トワイラスト朝市
「ん~、昨日はよく寝たなぁ~。今日は朝から市場に行かないといけないから、すぐに用意しないと!」
午後の市は到着した日にのぞいたけど、朝の市はまだだったからね。新鮮な野菜はもちろん、商人たちが船から降りた翌日なんかは朝一が本命だ。特にここトワイラストはもうすぐ向かう、ディストーン大陸にあるグレンデル王国からも、西の大陸からくる商人もここで大体は売って帰っていく。
「まあ、王都や帝都まで行ってたら往復に時間がかかるしね」
なにより、船旅が長くなるし、その間の護衛費用も馬鹿にならない。港町ならそのまま売っちゃえば終わりだからね。あとはその国の商人たちが売りさばいてくれるってわけだ。
「アスカ、もうすぐ行くけど用意は済んだかい?」
「もうちょっとです。アルナ、起きて」
ピィ~
アルナも寝すぎたのか、今日の朝は余り寝起きが良くないようだ。
「キシャルも起きてね。今日の朝は向こうで食べる予定だから」
にゃ~
「ご飯をおいてけ?もう~、わがまま言わないの」
キシャルをつかみ、そのまま肩に乗せるとリュートとも合流して市場へと向かった。
「いらっしゃ~い、いいものはいってるよ~」
八百屋も肉屋も元気いっぱいに呼び込みをしている。特に威勢がいいのは夜明けのうちに近くの村から野菜を運んできている八百屋だ。固定客がついているようで、身なりのいいメイドさんが買いに来ているところもあった。
「私たちはどうしますかね~」
「おっ、お嬢さん野菜買っていかないか?」
「いいですね~。でも、宿に泊まっているので買えないんですよ」
「それなら安心してください。うちは奥で焼き野菜もやってますから」
「ほんとですか!ちょっと見てみます」
「おいアスカ…」
ジャネットさんの呼びかけも聞こえず、私はスルスルと奥に入っていった。
「これがメニューですよ」
「ありがとうございます。どれにしようかな~」
並んでいる野菜自体はよく見るものだ。ところどころあまり目にしないものもあるけど、あんまり好きではないので外してと。
「私はこれとこれと…これにします。ジャネットさんとリュートは?」
「あたしは肉を…。まあ、一つぐらいはいいか。リュートは」
「じゃあ、僕も2つほど」
「毎度、ありがとうございます」
みんなで注文をしておじさんに焼いてもらう。
「あっ、こっちの従魔にご飯もらってもいいですか?」
「ん、従魔?ああ、このサイズのでしたら売る分から落としたのがありますからいいですよ」
そういうと小さいお皿にポンと野菜の切れはしをおいてくれた。
「アルナにはちょっと大きいよね。待っててね」
私はマジックバッグからナイフを取り出すと小さく刻んであげる。その間にもキシャルはマイペースに野菜を口に運んでいた。冬だからか野菜は冷たく、特に凍らせることなく食べていたのは珍しい光景だ。
「お待たせしました。焼き野菜です。お嬢さんの分は順番にお持ちしますね」
「わっ!お気遣いありがとうございます」
私はひとつ、ジャネットさんとリュートの分は注文分がお皿で提供された。
「ん~~、焼き立て野菜はおいしいですね~。ほのかな甘みもありますし」
「そうだね。おっ、リュート塩くれ」
「はい。僕はコショウもかけようかな?」
「2人とも言ってるそばからスパイスを…」
「いやぁ、野菜っぽさがきつくてね。やっぱりあたしは肉だね」
「僕もおいしいとは思うけど、はっきりした味も欲しいかな」
「もう~、2人ともしょうがないですね」
そうこうしているうちに残りの2種類も出てきてゆっくりと食べる。
「おじさん、ありがとうございました。席もずっと座らせてくれて」
「いえいえ、また来てくださいよ!」
店を発つ頃にはお客さんも足を止めて、私たちの席の近くはずいぶん埋まっていた。でも、急かされることはなくてゆっくり食事ができたのでとっても満足だ。
「次はジャネットさんの希望通り肉系の店に行きましょうね!」
「いいねぇ。あそこに行くか」
ジャネットさんが指さした店は魔物の肉ではなく、動物の肉を扱う店だった。家畜は魔物から守るのも難しいため、この世界では結構な値段がするので見かけることも珍しいのにな。
「リュートもあそこでいい?」
「うん。少ない量でも満足できそうだしいいよ」
やっぱり屋台だといっぱい食べられないからおいしいものを少しだけって感じになっちゃうね。
「いらっしゃい。3名かい?」
「ああ、あたしは2本ね」
「僕も2本で」
「私は1本でいいです」
「合計5本ね。ちょっと待ちな」
1cmぐらいの厚みに切られた肉が3切ほど串に刺されて焼かれていく。味付けに塩を振ったらあとはじゅ~じゅ~と両面を焼いていくだけだ。この店では炭火でゆっくり焼いていくみたいで焼きあがるのが楽しみだ。
「はい、お待ち!」
「ありがとうございます!はふっ!あっつ~」
「落ち着いて食べな。そうそう、キシャルも食うだろ、ほい」
ジャネットさんは小皿に肉を一つ落とすとキシャルに向かって出す。突き出された熱々のお肉にキシャルは興奮して、ブレスで一気に冷凍させて口に運んだ。
にゃ~
「キシャルはなんて?」
「やわらかくてすっごくおいしいって言ってます」
「柔らかくてねぇ…。まあ気に入ったならいいか」
ぺしぺしとその後もおねだりするキシャルにジャネットさんはまだ店があるから食べられなくなるよと返す。うまい返しだ。私も今度使わせてもらおうかな?
「リュートはどう?」
「おいしいね。塩だけなのに味もしっかりしてるし」
「当り前よ!ここで使ってる塩はこの先にあるトワイラスト塩田で作ってるやつだからな。鮮度が違うぜ!」
塩って賞味期限とかあったっけ?まあ、新鮮なのはいいことだし、おじさんの言う通りだと思っておこう。
「ごちそうさまでした~」
「また寄ってくれよ」
串を食べ終え次に向かう。
「ん~、あとはと。やっぱりここは魚ですかね?」
海に面してるんだし、一番の売りなはずだ。
「いらっしゃい!どうだい魚は?」
「食べます!ここはどんなのがあるんですか?」
「色々置いてるぜ。魔物ならスラッシャーとかもあるぜ」
「食べたいです!」
「おっ!お嬢様はいい返事だね。でも、船で見たことないか?危ない魔物だぞ」
「でも、おいしいんですよ!」
「まあな。そんじゃおすすめのセットで出しますよ」
「ありがとうございます」
「そちらの護衛さんは?」
「あたしも同じものを」
「僕はこっちの魚かな?」
リュートが指さしたのは直径20cmぐらいの魚だ。なんだっけ?あれはチヌかな?
「おっ!そいつは小さいけど旨いよ。ただ、港町以外で食べるとまずいから気をつけなよ」
「はい。それじゃあ、お願いします」
というわけで私たちは焼き魚を注文して焼き上がりを待つことに。
「ん~、それにしてもどこの店も椅子を用意してくれてありがたいよね」
「まあ、上客だしねぇ」
「そうですね。人気店を作る感じですよね。前の店もまたいっぱいですよ」
「ほんとだ。空いてる時間でよかったね」
「そうだね」
「ほいお待たせ。お嬢様からどうぞ」
「ありがとうございます。ん~、やっぱり魚っていいですね!お醤油使おう」
私は出された料理に醤油をかけると口に運ぶ。
「おいしい~、やっぱり海の幸にはこれだね。塩焼きもいいけど私はこっちの方が好みかなぁ」
焼き立てのほくほくした身に醤油がしみ込んで何とも言えないおいしさだ。
「お嬢様も海の地域の出身かい?」
「そうですね。お魚はよく食べてました。いろいろな食べ方があるのもいいですよね」
「おう!ありがとな」
その後もジャネットさんとリュートの分が運ばれてきてみんなも食べ始めた。
「ん?キシャルはこれがいいのかい?じゃあほいよ」
ジャネットさんがまたも小皿を取り出すとキシャルはパッとそちらに向かい食事をし始める。
「キシャルも食いしん坊なんだから」
「まあ、今日は朝ごはん代わりだからね。そういえばアルナは?」
「肩で寝てる。寝すぎで目が覚めたら運動するかなって思ったら、まだ寝足りないみたい」
まあ、せっかくの魚だけど小魚はないし食べるものがないもんね。
「あとはこれだけ食べたら他の店に行こうか」
「そうだね。最初はやっぱり魔石とか武器とかだね」
「そうだねぇ。次の大陸の魔物の分布とかもわかんないし、ダンジョンとかにもいってみたいねぇ」
「そう言えば、合同で行ってから言ってませんね。あの時買った本のリストも埋めたいですし、行きますか!」
「だったら、いいものを見つけたら買っておかないとね。事前の準備が大事だからね」
「うん!」
ということでここで飲食のエリアとはお別れ。名残惜しいけれど、装飾品や魔石などを置いてあるエリアへと移動したのだった。
 




