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転生後に世界周遊 ~転生者アスカの放浪記~【前作書籍発売中】  作者: 弓立歩
17章 鉱石の町ハティルとグラントリル

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下船

「それでそのあとは?」


「アルナにオーガの気を引いてもらって、似たようなことをしてたの」


「そっか」


「リュートは何してたの?」


「一応酔い止めは飲んでるけど静かにしてた」


「退屈だね」


「まあ、しょうがないよ。それに動くだけなら何ともないし、本当に助かったよ」


「そんで、今アルナは満足して寝てんのかい?」


「みたいですね。帰ってきたら何も言わずに巣箱に戻っちゃいましたし」


キシャルは何も言わずにグースカ寝てるけど、アルナはこうやって満足したらおねむになることが多い。


「本日のお食事をお持ちいたしました」


「ありがとうございます」


そして、話をしていると夕食が届いた。それにしても夕食が部屋まで届くなんて1等船室は優雅だなぁ。


「今夜は何かな~」


それほど期待せずにパカッとふたを開けてみる。


「わっ!?うそっ!」


そこにはきらりと光るソースに彩られたお魚さんが鎮座していた。


「昨日はなかったのに」


「感謝しなよ。あたしが昼間にとっておいたんだよ」


「ジャネットさんが!?」


「あんたに付き合って本を読むだけなんてのも、暇だからね」


「そうだったんですね。ありがとうございます!」


「うそばっかり。船員に竿を見させてたのに」


「引き上げたのはあたしだからいいの」


「どうかしました?」


「いいから食べなよ」


「はい。いただきま~す!…おいし~い!ここの船に乗ってるコックさんは腕がいいですね」


「ま、食材も新鮮だしね」


「そうですね!きっとそれもあると思います」


どんどん食べ進めていく。身はぷりぷりしているところにソースが絡んですごくおいしい。白身の魚だからか元々があっさりした味なのも相まって、良いハーモニーだ。


「臭みもないし、これは名店の味ですよ!」


「そりゃよかったね。どれ…」


「あっ!?」


「ふむ。確かにうまいねこりゃ。種類が分からなかったけど覚えとこう」


「でもほんとにおいしいですよね。リュートも食べる?」


「ええっ!?じゃ、じゃあ、ちょっとだけ」


遠慮がちにリュートも一口食べる。別にもっと取ってもいいのにな。


「あっ、おいしい」


「でしょ!やっぱり魚だよね」


うんうんとうなづきながら食べる。付け合わせに出ているサラダや小皿も魚を邪魔しない味付けで、食事も進む。


「ふぅ、ごちそうさまでした。さて、今日はそろそろ休みますか」


「あれ?早いねぇ」


「なんだかんだで疲れましたからね。ほら、キシャルもおいで」


にぃ~


ずいぶんお昼に寝たせいか今は元気なキシャルを抱えてベッドにもぐりこむ。元気なのはいいけど、暴れると困るからね。船上だと遊べる場所がないからちゃんと見ておかないと。


「はいはい。退屈だね、こっちでゆっくりしようね」


こうしてキシャルに猫じゃらし型のおもちゃを使っているうちに眠りに落ちたのだった。


「う…ん?今何時だろ?」


目が覚めて簡単に服を羽織ると甲板に出る。どうやらまだ朝日は登っていないみたいだ。


「まだ夜なんだね。変な感じ」


しばらくへりに身を預けていたけど、なんとなく前世で聞いた歌をふと口ずさんでみる。


「ら、ららら~、らら~」


「アスカ、ここにいたんだ?」


「らら~…。リュートどうしたの?」


「いや、気配がしたから」


「ごめん。早くに起きちゃったから気晴らしにね」


「珍しいメロディーだね」


「昔好きだった歌なんだ。そうだ!久しぶりに…」


私はダンジョンで手に入れたオルゴールを出すと、メロディーに乗せて歌詞を歌う。


「……続けてる~」


「なんだかいい曲だね」


「そう?おにい…知り合いの人が好きな曲だったんだ。気に入ってくれてうれしいよ」


「ん?どうした」


「なんか歌声が…」


「わわっ!?船員さんに気づかれちゃった。戻ろう」


ささっと隠れながら部屋に2人で戻る。のちにたまたま月に照らされた河川の枝が人影のような影を作り出していたことから、水面のローレライといわれる事件になることをアスカたちは知らない。


「ふぅ、せっかくだし巫女の服で歌えばよかったね」


「なんで?」


「その方が雰囲気でない?」


「それだけなの?」


「どうせ誰も知らない歌だしね。それよりまだ夜みたいだから寝なおそうよ」


「そうしようか」


再びベッドにもぐりこむと私は眠りについた。


すぴー


「寝たか。そんで、何してたのさ?」


「歌を歌ってたみたいです。いつもより早くに起きましたから」


「そんだけ?」


「はい」


「なら寝るとするか」


そして、何事もなく2日後…。



「今日で船ともお別れですね~」


「ま、今度は海で乗るけどね」


「そうでした!また、お魚食べられますね」


「次は外海に出るからそう安全でもないと思うけどね」


「もう1時間ほどで着きます」


話をしていると船員さんが到着の目安時間を教えに来てくれた。


「下船順は1等船室の馬車から順番に1等船室、2等船室馬車、2等船室となりますので、商人と馬車を待つことになります」


「分かりました」


荷物の順番も乗船の部屋で変わるんだね。それから港に着くと再びドアがノックされ下船の準備ができたと告げられた。


カンカンカン


タラップを降りて陸地に着地する。


「到着~」


「まあ、王都じゃないけどね」


「ささっ、お嬢様はこちらでお待ちください。商人の方はまだですので」


「ありがとうございます」


普段は貴族の人が馬車待ちで使うテーブル一式を出してもらう。馬車から出すのになんでかって?船酔いする貴族とか早くおりたい貴族の人もいるからだって。そして、商人の馬車が降りだしている頃に人も降りてきた。


「あれ?早いなぁ」


「ちょっとそこのあなた!貴族なの?」


「わたしですか?違いますよ」


「そう。なら、そこ空けなさい!」


「へっ!?なんでですか?」


「あなた、このヴィスティ商会のヴィスティを知らないの!」


「こ、こらヴィスティ。何をやっているんだ?」


「お父様。この平民が贅沢を…」


「なんだいあんたら、お嬢様にいちゃもんつけようってのか?」


「あ、あの、どちらの…」


「この国じゃないけどね。見りゃわかるだろ?」


さらっと別の国の貴族だとにおわせるジャネットさん。さらりとリュートも席を立ってるし。


「これは失礼しました。なにとぞご容赦を…。行くぞ、ヴィスティ」


「お父様!?」


まだ何か言い足りないご令嬢を父親が引っ張っていく。


「申し訳ございません。あの商人の娘さんはいつもああで…」


「いえ、大丈夫です。でも、いつもああなんですか?」


「はい。父親の商会はこの国でも中堅規模なんですが、娘の名前を商会の名前にするぐらい溺愛していて要求もおおくて…」


「それにしてはさっきは結構あっさり引き下がりましたけど…」


「あたしがアスカが貴族に見えるようにふるまったからね。他国の貴族と面倒ごとなんて起こしたらどうなるか分からないだろう?」


「ありがとうございます」


「おや、皆さん。どうかしましたか?」


「何にも。ベルンさん、馬車はどうだい?」


「なにも問題ありません。それでは王都まで半日ほどになりますが、よろしくお願いします」


「もう行っちゃうんですか?町に滞在とかは?」


「町に泊まるのは到着が遅れる時ぐらいですね。それも滅多にないですが」


船自体は帆船だけど、遅れないように風の魔法で調整しているので遅れることはまずないらしい。そういうところは便利だな。


「あとは到着までのんびり行くか。リュート、後ろは任せたよ」


「分かりました。ジャネットさんは?」


「たまには前に出てるよ」


「じゃあ、私は荷台でゆっくりしてますね」


「ああ、別に寝ててもいいよ」


「ね、寝ませんよ!」


「ではまいりましょう」


馬車と馬をつないですぐに町を出て王都を目指す。最初に1等船室から降りた商人が、そして私たちのように2等船室から降りた商人の馬車が一路王都に向かう。後ろには相乗りの馬車などが続くようだ。


「流石に馬車の中だと何もすることがないや。揺れるから本も読めないし、なにしよっか?」


ピィ?


アルナはたまにほろにとまって周りを見ている。私が呼びかけると戻ってくるけど、暇してるって程でもない。時々、近くの小鳥と遊んではご飯だけもらいに帰り、再び出ているようだ。


「ふわぁ~。なにもないし、ちょっとだけ寝ようかな」


「ああ、そうしてな。着く前には起こしてやるから」


「おねがいします」


なんてのんきな会話だと思うけど、王都までの街道は広く整備されており、貴族や大きな商会の護衛は並の盗賊では手も足も出ないため、割と早く船を降りた私たちは安全圏なのだ。もしこの周辺の商会を襲ったら、周辺の護衛が恐ろしい勢いで襲い掛かってくるだろう。


「アスカ~、起きろ~。見たがってた王都だぞ~~~」


「うん…王都!」


バッと体を起こし、馬車の中から景色を探る。すると、前方にちらちら高い建物が見える。


「おお~~~~!あれがお城かぁ~。ラスツィアでもちょっと見たけど、段違いに大きい!」


「まあ、帝国と雌雄を争っていた王国の首都だしねぇ。見た目もそうだけどあれなら戦城としても十分だよ」


「そうなんですね。わっ!城壁も高い」


「首都にして帝国からの最終防衛線でもあるからねぇ。王都が陥落したらもう終わりって覚悟だろ。大河にも近いし、物流を完全に抑えられるからね」


「今はそういうこともないのでもっぱら観光名所ですよ。あっ、落ちないでくださいよ。いるんですよねぇ。高いところの風が強いってわからない人が」


はははと笑うベルンさんだけど、ほんとにいるんだな。私も行く時は気を付けよう。そして、王都の門が見えてくると…。


「あの行列えぐいですね。こっちの商人の方も大概ですけど」


「乗合馬車はあっちですからね。それに到着した町で1泊する人としない人が混ざるから、日によってはもっと多くなりますよ」


一般人向けは2列。商人向けも2列だけど、人の数が違う。乗合馬車に至っては一人ずつ確かめるので乗降にも時間がかかっている。


「護衛依頼でよかっただろ?王都に入るの大変なんだよ」


「依頼を受けに行く時も泊まりか早めに帰るかの選択が大事なんだよ」


「めんどくさそう」


「次は…ん?それは盗賊の討伐証か行っていいぞ」


「ありがとうございます」


「あれ?検問は?」


「この前盗賊を持って行ったろ?そこで先に検問しておけば、簡単な検査で通るんだよ。毎回じゃないけどね」


「いや~、本当に助かりました。ここから2時間ぐらいは覚悟していましたからね。では、王都に入りましょうか」


「はい」


いよいよ、この世界初の王都だ。どんなところなんだろう?ドキドキしながら門をくぐる。


パァァァ


「わっ!?広い!それに人がたくさん!!」


「そりゃあ、王都だしねぇ」


「ははは、存分に王都観光を楽しんでください。私は商談をするのでこれで」


「あっ、そうでした。お疲れさまでした」


「こちらこそありがとうございます。では…」


依頼を達成し、私たちは荷物を預けるため今日の宿を探しに向かった。


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