッと見ただけで信頼できるほど情報もないし、見張りは当然だよ。もちろん、目立ってやったら反感を持たれるからわからないようにだけどね」


という訳でリュートも見張りは外ではなく小屋の中でだ。ただし、いざという時には脱出できるように反対側のところに魔道具をおいて、壁を壊せるようにしてある。


「それじゃ、アスカお疲れ様」


「お疲れ様。でも、本当に私は見張りしなくても大丈夫?」


「まあ、僕もジャネットさんも体力はあるしね。ゆっくり寝ときなよ」


「分かった、ありがとう。それじゃ、おやすみ。アルナとティタもね」


「おやすみ」


ピィ


こうして町を出て1日目、私たちはゲンガル北の村で1泊したのだった。



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― 新着の感想 ―
村人に襲われる事も想定するのはさすがジャネットさんだな~ 「綺麗な女2人にひょろっこい男1人、男を不意討ちすりゃ残るは上玉の女だけだ!こりゃ楽しめるぜグヘヘ」とか企む若い衆が居ないとも限らないもんね…
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