トワイラスト市場
2日間の船旅を終えてトワイラストへ着いた私たち。
「これからどうしましょう?」
「とりあえず、荷物を置いてこないとね。宿はあたしオススメのところがあるんだ」
「ジャネットさんの!?すごい!来たことない街にも詳しいんですね!」
「ああ、まあね」
笑顔で返事をするジャネットさん。
ピィ
「あっ、アルナ、急いじゃダメだよ!」
船の上をちょこちょこ飛ぶだけで我慢していたアルナは直ぐに街に飛び出しそうだ。今度の船旅は大丈夫かなぁ?
「ほら、こっちだよ」
「いらっしゃいませ~、お泊りですか?」
「ああ。次のフェリバーン港行きの船が出るまで」
「フェリバーン…4日分ですね。お部屋は?」
「小さい従魔が泊まれる4人部屋か2人部屋と1人部屋」
「今ですと…4人部屋は空きがありませんね。申し訳ございません」
「なら2人部屋と1人部屋だね。場所は離れてるのかい?」
「1人部屋は2F。2人部屋は3Fになります。部屋番号はこのキーでご確認ください」
「ありがと。料金は先に払っとくよ。飯は?」
「朝食は無料です。キーを見せていただいて出しますので、なるべくご一緒にお願いします。夕食は銅貨13枚からとなっております。部屋代は1泊おひとり大銅貨4枚です。お風呂を使う場合は一人、大銅貨1枚かかるのと、受付に申しつけください」
「分かった。飯も気が向いたら食べるよ。これが料金ね」
「ありがとうございます。食べに来られるのをお待ちしておりますね。では、ごゆっくり」
先に私たちが料金を払って部屋に入る。
「わっ!?結構良い内装ですね!」
「良かったね。当たりを引いたみたいで」
「ほんとですよ。さっ、アルナ、窓は開けておくから行ってらっしゃい。ただ、気を付けるんだよ?」
ピィ!
元気いっぱい空に向かって飛び立つアルナ。ほんとに今度の船旅が心配になってきた。
「キシャルはどうする?」
にゃ~
返事とともにベッドにぼふっと飛び乗るキシャル。これはまあ予想通りだね。
「向こうはティタがいるから何かあれば連絡は念話でもらえますし、私たちはどうしましょう?」
「まだちょっと時間があるし、簡単に街を見廻るかね」
「分かりました!すぐ着替えますね」
動きやすい街行きの服に着替えると早速町へと繰り出した。
「こっちかね」
「こっちは何があるんですか?」
「市場だよ。魚とかも並んでるんだってさ。まあ、あたしらは関係ないかもしれないけどね」
「そうですね。調理場所がないですから」
住んでるんだったら毎日新鮮なお魚が食べられるにな。
「いらっしゃい。あんたら食べて行かないかい?」
「食べられるんですか?」
「ああ。こっちに少ないけど椅子もあるよ」
声をかけて来たおじさんはささっと奥にある椅子を指さしてきた。
「ちなみに売ってるのはなんなんだい?」
「こいつさ」
おじさんが見せてくれたのはカツオ?に近い魚だ。
「こいつはベニッシュっていう魚なんだが、そのままでも焼いても煮ても旨いぞ!。うちじゃ、たれにつけて焼いてるんだ」
「へ~。じゃあ、一本ください!」
「毎度。そっちのあんたは?」
「2本くれ。いくらだい?」
「1本銅貨3枚だ」
「結構安いんだねぇ」
「元がでかい魚だからな。あとはちょっと訳ありでな」
「訳あり?」
2人で串をもらいながら聞き返す。
「この魚は血が多くてな。最初の処理が面倒なんだ。そのおかげでそこまで値上がりしないのさ。確実に売れはするが、高値にはなりにくいってわけだ」
そういや、カツオって血合いが多いんだっけ?洗うのが面倒なのかな?
水道の蛇口ひねって水が出るわけではないから余計に手間がかかりそうだな。川で洗うか、毎回井戸や海水で洗うんだろうか?
「それじゃ、いただきま~す。はぐっ」
受け取った串を口に運ぶ。
「ん、おいし~い」
「ちょっと癖が強いけど旨いね」
「だろ?」
「これが銅貨3枚だなんて安いですよ!」
「まあなぁ。もうちょっと値を上げたいところだが、いかんせん魚だからな。食べ慣れてないから嬢ちゃんたちみたいに数本買う客は少なくてな。大体、観光客は1本買って味見するのがほとんどなんだ。その間に別の場所に行っちまうから、中々まとまった数売れなくてな」
「こんなにおいしいのに残念です。ん~、もう一本ください!」
おいしかったので追加で食べていると、近くを通っていた人も買いに来た。
「わっ!?急に人が増えましたね。混んじゃうと悪いですから失礼します」
「ああ、ありがとな!」
おじさんにお礼を言われながらその場を去る。
「ふぅ~、急に人が増えて大変でした」
「だねぇ。ま、次に行くとするか」
「はいっ!」
その後もサバに似たシルバという魚など、海の幸を堪能した私たちは満足して食品市を抜けた。
「いっぱい食べましたね」
「そうだねぇ」
「ジャネットさんは何が一番おいしかったですか?」
「あたしかい?う~ん、シルバかねぇ」
「シルバ、おいしかったですよね!あの魚なのに肉っぽい感じもいいですし!」
「そうそう。厚みのある身にかぶりついた時の味がなんともね。アスカは?」
「う~ん、難しいです。どれもおいしかったので。でも、最初に食べたベニッシュはまた食べたいですね。あそこはおいしかったですけど、血合いのせいでほんとに臭みとか強いんですよ。あれだけ癖がなくて食べられる店は貴重です!」
「そりゃあ、当たりを引いたね。それにしても今日は結構食べたし、どうする?まだ見るかい?」
「明日は午前から予定がありますからちょっと見ます」
「はいよ」
ヴィスティちゃんと約束をしているので、今日のうちに簡単でも市場調査はしておきたい。市場を回っていくと、特別なものはなかった。でも、今並んでいるのは午後からの安い出店料を払う店なので、午前だともっと特色が出るらしい。午後の部は13:30からだから確かに時間が悪いよね。食後のおやつとかになっちゃうし。
「やすいよ~、薬草や木の実もあるよ~」
「あっ、あそこ寄ってもいいですか?」
「いいよ」
「お嬢ちゃん。薬草に興味があるのかい?」
「はい。知り合いが薬師なんです」
別に嘘は言ってない。アルバには薬師の知り合いもいるもんね。今回は自分用だけど。
「へぇ~、そうなのかい。じゃあ、色々見て行ってくれよ!」
おじさんに言われて並んでいる薬草を見てみる。結構種類があるな。
「サナイト草だ!これいくらですか?」
「サナイト草は今が旬の終わりだからな。Aランクは銀貨2枚と大銅貨1枚。Bランクが大銅貨3枚と銅貨5枚。Cランクは大銅貨1枚だ」
ぐぬぬ、相場よりちょっと高い。ギルドでも店でも基本ほぼ同じ金額のはずだから、出店料がかかってる分上乗せなのかな?でも、見た感じ質はいい方だ。これなら万能薬を作るのに十分だけど…。
「おじさん。いっぱい買うからちょっと安くなりません?」
「う~ん、かわいいお嬢ちゃんに言われるとなぁ。でも、ちょっとじゃな」
「Aランクが10本。Bランクが30本で金貨3枚でどうです?」
「ちょっと安いな。金貨3枚と大銅貨2枚!」
「うう~ん。Cランクでいいからちょっとつけてもらってもいいですか?」
「よっしゃ!3本おまけだ」
「じゃあこれで」
料金を支払って薬草を購入する。
「毎度!」
「良かったのかい?ちょっと高かったんだろ?」
「でも、品質が良かったんです。いくつかはSランクに近いAランクですよ!」
「へぇ、そいつはよかったね。で、Cランクなんてどうするのさ?」
「アルナのご飯にと思って。ちょっと元気がない時とかはリラ草で、体調不良の時にはサナイト草を少し混ぜてるんです」
人と一緒で魔物にも同じような効果を得ることができる。ただ、そこは小鳥。効果が強く出る傾向にあるので量は調整が必要だ。質のいいやつは軽く水で成分を出してからご飯に混ぜる。ここのCランクならそのままでも食べられるぐらいだし、いいお店だったな。
「あっちは魔道具を扱ってますね」
「いらっしゃい、見て行っておくれよ」
見やすいように説明書きが魔道具の下に置いてある。でも、やっぱりこういったで店に並ぶ分、効果はそこまでではない。
「あっ!?こっちは…」
「これは入荷したての魔石だよ。でも、なんの魔石かはお楽しみさ。商人がたまにまとめて売ってくるんだよね。あたしらもいちいち鑑定できないからまとめて金貨3枚だよ」
「面白そうですね!買います」
「毎度」
「あとはこの魔道具が面白そう」
説明書きにあったのは声に反応して音を出す魔道具だ。稼働時間は込めた魔力によって30分ぐらいから3時間ぐらいまでと中々のバッテリー持ちだ。あるのかは知らないけど。出す音もどうなっているのか3秒ぐらいを3パターン記録できる。
「へぇ、なんに使うんだい?」
「見張りの時とかこれで魔物の声を拾えないかなって」
「ああ、そういう…。まあ、持っといて損はないか」
値段も銀貨6枚とお得だったのでとりあえず買っておいた。子ども向けおもちゃってなってたけど、こっちの方が実用性ありそうだ。
「ジャネットさん、武器とかはどうですか?」
「投てきに使えそうなのがいくつかあるね。ふむ、船酔いでダウンしてるリュートにでも買っていってやるか」
「えっ!?まだ酔ってたんですか?」
「だから、付いてくるとも言わなかったろ。おっさん、こいつを三本な」
「あいよ、銀貨3枚ね」
「ほいよ。さて、良い時間だしもっかい食品市を見て帰るか」
「はい」
私たちは再び食品市に戻り、今日の夕食分を追加で買って帰ったのだった。




