パーティーと待ち合わせ
「ただいま~」
「「お帰りなさいませ、ムルムル様。イスフィール様!」」
流石に建物内で剣は掲げないけど、一糸乱れぬ動きで出迎える騎士さんたち。さっきまでの雰囲気とは全く違いみんな真剣だ。
「ムルムル、お帰り。イスフィールさんも」
「ただいま」
「ただいま戻りました」
「それでパーティーはどうでしたか?」
「うん?面白いものが見れたわよ、ね」
「あれを面白いといっていいのでしょうか?」
「いいのよ。でないとかわいそうでしょ?それにイスフィールもいい出会いがあったのよね」
「はい!」
「その話、詳しく聞けますか?」
その話を聞いた騎士さんたちが一気に詰め寄る。真剣に職務に励んでると思ったけど、パーティーのことを聞きたかったんだ。でも、私も気になるなぁ。
「私も聞きたい!」
「はいはい。それじゃあ、みんなで部屋に行きましょうか」
ムルムルを先頭にみんなで部屋に入っていく。ちなみに私は気づいていなかったが、この時まで男性陣はずっと見張りをしていた。途中でジャネットさんが『野営よりましだろ』と外でご飯を食べるように言ったらしい。
「それで、どんなことがあったのですか?」
「ああ、いや、ちょっと国が関係するからあんまり大きな声で言えないのよ。そこだけは理解してね」
「ええっ!?確か、高位貴族がいっぱいいたらよくないから、国王様と妃さまとあとは下位貴族以外は同年代の貴族だけって言ってなかったっけ?」
「まあ、それで安心してたの。イスフィールの婚約者捜しも楽になったと思ってたわ。それで和やかに進んでて、途中で珍しい魔物を従魔にしてる令嬢に出会ってね。面白そうだったから話をしてたら、その友人の兄をイスフィールに紹介してもらえることになったのよ」
「聞いた話だと侯爵家の次男だとか。将来は領地の代官になるので多少パーティーには出なくてはいけませんが、たまのおしゃれと思えば問題ないです」
「それはよかったですね。いい出会いになることを願ってます」
「ありがとうございます。数日後に会う機会を設けてもらえるとのことでしたので、楽しみです!」
「その人は今いくつなんですか?」
「確か20歳だといってましたね」
「それなのに婚約者がいないのは珍しいですね」
「なんでも普段は研究者として研究室にこもっているのだとか。そういうのが苦手なご令嬢が多いのでは?」
この発言を後悔することになるとはイスフィールはまだ知らなかった。彼女もまた、長い神殿暮らしで感覚がマヒしていたのだ。
「そうなのですか?でも、お相手に恵まれたようでよかったですね。それと、もう一つの出来事は?」
「覚えてたのね。ナタリー、どこまで言っても大丈夫かしら?」
「言わないのが一番ですが…」
2人でごにょごにょと打ち合わせをする。
「その辺が落としどころね。簡単に説明すると身分の高い令嬢がいたんだけど、その人に向かって婚約者が婚約破棄を告げたのよ。もう会場は大盛り上が…大混乱で」
「だ、大丈夫だったの?その、婚約者の人って」
「最初は驚いてたけど、諦めたみたいね。そのあと面白いことになったみたいだし」
「え~、私も行ってみたかったなぁ~。そんなすごいシーンを間近で見れたんでしょ?」
「なにを楽しみにパーティーに行ってんのよ。確かにあれは初めて見たけどね」
「そうそう何度もあっては困ります!その場を落ち着かせるためにあんな…」
「どうかなさったんですか?」
「大したことないわ。予定外だけど2の舞を披露しただけよ」
「ええっ!?その場で舞ったの?」
「しょうがないじゃない。あんなの急に見せられて場が盛り下がってるのよ?何とかしてあげないと、私たちのためのパーティーなんだから」
「外交問題になりかねないですしね。シェルレーネ教の神殿は一応フェゼル王国にあるわけですし、国主催のパーティーで巫女をないがしろにされたなんて。これを機に他国もこんな国じゃなくてうちに派遣して欲しいといってくるかもしれませんし」
「他国の来賓がいなくてよかったわ」
ホッと胸をなでおろす二人。どんな身分の人か知らないけど大変だったんだろうなぁ。
「それより、あなたたちこそどうしてたの?暇じゃなかった?」
「いえ。アスカ様にお相手していただいておりましたので」
「そっか、飽きないでしょ、この子」
そう言いながらムルムルは私のほほをつんと突く。
「「「はいっ」」」
そして、騎士の皆さんもどうしてそんないい返事を返すのか。
「ふぅ、でもさすがに今日は疲れたわ。明後日はパレードもあるし寝ましょうか」
「そうですね」
「そうそう、アスカ。明日は店に行くんでしょ?私も行くから行く前に来てよね」
「分かったよ。それじゃあ、おやすみ」
ムルムルたちに別れを告げ、隣の部屋に戻る。
「面白い話が聞けましたね」
「ああ、でも外部には漏らすんじゃないよ」
「分かってますよ。リュートも聞けたらよかったのに」
「あいつはこういう話は苦手だろ」
「そうですか?」
「だって、今回の問題起こしたのも男だろ?そんな中、女性陣に囲まれたらねぇ」
「あっ!?それは大変かも」
「針のむしろだろうねぇ」
しみじみと2人で話しながら眠りについたのだった。
翌日。
「ん~、今日はいいお天気だ~。ご飯も食べたし、もうちょっとでお出かけかな~」
「嬉しそうだね」
「久しぶりにできた友だちだし」
「友達か~、すごいね」
「出会いのおかげだよね!」
別にリュートはそういうつもりで言ったのではないのだが、本人が納得しているのでそれ以上は突っ込まなかった。
「それじゃあ、ムルムルを呼んで来るね」
「うん」
「ムルムル、もうすぐ出かけるよ~」
「分かったわ、準備できたらノックするから~」
「は~い」
明日はパレードだから入念に打ち合わせした方がいいんだろうけど、昨日のこともあるし今日の午前はリフレッシュだ。
「アスカ、できたわよ」
「じゃあ、行こう。あれ?イスフィールさんは?」
「さっき手紙が届いたの。きっと昨日お話しした家からだわ。そっとしておきましょう」
「そっかぁ、それならしょうがないよね。行こっか」
ムルムルと私とリュート、それに前方に二人と後方に二人の神官騎士さんが付いて計7名で行動する。しょうがないけど大人数だなぁ。お店の方は大丈夫かな?
「へぇ~、ここがメインの大通りね。隣よりちょっと狭いけど、他の通りと店構えが違うわね」
「ソウダネー」
みんなして大都市によく行ってるんだね。
「あっ、ここだよ」
「へぇ~、きれいな店ね」
「普段は王立学園の人や貴族の人も来るんだって!」
「そうなの?やけに詳しいじゃない」
「ふふっ、私の情報網を甘く見ないでよね!」
「聞きかじりの情報でしょ」
「リュートばらさないでよ」
「ほら、怒ってないで入りましょう」
「そうだね」
「いらっしゃいませ!あら、ご予約の方ですね。えっと、席が…」
「ああ、人数が多いでしょ。護衛は外に出しておくから」
「それには及びませんわ」
「あっ、スティアーナさん。こんにちわ」
「こんにちは、アスカさん。そちらの方は?いえ、先に座りましょう。奥の席に移りますわ」
「は、はいっ!」
お店の人がすぐに対応してくれる。いいのかなぁ?
「さあ、アスカさんも座って!それでそちらの方は…あら?」
「あっ、昨日の!?」
「2人とも知り合いなの?」
「知り合いというかなんというか…。まあ、話したことはあるわね。イスフィールに相手を紹介してくれた人もこの人の紹介よ」
「いえ、私はエマーシェル家にそういう方がいたと覚えていただけですので」
「そうだったの」
「お嬢様、注文を」
「そうだったわ。アスカさんはこの前と一緒でいい?」
「う~ん、できれば新しいのがいいです」
「そう?アスカさんは冒険家なんですわね。私はいつもこのケーキですの」
「そういうのもいいんですけど、ずっと居れるわけでもないので新しい方がいいかなって」
「なるほどね~。じゃあ、あたしはこれにするわ」
「ムルムル早いね」
「アスカのおすすめの店だもの。おいしいのはわかってるから、どれもおいしんでしょ?」
「うん!まあ、私はまだ1回しか来てないけどね」
私も注文する。遠慮がちにリュートも選び、護衛の人は手前のテーブルで注文していた。
「それで、なんで貴族のお嬢様と知り合ったの?あれだけ避けてたのに」
「うっ」
「避けてた?そうなんですの?」
「ほ、ほら、こんな見た目しててよく勘違いされて面倒事になるからつい…」
「まあ、そのお姿ではそう思われても仕方ないですわね」
「ご歓談のところ失礼します。ケーキと紅茶をお持ちしました」
「ああ、ありがと」
「わぁ、これもおいしそう!いただきまーす。おいしい~」
「ほら、そういう仕草ですわ」
「仕草?この食べモノにつられているのが?」
「そちらではなくてフォークの使い方やカップの持ち方です。とてもきれいで、それなりにマナーを学ばないと身に付きません」
「お、お母さんが厳しかったんですよ。それよりせっかく来たんですし食べましょう」
「まあ、そうですわね。ああ~、やっぱりおいしいですわ。本当に昨日ときたら…」
「あっ、そうだ!ムルムルとスティアーナさんって、同じパーティーに出たんですか?」
「そうなりますわね」
にゃ~
「わっ!キシャル、どこから」
「ああ、流石に放し飼いできなかったので、かごに入れてきたんですが起きたんですね」
「ケーキにつられて起きるなんてまるでアスカの従魔ね」
にぃ~
そういうムルムルの膝にキシャルは飛び乗る。
「あれっ?この動き見たことあるわね。もしかして…」
「その子、ノースコアキャットだったあの子だよ」
「えっ!?従魔って姿が代わったりするの?大人になったとか?」
「それが進化したんだって。今は別の種だよ」
「あら、以前は別の種だったんですね。そういうこともあるんですね」
「みたいですよ。めったにないらしいですけど」
そんな話をしていると、新しくお客さんが入ってきた。
「スティアーナお姉ちゃん!」
「お姉ちゃん?」
「あら、もしかしてシュライク様ですか?」
「う、うん。そうだよ。邸に行ったらここにいるって聞いて…」
はぁはぁと息を切らしながら、貴族風の少年がやってきた。どうしたんだろう?
「い、いきなり、昨日あんなことがあって、で、出かけたって聞いて…」
「まぁ、落ち着いてくださいまし。ほら、これを…」
「ありがとう」
ごくごくとスティアーナさんから紅茶を受け取ると、一気に飲んで呼吸を整えている。
「ふぅ、ありがとう。って、これ!」
「どうかなさいました?」
「う、ううん。それより友人と一緒みたいだし、明後日スティアーナお姉ちゃんの学園が終わったら家に行くね」
「構いませんけれど昨日のことでしたら、わざわざシュライク様が来なくてもよかったのに…」
「そうはいかないよ!絶対、明後日行くからね」
「はい。お待ちしておりますわ」
そういうと少年は去っていく。
「誰だったんですか?」
「アスカ様にも軽く伝えておりました、婚約者の弟さんですわ」
「なんでまた」
「昨日ちょっとありまして。それにしてもちゃんと会うのは2年ぶりぐらいですけど、いつの間にか大きくなってましたわね」
「婚約者の弟さんなのにそんなに会ってなかったんですか?」
「はい。あまり親しくしてこじれてはいけませんし、どこの家も婚約が決まれば普通はしているかと」
「はぇ~、やっぱり貴族って大変ですね。お部屋をまたぐと出会いそうです」
「まあ、広い家ですから」
あまり良い話ではないのでスティアーナはそこからでも見えますよとは言えなかった。




