こぼれ話 スティアーナと巫女とパーティー
「さて、それじゃあ会場に向かいましょうか」
にゃ~ん
ミューレに迎えに行ってもらったキシャルはご機嫌で私の膝に乗っている。
「あなた本当に食いしん坊ね。会場で食べる時は私がお皿に取り分けてあげるから、勝手にどこかへ行かないでね」
にゃにゃ!
いい返事を返してくれひとまず安心する。それにしても本当に知能が高い魔物だ。騎士たちが話してくれる魔物の話とは全く結びつかない。
「どうかなさいましたか?」
「いいえ。本当に賢いと思って」
「確かに。私も護衛の訓練に森へ入りますが、本能で生きるものはいても、このように高い知性を持つものはわずかです。話に聞くぐらいですね」
やはり、キシャルのような存在は珍しいようだ。
「お嬢様、王宮に到着いたしました」
「そう。じゃあ、行きましょうか」
果たして巫女様はどのような方なのか?期待と不安を胸に会場に向かった。
「お、来たな?」
「流石はお嬢様。来るのが遅いな」
「あら、皆さんはお早いですわね」
「早いも何も侯爵家を待たせるわけにはいかないしな。それより、聞いたか?」
「出席条件のことかしら?」
「そうだ。面倒なのが来ないのはいいが、急だと思ってな」
「まあ、仕方ないんじゃないかしら?他国との関係もあるし」
「そうですよね。って、スティアーナ様の頭に居るのは?」
「ああ、この子ね。私の友達に借りたの。従魔よ」
「じゅ、従魔って魔物だろ?大丈夫なのか?」
「あら、こんな小さくてかわいい子が怖いの?」
「馬鹿を言うな。しかし、巫女様の前だろう。大丈夫なのか?」
「安心しなさい。この子って賢いのよ。ね?」
にゃあ~
私たちの会話には興味がないというように返事をする。もう!もう少し興味を持ってもいいと思うのだけど。
「もうすぐ、パーティーが始まりますので着席願います」
「もうそんな時間なのね。わかったわ」
案内係に連れられてみんな着席する。今日はそこまで形式ばっていないので、婚約者と来ているものはどちらか高位な爵位で、それ以外は爵位順で着席だ。同じ爵位なら譲り合ったり、友人と一緒に座ったりしている。護衛は控室なので、私の隣にいるのは友人のメルティーナだ。隣には婚約者のエルナーが座っている。その横にはハルファスティもいるようだわ。
コツコツ
前方から足音が聞こえる。
「国王陛下、並びに王妃様のご入場~!」
近衛兵の言葉で私たちは頭をたれ、言葉を待つ。
「皆の者、くつろぐがよい」
その言葉で頭を上げる。いつ見ても精悍なお姿だわ。正妃様もしっかりなさっているし、なぜあの殿下が生まれたのか謎だわね。長男の王太子殿下も素晴らしい方だし。
「此度は皆の知っての通り、わが国にもシェルレーネ教の巫女様が来ることになった。南部の水源問題もこれで少しはよくなるだろう。この件に関してはバルディック帝国の例を持っても疑うところはない。その巫女様をこのパーティーに呼べたことは我が国の誇りでもある。各所との調整の末、急遽このような形での開催となったが、各々楽しむがよい」
「では、これよりシェルレーネ教使節団を代表して、巫女でもあられるムルムル様よりお言葉をいただきます」
その言葉で一人の女性が袖口から私たちの前に姿を現す。それから遅れて他に3名が出てきた。この4名が今日の出席者なのだろう。
「ただいま紹介に与ったムルムルと申します。この度は新たにこの国へと依頼を受け、やってまいりました。ここ、王都から南部へと至れば水源が乏しく人民が苦労されている様子。一刻も早く対応し、今後は依頼のみならず、神殿の設置も前向きに検討していきたいと聞き及んでおります。この出会いが良きものになるように願い、挨拶とさせていただきます」
パチパチパチ
素晴らしいスピーチに皆、拍手を送る。なんと!まだ私と変わらない歳に見えるのにとても立派で堂々としている。こんな素晴らしい方なら是非お話ししないと。挨拶も終わり、いよいよ自由時間だ。
「巫女様っ!素晴らしいスピーチでした」
「あら、ありがとう。私もだけど、こちらの子もヨロシクね」
「そちらは?」
「イスフィールといって次の巫女なの。今回は来ていないけど、その人と入れ替わって巫女になるんです」
「ああ、見習いの方ですか」
ちょっと!誰よ、今失礼なことを言ったのは。今日は身分を問わないので、巫女様に挨拶するのも上位貴族からではなく、多くの下位貴族も詰め掛けている。しかし、いったい誰が失礼なことを…。
「あれはカスティル男爵令嬢ですね。そういえば殿下が出ないだけで、あちらは出るんでしたわね。仕方がない、行きますか」
興味はあるけれど、挨拶は後でと思っていたが面倒ごとになる前に押さえておかないと。
「ようこそ、デグラス王国へ。お二人は巫女様ということでしたが、どうですか王都は?」
「ちょっと、今は私が…」
侯爵家と懇意にしている下位貴族を盾にしてカスティル男爵令嬢を隠しつつ、話しかける。
「そうねぇ。いいところ!と言いたいけど、昨日着いたばかりなの。あっ!でも、いいことはあったわ」
「何でしょうか?」
「実はこの国に友人が来ていて昨日会うことができたのよ。そういう意味でこの国に来れたというのはうれしいわ」
「まぁ、それはよかったですわね。ぜひ、王都をその友人の方と楽しんでくださいませ」
「そうさせてもらうつもりよ。ね、イスフィール」
「はい」
「それにしても先ほどの挨拶の時とはずいぶん様子が違いますのね」
「あっ、気に触ったかしら。元々平民の出だからああいう堅苦しいのは苦手なの」
そう言いながら、ふわりとほほ笑むムルムル様。平民人気が高いというのもうなづける。貴族としてみると気にはなるけれど、でも嫌じゃない。
「いいえ。私も堅いのは苦手なので」
「うん?そうだったか。パーティーではいつも堅苦しいが」
「メ、メルティーナ、滅多なことを言わないでよ」
「そちらは?」
「メルティーナといって私の友人です」
「ふ~ん。なんだか護衛騎士みたいな雰囲気ね。ね、イスフィール」
「そうですね。私たちに同行してくれている神官騎士に似ています」
「そう見えますか?これは光栄です」
剣こそ持っていないもののメルティーナは騎士の動きをする。もう、乗せちゃうなんて巫女様もしょうがない人ね。
「ふふっ、素敵ねあなた。さぞいい婚約者がいるんでしょうね」
「ま、まあ」
まさか、あんな男が婚約者とは言えないわよね。その時、我慢ができなくなったのか、頭に乗せていたキシャルが鳴いた。
にゃぁ~
「わっ!?びっくりした。それ、飾りじゃなかったのね」
「え、ええ。友人からちょっと預かっているんです」
「ムルムル様、変わった魔物ですね」
「本当ね。こんな時にあの子がいたら喜びそうね。いつも珍しいものを持ってくるし」
「そうですね」
「どうです、この子の特技でも見てみますか?」
「何かできるの?」
「ええ。さ、お菓子を取ってあげるわね」
にゃ!
嬉しそうに肩に降りてきて構える。それにしても肩に乗っているのにドレスを破らないなんて本当に賢いわね。
「これとこれと、これも?最初にしては多いわね。まあいいわ」
言われた通り4つのケーキを皿に盛ると肩の前に持ってくる。
にゃ~
「わっ!?寒いわよ」
「これはブレスでしょうか?」
「みたいね。でも、ブレスを放つキャット種なんて本当に珍しいわ。私たちの大陸だとノースコアキャットが氷属性の魔物だけど、魔力はほとんどないもの」
「そうですね。あのキャット種も冷気に強いだけの魔物ですから」
「ふふっ、楽しんでいただけましたか?」
「もちろん!」
そんな雰囲気の中、ブレスを放ったキシャルがケーキを見て、巫女様の方へと手を動かす。
「ひょっとして、くれるの?」
にゃ
「じゃあ、遠慮なく…ん~!冷たくておいしいわ。神殿でも凍らせたシャーベットとか出るけど、今度帰ったらケーキも加えてもらわないと!」
「凍らせた食べ物ですか?」
「ええ。機会があったら振舞いたいところだけど、肝心の魔道具がね。もし、フェゼル王国へ来ることがあったらその時はお見せするわ」
「そうですね」
「ほら、そんなこと言ってないでイスフィールも食べてみなさいよ。これ本当においしいわ」
「はい」
遠慮がちにムルムル様から冷えたケーキを食べるイスフィール様も気に入った様子だ。
「ありがとう、あなたのおかげで巫女様に喜んでもらえたわ」
にゃん
だったらもっとくれとねだるようにするキシャル。しょうがないわね。
「巫女様。私たちばかりの相手をしていては何かとうるさいでしょう。それでは」
「そうね。他の人も気になってるみたいだし、いろいろ聞きに行こうかしら?」
「ええ。そうしてください」
流石にこれ以上拘束してはいらない政争を呼びかねないので、ここは失礼させてもらう。出席している侯爵家同士でも全部が全部そこまで仲がいいわけではないしね。
「挨拶は終わった?」
「ええ。それよりあなたたちの方はいいの?」
「問題ない。俺もハティも領主になる予定はないからな。変に人脈を作ってにらまれたくはない」
「そういえば、忙しいからってあなたのお兄様はもう領主代行としてやっているんだったわね」
「ああ。当然今日は出席できないから、仲良く話してきましたとは言えんさ」
「そういうスティアーナ様は卒業後は伯爵夫人でしょ。頑張ってね」
「まあね」
そう、私は学園卒業後とともに現在、王家直轄地のフェーンという地を割譲される殿下に嫁ぐ。これにより殿下も王籍を離れることが名実ともになる。でも、その管理は誰がするのかしらね、頭が痛いわ全く。
「お、お待ちください!出席は…」
「なぜだ!私が出なくてどうする?兄上は忙しく出られないのであろう?」
「いえ、出席の条件が…」
「王族の私にそのようなものが適用されるわけがないだろう?それに今日はミッシェルだけではなくあの女も来ているのだ、私がいないとだな」
「で、殿下!?なぜこちらに?」
「なぜだと?まさかまたお前が手を回したのか?汚い手を使う」
「公爵家や王族の出席などどうこうできるわけがありません。それより、陛下に許可は取られたのですか?」
「そんなもの確認せずともわかる」
「あっ、ハインツ様!来てくれたんですね」
「ああ、ミッシェル。君のためなら当然だ、何もなかったかい?」
「そ、それが…」
「遠慮することはない。私が力になろう」
「えっと、私が先に巫女様たちと話をしていたんですけど、それに割り込むようにスティアーナさんが。しかも、また取り巻きを使って」
「なんだと!スティアーナ、お前というやつは…」
「その必要があると判断したのみですわ。そのままだととても失礼なことを言いそうでしたので」
「あら、何かしら?」
「ムルムル様、王子様のようです」
「へ~、あれがねぇ。でも、今日は出てこないんじゃ?」
「またハインツ様とスティアーナ様よ。あの二人よくやるわね」
「2人というかねぇ…」
まずいわ。変に騒ぎになってきている。全く、声が大きいんだから。
「殿下!」
「おお、カエサルか」
「私も見ておりましたが、それはもうスティアーナ様は高圧的でした」
「やはりそうか!」
カエサル。あなたは剣の腕が上達するまでパーティーには出さん!という伯爵の教育方針が、今回は巫女様と同年代の子息・子女しか出られないから、特別に出席を許可されたからってはしゃいでただけじゃないの。
「もう我慢ならん!この女とは今日限りだ。スティアーナ・ミファリア!貴様との婚約を破棄する!!」
「で、殿下!?そんな大声で」
「なにを言っても取り消さんぞ。これで学園卒業後の伯爵夫人も夢とついえたな。ははは」
「ハインツ様!いいんですか?そんなことを言っても」
「心配するな、ミッシェル。こんな傲慢な女、父上も快く許してくれるだろう」
まあ、婚約相手を変えるぐらいなら陛下は許可しそうだけど、こんなタイミングで言うなんて。でも、これ以上騒ぎを大きくはできないわね。
「…承知いたしました。ミファリア侯爵家がスティアーナ。そのお話お受けいたします」
「ふんっ!今更殊勝になったところで取り消せんからな」
「どうする…婚約破棄だって」
「それより、巫女様たちは…」
「今日のパーティーはどうなるんだ」
うっ、こういう時に他の高位貴族がいないのは辛いわね。ほとんど学生と下位貴族だけでは場の収集が…。しかも、陛下と王妃様は少し下がられていたから、今気づかれたみたいですし。恐る恐る巫女様の方を見てみる。
「ふふっ、変わったもてなしね。イスフィール、2の舞を舞うわよ」
「ええっ!?ここでですか?」
「このままにはできないでしょう?」
「分かりました」
「皆さん!先ほどは歓迎をしてもらいましたし、こちらも予定にはありませんが少し舞をお見せいたします。さ、合わせるわよ」
巫女様の発言によって騒ぎは少し落ち着きホールの中央が空く。楽隊も準備をするが、いかんせん全く知らない踊りなので即興だろう。本当に皆様ごめんなさい。
「イスフィール、ステップはドレスだから少し小さめにね」
「はい」
タンタンッ
美しく流れるようにそして大きく動く。これが2の舞…パレードでは1の舞のみ披露の予定だったから、まさか見られるなんて。
「あっ、キシャル!?」
キシャルが肩から飛び降りると巫女様の方へと飛び乗る。
「あら、あなたも手伝ってくれるの?」
にゃ~
巫女様の踊りに合わせるように、キシャルも氷のブレスを吐く。キラキラとまるで宝石が舞い落ちるようでとてもきれいだ。それにしても初めて見るはずなのにどうして合わせられるのかしら?楽団でさえ苦労しているのに。
にゃ
「わっ、こっちにも。あなたも一緒に舞うの?」
にゃ
こうして5分ほど巫女様が舞を披露された。その間、会場の端というか袖裏で陛下たちと殿下は話されていたみたいだ。そして、踊りが終わり巫女様たちが首を垂れるように挨拶をされる。それに合わせてキシャルもバックに氷柱を発生させた。
パチパチパチパチ
「す、素晴らしいですわ」
「ああ。こんな踊りは見たことがない」
「あのキャット種もすごいわね。まるで一緒に踊っているみたいでした」
「この国と巫女様たちの相性がいいのかも」
口々に舞を褒め大きな拍手で2の舞は終わりを迎えた。
「巫女様方」
「国王陛下。いかがでしたか?」
「素晴らしいものであった。我が国に着いたばかりで疲れておられるだろうに。今回の訪問を実現できてよかったと改めて実感している」
「それはよかったですわ」
「うむ。しかし、所用ができてしまってな、少し席を外させてもらう」
「一国を担うのは大変かと思います。遠慮なさらず」
「かたじけない」
陛下は礼を述べ一度下がられた。まあ、無理もない。賓客に恥をかかせるところを、救ってもらったのだ。あのバカに話をしないといけないだろう。そして、巫女様といえば先ほどの舞のおかげで再び話の中心となって、貴族たちに囲まれている。でも、流石にお礼を言わないといけないわよね。意を決して私は巫女様に話しかける。
「巫女様方、先ほどはありがとうございました」
「何のことかしら?私はちょっと余興をと思っただけよ」
「いいえ。本当に助かりました。先ほどは私の婚約者が失礼をしてしまい」
「いいわよ。それにしてもやっぱりあなたぐらい素晴らしい方だと婚約者もいるのね」
「ま、まあ」
いるというかいたということになるんだけれど。
「他の方もやっぱりいるものなのかしら?」
ムルムル様が他の貴族にも聞いていく。
「そうですね。下位貴族でも学園入学前…15歳には大体決まってます」
「私は16歳ですが、近々まとまる予定で…」
「まぁ!それはおめでたいわね」
「本当ですね。ムルムル様にも素晴らしい婚約者がおられるんですよ」
「そうなんですね。イスフィール様は?」
「私はその…」
「実は巫女になる間は婚約者は作れないの。大体、任期は5年だからイスフィールの場合は22歳までね」
「それって大変じゃないですか?」
「ええ。でも、全く作れないわけじゃないんですよ」
「どういうことですか?」
「婚約自体はできないけど、相手と約束をしておくことはできるのよ。ただ、書面にはできないから発表もなし。本当にただ相手に待ってもらうだけなの。巫女見習いになると外部との接触も減るから、それも難しいんだけどね」
「まぁ~、大変ですね。それじゃあ、フェゼル王国の方でそういったお相手が?」
「残念ながら。一応伯爵家の出ではありますが、3女ですし出会いもなくて…」
「そうなの。見た通り、まじめなんだけど出会いがないのよね。皆様の知り合いにいい方はいらっしゃらない?」
「う~ん。私の家はもう済んでしまってますね。多分、どの家も一緒ではないかと」
「そうよね。イスフィールに聞いても、フェゼルでもそうだって聞いてたし」
「あの…私、お相手になれるかどうかわかりませんが一人心当たりがあります」
そう遠慮がちに言うのはフェンネル侯爵家の確か…アゼルバイシェンさん。あまり交流のない方ね。
「本当?イスフィール聞いたわね」
「ええ。どのような方ですか?」
「えっと、私の兄になるんですけど…」
「兄?アゼルバイシェンさん。あなたのお兄様は昨冬に結婚されたのでは?」
確かそうだったはず。
「い、いえ、実は全く社交に出ない兄がもう一人いまして…」
「そういえば聞いたことがあります」
「ケイティは知っているの?」
「はい。風のうわさでフェンネル侯爵家には研究に明け暮れる令息が一人いるのだとか」
「社交も親に無理やり出されたデビューの一度きりですから、皆さん知らないと思います」
「ご年齢は?」
「今20歳です」
「3歳差ね。でも、研究ばかりとか将来大丈夫なの?」
「それが、次男なので将来は侯爵家の代官として子爵位を継がせておきたいと両親は思っているのですが、何分そういう性格ですので」
(侯爵家次男で将来は子爵位の代官。もちろん地方赴任でパーティーも開かないといけないけど、代官自体がそういうのを嫌いなら年始と年にあと一回ぐらいでも大丈夫ですわよね。となると気晴らしにパーティーを開くぐらいで、あとは家にちょっと招くぐらい。それに研究ばかりならそこまで私に興味もないでしょうし、跡継ぎだけできればかなり自由に生活できるのではないかしら?)
イスフィールはここまで2秒で考えると、決意した。
「その話、受けさせていただきますわ。今度、お会いできるのを楽しみにしております」
「は、はひ…」
「なに圧かけてるのよ、イスフィール。相手が困っているでしょう」
「あっ、すみません。つい」
「いいえ。このパーティーが終わったら、両親に話しておきますね。兄に言ってもどうせ研究で忘れてしまうので」
「はいっ!」
イスフィール様いい笑顔ね。まあ、さっきの悪い空気もなくなったしよかったわ。
「それにしても巫女様も相手を探すのは苦労されるのね」
「まぁ、あんまり国の権力者とは結び付くのはよくないしね。今回、イスフィールに紹介してもらう相手も、長男とか跡継ぎならだめだし、結婚後はなにか事情があっても侯爵を継ぐのはできないわ。政治バランス?そういうの結構気にするらしくてね。相手が内部の人なら内側の調整だけで済むんだけど」
「ちなみに、ムルムル様のお相手は枢機卿様でずっと前から婚約しているような状況なんですよ」
「あら、そうなんですのね!」
「ゼ、ゼスはそんなんじゃないわよ!」
「ふふっ、巫女様もしっかりしておられるだけではなくて、乙女なんですね」
「もう…」
「スティアーナ様、少しよろしいですか?」
「ん?わかったわ。皆様、少々席を外しますわね」
「はい。スティアーナ様」
近衛騎士に声をかけられ私は席を外す。案内された先にはミューレもいた。




