トワイラストへ向け乗船
ゴブリンたちを処理し終わったら、再びクルーゼスへと再出発だ。
「無駄に時間食っちまったね。さっさと行くよ」
「は~い」
そして歩くこと2時間。私たちの前には目的地であるクルーゼスの町が姿を現したのだった。そして、歩いていくたびに景色に緑がよみがえっていく。
「今は何時ぐらいですか?」
「多分15時ってところだね。町までは半時間もあればつくだろ」
「それじゃあ、ラストスパート行きましょう!」
「ああ、うん。やる気があるのはわかったよ」
ピィ!
にゃ~
アルナとキシャルも私に続いてやる気のある声を出してくれる。まあ、アルナは右肩、キシャルは頭に乗ってるんだけどね。そして、30分後…。
「ようこそ、クルーゼスへ。大丈夫でしたか?」
「大丈夫とは?」
「最近、この辺りでゴブリンによく出遭うらしいんです。巡回でもかなり倒しているらしくて私もひやひやしているんですよ」
「あんたは門番だろ?そんなことでいいのかい」
「私は身分確認が主な仕事でして、戦うのは苦手なんですよ」
「それなら大丈夫ですよ。さっきたくさん倒してきましたから!」
「えっ!?集落が分かったんですか?」
「門番さんの言ってるやつならいいんですけどね」
「ちょっと待ってくださいね。隊長を呼んできますから!」
簡単な報告だけしようと思ったら、調査隊を明日にでも出したいからと、隊長さんにつなぐことになった。
「ゴブリン相手なのに結構大事みたいに扱ってますね」
「だねぇ。ひょっとすると、あの草地が出た辺りから魔物の生息域も変わるのかもね」
「それじゃあ、この辺りはアルバぐらいの安全度なんですかね。それなら、僕らのやったことが大事になるのも分かります」
リュートの言う通り、隊長さんも大急ぎで来たのか、服のボタンも掛け違えている。
「はぁはぁ…、き、君たちがゴブリンの討伐を?」
「はい」
「数はどのぐらいだった?」
「40匹ぐらいですね」
「40か…壊滅させたかは微妙なところだな。詳しい場所はわかるか?」
隊長さんに請われ、私たちが討伐した場所を教える。
「ここですね。ここに行く前にこの辺りで出会って…」
「ちょっと待ってくれ!出会った場所は町からは離れる方向だ。わざわざ探しに行ったのか?」
「ま、まあ、当たりをつけてたまたま一回で!見つからなかったら時間もないので町に行くつもりでしたよ!」
ふぅ~、危ない。探知範囲が広いのは隠さないとね。
「そ、そうなのか。いずれにせよ助かった。明日にでも我々で討伐隊を組んで、調査・並びに発見の際は討伐を行うと約束しよう」
「お願いしますね。でも、この辺の魔物って弱いんですか?」
「ん?ああ、たまにサンドリザードやサンドオークも迷い込むが基本的にはオークやたまにオーガが出るぐらいだな。王都周辺やそれまでの道に厄介な魔物が多いから、ここで冒険者として旗揚げをするやつも多い」
「そっかぁ。あっ、薬草とかも売ってたりします?」
「薬草?ああ、ポーションでも作るのか?それなら、ここの門から入って右に曲がってまっすぐ行くとあるぞ。ポーション自体も売ってるから参考にするといい」
「ありがとうございます!じゃあ…」
「おっと、情報料と討伐料」
「そうだったな。いや、欲しい情報だったからつい興奮してしまった!では金貨1枚だ」
そう言って、隊長さんが自分の財布から金貨を取り出す。
「た、隊長それは隊の資金では…」
「…まあ、あたしたちも旅をしてるし、今度寄る時にでも回収するよ。なあ、アスカ」
「そうですね。ちょっと先を急ぐのでこれで」
私たちはそそくさとその場を去る。ジャネットさんが門番さんから情報を得るためにお金を払うことは前にあったけど、基本的に門番の給料は安いらしい。給与体系は基本給が安く、魔物が出た時に門を守っていたり、討伐作戦に参加したりと危険度のある仕事の時に手当てがついてそれなりの手取りだそうだ。予算も限られているから、今回みたいに突発的な出来事にはすぐに予算も降りないことがあって、ああやって身銭を切る人がいるんだよね。
「済まないね。あたしから言い出しておきながら」
「いいえ。探しに行ったのも別にお金のためじゃなかったですし。あの人たちの給料も取っちゃいましたしね」
「そうだね。安全にはなったけどね」
「その方がジャネットさんらしいですよ」
「そうかい?」
「ええ。それじゃあ、アスカの用事を済ませに行きましょう」
町へと足を踏み入れた私たちは隊長さんに聞いた薬屋に入る。
「いらっしゃいませ」
「あの、薬草欲しいんですけど」
「薬草ですか?種類はなんでしょう?」
「リラ草のAランク以上とルーン草やムーン草も欲しいんですけど…」
「う~ん、リラ草は量によってはCランクも引き受けてもらうわね。他は少量だけどあるわ」
「ちなみに、シェルオークの葉ってありますか?」
「ないこともないけど、数枚だけで高価なの」
「それでもいいですから見せてもらえますか?」
「分かったわ。ちょっと待ってね」
店員さんが奥からシェルオークの葉を持ってきてくれる。
「これで全部ね」
「アスカどうなの?」
「う~ん、もう少し状態がよかったらなぁ。でも、在庫もないししょうがないね」
その後、店内を見廻って最終的にはシェルオークの葉を金貨2枚で、リラ草とルーン草を金貨1枚で購入した。
「ムーン草は買わずに店を出たけど、なくてよかったのかい?」
「う~ん、ちょっと高いんですよね。いつもの1.5倍でした。この辺りじゃ採れにくいんだと思います。それか、需要が大きいか」
「毒系の魔物も多いからそっちで使うのかもね」
「そうかも。それじゃあ、船の予定を聞きに行きましょう!」
次は船の受付口に向かって歩き出す。
「こんにちわ~」
「おうっ!どのようなご用件でしょうか?」
「あの、船に乗りたいんですけど、次の出航はいつですか?」
「次の出航ですか?明日です。お嬢様なら乗れますよ」
「そうなんですね?それじゃあ、3人で予約してもらっていいですか?」
「ありがとうございます!」
船員さんは直ぐに名簿に私たちを書き加えてくれる。
「部屋が空いててよかったですね!」
「ああ、うん。まあね」
ピィ~
なぜだかジャネットさんやリュートは浮かない顔だ。アルナも心配そうに見てるしどうしたんだろう?
「ここでの予定は終わりましたし、念の為に簡単に食材を買い足して宿に泊まりましょう!」
「そうだね。というわけで船には乗れることになったし、今回はリュートの負けってことで」
「なんでいつの間にか勝負になってるんですか?」
「別に賭けてないからいいだろ?こういうので勘を養っていくんだよ」
そんなやり取りもありつつ、無事に食料と宿を確保した私たちは明日に備えて早めに休んだ。ちょろっと見ただけだけど、特にこの町ならではってものもなさそうだったのはよかった。またここに来るのは難しいだろうからね。
「おはようございます」
「おはよう。今日はえらく機嫌がいいね」
「おはようアスカ。昨日はすぐ寝た?」
「ちょっとだけ細工してからね。ミスリルと白銀で、バージョン違いが欲しかったから」
「そうそう、せっかく早めに休めるのに結局いつもの時間になったんだよ、全く…」
「すみません、ジャネットさん。寝る時邪魔でしたよね?」
「別に冒険者なんだからあんぐらいで変わらないよ。それにアスカは細工の時、音を消してくれるからね」
「ふふっ、今度ジャネットさんにも何か作ってあげますね」
「実用的なのを頼むよ」
「は~い」
ふふふ、別にデザインに注文はないからかわいいのにしよう。魔石に輝石に守り石、実用的を満たす選択肢はたくさんあるのだ。
「それじゃあ、乗船しに行こうか」
「確か、町から少し離れてるんですよね?」
「ああ、なんでも昔は洪水に悩まされたから少し町を離したらしい。だけど、専用の道路もあるし楽でいいね」
こうして、予約をした場所で予約券をもらって専用道路を歩いていくと10分ほどで港に着いた。
「予約券を見せてください」
「はい、これです」
「では、料金の方を…護衛の方、よろしいですか?」
「ああ。いくらだい?」
「…こちらになります」
「思った通りか。はいよ」
「ありがとうございます。それではお嬢様、こちらへどうぞ」
「はぁ」
なぜか丁寧に案内されて通されたのはどう見ても1等船室だった。
「あれ~、こんな豪華な船室を選ぶつもりじゃ…たったの2日なのに」
「まあ、前日の午後に空いてる部屋なんて1等船室ぐらいだろうよ」
「なんで昨日のうちに言ってくれないんですか!それなら徒歩でもよかったのに…」
「ま、たまにはゆっくりするのもいいじゃないか。それより、荷物も運んでもらったことだし、早く中に入るよ」
「はぁ~い。それじゃ、リュートも入ろうよ!」
「うん」
私たちはドアを開けて中に入っていく。
「わっ!?ここも豪華!」
「この船自体、王都から来てるからあたしたちが王都へ行く時に乗った船と同じぐらいなんだろうね。おっ!ここにお菓子まで用意されてるじゃないか!こりゃ、きっと貴族だと思われてるね。それじゃ、遠慮なく…あっ!?」
にゃ~~
ジャネットさんがクッキーを取ろうとすると、その横からキシャルがかっさらっていった。本当に最近いたずらが増えたなぁ。
ピィ
「あっ、アルナがお姉さんみたいにたしなめてる」
「アスカよく見て」
「ああっ…クッキーのおこぼれにあずかってる」
最初こそ注意していたものの、クッキーのかけらを渡されて今はそっちに注意が行ってしまった。キシャルってこういう知能は高いんだから。
「やれやれ、どちらもしつけが必要ですね」
そう言いながら私の肩から降りたティタにより、テーブルの平穏は取り戻された。
「さて、今度こそトワイラストまでゆっくりするか」
「そうですね!」
「僕、お茶入れますよ」
「ありがとうリュート」
私の勘違いから思いがけず、トワイラストへの2日間の船旅は優雅に始まったのだった。




