従魔保護施設
「従魔契約でそんなことができるんですか?」
「えっと、アナレータちゃんは従魔ってどんなイメージ?」
「そうですね。魔物を従えて戦わせるイメージでしょうか?」
「まあ、冒険者としてはそうかもしれないけど、実際はちゃんとお互い心を通わせているの。だから、従魔ならアナレータちゃんの為に魔力を使ってくれるよ。それに毎日契約にMPも持っていかれるから、魔吸病も何とかなるかもしれないんだ」
「しかし、娘は冒険者でもありませんし、戦えません」
「そこは大丈夫です。従魔たちは強い相手だけでなく、気に入った相手とも契約してくれるんです。そういった子であれば大丈夫なはずです」
「そうなると肝心なのはその従魔の方ね。何か当てはあるの?」
「さすがにそこまでは……あっ!? でも、この町には従魔を保護してる施設があるはず」
「ああ、あそこなら我が伯爵家からも少し支援をしています。町外れの施設ですな」
「私はペットショップの店員さんから聞いたんですけど、そこならいい子が見つかるかも」
「まあ、それ以外に対応も浮かばないし、物は試しね」
「じゃあ、私と従魔たちが行くとして案内は……」
「私が行こう。その方が話が早いだろう」
「えっ!? ああ、そうですね……」
「アスカ、心底嫌だって顔に出てるわよ」
「しょうがないよ。経緯が経緯だし」
「まあでも、のんびりもできないし、しょうがないわよ」
「オ、オホン。ではいきましょうか」
「私はここで待ってるわね。説明も必要だし」
「分かったよ。私はジャネットさんたちにも手伝ってもらうね。そうそう、アナレータちゃんの属性はなんなの?」
「私は水です」
「水だね。わかったよ。それじゃ、行ってくるね」
アナレータちゃんの部屋を出て隣の部屋に入る。
「ジャネットさん、リュート。ちょっと今から行きたいところがあって……あれ? テーブルがなんで割れてるんですか?」
「さあ、不良品じゃないかい?」
「まあいいか。ふたりとも来てもらえますか?」
「はいよ」
「分かったよ」
「私もお供します」
「ファナさんも?」
「ええ、部屋の片づけの邪魔になりそうですし。また何か壊れるかもしれませんから」
「ガラス製品とか多いんですかね。それじゃあ、行きましょうか」
出発は伯爵とその護衛に私たち四名と従魔が一緒の馬車で向かった。
「それでどこに向かってるんだい?」
「従魔の保護施設です。そこで水の従魔をさがしてもらいたいんです」
「水の従魔? アスカ、何かあったの?」
「うん。あの家のアナレータちゃんって言う子に必要なの。ただ、どんな子でもいいんじゃなくて、魔力が高くないとだめなんだ」
「魔力ねぇ。それじゃ、ウルフ種やキャット種は無理ってことかい?」
「そうですね。亜種とかなら大丈夫かもしれませんけど、まず無理かと」
ウルフ種はともかくキャット種はあまり言うことを聞いてくれないし、毎日決まった量のMPを消費するのは難しそうだ。条件に合った子がいればいいけど。
「魔力が高いかはどう判断するの?」
「リュートの言う通り、それが難しんだよね。どうしようかな~」
《ピィ!》
「アルナが測ってくれるって?」
従魔たちは魔物の能力がある程度分かるようで、リュートにはアルナがジャネットさんにはキシャルが付くことになった。ファナさんは私の護衛についてくれるんだって!
「よろしくね、アルナ」
「頼んだよ、キシャル」
《ピィ》
《にゃ》
「従魔は他人にもよく懐くものなのか?」
「さてね。他の魔物使いのパーティー事情は知らないもんでね」
「貴様! 伯爵様に向かって……」
「ふぅ~ん。そんなこと言うなら、この馬車を降りて今すぐ他の貴族に知らせてもいいんだよこっちはね」
「ぐっ」
「よせ。無理を言って来てもらっているのはこちらなのだ」
「ジャネットさん!」
「ふんっ」
ぷぃっとそっぽを向くジャネットさん。もう、しょうがないんだから。その後は気まずい雰囲気のまま目的地に到着した。
「到着しました」
「やった! ふぅ~、外の空気が美味しい」
「そうだね」
従魔の保護施設に付いた私たちは早速、目的に合致した従魔を探すため馬車を降りた。
「ようこそ、従魔の保護施設に。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「えっと、水属性の従魔を捜しています。できれば魔力の高い子で」
「魔力の高い。う~む、難しいですね。水や火属性は魔石も高いですから、こちらでも引き取り手はよく見つかるんです」
「じゃあ、全くいないのかい?」
「いえ。ここは保護施設ですので、いないわけではありません。ですが、引き取りたいと言ってそのまま渡せるわけではありません。大切にすることはもちろん、相性もありますから」
「運営がきちんとできているようだな」
「レヴィン伯爵! どうなさいました。ご連絡はありませんでしたが……」
「いや、所用でな。この者たちに協力してやって欲しい」
「はぁ、それはまあ。ここの子たちの引き取り先が見つかるなら」
というわけで、リストを見せてもらい三手に分かれて捜し始める。
「う~ん。こいつはどうだい? 強そうに見えないかい?」
《にゃ~》
「自分の方が強いって? いやいや、お前に並んでもねぇ」
「アルナ、この子はどうかな?」
《ピィ》
「魔力が低いか。それはしょうがないね。次に行くよ」
《ピィ~》
「こっちの子は魔力が少し低いですね。それに魔法も結構攻撃寄りです」
さすがに魔力の使用が攻撃ばかりでは使う場所がないだろう。伯爵家といっても毎日攻撃魔法を使っていては噂になってしまう。
「難しいなぁ。あれっ、ここの奥はなんですか?」
「ああ、そっちは基本的に小型の魔物です。魔力もそこまで高くありませんね。一応水の魔物もいますが見ていかれますか?」
「そうですね。せっかくですし」
ちょっと興味もあったので中へ入っていく。
《にっ》
《ぬ~》
色々な従魔がいるものの確かに説明された通り、魔力をほとんど感じない。多い子でも50前後だろう。
《そよ》
「ん、この子は?」
「ああ、そいつは厄介な奴でしてアクアドレインウィードというんです」
「アクアドレインウィード?」
「魔力を帯びた水をエサにする草ですよ。珍しい従魔ではあるんですがどうにもね」
そう言って担当者の人は言葉を濁す。ちなみに姿は顔が ―_― こんな感じで、足は Λ このように根っこが二股になっている。当然のことながら頭の上は草のようになっていて、かわいくはないかな? 愛嬌はある……のかもしれないけど。
「魔力を帯びた水がご飯なんて変わってますね」
「ええ。ただ、魔力水をたらい一杯与えてバケツ一つ分も水を出せないので、どこも引き取り手がないんですよ。それに魔力もそこまで高くないですよ」
「うう~ん。でも、今回の条件には合うかも」
さっきの話だとたらい一杯の水をバケツ一杯以下に変えるってことだけど、アナレータちゃんは病気で魔力はどんどん溜まっていくんだし、変換効率は悪い方がいい。
「ちょっとこの子を見てみてもいいですか?」
「ええ、構いませんが」
「その間、伯爵様は別の子を見ていてください」
「分かった」
伯爵たちが次のエリアに向かうと、私とファナさんとティタでアクアドレインウィードに近づく。
「あっ、怖がらなくてもいいよ。ちょっと聞きたいことがあるだけだから」
そう言って近づくもののあまり人に慣れていないのか、水を飛ばしてきた。
「わっ!?」
顔に命中したけど、威力は全くなかった。確かにこれだと冒険者は連れて歩けないだろうな。
「ご主人様になんてことを! アクアボール」
「ちょっと、ティタ!」
私が止める間も無くティタがアクアドレインウィードに魔法を放つ。
《み~》
しかし、口を開けたアクアドレインウィードにアクアボールは吸い込まれてしまった。
「ええ……」
「驚きの能力ですね。これがこの魔物の特性ですか。それはそうと、アスカ様。そのゴーレムが先ほどしゃべりませんでしたか?」
「あっ、えっと……秘密にしといてもらえます?」
「分かりました。変わったゴーレムですね」
「よろしくお願いします。ティタと申します」
「これは丁寧に。ファナと申します。ムルムル様付きの神官騎士です」
そんな感じで二人が挨拶を交わす。場が和んだけど今はこっちの子だ。
「ティタ、この子はどうかな? さっきみたいに水の魔力を食べられそう?」
「こんな生意気な奴を選ぶんですか?」
「お、落ち着いて。私の従魔になるんじゃないんだし、アナレータちゃんの条件に合えばいいんだから」
「そうですね。では、聞くとしましょう」
「~~~~」
《~~~~》
ティタとアクアドレインウィードが話している。草系の魔物は初めてなので、私でも言葉はうまく聞き取れなかった。
「どうだった?」
「今のより多くの魔力を吸収できると言ってます。真偽は分かりませんが」
《ん~!!》
ウィードはティタの発言を理解できているのか、小さな体を揺らせて怒っている。
「ふんっ! ご主人様に失礼な態度を取るからよ。ですが、ご主人様。おそらくこの魔物ではアナレータの魔力吸収速度に追いつかないと思われます」
「そうなんだ」
「こいつは魔力が30ほどなのでいくら吸収できるといっても、限界量は多くないのです。もう少し魔力が高くなればいいんですけど……」
「そっか、小さな草の魔物だもんね。これが木とかだったら変わったのかなぁ」
確かに草だと水を上げ過ぎたらしおれるもんね。木とかだともっと行けそうな感じはあるけど。
「それです! それならいけるかも知れません」
「それって?」
「ほら、ご主人様は今までにも従魔を進化させてこられたでしょう?」
「うっ、まあ、意図的ではないけどね」
「ご主人様の魔力はもしかしたらそういった方向に作用するのかもしれません。癪ですが、こいつに魔力を送れば進化するかも」
「あ、あの、そういうことってあるのでしょうか?」
「今の話は内密に。いいわね」
「あ、はい」
ファナさんとティタがやり取りをする。何か急に仲良くなった感じだ。
「それで、進化できそうなの?」
「少々お待ちください」
「~~」
《~~》
「可能性は高いかと。普段からお金がかかるから魔力を含んだ水も多く与えられていないとのことですから。ただ、進化せずに彼女と従魔契約をするのは危険かと」
「どうして?」
「この種族は魔力吸収を行えますが、魔力自体は低いのです。契約後に大量の魔力譲渡を一度に受けて死んでしまうかもしれません」
「なるほど。それじゃあ、引き取るのも難しいかな?」
「ですが、これ以外の種族でここにいる従魔では難しいかと。魔力の反応を見ても100を超えるもので、水の魔力を扱えるものはいません」
「それは困ったね。なら一度、伯爵に話して連れて行ってみよう」
「ティタは他の従魔の魔力も分かるのですか?」
「測り方は何通りかあるわ。ファナにも気が向いたら教えてあげる。多分、人にも通用するだろうし」
「それは助かります! ちなみに他の人には……」
「言いふらさない信用のおける人になら」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、話もまとまったし、いったんこの子で決まりってことで」
私たちは伯爵に合流するため、小さい子がいるエリアを離れた。




