招かれざる客
そして翌日。特に昨日と変わらず、今日も今日とてのんびり巫女服を作っている私。
「ご主人様、そろそろお昼ですよ」
「そうなの?わかった、中断するよ」
なんとか午前中に袴の基本的なところまで1着作った私は2着目の裁断が終わるところで休憩に入る。
「ん~、疲れた~」
「アスカ、集中しすぎじゃない?今日は午後からの作業休んだら?」
「でも、裁断まで行ってるんだよね~。あっ、お魚おいしい」
「まあ、切りがよくなったら休みゃいいよ」
「そうそう。といっても15時以降はお休みかなぁ?」
結構、作るのに集中力がいって疲れるし、作っているのは巫女服だ。アラシェル様関連のものを手を抜いて作るわけにはいかない。幸い、明日以降も時間はあるんだし焦らずにやっていこうと思っている。
「特に帯がね~。ひとりひとりサイズがまちまちだし、一度作ってからデザイン変更は無理だから、後回しになっちゃってまして」
「帯?ああ、あの平たい紐かい。でもあれってなくても構わないんだろ?」
「そういう風には作るんですけど、デザインとしては必須ですからね」
「まあ今日で寄港地までちょうど半分だし、ゆっくり行こうよ。15時以降はどうするの?」
「どうだろ?ちょっと景色を見た後はベッドで横になってるかも」
「そっか。じゃあ、甲板に上がる時には僕も呼んでよ。暇してるしね」
「分かった。って、その間はどうするの?」
「船員さんとちょっと仲良くなったから、船上の保存食でも教えてもらおうと思って」
「それはお疲れさま。じゃあ、ティタを連れて行ってね。念話で呼べるから」
「了解」
そんなわけで、巫女服制作のきりが良くなったところで一緒に甲板へ行く約束をリュートとした私は食事の後、再び作業に戻ったのだった。
「さてと。それじゃあ、甲板に行こうかな?」
何とか今日のうちに2着目の巫女服を作った私はリュートを呼んで甲板に向かった。
「ふぅ~、何度見てもいい景色だね!」
「そうだね。でも、揺れないともっといいけどね」
「あはは、リュートったら。それじゃあ、海じゃなくなっちゃうよ」
「それもそうか」
2人で夕ご飯までの時間をゆっくり楽しむ。といっても、ぽつぽつ会話するのと景色を見るぐらいだけどね。
「そろそろ夕食です」
「あっ、ありがとうございます!」
食事の時間を知らせてくれたのは最近見なかった、新人船員のジューダさんだ。
「そうそう、今日の深夜にいい景色が見られるスポットがあるんです。夜に2つ隣の部屋の前に来てもらえませんか?場所を教えますから」
「わかりました。でも大丈夫なんですか?また怒られちゃうんじゃ…」
「そうなんですよ。だから、一人で来てくださいね」
「大変ですね。お仕事もあるのに」
「まだまだ新人なんで!では」
元気よく挨拶をして去っていくジューダさん。食後が楽しみだ。
「アスカ、えらく今日は機嫌がいいじゃないか」
「えっ、そうですか?御飯がおいしいからかなぁ」
「別にメニューはそこまで変わんないだろ。なぁ、リュート?」
「そうですね。魚も出てますけど、市場と大きく違いはないですね」
「もう~、2人とも疑り深いんだから!」
指定された時間は結構遅めの時間だったので、勘の鋭い2人にばれないように食後にちょっと仮眠をとってから部屋を抜ける。残念ながら、出る時にジャネットさんに話しかけられたけどすぐに戻ると言っておいた。
「指定の時間が遅いのもやっぱり、深夜にみられるスポットだからだよね。向こうはお仕事もしてるし」
こっちはただの旅人。寝たい時に寝ればいいし、起きたいなら起きていていい暇人なのだ。
「来ましたよ~」
「アスカさん、来てくれたんですね!」
「もちろんですよ。でも、あんまり時間は取れないかも」
「じゃあ、ちょっとだけここに。空き部屋ですから。もちろん、ドアは開けておきますからね」
「は~い」
部屋に入ると私たちの部屋とはちょっと違った内装だった。
「ああ、1等船室は各部屋ごとにちょっとずつ内装が違うんですよ。僕もあんまり見たことないですけど」
「そうなんですね。新鮮です」
もっと見ていたいけれど、時間がないので本題に入る。
「それで景色なんですけど…」
「その前に一つだけ大事な話があるんです。聞いてもらえますか?」
「は、はい…」
ジューダさんの勢いに押されてついOKしちゃったけど何だろう?
「実はこの船を狙っている海賊がいるんです…」
「ええっ!?いきなりどうしたんですか?それがほんとならみんなに知らせないと!」
「無駄ですよ。海賊たちも大きな船でやってくるんです。船員じゃどうしようもないですよ」
「なんでジューダさんがそんなこと知ってるんですか?」
「俺もその一員なんですよ。あと30分もすればこの船に取り付く手配です。3等船室にも仲間がいますし、内と外から一網打尽ですよ!あんな護衛なんてほっといてここで隠れていてください。悪いようにはしませんから」
「はっ?ジャネットさんやリュートがどうでもいいって?」
同じころアスカたちが泊まっている部屋では…。
「ん…これは!?ジャネット様、すぐにご主人様のもとに参りましょう!」
「ティタどうしたんだい?アスカならさっきちょっと出ていくって言ったっきりだけど…」
「ご主人様の強い魔力を感じました!」
「何っ!リュート、すぐに準備しな!」
「はいっ!」
あたしたちはすぐに武器を持って部屋を出る。
「この部屋からです」
「ちょっとドアが開いてるね。ここは人がいなかった気がするけど」
「入ります!」
ガンッとドアを蹴破る勢いでリュートが室内に入る。あたしも踏み込むとそこには倒れている新人船員がいた。
「アスカ、こいつがなんでここに?」
「あっ、リュートにジャネットさん!大変なんです!!」
「大変ってアスカ。どうしてこの人と一緒なの?」
「落ち着きなリュート。アスカ、一緒にいた理由は後で聞くから、何が大変なんだい?」
「30分後にこの船に海賊が来るそうなんです!」
「海賊!?なんでそんなことわかったんだい?」
「それはこいつ…この人が一味だったんです!とにかくすぐにでも知らせないと…」
「それが本当なら確かにね。リュート!この件を船長に知らせてくれるかい?ああそうそう、ちょっと耳も貸してくれ」
「えっ!?それいいんですか?」
「いいから。この情報が真実だった場合のことを考えれば軽いもんだって。じゃあ頼んだよ」
ジャネットさんが小声でリュートに耳打ちするとリュートは部屋を出て行った。
「とりあえず、こいつは縛っておくか。目が覚めて騒がれても面倒だし。んで、他に何か言ってなかったか?」
「そういえば…仲間が3等船室にいるって言ってました」
「3等船室にねぇ。強そうなのは見かけなかったけど、数がいるとまずいね」
「そ、そんなにいるんですか?」
「さぁ?でも、そこまで身元調査なんてして乗せないし、元々それ対策で動ける場所もかなり限られてるからね。とりあえず責任者を待つとするよ」
「そうですね。でも、焦っちゃいます」
「焦ってもどうしようもないさ。あたしたちはあくまで乗客なんだから」
「連れてきました!」
「ご苦労さん、リュート」
「どうしたんです?こんな空き部屋にお嬢様もつれて」
「リュート説明はどうした?」
「船員がいっぱいいたのでまずいかなと」
「よくやった!みんなに聞かれていたら面倒だったよ」
「何の話で…」
「船長さん、驚かないで聞いてくださいね。この船にあと30分ほどで海賊がやってくるんです!」
「海賊?どうしてまたお嬢様がそんなことを」
「こいつから聞いたんだってよ」
「こいつ?ジューダ!まさか、こいつが!?」
「はい。部屋に入ってくると、ここにいたら私は見逃してやるって言われて…」
「それはとんだことを!お詫びいたします。しかし、こいつの言っていることが本当だったなら大変です。すぐに対策を立てないといけません」
「そこでだ。あたしらを使ってみないかい?どうせこのまま待っててもこっちは巻き込まれるんだし」
「腕利きの護衛の方が協力してくださるのはありがたいですが、お嬢様の守りは?」
「それなら大丈夫です!私も戦えますから」
「あんまり前には出したくないけど、これでもうちのリーダーなんでね。その辺は心配しなくていいよ」
「ではすぐに話し合いをしましょう。こちらに」
船長さんに連れられて船長室に入る。
「少々お待ちを。信頼できるメンバーだけを連れてきますので」
「ああ、頼むよ」
それからすぐに数人の船員を連れて船長さんが戻ってきた。
「船長、こんな夜にたたき起こしてどうしたんです?」
「いいか騒ぐなよ?もうすぐ、海賊がやってくる」
「海賊?こんな海のど真ん中でですか?」
「ああ、新入りも噛んでいるらしい。3等船室にも協力者がいるんだと」
「あいつめ!雇ってもらった恩も忘れて…」
「いや、元々そのために入ってきたんだろう」
「それより今は海賊の対処ですぜ!どうするんです?」
「そこは、情報元でもあり協力者でもあるこちらの冒険者たちと一緒に考えていこう。ただ、もう時間はあまりない」
「お、お嬢さんたちが!?」
「えへへ、お邪魔してます」
顔を見ると甲板に出ている時によく世話を焼いてくれた船員さんもいた。これは頑張って協力しないとね!こうして海賊対策会議が始まったのだった。




