南部へと
王都を出発すること早1時間。旅路の方はというと、とても順調だったのだが…。
「少々よろしいでしょうか?」
「構わないけど何?」
副団長さんがムルムルに話しかけ、小休憩となったのだ。
「先ほど王都を出発してから私たちが左右と後方を固めておりますが、前方の守りはあれでよろしいのでしょうか?神官騎士の男性方も左右に詰めておられますし」
「何か問題があるの?」
「そう言うことではなく…」
否定するわけではないものの、食い下がる副団長。う~ん、やはりこうなってしまったか。
「言いたいことがあるなら言っていいわよ。でも、私も適当に任せてるんじゃなくてこの方が安全だからよ。それは覚えておいてね」
「それは一体どういう…」
「まあ、もう少し進めば嫌でも分かるでしょうし、もう少し様子を見てもらえないかしら?それと、あなたたちは王国を代表していること、忘れないでね」
「ぎょ、御意」
まだ何か言いたげだったけど、一応副団長さんも納得できたのか下がってくれた。
「ムルムルかっこいい~」
「茶化さないの。それより頼んだわよ。アスカがバシッと力を見せれば解決するんだから!」
「そうかな~?」
「そうそう、自信持ちなさい」
そんな話をしながら再び出発すること20分。
「うん?」
「あら、アスカ。前髪が逆立ってるけど反応あった?」
「えっ!?そんな反応してた?」
「周りに気づかせるためじゃないの?」
「ち、違うよ。そんな恥ずかしいことしないってば!」
「それより対応はどういたしましょうか?」
「そうね。ここはアスカたちに行ってもらいましょう。彼らには前方の人が抜けるフォロー役で入ってもらうわ。ナタリー、馬車を止めて」
「はっ!」
ナタリーさんが馬車を止めると騎士たちが馬車に集まってくる。
「巫女様、どうかなさいましたか?」
「アスカが魔物を発見したから、討伐してもらうわ。あなたたちは前方へ入ってもらえるかしら?」
「ま、魔物ですか?気配はしませんが…」
「あなたたちの察知力が足りてないだけよ。さ、お願いね」
「はぁ」
まだ、得心を得ていない騎士を置いて私たちは魔物を排除にかかる。
「アスカ、敵は?」
「この形状だとオークかオーガですね。でも、微妙に今までと体格が違うんですよね」
「ふむ。それはきっとサンドオークだな」
「サンドオーク?」
「オークだが、やや筋肉質というかやせた感じの魔物です」
「なるほど!そういう種類もいるんですね」
「あくまで予想ですが。以前に町の南でアンデッドが出ましたので、ああいった類の魔物も出ると思いまして」
「分かりました!みんな、数は4匹、オーク相手で行こう」
「はいよ!」
「うん!」
ジャネットさんは木がないので小ぶりな剣を構え、弓に備える。リュートは左手の小手を前に出しながら槍を後ろに下げて動く。ファナさんは私を守るように盾を構えて前進だ。
ヒュン
「来た!」
馬車に目が向かないように、探知を強めに出しておいたので一直線にこっちへ向かってきてくれたようだ。行動から後衛が2匹、前衛が2匹のパーティーだな。
「これなら突っ込んでいける!」
「アスカ様!?」
後方からこちらに矢を放ったオークに的を絞り、接近する。しかし、それを防ごうと剣と小型の盾を持ったオークが立ち塞がってきた。
「なんのっ!アースグレイブ」
私は土柱を発生させるとそれを使って飛び上がる。
「あとは弓を構えて…やぁっ!」
トスッ
2体のうち、こちらに気が付いた方を先に倒す。もう一体は…。
「ふっ!はっ!」
ファナさんがまっすぐに近寄って倒してくれた。
「残ったやつらも片付いたようですね。では、戻りましょうか」
「はい」
サンドオークを倒して一度馬車に戻る。いつもならここで回収と行きたいところだけど、今回は護衛任務だし騎士さんたちに安心してもらわないといけないしね。
「む、どうだったのだ?」
「無事に倒せました。確認をと思ってそのままにしてあります」
「そうか、では行くとしよう」
そして、馬車を筆頭に現地に着く。
「これは…見事な切り口や矢傷だ。しかも、本当に魔物の襲撃があったとは。我々も討伐であれば問題ないが、護衛ではいつも弓に苦労しているのだ。護衛対象は鎧を着ていない方も多いのでな」
「そういうこと。詳しくは話せないけど、アスカたちは探知に優れているの。護衛を頼むにあたっては一番重要でしょ?でも、彼女たちは馬車の護衛には慣れていないの。その点では騎士様たちの方が優れているので、適材適所ということです」
「なんと!そこまでお考えに。巫女様は指揮官としてもすぐれておられるようですね」
「そう?ありがとう」
「それで、ムルムル。この魔物たちってもらってもいいの?」
「いいわよ。でも、どうして?普段から結構食べてるって言ってたじゃないの」
「まだ、サンドオークは食べたことないんだ。オークもアーチャーと普通のやつは全然肉質も違うし、気になって…」
「まあ、サンドオークって言うぐらいだし、地形的に住処も限定的なんでしょうね。わかったわ、時間はどのぐらいかかる?」
「10分あれば終わるよ」
「早いのね。馬車で待ってるから手短にね」
「は~い」
許可ももらったので、サッと血抜きをして簡単だけど切り分けマジックバッグに収納する。
「手際もいいんだな」
「任せてください!あとは穴を掘ってと」
いらない部分や血を街道の横にあけた穴に埋めて臭いを拡散させないようにする。
「さあ!それじゃあ、進みましょう」
「それにしても、本当にアスカは元気ね。あと、その音が流れるのはなんなの?」
「これ?オルゴールっていって決まった音楽を流してくれるんだよ」
「決まった?先ほどから別の曲が流れているようですが…」
「う~ん。詳しいことはわからないんですけど、一応これも魔道具らしくて記憶にある曲が再生できるんです。構造は全く分かりませんけどね」
「それはいいですね。生の演奏だなんて中々聞く機会もないですし、手軽に色んな曲が聞けて」
「そんな便利なものどこで買ったの?」
「あ~、これは買ったんじゃなくてダンジョン産だから」
「はぁ。結局、手軽に曲を聴くのは難しいって訳ね。ダンジョン産の魔道具なんていくらすることやら」
「ま、まあ、貴族なら演奏を聴きたいなら劇場とか邸で聴けるだろうし、もしかしたら安いのかも?」
「そうなのイスフィール?」
「支援の目的で呼ぶことはありますが、それでも月に数回です。楽団ともなれば1度あるかどうか。伯爵家でそうなのですから男爵家などではもっと頻度は少ないかと」
「じゃあ駄目じゃない」
「私に言われても…」
会話が弾む中、私たちは魔物を倒しながら進んで行き、お昼になった。
「さあ、お昼は宿の人たちが作ってくれたサンドイッチね」
「やった~!」
サンドイッチは食べやすい分、かなりの量を用意してくれている。
「はい、騎士さんたちもどうぞ。配る分はあまりありませんけど、食べてみてください。おいしいですよ」
「しかし、これは巫女様方の…よろしいので?」
「構わないわよ。あと、言い忘れてたけど、シェルレーネ教じゃないだけでアスカも巫女だから、そこはよろしくね」
「は、はっ!失礼いたしました!!」
急にぺこりと私に頭を下げてくる騎士さんたち。ええっ…そんなに巫女ってえらいの?
「それにしてもやっぱりおいしいなぁ。リュート、これの作り方わかる?」
「分かるけど、難しいと思うよ。主に材料と予算が。小麦もそうだけど、肉とか野菜もこだわってるし」
「う~ん。調味料でごまかしたりは?」
「できるとは思うけど、パンの方は頑張った方がいいかもね。先にパンの味とか匂いが来るから」
「そっか~、期待してるね」
「あっ!キシャル、あたしの飯を奪うんじゃないよ。全く、新しいのはそっちにあるだろうに…」
ピィ
「こら、アルナはそっちに分けてあるだろ」
「あの剣士の女性は見た目に反して面倒見がいいんですね」
「ジャネットさんですか?そうですね、私も姉のように思ってます」
「そうでしたか。、それにしても皆さん外だというのにきれいに召し上がられますね」
「そう?これぐらい普通だと思うわよ。それに、これって食べやすいし」
「そうだね。何かしながらでも食べられるし」
「私は普通に落ち着いて食べたいけどね」
見張りを交代しながらも、落ち着いて食事を終えた私たちは再び町に向けて進みだす。
「今日泊まるのはどこだっけ?」
「えっと、確か…」
「ワイプスという町…のようなところです」
「町のようなところ?」
「規模がそれぐらいなのです。残念ながら水路の関係でこの辺りは発展途上でして」
「騎士さんたちって詳しいですね。王都に住んでるんじゃないんですか?」
「王都住まいですが、第2騎士団は王都周辺区域の討伐騎士団なのです。それに今回、巫女様に同行させていただいているのは南部出身者ですので、この辺りの地理にも明るく」
「へ~、そこまで考えて護衛を送ってくれたんですね!ムルムル、良かったね」
「まあ、土地勘があるのはいいわね。万が一、食料が足りなくなっても危険な植物とか詳しいだろうし」
「そういうのは助かるよね。私もある程度はわかるけど、地方独特の動植物は詳しくないし」
「そう言っていただけると我々としてもやってきた甲斐があります」
「副団長!もうすぐ、ワイプスです」
「そうか。皆さん、お聞きの通りです。行程表通りでしたら、宿の手配は済んでおりますので町に着き次第、手続きをしますので」
「悪いわね。そこまで手配してもらって」
「いいえ、巫女様たちは王国にとって大事な方ですから」
「あなたたち南部の人が言ってくれて助かるわ。期待されてるってことだし」
「この冬で全てが決まるのです。この間に雨が降らなければ夏からの野菜などの生産量が安定しません。大きなため池はあるのですが、そこが満杯になるなど10年に一度あるかどうかなのです。すでに今期の報告で、最低限の備蓄量だと報告が来ておりまして…」
「本当にギリギリなのですね。心配いりません。きっとムルムル様が何とかしてくれますよ」
「ほら、イスフィール!あなたもやるんだからそういうこと言わないの」
「へへっ、やっぱりですか?」
「全く、アスカの性格が移ったんじゃないの?」
「そうですか?自覚はないんですけど」
「まあいいわ。町に着いたらよろしくね」
「はっ!」
こうして、ワイプスに着いた私たちは手配済みの宿に泊まることになった。




