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転生後に世界周遊 ~転生者アスカの放浪記~【前作書籍発売中】  作者: 弓立歩
王都、出立!

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311/573

次なる大陸へと

降雨の儀式も無事に成功し、領主様とお話をしている私たち。少しするとドアがノックされ、メイドさんが入ってきた。


「失礼致します。お体が冷えていると思いますので、こちらをお持ちしました」


そう言って出されたのは温かい紅茶とクッキーだった。甘味が高いこの世界ではすごいおもてなしだ。


「いただきます。ん~、温まる~」


「本当?あら?いい香りね。味もいいわね」


「お褒めにいただいて光栄です。こちらは王都に近い領地から取り寄せたものです。うちのものが出せればよかったのですが、乾燥地帯であるこちらでは育たなくて…」


「いいえ、おもてなし頂きありがとうございます。こちらのクッキーもおいしいです」


「こちらは我が邸で雇っている料理人が作ったものです。お口に合ってよかったです」


「このビターな感じがいいですよね!紅茶に合います」


「アスカって、こういうところは詳しいわよね」


「そ、そんな、普通だよ」


「いいえ、わたしより詳しいですよ」


そんな話をしながら私たちは服が乾くのを待った。


「そろそろ乾いたんじゃない?」


「そうだね」


目的も果たしたし、十分なおもてなしも受けたのでこれにて領主様の邸を後にする。


「今日は色々してもらってありがとう」


「いえいえ、私たちの受けた恩に比べれば些細なことです」


「そんな。私たちは依頼を受けてやってきておりますので。この歓待に報いるよう、明日から村々を回りますわ」


「ありがとうございます」


そう言って領主様は私たちが馬車に乗り込んで出発するまで、ずっと頭を下げていた。


「改めてすごいことをしたんだね。ムルムルたちは」


「私たちでしょ。他人事みたいに言わないの」


「でも、ムルムルたちの肩書があってできたんだし」


「それはこの町に来るまででしょ?来たらただの魔法使いなんだから、みんなの手柄よ。もちろん、貴方たちもね」


ムルムルはそう言って護衛をしてくれている神官騎士さんたちに声をかける。こういう気づかいができるところは流石だよね。


「にしてもあの領主、まだ雨が降ってるのに風邪引かないでしょうね」


「そうですね。お見送りに出てくれるのはありがたいのですが、心配です」


「心配だから後で薬渡しておくね。万能薬しかないけど…」


「そんなもの持ってるの?」


「いくつか持ってるけど、そろそろ交換の時期だから」


マジックバッグは便利な道具だけど、中に入れているものが劣化しないわけではない。一度に大量のポーションを仕入れて持ち歩くと交換時期がかぶり、大変なことになってしまうのだ。そして、万能薬やポーションはマジックポーションと違って、あまり使う機会がない。まあ、いいことなんだけどね。


「それなら、もらっておくわ。断られても私たちで使うことがあると思うし。最悪は騎士たちに渡せばいいしね」


治療院と協会は別組織だけど、それでも物資の融通や同じようなことをしているだけあって、万能薬の価値は高いみたいだ。宿に戻ると私は早速ムルムルに万能薬を渡す。


「5本もいいの!?」


「全部、同じ時期に作ったから。ただ、原料がね…」


私はムルムルにシェルオークの葉が必要だと伝える。


「アスカの作り方だとそんなものまで使ってるのね。連絡はしておくから、あんまり期待しないで待っててね」


「ありがとう」


「いいえ、これまでしてもらったことの方が圧倒的に多いもの。もっと、言ってよね!」


「そうそう、前に言ってた防音結界の魔道具出来たから使ってみてくれる?明日までは調整できるから」


「えっ!?いつの間に…」


「そこまで忙しくなかったからね。3段階に範囲を絞れるようになってるから何度か使ってみてね」


「多機能ね~、本当に凝り性なんだから」


「あっ!それとイスフィールさんにはこれを」


「これは腕輪ですか?」


「はい。スプラッシュレインまでの中級魔法がなんか効率よく使えます!」


「なんかって何よ?」


「さあ、理由はよくわからないの」


「…いいけど。受け取っておきなさいイスフィール。あなた、攻撃系は苦手でしょ?」


「で、ですが…」


「これが終わったら、神殿から一気に返してあげましょう」


「は、はいっ!」


ムルムルの助言でイスフィールさんも受け取ってくれた。きっといいことを言ったんじゃないかな?


「さて、それじゃあ、これからどうしましょうか?」


「もうやることはないし、休んだら?明日からも忙しいんだよね」


「そりゃあそうだけど、明日の朝には出発でしょ?さみしいじゃないの」


「もう、また会えるよ」


「またっていうのがね。アスカのことだから、次に会う時は私が結婚する時とか子どもが生まれた時になりかねないわ」


「結婚式はともかく子どもだなんて…」


「私ももう17歳だしね。引退までまだかかるからそこまで長くはならない、でしょうね?」


「う、うん。きっとそれまでには神殿に寄るから!」


「絶対よ!!」


ムルムルと約束をして、その日はちょっと遅くまで、これまでの旅をもう一度話していた。


「へ~、北にね。あっちは私たちも滅多に行かないのよ。水不足とは無縁だし」


「前はドタバタしてたからそこまで聞けませんでしたしね」


「それに時間が経って聞いてみると、面白いことも聞けるしね。ステアたちも感心してたわよ」


「そうなの!?久しぶりに会ってみたいなぁ」


「任務が任務だから簡単には会えないけど、ゼスには言っておくわ。仕事も外回りが多いし」


「外回り?営業とかもしてるの?」


「まあそんな感じね」


「ほら、お二人とも。もう寝ないと体がもちませんよ」


「もう~、良いじゃないの」


「でも、ムルムルたちは明日からも大変でしょ?寝ないとね」


「そう言えば、あんたは元気よね。私たち以上にMP消費したでしょうに」


「ああ、でも私ってMP型だからね。どうってことないよ!」


「はっ!?あんたそんな魔力でMP型だったの?不公平だわ…」


「うらやましいです。アスカ様の魔力でMP型ならどこの家からも引っ張りだこですよ!」


「それは純粋にうれしくないです…」


別に貴族の家に嫁ぎたいとかないし。そんな話をした翌日…。



「それじゃあ、元気でやるのよ」


「ムルムルこそ!イスフィールさんもお元気で」


「アスカ様も。それに、贈り物ありがとうございました」


「贈り物?アスカ、あんたまたなんか渡したのかい?」


「ふふっ、ちょっとしたものですよ」


「ちょっとしたものねぇ。あれが?」


「まあまあ、そのぐらいで。師匠、大変お世話になりました」


コクコクとうなづくティタ。でも、念話も覚えたしきっと二人で何か話してるんだろうな。でも、騎士さんたちは変な目で見てるよ。


「そうそう、私も出発前に渡すものがあるの、はい」


そういうとムルムルから小さい包みが渡された。


「これは?」


「まあ、宿にでも泊まってから開けなさい」


「そうする。それじゃあ…」


「ええ、また今度ね!」


ぎゅっとムルムルと抱き合ってお別れをする。そして、町を出て港町トワイラストへと向けて歩き出した。


「アスカ、大丈夫?ずっと一緒だったからさみしくない?」


「リュート、心配してくれてありがとう。でも、ずっと手紙でもやり取りしてたし、大丈夫だよ…あれ?」


「こらリュート!余計なことを…」


リュートに言われて改めてムルムルたちと離れたことを考えるとふいに涙があふれてきた。そっか、もうファナさんたちとも会えないんだな…。


「う、うっ、ひっく…」


「ほ、ほら、また会えばいいんだし!なっ」


「でっ、でも、次はもう神殿にいないかもしれないし…」


「まあ、そんなこともあるかもな…って違う違う。また会えるって。ほら今度はラフィネのやつも一緒だぞ!」


「お姉ちゃんも?そっかぁ、久しぶりに会いたいなぁ…」


「あっ、ジャネットさんだって!」


「なんだよ、リュートには言われたかないね」


その後、1時間ほど私は泣くし、2人は言い合うしで全く進まなかった。そしてこの事態を解決したのは意外にもキシャルだった。


に”~~


いつもは寝ている時間にうるさくしたせいか、キシャルが問答無用でブレスを放ったのだ。


「あっ、キシャル。ごめんね、うるさくしちゃって」


にゃ~!


分かればいいと私の頭に居座って寝なおすキシャル。キシャルのお陰で冷静さを取り戻した私たちは反省して目的地を目指して進む。それからは順調に進み、夕方には村が見えてきたので今日はそこに厄介になることにした。



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― 新着の感想 ―
移動が大変な世界だから、もしかしたら今生の別れになるかも知れないものね… とはいえアスカとムルムルは互いに女神達の寵愛を受けた巫女だもの、きっといずれ再会出来ると思う。
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