いくらですか?
宿に戻ると私たちは早速リュートのところに向かった。
「リュート、いる~?」
「うん。居るよ」
「入るよ」
ガチャリとドアを開けて中に入る。
「ご主人様、お帰りなさいませ」
「ただいま、ティタ。ご飯ちゃんともらった?」
「ええ。あまり、良い気分では食べられませんでしたが」
「ご、ごめん」
「何かあったの?」
「ううん。それより、2人ともどうしてここに?」
「リュートは外に出てないと思って、これお土産だよ」
「そ、そう。ありがとう」
「あたしからもほら」
「こっちの包みは?」
「開けてみな。おっと、気をつけなよ」
「これは投てき用のナイフですか?」
「ああ、切れ味もそこそこだし、消耗品だから持っときな」
「ありがとうございます」
「鋼で作られてても使い捨てなんですね」
「まあ、魔物によっちゃ体液に毒素や酸が含まれてることもあるしね。わざわざ危険を冒して、修復を頼むより買い替えた方が安上がりさ。特に酸系の傷の手当は高額でね。皮膚の治療にかなりの魔力がかかるんだと」
「あ~、分かります。毒ぐらいなら毒消しでも万能薬でも治りますけど、皮膚は誰でもってわけにはいきませんからね」
私の使える火魔法と風魔法の回復魔法でもおそらくできないだろう。ああいう傷は土魔法か聖魔法だった気がする。
「アスカもありがとう。ゆっくり食べるよ」
「やっぱりまだ船酔いが残ってるの?」
「うっ、ちょっとね」
「本当にこの男は人が食事中だというのに…」
「わっ!?ティタ、それは言わないで!」
「ふぅ、今からご主人様も食事でしょうし今日はこの辺りにしておきますか」
「助かるよ、ティタ」
「それじゃあ、リュート。お大事に」
「うん、ありがとう」
「じゃあな」
リュートの部屋を出て自分たちの部屋に戻る。
ぽすっ
「はぅ、1等船室には及びませんけど、中々いいベッドですね」
「飯の次はベッド談義かい。あんたが定住したら金がかかりそうだね」
「そっ、そんなことありませんよ。どっちも大事です!」
「まあ、良くて困ることはないね」
「そうでしょう!あっ、先にお風呂の予約してきます」
「それならあたしが行ってくるよ」
「いいんですか?」
「ああ。不埒ものが出ないようにね」
「???」
ジャネットさんにお風呂の予約を任せて部屋でくつろいでいると、食べ物のにおいにつられたのか、キシャルが目を覚ました。
にゃ~
「キシャルおはよう。もうすぐご飯にするからね」
に~
「なんでもいいからちょっと欲しい?しょうがないなぁ」
私はマジックバッグから干し肉をひとかけら取り出してキシャルにあげる。
「これだけだからね」
にゃっ
私が手のひらから干し肉をあげると嬉しそうに咀嚼するキシャル。う~ん、やっぱりあげずにはいられないなぁ。
「ただいま。おや、キシャル起きたのか?」
にゃ~
「アスカ、飯前だぞ。大丈夫か?」
「大丈夫です。それだけしかあげてませんから」
「それならいいか。ほら、飯にするぞ!」
にゃにゃ
キシャルも加わり、買ってきたご飯をみんなで食べる。
ピィ!
「あ、アルナ。帰ってきたんだ。今食事中だから一緒に食べる?」
ピィ
バサバサと一度部屋から出ると3羽のお友達を連れてきて小さいテーブルの上に止まるアルナ。
「あっ、お友達連れて来たんだね。一緒にどうぞ。そうそう、今日は市場でちょっといい薬草が見つかったからそれも一緒に出すね」
サクッとナイフできざんで普通のご飯に混ぜていく。あとはご飯台に置くだけだ。
「さっ、召し上がれ」
私がご飯をテーブルに置くとアルナがお友達に説明をして食べ始める。最初こそ恐る恐るだったけど、何口か食べるとパクパクと食べ始めてくれた。
「この光景も見慣れたけど、信頼してもらえるようになるのはうれしいな」
「アスカ、自分の分も食べなよ」
「そうでした!それじゃあ、私も食事をと…」
再び食事を再開して、今日の屋台飯の夕食は終わった。
「それじゃあ、今日もおやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
今日は移動とかで疲れたので、細工とかは無しだ。
「アルナもお友達もおやすみ」
ピィ
チッ
かごの中ではアルナたちが身を寄せて休んでいる。今日は夜更かしするのかな…。
「アスカ、朝だよ」
「ん~、おはようございます」
「今日は出かけるんだろ?ほら、用意しなよ」
「はっ!?そうでした!」
バタバタと着替えて朝食を食べたら持っていくものを準備して…。
ピィ!
「ん?アルナもついてくるの?いいけど、さわいじゃダメだよ」
ピィ
分かってると元気に答えるアルナ。まあ、大人っぽくなってきたし大丈夫かな?
「それじゃあ、持っていく荷物の確認と。ヴィルン鳥の羽のネックレスとブレスレット以外は何かあるかな?」
バリア魔道具も次の納品が決まってるしなぁ。あとは、布教用の安い細工と…昨日買ったおもちゃ代わりの声を録音できる魔道具だね。こっちは私が作ったものじゃないけど、とりあえず持っていくかな。
「それじゃあ、ジャネットさん行ってきます!」
「はいよ。ん?リュートは連れて行かないのかい?」
「まだ、体調悪いかもしれませんから」
「…道中気を付けるんだよ」
「街中だから大丈夫ですって!」
私はアルナと一緒に街に繰り出す。外に出ると、昨日の子たちもついてきた。
「えっと『癒しの間』って宿だったよね。案内板は…」
「君ひとりかい?」
「はい。宿を探していて、『癒しの間』ってところなんですけど、知りませんか?」
「ああ、あの宿か知ってるよ。ついて来て」
ピィ
チッ
「な、なんだ!?」
私が付いていこうとすると小鳥たちがばさばさと男の人に向かっていく。
「ちょ、ちょっと、みんなどうしたの!?」
「うわっ!?や、やめてくれ!」
私が謝る暇もなく、男の人はどこかへ行ってしまった。
「もう~、みんな暴れないでね。ヴィスティちゃんのところでは静かにだよ?」
ピィ~
はいはいと流すアルナ。もう、ほんとにわかってるのかなぁ?
それから、ちょっと先にある掲示板をバーナン鳥に教えてもらい無事に宿に着くことができた。
「ヴィスティ様ですね。伺っております。少々お待ちください」
受付の人がヴィスティちゃんに連絡を取ってくれ、数分後にやってきた。
「お待たせしました!」
「ううん。そういえば時間決まってなかったなって」
「言ってませんでしたね。すみません。さあ、こちらに。受付の方、商談がありますので飲み物とお菓子を持ってきてくださいな」
「承知しました」
ヴィスティちゃんが飲み物を注文してくれると、部屋までついていく。
「ようこそ、アスカ様。船上で見せてもらった以外のものを見せてくださるとか」
「はい。とりあえず、ヴィスティちゃんに言っておいたものから…」
「お茶をお持ちしました」
ノックの後、給仕係の人がお茶とお菓子を持ってきてくれた。
「コホン、それでは一度落ち着いてから。アスカさん、私に見せてくれたネックレスを見せてもらえませんか?」
「いいよ。はい」
「おおっ!これが娘の言っていた…」
私の出したヴィルン鳥のネックレスをしげしげと眺めるバークスさん。
「どうですか?」
「いえいえ、素晴らしいですよ。これなら絶対に売れますよ」
私はちらりとヴィスティちゃんに目を向ける。まだ、これが効果付きということを知らないのかな?
「あの実はそれ、ちょっとだけ幸運が上がるんです」
「へっ!?幸運が?ちなみにいくつぐらいですか?」
「だ、大体、3~5です」
「素晴らしい!1上がるだけでも人が寄り付くのに5も上がるなんて!」
「でも、数値はバラバラですよ。3未満のは見たことないですけど」
「いいえ!これは大変珍しいです。力なんかは上がるものも多いですし、自身のパラメータが高くなるので5ぐらいならいくつか見たことはありますが、運は初めてですよ。売ってくれるんですか?」
「そのつもりですけど、お願いが。これってデザインが決まっているのであまり作りたくないんです。だから、数もありませんし、売る時はこの効果を広めない人に限って欲しいんです」
「…もったいないですが分かりました。私もこれを手に入れたいですし。それで今はいくつぐらいあるのですか?」
「3つですね。値段はどうしましょうか?」
「金貨5枚…いや、8枚はいけます!」
「ええっ!?高いですよ、魔石もないのに」
「いえいえ、商人なら必ず買いますよ。お守りと違って本当に効果があるんですから」
「それじゃあ、ひとまずこの3つを。あとはいろいろ持ってきたんですけど、お役に立てますかね?」
「では、ひとつずつ机に置いて言って下さい」
ピィ
「あなたたち暇なの?私と遊ばない?」
チッ
小鳥たちは私の近くにはいるけど、中々2人には近づかない。
ヴィスティちゃんは大丈夫だよ。ほら、ご飯も置いておくからそっちで遊んでおいで。
ピィ!
アルナはヴィスティちゃんを船上で見ていたからか、パタタと飛んでいき、しばし間があって残りのバーナン鳥もそれに続く。
「あれはバーナン鳥ですね。珍しい、町の人でもないのに連れているんですね」
「ははは、魔物使いだからか、寄ってくるんです。アルナがいるからなのもあるでしょうけど」
「そうですか。では、商談に戻りましょう」
きらりと光るバークスさんの目はまるで鷹のようだった。




