薬草と万能薬
お昼時に肉も魚も楽しめるお店にやってきた私たち。
ジャネットさんもリュートも早々にメニューを決めてしまったんだけど、私はどうしようかな?
「ジャネットさんみたいに肉と魚の両方のやつを頼みたいけど、きっと食べられないだろうしなぁ」
「そんじゃ、余りそうな分はリュートに食べてもらえばいいんじゃないか?」
「う~ん。リュート大丈夫?」
「僕は別にいいよ。肉って言ってもそこまでの量出ないだろうし」
「ほんと?それじゃあ、一緒のにしようかな?」
「決まったね?お~い!注文」
「はいっ!ただいま~」
注文を取りに来るお姉さんは私たちの分を記入して奥に引っ込む。
ピィ
「アルナ、奥で遊んで来るって?迷惑だけはかけないでね。調理場なんだから」
ピィ!
アルナはパタタとお姉さんの後を追って飛び立つ。
「わっ!?さっきの小鳥さん!ご飯が欲しいの?」
ピィ!
「アルナったらおねだりばっかり上手くなって…」
「まあ、飼い主に似たんだろ」
「私はおねだりなんてしません」
「でも、うまい飯は欲しがるだろ?」
「そりゃあ当然ですよ。おいしいに越したことはありませんから!」
そうやって雑談をしていると料理が運ばれてきた。私とジャネットさんはシルバの塩焼きとジュムーアのカットステーキ。リュートはジュムーアの大判ステーキのようだ。
「うう、立ち込める湯気がもうたまりません!いただきます」
「あたしもっと」
「じゃあ、僕もいただきます」
それぞれに食べたいものから食べていく。私はシルバ、ジャネットさんとリュートはステーキからだ。
「ん~、やらかいねぇ。こういうのをいつでも食えたらいいんだけどね」
「そうですね。僕の方は噛み応えがあっていいですよ」
「ほら、キシャルも食え」
にゃ~
キシャルもフォークに刺さった肉を凍らせてパクッと一口。
にゃ~!
「おいしい?じゃあ、私のも食べていいよ。どうせ残るだろうし」
にゃにゃ
よほど気に入ったのか、ササッとこっちに来てねだってきた。
「はいどうぞ」
食いつき良いな~、と思いながら自分の分も食べ進める。
「あっ、そうだ!リュート、これどこに置いたらいい?」
「えっ!?もういいの?」
「うん。思ったよりどっちも量があったから。1人前が半々になってると思ってたんだ」
「そっか。なら、僕の皿に移してくれる?」
「分かった」
私は余りそうな分をフォークでリュートのお皿に乗せる。
「あっ、シルバもいいの?」
「うん。肉も食べたいし、ちょっと多いかなって」
「そっか。実は2人で市場に行った時に食べたって聞いて食べたかったんだよね」
「そういえば、あの日は体調悪かったんだったね。召し上がれ」
「うん、もらうよ。…これ、結構食べ応えあるね。結構肉に近いかな?塩味もあるし、焼いてあるからか癖も少なくて食べやすいよ」
「良かった。また、市場で見かけたら食べてみて」
「そうするよ」
ピィ
アルナの声がすると思ったら、さっきの料理を運ぶお姉さんの肩に乗ってテーブルを回っている。
「きゃぁ!かわいい~。珍しいですね、バーナン鳥じゃないですよね?」
「今食事中の方が連れているんですよ。ヴィルン鳥とバーナン鳥のハーフらしいですよ」
「へ~、珍しい~。これ食べる?」
お客さんがサラダの野菜をぽんと小皿に出すと、それをちょんちょんとつついて食べるアルナ。
「ううっ、お行儀悪いよ…」
「ああやってたくましくなるんだねぇ」
かといって私があそこに行ったら飼い主です!って宣言しちゃうし、後で叱っておこう。
「ごちそうさまでした~」
「いいえ、料理はどうでした?」
「おいしかったです!それで…アルナはどこにいますか?」
「今は休憩中の子と休んでます」
「ご迷惑をおかけします」
「いえ、かわいくてみんな和んでますよ」
「アルナ~、帰るよ~」
ピィ
「あっ、もう帰っちゃうの?」
ピィ~
「えっ!?また来るの?でも、私は多分残り2日は宿だけど…」
ピィ
「迷惑はかけないようにするんだよ?すみません、明日明後日とちょこっとだけアルナがお邪魔してもいいですか?」
「いいんですか?うちは大丈夫ですけど…」
「多分昼からは寝ちゃうと思いますけどお願いします」
「分かりました。よろしくね、アルナちゃん」
ピィ
「さてとそれじゃあ、もう一回市場に行くんだっけ?」
「そうですね。薬草を買いたいので」
「じゃあ出発だね」
リュートを先頭に店を出て市場へと再び向かう。
「さてと、それじゃあ雑貨コーナーに行きましょう!」
「場所は前と一緒のところを捜すか?」
「そうですね。居なかったら別の場所を捜しましょう!」
「僕は前に来てないから場所がわからないのでジャネットさん先頭お願いします」
「あいよ」
先頭をリュートとジャネットさんが代わって前の薬草屋さんを捜す。
「う~ん。前と一緒の場所にはいないねぇ」
「はぁ、やっぱりですか。また、回るしかなさそうですね」
「そうだね。何か特徴がある人なの?」
「う~ん、特にはないなぁ」
「ま、ゆっくり見つければいいさ」
こうしてしばらく見廻ると、前回出会ったおじさんを見つけることができた。
「おっ!嬢ちゃん、また来たのか?」
「はい。おじさんのところの薬草はいいって言われたので来ちゃいました!」
「そうかい。こいつは東にある村にいる妹が取って来てくれるんだよ。家計の足しにってな」
「へ~、それにしては安いんですね」
「まあ、知識のない村人が取るもんだからな。それに、ここに運んだ時には鮮度が落ちてることも多くてな」
「う~ん。それじゃあ、いっそのこと薬に加工してしまえばいいんじゃないですか?」
「はっはっはっ!お嬢ちゃんは純粋だねぇ。そんなの誰も教えてくれないよ。ああいうのは薬師が隠しちまうからな。知ってるのは直系の子どもや弟子ぐらいだよ」
「おじさん、ちょっと耳貸してもらっていいですか?」
「な、なんだい一体…」
「実はいい薬の調合方法を知ってるんですよ。乾燥させたものでいいから定期的に送ってもらえるならお教えしますよ?もちろん、その分のお代は払います」
「ほ、本当かい?でも何で他人に教えるんだ?」
「私、こう見えて特異調合持ちなんです。だから、その…調合方法を知ってても意味ないんですよ」
「特異調合。聞いたことはあるがそんなに難しいのかい?」
「普通の人の20倍は失敗しますね」
「そんなにか。わかった、ちょっと待ってくれ」
「??」
おじさんは直ぐに店をたたみ始めると、てきぱきと動きたった5分で出店場所は空き地になった。
「どうだい?中々の手際だろう?ぎりぎりまで物を売るために身につけたんだぜ」
「それはわかりましたけど、どうしてですか?」
「そりゃあ、こんな往来で話すことじゃないからな!さあ、商会に案内するよ!」
「ええっ!?」
おじさんの勢いにつられて私たちは市場を出て、ちょっと離れた小さな建物に付く。
「ここが俺の商会、ビスコンティ商会だ」
「あらあなた、忘れ物でもしたの?さっき、市場に出かけるって言ったばかりじゃない」
「シーナ、とんでもない儲け話だぞ。ここのお嬢さんがいいことを教えてくれるんだってよ。それも、カルピア関連だ」
「義妹の?まあ、奥へどうぞ。物が多くて狭いですが」
「しょうがないだろ。商売ってのは旬が大事なんだから」
「はいはい。そういう前に旬のうちに売り切ってくださいな。私はお茶を用意しますから」
「おう!」
「仲のいいご夫婦ですね」
「そうか?まあ、ああいうのもありか」
おじさんに招かれて奥の部屋に入ると、しばらくしておばさんがお茶を運んできた。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
「あら、丁寧なお嬢さんね。どちらの商家の方ですか?」
「えっと、フェゼル王国です」
「まぁ!そんな遠いところから。さ、お話を聞きましょうか」
「はい。今回のお話なんですけど、3種類の薬草を混ぜることで万能薬を作ることができるんです。そのレシピをお教えしようと思いまして」
「アスカ良いの?」
「うん。私には使えないし」
「あの、万能薬はかなり高価なはずです。そのレシピには何か問題が?」
「問題はありません。ただ、おじさんには話したんですけど、私は特異調合持ちなのでそのレシピでは作成できないんです」
「あら、大変ね。普通の薬が作れないのは本当なの?」
「はい。頑張れば作れますけど、ポーション1つに失敗作が10個とかですけど…」
「ひどい。それで、いくらぐらいなんですか?」
「それが分からないんですよね。設計料登録を私がして、それを教えるのがいいのか。そのまま、買い取ってもらうのがいいのか」
「どうなのあなた?」
「効果にもよるな。高い素材を使って効果が高くとも、中々売れないが、効果が高いゆえに買取価格も高い。一方、効果はそれなりで価格が安い調合なら、今度は大量に売れるから買取価格はこれまた高い。設計料は何年も持つから、最低でも金貨30枚だ。何か強みがあれば一気に100枚に行くだろう」
「そ、そんなに高いんですか?」
「設計料は利用料ですからね。多くの人間がそれを利用すれば一気に跳ね上がりますよ。ちなみにどのようなもので?」
「えっと、そこそこ入手性が良くて最初は濃い万能薬を作るんです。そこから、さらに状態に合わせて薄められるタイプですね。一番の売りは子どもにも副作用が出にくいように薄められることです。多分今市販のものはそういうことをすると効果が消えたり、おかしな効果が出たりするのでやらないように書かれているはずです」
「それは素晴らしい!しかし、それが本当なら金貨200枚近い金額でしょう。とてもうちでは扱いきれません」
「それは困りましたね。実はこれを作るのにはそこそこ品質の良い薬草が必要なんです。でも、普通薬草って品質のいい薬草を買ったら悪いのも押し付けられますよね?」
「そうですな。そうやって、ランクの低い薬草の在庫が残らないように調整しています」
「だから、この万能薬で1番困るのはそこなんです。でも、おじさんの薬草は村から仕入れているので、その村で作ってもらえればそれが減らせるんです。状態の悪い薬草は取らなければいいですし、もしくはそういうのだけ安値で売ってしまえばいいんです。上手い採り方も知ってるので、合わせればと思うのですが…」
「う~む、やはり聞けば聞くほどうちで取り扱える価格に収まりそうにないな。今から設計料の登録に行かれては?それならそれを伝えることで村の方もそれなりには儲かりますし。幸い、他に産業もありませんし村人も喜ぶでしょう」
「ううっ、だめかぁ~」
「なんでそんなに買取にこだわるんだい?」
しょんぼりとしている私に理由をたずねて来たジャネットさん。
「えっとですね…」
すこし悩んだものの、私は理由を話すことにした。




