船を狙うもの
「おはよう!いい朝だね」
「おはよう~」
「リュート珍しいね。今日は元気ないよ?」
「まあ、船上だし。ただ、昨日は薬のおかげかゆっくり寝れたよ。海に居た時は寝つきも悪かったからね」
「そうだったんだ。なら、睡眠薬の方がよかったかな?」
「ううん。この方がいいよ。多分揺れで起きたりもするだろうから」
「ふわぁ~。なんだいうるさいねぇ」
「ジャネットさんもおはようございます」
「ああ、おはよう。ふわぁ~、しっかし別に何もないだろうに」
「ありますよ!前は積み込みとかあんまりよく見られなかったので、今日はじっくり見ようかと」
「それなら急いだ方がいいよ。日の出とともに始まって、結構早くに終わるから」
「ほんとですか?なら、急がないと!」
昨日買っておいた朝食を食べ、着替えて甲板に向かう。残念ながら積み込みの入口は船からでは見えないので、どんな馬車が入っていくかとか、荷物の種類とかを確認する。
「はえ~、いろいろ入っていくなぁ。豪華な馬車とかもいるし、あっちは乗船口か。受付も込み合ってきた」
昨日のうちに入っておいてよかった。それに宿泊費も浮いたし。そんなことをしていると出発を知らせる汽笛が鳴った。
「おっと行けない!点呼があるんだった。部屋に戻らないと」
3等船室、いわゆる大部屋には点呼はない。乗っていようがいまいが大した問題はないからだ。2等船室の一般船室と呼ばれる部屋は商人が主に乗り込むので、当然点呼がある。そして、私たちの居る貴族なども乗り込む1等船室は漏れなどあったら大変なので点呼があるのだ。
「アスカ戻りました!」
「はいよ~。はい、これでそろったよ」
「お嬢様、お着きですか。では、確認も取れましたので…お昼はいつ頃?」
「一緒でいいよ。どうせここなんだろ?」
「もちろんでございます」
そういうと船員さんは下がっていった。
「そんでこれからどうするの?」
「神像を作ろうと思います。どうせ、お昼までだったら船の上だとやることもありませんし、海上と違って魔物もほぼいないみたいですから」
「へぇ~、前みたいに船内をうろうろするのかと思ってたよ」
「私も最初はそう思ったんですけど」
「思ったんかい」
「ムルムルからの手紙でシェルレーネ様とアラシェル様の像を用意しておいてくれってあったので、多めに作っとこうかと」
「ふぅ~ん。あの巫女様が珍しい頼み事だね」
「そうですよね。だから、ちょっと多めに用意しておこうと思って!」
「でもアスカ大丈夫?船の上でしょ?」
「そこが問題なんだよね。しょうがないから魔道具限定で作るよ。せっかくだから銀でね」
わざわざムルムルが言ってくるぐらいだし、教会関係者向けならその方がいいだろうしね。私は早速、魔道具を取り出して作業にかかる。
「やれやれ、おとなしくできないのかねこの子は…」
「まあ、昼までですし」
そうして時間をつぶすといよいよ待ちかねたお昼だ。
「お待たせいたしました。こちらがお嬢様の分で、お付きの方の分はこちらになります」
「おおっ!?いつ見てもワゴンの食事は映える」
「おかしいこと言ってないで用意するよ」
「は~い」
「では、ごゆっくりどうぞ。お済みになりましたら船員に申し付けください」
「ありがとうございます!」
船員が出ていくといよいよ食事だ。
「さあ!中身は何かなぁ~。えっ!?」
ぱかっとワゴンに乗せられた料理のふたを開けると中にはステーキが。
「こ、ここって船の上ですよね?」
「そうだね」
「水の上ですよね?」
「川の上だけどね」
「なんでお魚ないんですかぁぁぁ!」
「知らないよ!大体、昨日食べただろ?」
「昨日は陸で食べました。でも、せっかくの船の上で肉だなんて!」
「あのさぁ、これだっていい肉だよ?船上でこんな料理中々でないって」
「そういうんじゃないんです!これはもう…もう」
「アスカ、食べないと冷めるよ」
「あっ、食べる」
「やれやれ」
「でも、こういうのは風情なんですよ。もぐもぐ、おいしい~」
「この子は…」
「まあまあ、僕らも食べましょうよ」
リュートたちもお昼に手を付ける。ちなみに2人の分はワゴンとかじゃなくて普通にテーブルに置かれているし、ちょっとメニューも違う。肉もスライス済みの多分、オーク肉だなあれは。
「それにしてもどうして別メニューなんでしょうね。料金一緒ですよね?」
「まあ、そうだけど見た目だろうね。貴族のお嬢様にはよく思われておきたいんだろう」
「登録は平民で行ってますよ?」
「それか、わがままなお嬢様が過去に居たかだね。言われる前にしておけば苦労しないだろ?」
「それはあり得るかもしれませんね~。なんだかんだ言ってこれ美味しいです」
「ふ~ん。やわらかいのかい?」
「そうですね。それにソースもおいしいですよ。結構上位の味ですね、旅の中では」
「旅の中では?」
「アルバに居た頃は調味料とかは限られてましたけど、結構自由にメニューやってもらってましたから」
「ああ、確かにね。メニューのローテもかなり幅が広かったから飽きも来なかったし」
「旅をしてるとどこでも大体看板メニューはオークステーキだもん」
「ま、分布も多いし、しょうがないのかもねぇ」
「味付けもおんなじだしどうにかならないんですかね?」
「それで売れるわけだし、店として困ることもないし面倒だろ」
「だけど、ジャネットさんも新しいメニューには興味わきますよね?」
「うまかったらね」
「まあ、それはそうですけど」
そんな食事を終え、甲板に行こうとすると…。
「お嬢様、午後から甲板には出ないでください。夜には大丈夫になりますから」
「何かあるんですか?」
「この近くには集落というほどでもないのですが、オーガが多く住み着いている地域があるんです」
「でも、オーガって泳げませんよね?」
あんだけ筋肉モリモリのオーガが泳げるはずがないと思って船員さんに聞き返す。
「ああ、オーガは泳げませんよ。ただ、若いオーガたちが腕試しと船に向かって矢を放ってくるんです。ほとんど届くことはありませんが、数本は甲板まで届いてしまうことがあり危険なんです。運が悪いとなくなる方もいて…」
「大変じゃないですか!?船員さんたちはどうしてるんです?」
「私たちの方が地形上有利ですから牽制はしてるんですがね。何分あいつらは好戦的ですから」
どうしようもないですと苦笑する船員さん。
「だったら、たまにはやり返しましょう!」
「えっ!?あの…」
私は持っていたマジックバッグから弓と杖を取り出すと甲板に向かう。
バンッ!
「あ?もう戻ったのか?」
「それがその…」
「お嬢様を甲板に連れてきて何してんだ?」
「皆さん!今からオーガが出るんですよね」
「あ、はい」
「任せてください!」
私は弓をちょいちょい触って、杖の感覚を確かめる。すると、扉が開いてジャネットさんとアルナが来た。
「あれ?どうしたんですか?」
「ティタが魔力の気配を感じたから行けってさ。アルナは外に出られるってついてきた」
ピィ
ああ、船上だと結構制限かかるもんね。
「んで、なんでそんなもん持ち出してんだい?」
「この地域にオーガが居るらしくて…」
「オーガ?陸地だろ?」
「それが、矢を船まで射ってくるらしいんですよ。それで追い払おうかと」
「はぁ。別にいいけどその格好でかい?」
「別に大丈夫ですよ?」
「本人がいいならいいか。アルナ、サポートを一応頼むよ。あたしじゃできないからね」
ピィ!
アルナが私の肩に乗ると私は甲板のへりに近づき、川岸を見つめる。
「いたっ!こっちを見て準備してるな。よ~し!」
私は早速、矢をつがえて放つ。
「ファイアアロー!」
グオ?
まだ視界に私をとらえていなかったオーガは矢を受けて炎上する。
「ふふん。でも、MPもちょっと細工で消耗してるし、これはなぁ」
ウルフ矢も消費するし、火を維持しながら目標まで到達っていうのも消費が激しい。
「幸いあの火で他のオーガも集まってきてるしいけるかな?」
この前手に入った魔導書が役に立ちそうだ。
「行くよ!ツインブラスト・炎舞」
オーガの群れに一直線に向かった炎は風をまとって一気に竜巻を起こす。そしてそのまま火柱がゴオッと上がると、周辺を一瞬で消し炭にしてオーガたちを焼き払った。
「Oh…」
「アスカ、あんたねぇ」
「知らなかったんですよ!初めて使いましたし」
実際には何度目かだけど、本を読む前と後では理解力が違う。イメージも大事だけどその魔法がどう構成されているかを分かっているかどうかも大事なのだ。
「まあ、この周辺のやつらはこれで大丈夫だろう。ただ、夕方まで出るんだろ?ちょくちょくやらないとね」
「あ、あの、すごい魔法ですね…」
「魔法使いの家系だから」
ピィ
「ん?アルナは遊びたいの?まあ、しばらくはここにいるしいいよ」
「と言う訳でイスとテーブルもってきてくれるかい?」
「直ちに!」
その後は討伐とアルナの相手を交互に行いながら夕方までクルーズを楽しんだのだった。クルーズだよね?




