マナウ村での滞在
「ようこそ、マナウ村へ!旅の方ですか?」
「はい。今日はこの村に泊まりたいのですが、宿ってあります?」
「宿はぼろいのがあるんですけど…」
ちょっと言いよどむ門番さん。ひょっとして。
「普段手を入れる人がいないんですか?だったら大丈夫です!掃除は得意なのでパパッとこっちでやりますから」
「そ、そうですか、では管理者に伝えてきます。少々お待ちを」
門の前で待っているとしばらくして若い女性の人がやってきた。
「旅の人、ようこそ。手入れは最低限だけど、泊まることはできます。食事は急なのでないんですけど…」
「あっ、そこは大丈夫です。水は出ますか?」
「水は…この辺りは各家庭の井戸を使うので一杯辺り銅貨5枚です」
「ま、雨が普段降らない地域だしね。しょうがないか」
幸いにも一杯といってもバケツサイズなので、そこまで困ることはなさそうだ。1杯は料理に、1杯を飲料。残り4杯を体を拭くように用意してもらった。
「それじゃあ、水が来る前に掃除を済ませましょう!」
水が先に来ちゃうとほこりが入っちゃうからね。私は宿の入り口から入って宙に浮くと、部屋の片側の窓を開けていく。
「まずは西側の窓を開けておいてと…ウィンド!」
入口のカウンターから順番に風を送り込んで2階の各窓から出していく。次は窓を閉めて東側だ。2階に上がり、西側の窓から一気にほこりを出していく。
「第一段階終わり!あとは掃除用にもらった水でと」
この水は掃除用だからタダだ。雑巾を手に3人でサーッと床を拭いていく。
ドタドタドタドタ
ドタドタドタドタ
最初は机といすを横にどけた後、食堂を拭いていく。半分を拭き終わったら風魔法で家具を反対側に寄せてまた拭く。
「うん。食堂はいい感じだし、次は手分けしよう。私は西側を拭くね」
「それじゃあ、僕は東側を拭くよ」
「待ちな。奥は調理場だろ?リュートがやった方がいいよ。あたしが東側をやるよ」
「あ~、言われてみればそうですね。ジャネットさんお願いします」
「それじゃあ、リュートは1階をお願い。頑張ってね!」
「アスカもね」
ピィ!
「みんなも協力してくれるの?それじゃあ、お願い」
そんなわけでジャネットさんにはアルナが、私にはティタ、リュートにはキシャルが付いた。
「ティタ、悪いけど先にこっちに水まいてくれ」
「分かりました」
「アルナ、ティタが水まいてくれるから、それを広げてくれるかい?」
ピィ
「ティタ、後でこっちもお願い」
「了解です、ご主人様」
そして、リュートたちは…。
「キシャル…はまあそうだよね」
キシャルは掃除の終わった食堂のテーブルでくつろいでいた。
「いいよ。氷だとやれることもないし、水は掃除用のがあるしね。頑張れ僕!」
孤軍奮闘していた。
「はぁ~、終わったぁ~」
30分後、掃除を終えた私たちは食堂でゆっくりしていた。掃除をして間取りが分かったのだけど、宿は2Fが4部屋で各4人部屋。下はトイレとか物置とかがあり、後は調理場と食堂だ。水が少ない地域だからかお風呂はなかった。
コンコン
「は~い!」
「旅の方、食堂はもういいですか?」
「大丈夫です」
返事を返すとさっきのお姉さんが水を持って入ってきた。
「こっちが飲料で、こっちは料理用。残りはまた持ってくるわ」
「ありがとうございます。掃除は終わったのでこっちは返しておきますね」
「えっ!?もう終わったの?見ていいかしら?」
「はい」
お姉さんを1階の各部屋から案内していく。
「よくこんな短時間で…ありがとう。農作業の合間にしか手入れできないから困ってたの」
「分かります。知り合いの村にいた人もそう言ってましたから」
「2階も見ていい?」
「はい」
2階も来た時とは見違えたように掃除がされていて、お姉さんは終始感心していた。
「これで宿泊費を取るなんて申し訳ないわね。そうだわ!宿泊費は村に納めないといけないから無理だけど、水は今日はうちの持ち回りだからタダにしておくわね」
「いいんですか?」
「ええ、これだけ掃除する方が大変だもの」
お姉さんによると、宿代は村で管理して、水代に関してはその日担当の家にそのまま入るんだという。担当の家が決まっていないのは1か所の井戸を使い過ぎないようにするためだとか。
「ああ、そうだ。お姉さんちょっといいですか?」
「なあに?」
「オークの肉が少し余っているんですけど、村で買いたいって人いませんか?」
「リュート。オーク肉、余っちゃったの?」
「うん。この間から、みんなで動いてて新鮮なやつばっかり使ってたから、ちょっと古いのが余っててね」
「それなら大歓迎ですよ。この辺のオークはサンドオークというんですが、あの肉も高くて…。普通のオークなんですよね?」
「はい。保存用に味付けも済ましてますから、あとは焼くだけです」
「じゅるり…えっと、私の方で買い上げてもいいかしら?」
「別に処分なのでいいですよ。ただ、売るのは僕らが出発してからにしてくださいね」
「分かりました。あとでお話しましょう!すぐにお布団持ってきます!」
オーク肉が買えることがよほどうれしかったのか、お姉さんは飛び出るように宿を後にした。
「さあ、僕らは料理をするよ」
「は~い」
一応私も料理系スキルを手に入れるために包丁の使い方を練習した身。野菜ぐらいは切る手伝いをしている。まあ、残念ながらジャネットさんよりも腕は悪いけど。大味ながらジャネットさんは簡単料理が上手く、調理時間だけならリュートより短時間でそれなりの料理を作れてしまう。私は圧倒的最下位なのだ。
「今日はなんにするの?」
「野菜のスープとサンドオークのステーキかな?時間もあれだから量は少し少なめだけど」
というわけで鍋を火にかけてサンドオークの骨を煮てだしを取っていく。しばらく煮たら灰汁などを捨てて、野菜を投入して、その間に肉を焼いていく。肉はささみっぽい味と臭いがあるのであらかじめ、しっかり味付けをしたものだ。これで臭いがなければサラダチキンなんかもできたのにな。
「ん~、今日もおいしいね」
出来た料理は早速、盛り付けて食べる。意外にもサンドオークの骨からとる出汁は臭いが少なく、ハーブを入れると中和される。ここに野菜が具材として入っており、体にもいい一品だ。肉の方はパンと一緒にたれをかけて食べる。
「これが宿で出てきたらいいんだけどね」
「結局、いつも通り料理しちまってるしなぁ」
宿に泊まるのに結局は寝床が確保できた野営みたいになってしまった。あとは、お風呂というか湯あみだけだ。
「お湯沸かしたから先に入ってくるね!」
「いってらっしゃい」
「ゆっくりでいいよ」
「あはは、ゆっくりって言ってもお湯ためてるだけですから」
隣の部屋に入って、王都で買ったちょっといい石鹸を使って体を洗っていく。下にはちゃんとシートを敷いて準備もばっちりだ。
「ふう、気持ちいい~。お風呂に入れないのは残念だけど、これでも十分だよ~」
ほんとはマジックバッグに簡易お風呂もあるし、ティタもいるからお風呂に入れるんだけど、村にいる以上は過剰なものは使えないのだ。
「それでも村に居る安全には変えられないし、町を出たばっかりで野宿もね~」
一通り洗い終わると体を拭いて髪を乾かす。こういう時はほんとに火と風の魔法が使えてよかったな。
「上がりました~」
「おっ、早かったね。そんじゃ、次はあたしが入るよ」
ジャネットさんが私に続いて入っていく。
「アスカ、お風呂じゃなくて大丈夫だった?」
「うん。町にいた時もちゃんと入ってたしね。それにどう?ちょっとムルムルたちがいると恥ずかしかったから、使ってみたんだけど…」
「どうってその香り?」
「うん!王都で雑貨屋さんに入ってた時に買ったんだよ」
「い、いい匂いだと思うよ」
「ほんと!買ってよかった~」
「でも、どうして町では使わなかったの?」
「王都の宿じゃ、いつも用意してもらってたけど、なんか町の宿に移ってすぐに使うのもどうかなって思って。ほら、あんまり冒険者ってそういうところ意識しないし」
「まあ、そうだね。魔物を呼び寄せちゃったりするしね」
「あっ、そっか。この匂い大丈夫かな?」
「多分大丈夫だと思うけど、気になるなら町にいる時だけ使ったら?」
「う~ん、もったいないけどそうしようかな?それじゃあ、次に使う時はトワイラストに着いた時かぁ~」
「ん~、何話してたんだい?」
「あっ、ジャネットさん。もういいんですか?」
「まあ体拭くだけだしね。それで?」
「あっ、石鹸の話をしてたんですよ。新しいの使ってみたんです!」
「そうかい。あたしは洗えればなんでもいいからねぇ」
「え~、ジャネットさんもたまには変えてみませんか?」
「いいよ。あんまり匂いさせてもいいことないしね」
「残念」
「あっ、僕入ってくるね」
「うん。行ってらっしゃい。あっ、そうだ!リュートが代わりに使ってみる?」
「えっ!?いいよ、それって女性物でしょ?」
「こういうのって男女共用じゃないの?」
「流石にそれはないだろ。どれどれ」
ジャネットさんが私のにおいをかぐ。
「こりゃリュートには無理だね。出会った頃ぐらいにかわいげがあればいいけどね」
「またからかって…それじゃ、入って来ます」
私たちはリュートを見送ると席に座って休む。私はちょっとだけ細工をジャネットさんは読書をして時間をつぶした後、リュートが上がったのでお湯を捨ててあとは寝るだけだ。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
「お休み、アスカ」
にゃ~
「ご主人様、あとはお任せください」
アルナはもう寝ていたので、みんなであいさつをして眠りについた。




