作戦会議は騎士とともに
「んじゃあ、まずは作戦だね。協力者はこれだけかい?」
「他にも何名か船員はいますが、怪しいものもいるので…」
「1等船室とか2等船室に冒険者はいないんですか?」
「いるにはいますが、果たして協力してくれるかどうか…」
「協力してもらえない場合は情報だけ教えちまいますし」
「そっか、もう少し戦力がいれば楽になると思ったんですけど…」
残念ながら、協力してもらえなかった時のことを考えると、中々人を募ることは難しいみたいだ。
「あっ!でも、騎士っぽい人はいますぜ。あの旦那なら協力してくれるかもしれませんぜ」
「どこの部屋だ?」
「230号室の方でさぁ」
「ん?ああ、あの人か。確かにあの風貌なら受けてもらえるかもしれんな。さっそく呼んで来い。ただ、夜だから丁重にな」
「へい!」
船員が一人部屋から出て行って騎士さんを迎えに行く。
「それじゃあ、こっちも暇してられないから詰めてくよ。まずは相手がどう来るかだけど、船尾と船首どっちからだと思う?」
「船は南下していて新人が知っていたことからこっそり後をつけてきているんだと思います。魔物などの哨戒に松明を焚いていますから」
「なら船尾か…。今の見張りは誰がやってるんだい?」
「一応ベテランですが、ちょっと不真面目というかだらしないやつでして…」
「ということは、その日の配置なんかも新人か誰かから漏れてるってことだね。見張りをこっそり変えて予定通り乗り込ませるか…」
「えっ!?船に乗り込ませちまうんですかい?」
「ああ。船上でなら向こうに地の利があるとは言え、あんたらも船乗りだしあたしたちだって船の上だからって遅れは取らないよ。なぁ、リュート?」
「そうですね。それより、逃げられた方が面倒です。次の襲撃がいつあるかは今度こそわからなくなりますから」
「それに、逃げちゃったら次の船が襲われるかもしれませんしね!」
「アスカの言う通りだよ。逆におびき寄せて一気に倒す!これが一番いいね」
「戻りました!」
「なんだっていうんだ。せっかく寝ようとしていたのに…。おや、きれいなお嬢さんがいるね。お名前は?」
入って来た騎士さんはそう言いながらジャネットさんに手を出す。
「はぁ?あたしに言ってんのかい?」
「当然だろう?」
「それなら、アスカの方だろ」
「ふむ。彼女も美しいが少女だな。淑女というにはまだまだだよ」
「なんだい、こいつが助っ人だってのかい」
うんざりした表情でジャネットさんが船員に問う。
「へ、へい。これでも腕は確かだと」
「ん?急に俺を呼んだと思ったら厄介ごとか?」
「ああ、今は海賊対策をしてる最中だよ。まったく、そんな忙しい時に変なことを言うなんてね」
「別におかしいことを言った覚えはないが。まずは自己紹介と行こう。俺はリックだ。君は?」
「…ジャネットだよ。そこのアスカの護衛だよ」
「ふむ。そっちの君は?」
「リュ、リュートです。同じく護衛を…」
「でも、一緒のパーティーですけどね」
「パーティー?君も冒険者なのかい?」
「はい!一応リーダーもやってます」
ここぞとばかりにリーダーであることもアピールだ。あんまりわかってもらえないからね。
「いい情報をありがとう。それで、海賊が来るっていうのは本当なのか?」
「ああ。そちらのお嬢さんがうちの新入りから聞き出してくれたんだ。まったく、馬鹿なことをしやがって」
「あと、15分ぐらいで来る予定だよ。それで、あんたにも協力してもらおうと思ってね」
「どの道、避けられないなら俺は構わないが、報酬がなくてはな」
「ま、そうだろうね」
「だが、今は俺も機嫌がいいからな。大したことは言わないさ」
「ちなみにどれぐらいだい?」
「金でなくて結構だ。こう見えてもそこそこあるのでね」
「それなら、後で聞くとしようかい。今は対策の方が大事だしねぇ」
「まったくだ。それで、決まっていることは?」
「海賊たちはおそらく船尾からやってくるので、誰かを今いる見張りと変えておびき寄せる算段です」
「おびき寄せる?わかっているのなら追い払えばいいのでは?」
「せっかくあたしたちがいるんだよ。この機会にふんじばってやるさ!」
「…やはりいいな。ああ、見張りはちょっと弱そうに見える方がいい。あいつらは好戦的だし、乗り込めば何とかなると思っている節があるからな」
「あんた、ずいぶん海賊に詳しいんだね」
「なぁに。これでも、結構船には乗って移動していてな。今までにも襲われたことがある」
「あんたが呼び寄せてるんじゃないだろうね…」
「失礼な。まあ、そのお陰で得るものもあるかもしれないが」
「それで見張りは誰が行くんですかい?」
「おっと、話がそれてしまったな。そこのリュート君だったか?彼が行くのはどうだろう?ここにいる中では体格も小柄な方だし」
「リュートが!?でも、危ないし…」
背が伸びてきたといっても、リュートはまだ体格は大きくない。心配だよ。
「アスカ、心配しないで。僕なら魔法も使えるし、何とかなるよ」
「ほんと?絶対、ケガしないでね」
「う、まあ頑張るよ」
「じゃあ、決まりだな。見張りはリュート君でマストのところにある見張り台に立ってくれたまえ。多分、海賊が攻撃を仕掛けると思うが、やられた振りをすればいい。意識がない振りだけできれば向こうも船の内部に入ることを優先するだろう」
「うっ、演技には自信がないですけど頑張ります」
(ティタ、どうにかならないかな?)
(リュート相手というのが癪ですけど、ご主人様のために頑張るみたいですし、少々力を貸しましょう)
(ありがとうティタ!)
私はティタと念話で話し、安全が確保できるように対策をする。
「じゃあ、後は船の内部に入ってきた後だね。おおよその地形は向こうも知ってるだろうから、おびき寄せる場所だね」
「1等船室に降りる前の階段ではどうですか?あそこなら少し入った場所ですし、乗船しているお客様の中でも重要な人物がいますから」
「つまり最初に相手が抑えたい場所ってことか。それで行くとするか。じゃあ、そこはあたしと…」
「はいはい!私が行きます」
「アスカが?まあ、魔法が使えるやつがいた方がいいけど、最初だからやり過ぎんじゃないよ?」
「わかってますって!」
戦いたいわけじゃないけど、そこがリュートの様子を早く確認できる場所だからね。
「なら、俺はその後ろで無理に押し通ってきた奴を倒そう。船員も2人ほど付けてくれ。船の人間の協力がある方が万が一、他の海賊仲間がやって来た時に対処しやすい」
「わかりました。おい!2人ともこの騎士さんに付いていきな」
「へいっ!」
「わかりました」
「あとはミーガス」
「はっ!」
「こいつはこの船の副船長です。お前は3等船室の乗客が出てこないようにしてくれ。最悪、切っても構わん。海賊の仲間がいるのは確定だからな」
「わかりました。こっちにも3名ほど連れていきます」
「ああ、絶対に通すなよ。通路の仕掛けも動かしておけ」
「了解です」
船に何かあった時のために3等船室には隔離用の仕掛けがあるらしい。これを使って先に1等船室や2等船室の重要人物を優先的に降ろせるようになっているとのことだ。船室のグレードがそのまま安全に直結してるんだね。
「じゃあ、そろそろやってくる頃合いだし移動するか」
「そうですね。そういえば指揮はどうしましょう?」
「見ている限り、ジャネットに任せた方がいいんじゃないか?彼女は指揮も慣れていそうだし、船長は後方との連絡を取らないといけないだろう?」
「確かに…。任せてもよろしいですか?」
「しょうがないねぇ。でも、戦いになったら知らないよ?」
「もちろんです。お前ら!しっかり命令を聞けよ」
「へいっ!」
「わかりました」
騎士さんもとい、リックさんに付いていく船員さんが元気よく返事をする。
「じゃあ、まずはリュートの服装をささっと船員服にさせてと」
「うわっ!上から着ますって!」
「恥ずかしがんなよ。面白くないねぇ」
リュートが急いで着替えると、私と船長さんとジャネットさん。それにティタと眠たいところを起こしてきたアルナとキシャルも連れて甲板に出る。
「おい、バンザ!」
「へい、船長なんですかい?」
「今日はちょっと今から案内をするから先に休んでろ。俺が見張りは代わってやる」
「いいんですかい!?ありがてぇ、ちょっと飲みすぎちまってて…へへ」
「まったく、しょうがない奴だな。ほら、早く戻れ」
「へい」
バンザと呼ばれた船員が中に入ると私たちはすぐに行動に移る。
「あいつはちょっと酒癖が悪くて。さっきみたいに見張り中でも飲んだりするんですよ」
「そうみたいだね。リュート、さっきの船員がいたあそこで待機だよ。それじゃあ、アスカ。探知頼めるか?」
「了解です!アルナも眠いと思うけど頑張って」
ピィ!
私とアルナが集中して船尾から海賊船の気配を探る。
「ううっ、波の音が大きくて邪魔だなぁ」
ピィ~
「もう少し、上に張って帆の音とか人の声をさらってみよう」
ダイレクトにまっすぐ飛ばすと波の音が邪魔で位置が特定できないので、もう少し上に魔力を飛ばす。
「あっ、これかな?ちょっとだけ声も聴ける」
どうやら会話の内容からそろそろ準備をしておけということみたいだった。
ピィ
「アルナも分かった?よ~し、みんなに伝えよう!」
船上での長い夜はまだ始まったばかりだ。
 




