寄港地エクリース
「やっと着きましたね~」
コンコン
「はい」
「エクリースへの上陸準備が終わりました。降りられますか?」
「降ります!」
「ははは。では、準備が整いましたらフロアにいる船員に話しかけてください。一旦部屋にはかぎを掛けますから。再度、船に戻られたときにお声がけいただいたら開けますので」
「わかりました。ジャネットさん、降りたら何見ましょうか?」
「見るって言っても、今日一日だけだろ?明日の朝市なら珍しいもんも並ぶかもしれないけど、あんまりないんじゃないかねぇ」
「え~!?いいのありますって!」
「あったとして、アスカこの前にいっぱいお金使った~!って言ってなかったかい?」
「それはそうですけど、探せばいろいろありますよ」
「ま、それなら行くとするかい。じゃ、すぐに着替えるか」
「ちょ、ちょっと待ってください!私もすぐに用意します」
ジャネットさんは町に行く時も冒険に行く時もすぐに準備をしてしまう。3分もあれば準備万端だ。私は今日どの服を着て街に行こうか服から悩むのに。
「もういいのかい?」
「はい!お待たせしました」
10分ほど服を悩んで着替えると、いよいよエクリースに上陸だ。
「あっ、そうだ!リュートを呼んでこなきゃ!」
「残念。リュートは海賊どもの見張りさ」
「ええ~、残念です。でも、しょうがないですよね。私も手伝った方がいいんでしょうか?」
「いらないよ。もう警備隊に連絡したらしいしね。あとはリュートとリック…男どもにでも任せときゃいいさ」
「まあ、それならいいんですけど…」
「それより、市場にでも行くとするかい。適当に回ってりゃ、昼になるだろ」
「せっかくですしそうしましょうか。市場で食べられたらいいですね」
「まあ、それはその時だね」
というわけで、フロア係の船員さんに鍵を閉めてもらって下船する。部屋を出た時にはリュートに行ってきますだけ告げて出て行った。今日は港に泊まることもないので、アルナたちはお留守番だ。まあ、港近くになら降りてるかもしれないけど。
「おっ!ジャネットも付き添いか?」
「まあね」
「それなら俺たちの飯も買ってきてくれよ」
「奥にいる辛気臭いやつらのせいで、食いにも行けないんだぜ?」
「まあ、覚えてたらね」
「頼んだぞ~!」
ぶんぶんと元気に手を振るリックさんとは対照的にジャネットさんはフリフリと振り向きもせず手を振るにとどまる。う~ん、この2人の行動はいつも真逆だなぁ。
「それで、お土産は何にするんですか?」
「やだよめんどくさい」
「え~!私はリュートの分を買って帰りますし、ジャネットさんはリックさんの買わないんですか?」
「うっ、いや、まあ、アスカがリュートの分を買うなら、あたしも義理で買うか」
「そうですね。それにしても海賊はいつ降ろすんでしょう」
「まあ、引き渡し先の受け入れ態勢もあるから、直ぐにとはいかないだろうね。でも、帰ってくる頃には終わってるんじゃないか?そんなに長時間置いていたくもないだろうしね」
「そうですよね。ちょっとだけ臨時収入が入るのうれしいです」
「この前使ったもんねぇ。そういやアスカ。あんた船の代金どうするんだい?」
「ふね?」
「海賊たちが乗ってきた船だよ。そこそこの大きさの船だし、底に傷こそついてるものの、ちょっと直せばまだ使えるだろ?」
「そんなこと言ったって、私たちじゃ操船できませんよ?」
「だから、船長に売るんだろ」
「船の相場ってどんなものなんでしょう?」
「さすがにわかんないね。でも、あたしたちが乗ってきた船に追いつくぐらいだし、それなりには高い値段で売れるんじゃないか?」
「家一軒とか建っちゃいます?」
「建つかもねぇ。田舎とかなら」
それ以前に木材使用なら大抵のことは自分でやれるだろうという言葉を飲み込んで、ジャネットは答えた。
「夢が広がりますねぇ~。実は私、旅をしながら住処の候補も一緒に探してるんですよ。今のところは港町がいいんですけど、ああいうところって商人さんたちも支店を出したりして、結構高いんですよね」
「まあ、各地の名産が集まるしねぇ。でも、他の候補地はないのかい?」
「どうでしょうか?でも、一回はお父さんの実家の領地にも行きたいですね。海があったらそこになっちゃうかもしれないですね」
「そんなに海が気に入ったのかい?」
「海というか海産物がおいしいので!」
「そりゃあ、いいこって。おっ、この辺だね」
「この辺から市場みたいですね。さすがに今日降りた商人さんは見えないみたいですけど、それでもいろいろ並んでます」
「こっから仕入れの週に充てる商人には十分だろ。ほら行くよ」
「は~い」
ジャネットさんに手を引かれて、市場を見ていく。
「おや、そちらのお連れさん方、見ていかないかい?」
「見ていくも何も何売ってるんだい?」
「うちは細工の店だよ。ちょっとだけ魔道具もあるけどね」
やっぱり、細工に魔道具はつきものらしい。
「じゃあ、いいのを見せてくれよ。こっちは目が肥えてるんでね」
「いいぜ!」
そういうとおじさんは並んでいないものを奥から取り出してきた。
「へへっ、一般には見せないんだぜ。物がわかる奴にだけ見せるんだ」
「へ~」
私は出された細工を眺めていく。確かにかなり奇麗な細工が施されているけど、これって鉄だし…。値札を見ると、価格は金貨2枚。銀で作ってあればさらに3枚から4枚は上乗せできると思うんだけどな。
「どうだいアスカ?」
「う~ん、出来自体は悪くないんですけど、鉄なので。正直、この人の腕なら銀とかいろいろな金属で作ってもいいと思うんですけどね」
「だとよ」
「ぬぅ、本当に良い目をしておられますね。他のものはどうですか?」
「他のはちょっと…。粗が目立つし、作り直す気にならなかったんでしょうか?」
「は、はは。彼らにも生活がありますから。それなりの値段で売れるなら作り直すより、一度完成させたほうがいいんですよ」
「でも、それだと自分のつたないものがいっぱい流れちゃいますし…」
「ま、まあまあ。それより、他のを見せてくれよ。そいつの作った秀作とかさ」
「そうですね。一つだけあったような」
さらに奥でごそごそして一つの箱を持ってきた。
「これなんてどうです?ちょっと珍しいデザインですよ」
「あっ、リラ草ですね。この花かわいいですよね。まあ、毒がありますけど」
「おや知ってらっしゃいましたか。どうです?今ならこの銀製のが金貨4枚ですよ」
花は小ぶりで、きちんと一本のリラ草を再現した細工だ。これなら買ってもいいかも?
「ふ~む。色味が欲しいけど、それは持ってる塗料で行けそうだな。なら、これは買いかな?」
「そういえば、お嬢さんの細工物もきれいだね」
「ほんとですか!うれしいです。うちの商会と契約している細工師さんの作品なんですよ」
「それはいい腕をお持ちの方を見つけられましたね。こう言っては何ですが、この市ではあまりいい細工はもうないでしょう」
「そうなんですか?」
「明日は今日接舷した船。明後日にはもう一隻、寄港する船があるので言わば今出ているのは地元のものと売れ残りなんですよ。もちろん、うちの商品は地元産ですよ!」
「そ、そうですか。でも、ちょっと触れば一化けするかもしれないですし、いろいろ見てみます」
「では」
料金を支払って、次の店を見る。でも、実際におじさんの言う通りでいいと思うものはなかった。
「あっ、でもこのバラのやつはいいかも」
ちょっと不出来だけど、それぐらいは色を塗ればなんとかなるから、安い分お買い得かも!
「これっていくらですか?」
「これは銀貨4枚だよ。ちょっと形が悪くてね」
「他にもこういうのないですか?」
「なんだい。お金持ってるのにこういうのに興味があるのかい?」
「まあちょっと」
「それじゃあ、もうちょっとあるから出すよ。細工物なんて町の奴らはあんまり買わないからな」
「じゃあ見せてください」
「おう!」
おじさんは棚の下からいくつか細工を取り出す。そこには花びらの1枚が曲がっていたり、変な線が入っていたりといった通り、品質が悪いものがあった。
「これはどうしようもないな…こっちはまだ厚塗りすれば何とかなるな。これもいけるかな?」
いくつかはリメイクすれば何とかなりそうだったので、買っていく。
「さあ、細工もいいけど、そろそろ昼だよ」
「もうそんな時間ですか?」
「案外、港についてから時間経って降りたからねぇ」
「それじゃあ、食べられる店探しましょうか!」
ジャネットさんに促され、私たちは食事ができる店を探しにブースを移動したのだった。




