こぼれ話 船上の海賊たち
※残酷なシーンが含まれます
「お頭~、これからどうなっちまうんです俺たち」
「うるせぇ!なんでこんな目に…大体なんだよあいつらの強さは。普通ああいう船にはCランクぐらいのやつしか乗らないってのに!本当に乗員名簿を確認したんだろうな!!」
「へ、へい。それは間違いなく。町で売り出し中の冒険者はもちろん、噂の奴らも大体は把握して照合をかけましたぜ」
「じゃあ、あいつらは何なんだよ!」
「し、知らねぇですよ。おい、お前!ちゃんと調べたんだろうな」
「も、もちろんです。新人とはいえちゃんと2等船室の名簿までは見ましたから」
「けっ、どうだか。大体それじゃあ1等船室のは見てないんじゃねぇか!」
「いっ、一等船室なんて見るの無理ですよ。でも、貴族の記名はありませんでしたし、護衛っぽいやつも2名だけでした」
「あの女剣士ともう一人だな。そういや、もう一人のやつは見てねぇのか?」
「あっ、あっしが見ましたぜ!1等船室に行こうとした時に邪魔した剣士ですぜ!滅法腕が立つ奴で、横の船員の相手をする余裕もありやせんでした」
「くそっ!こうなったら残った仲間に来てもらうしかねぇ。お前の手配した船員はどうだ?」
「ギャンブルのやつですかい?でも、あっしらが捕まっていうこと聞きますかね?」
「聞かせるんだよ!俺たちがまだ根城に何人か残しているのをあいつだってわかってるだろうが!」
「わかりました。見張りに立って来たら何とかさせやす」
ガチャ
「おう、飯だ。ただし、食えるのは本拠地を教える気のある奴だけだがな」
「………。」
「…だんまりか。まあいいさ、もう少しだけ考える時間をやる」
「頭、どうします?あんまり時間がないって…」
「焦るな!まだだ。お前が連絡した船員の特徴は?」
「さ、酒好きでギャンブルに目がないやつですが…」
「それだ!次に来たら俺が話す。いいな?」
「へ、へぇ」
「どうだ。話す気になったか?」
「は、話す!だから、酒の一杯でも恵んでくれねぇか?な、頼む!」
「この期に及んで酒だと!ふざけるな!!」
「一杯飲んだら必ず話す!な?」
「…ちょっと待ってろ」
「ふぅ、何とかなったか…」
「これからどうするんで?」
「しばらく酒を運んできてから時間を作る。そうすりゃ、そいつがつられるかもしんねぇ」
「そんなうまくいきますかね」
「うるせぇ!それ以外に何かあるか?大体、こんな船に目をつけなきゃ…」
「あいつなんだって?」
「酒をくれたら話すって言ってました」
「は?酒を?何考えてるんだ…」
「もう観念してどうでもよくなったとかですかねぇ?」
「ちょっと相談してみるか」
「で、俺が呼ばれたわけか」
「はい。リックさんも海賊に遭ったことがあるって聞いたんで」
「ああ、そういうことか。まあ、何かしら考えてるだろう。人の良い振りして樽一つ置いておけばいい」
「でも、それであいつらに何の得が…」
「さてな。合図か、はたまた別の目的があるのか。海賊のことは船員には周知したんだろ?なら、それで一日ぐらい放っておくっていえばいいさ」
「大したものでもないしそうします。おい!」
「わかりました!」
こうして酒を持っていくともう少し待ってくれと海賊たちが言うので、部屋に樽を置いたまま夜を明かすことになった。
「へっ、へへっ。ここに酒があるのか。どうせ海賊たちは縛られてるし、声は漏れない部屋だからばれねぇよな」
ガチャ
「だ、誰だ?」
「おう、おれですよ」
「あっ!?お前は…」
「こいつがそうか?」
「へ、へい」
「あんたが船長?いやぁ~、大変だね。俺はちょっと酒をもらいに来ただけさ」
「けっ、余裕ぶっこいてるみたいだが、俺たちがお前のことを話せばどうなるかわかってんのか?」
「はははっ、あのお節介焼きな船長が何かするもんか。脅されましたっていえば済むさ」
「ほう?そううまくいくかな?3等船室にはまだ俺たちの仲間もいるんだ。てめぇなんて降りた瞬間にブスリだぜ?」
「ああ、そいつらなら新しく捕まりましたよ。部屋はあえて分けてますがね」
「なっ!?」
「そういうわけで、俺はただ酒をのみに来ただけでさぁ」
「俺たちを解放しろ。そうすればもっと酒が飲めるぞ?この一回限りで一生な」
「へへっ。でも、さすがにそんな危ない橋は渡れませんね。おっと、酒がこぼれそうだ」
「こ、この野郎…」
コンコン
「お前ら生きてるのか?」
「おっ!こりゃあいいや。お前ら返事するなよ」
「へい」
「な、なにを言ってやがる!」
「くくく、このまま見張りが入ってきたらどうなるだろうな?俺たちの目の前で酒を飲んでるんだ。さすがにお人よしの船長でもお前を疑うぞ?」
「そそ、そんなことはねぇ!」
「一応声はするな…だが念のためだ入るか?」
「騎士さんどうしたんです?」
「いや、話しているような声はするんだが、どうにも気になってな」
「ひっ!ま、まて、さっきの話だが、お前ら見張りは倒せるのか?」
「この人数を見ろよ。武器なんぞなくても勝てる」
「ほ、ほんとだな!じゃあ、こいつで縄を…」
「いいナイフだな。ありがとよ」
「あぐっ…」
「こんなナイフ一つじゃ不安だが、ないよりましだ。縄を切るからさっさと行くぞ!」
「へいっ!」
「ん?静かになったな。まあいい、明日にはエクリースに着くんだ」
コツコツコツ
「行ったか?ようし、見張り一人なら…」
ガチャ
「お疲れ様。じゃあ、そういうことで。ウィンドブレイズ!」
「がはっ…」
「か、頭!」
「どうだった、リュート君?」
「リックさんの予想通りでした。ただ…」
「ふむ。まあ、これは自業自得というやつだ。あとは逃げ出そうとした愚かな海賊たちには思い知らせないとね」
「ま、まて、剣を下ろしてくれ!俺たちは逃げねぇ!」
「その前にしたことを忘れろとでも?それにこの状況でまた縛るのは手間でね。なぁにお前らの本拠地ぐらい、2人ほど残ってれば吐くだろ?」
「そうですね。さっさとしましょう」
「ままま、待ってくれ!話す!話すから!!」
「そうか。ならお前ともう一人ぐらいだな」
「お、俺話します!」
「そうか。おい、船員さんよ。入ってきていいぜ」
「はい。お前ら、縛れ」
「なっ、なんで縛って…まて、俺だって話すから…」
「海の掟は海賊だって知ってるだろ?天候不良で船が沈むこともあるんだ。何が起きても船員は仲間と協力して乗員を守るってな!甲板に連れていけ」
「か、甲板に連れてきてどうしようってんだ?」
「ふむ。2人残してここには6人か。順番に沈めろ」
「縄はどうします?」
「船に縛る必要はない。こいつは唯一、前の船長から絶対忘れるなって教えてもらったことだ。海賊と裏切り者は絶対に許すなってな」
「ま、待ってください船長!」
「新入り…いや元新入り。お前は一番最初だ。これ以上裏切られるのはごめんだからな」
「そ、そんな…」
「船乗りの掟もわからん奴を仲間とは思わんのでな。やれ」
「へい」
ドボン
「ひっ!」
「さあ、乗客に見つかっても面倒だ。どんどんいけ」
「ま、待ってくれ!鉱山奴隷でもなんでもいい。このまま売った方が金になるだろう?」
「海には金に勝るもんがあるんだ。最後にわかってよかったな」
「お前で最後だ。せいぜい、後悔しな」
「まっ…」
ドボン
「終わったな」
「済まねえな旦那。嫌なことを見させちまって」
「いや。それより、ジャネットたちへの説明でも考えておく。ああ見えて色々甘いところもあるからな。今見張りについてるリュート君にも口止めしないと」
「では、そちらはお任せします」
「ああ。そうそう、それと報酬の件だが」
「もちろん、今回の分も…」
「そっちは言い値でいい。前に約束していた分だ」
「あの件ですか。それで、何が必要なんですか?」
「んんっ!その…だな。ジャネットたちの目的地はどこなんだ?」
「は?…えっと、それは乗船客の個人情報になるので」
「ならば、質問を変えよう。エクリースで降りるのか?」
「エ、エクリースでは降りません」
「そうか!なら、俺の下船もエクリースからフェリバーンに変えておいてくれ。では、リュート君に知らせてくる!」
「…承知しました」
「1等船室の方も少し変わった方でしたが、あの騎士様も変わっていますね」
「まあ、海賊から船を守る報酬がこれならいいだろう。別に恨みがあるわけでもないことだし。それより、海賊たちの船は問題ないか?」
「はい。底が氷で少しだけやられてますが、簡単に直せます」
「あれはエクリースに着いたら警備隊に売るからな。そうすれば、本拠地に残っている奴らの注意をそらせるし、警備隊の船不足の解消にもなるだろう」
「海賊の知らせを聞いた時は運が悪いと思いましたが、かなり利益の出る航海になりましたね」
「全くだ。売却益はどうするか…警備隊との交渉だからしばらくかかるな」
「待ってもらったらどうです?どの道、うちからは海賊の件でも報酬を出しますし、大丈夫でしょう」
「そうだな。あいつらを降ろした後、それとなく言ってみよう。いやぁ~、それにしても今回の航海は色々あったがこのままだといい航海になりそうだ」
 




